軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24話 夜会にいきましょう

「……ダリィ、首が絞まって窮屈だ。なんだよこの布切れ」

「こらカゲロウ! 襟元を緩めたら、せっかくの正装が台無しになるぞ」

「うるせぇ騎士だな。そもそも俺にこんな服似合うかよ。着るだけで蕁麻疹がでそうだ」

建国祭の夜会、二時間前。

ノルディ公爵家の私の自室で、カゲロウとレオンがまろやかなケンカをしている。

出陣前の最終確認だ。

今日は二人とも、うちが用意した最高級の夜会服に身を包んでいる。

ただカゲロウはスーツが不快すぎて、機嫌が悪めだ。

「そうは言うけれど、カゲロウにすごく似合ってるわよ」

カゲロウってスタイル抜群なのよね。

背はスラリと高く、筋肉は引き締まっている。

チート体型なので、どんな服でも完璧に着こなせるだろう。

レオンの方も騎士の正装が素敵だ。剣の柄に手を当てて立つ姿は、一流の騎士に見えなくもない。

「ふふ、二人ともいい感じね。私の自慢のパートナーたちだわ」

そう言って微笑むと、二人とも気恥ずかしそうに顔を逸らした。

二人に負けないよう、私は漆黒と真紅を基調としたドレスに身を包んでいる。

少々攻撃的なデザインとあって、夜会でも目立ちそうな華やかさがある。

これが悪役令嬢としての勝負服だ。

「みんな、準備はできてるようだね」

最後の一人、グレイがだいぶお疲れの顔で部屋に入ってきた。

小さな木箱を大事そうに抱えている。

「グレイ様、その箱は?」

「以前、魔道具を新調するって言ったよね。徹夜で完成させたんだ」

グレイは箱の中からセンスの良い銀のイヤーカフを取り出し、自慢気に見せる。

それから私の耳に優しく付けてくれた。

「これは君用ね。指輪と同じ精神攻撃を無効化、または緩和する魔術コードを刻んである。念のためさ」

「素晴らしいですわ。保険って大事ですものね」

「ただ壊れやすいからね。そして、こっちは四人分あるよ」

彼の掌にあるのは、四つの指輪。

シンプルだけど洗練されたデザインだ。

小さな青い魔石が埋め込まれたそれを、私たちはそれぞれ指にはめる。

「これで連絡を取るんだ。使い方を説明するよ」

グレイが使い方を教えてくれる。

魔石の部分を覆うようにしてタッチすると、こちらの声を発信して相手の指輪に届けるらしい。

逆に受信側は、音量が小さめなので耳元に指輪を近づける必要がある。

でも送信と受信を一つで完了するのは優秀ね……。

お茶会で使ったものよりグレードアップしていて、私は感動した。

「この間のタイプだと、ずっと音を拾っているだろう? 夜会はうるさいから、発信は基本オフになっているんだ」

「グレイ様の才能、他国に盗られないか心配ですわね」

「意外とボク、王都が気に入ってるんだ。しばらくは外国はいかないかな」

「安心しました。さて、実際に使ってみましょう」

一階にレオンが移動して、指輪で声を発信する。

『こちらレオン。聞こえるか?』

指輪からちゃんと声が届く。

指を耳から離していても、声が届くと微振動がおきて受信したのがわかる。

そして耳元に持ってくると声がハッキリ聞こえる。

「へぇ。お前、すげーもん作るな」

「まあね。あまり離れると通信は切れる。夜会の会場くらいなら余裕だけどさ」

得意げに笑うグレイに、私は感謝の言葉を伝えておいた。

レオンが戻ってくると、私はゆっくりと立ち上がる。

「では最後に、夜会での動きですね」

敵が仕掛けてくるであろう罠を想定した作戦を、私はみんなと最終確認した。

それから四人で、馬車に乗り込んだ。

王宮のメインホールは、まさに豪華絢爛。

一歩足を踏み入れたら目が眩むほどの華やかさに満ちている。

シャンデリア、飾られた花、磨き上げられた床。

どれを見ても品がある。

着飾った男女たちの年齢層は広いが、大体は似た年代で集まって談笑していた。

国の中枢を担う貴族やその子供たちだ。

「ノルディ公爵家令嬢、ソラリス様のご入場です」

ドアマンの役目を負った従業員が良く通る声を出した。

恥ずかしいからやらなくていいのに……。

そして会場の空気も変わるのよね……。

周囲の貴族たちが、扇で口元を隠して囁き出す。

「あれが公爵家のわがまま娘と噂の……。思ったより綺麗だな」

「美しいけれど難があるのよ。パートナーも複数人いるみたい」

「バートリ家の事件にも巻き込まれたらしいわ」

普通に聞こえてるのよねぇ。

隣にいたレオンが私の肩に手を乗せ、堂々と胸を張る。

「気にするな。君のことなんてなにも知らない奴が妄想で話しているだけだ」

「ふふ、そうですわね」

それに悪役令嬢として警戒されたり、畏怖の念を抱かれるのはそう悪くない。

舐められるよりはマシでしょう。

私はレオン、グレイ、カゲロウに体を向ける。

「それでは皆様、また後で会いましょう」

三人が同時に頷いたのを見て、個性派揃いなのに案外息が揃ってるなと笑みが零れそうになった。

私は父のところに向かう。……なんだか渋い顔をしている。

面倒なことが起きたときの顔だ。

「来たかソラリス。少し面倒なことがある」

「なんでしょう?」

「王から頼まれ、急遽挨拶をせねばならん。どうにも、息子の有能さを語って欲しいらしい」

お茶会での件でのアーサーの活躍。

それをみんなの前で話せということだ。

ジークやアーサーが裏で働きかけ、王を上手く誘導したのかもしれない。

「彼らは晩餐会での賛美では、満足できなかったのでしょうね」

「……だろうな。サクラを雇ってもっと褒め称えてやればよかった」

父にしてはちょっと面白い冗談で吹きそうになった。

「問題は、お前に直接話して欲しいというのだ」

「断る権利は?」

「悪いが、ない」

「仕方ありませんわね」

「くれぐれも、そこでジークに反撃しようとするなよ」

そこは首肯しておく。

多くの支援者がいる前で彼らを蔑むのは悪手すぎるもの。

会場の音楽が鳴り止むと、静粛にという声が通った。

静まり返ったホールの真ん中に王が立つ。

五十歳手前くらいで、凜々しい顔立ちが特徴的だ。

さすがは王。荘厳たる雰囲気が溢れて出ている。

「今宵、集まってくれたことに感謝する」

そんな一言から始まって、建国記念の話、隣国との関係の話、あと数年で王位を譲りたいという話が続いた。

私が気になったのは、王位の話だ。

次の王は誰か? その決定は数年と待たず、もっと早い可能性が高い。

先に次期王を確定し、数年かけて王の仕事を教えていくことも多い。

つまり本格的な王位継承争いは、もうじき起きる。

「では余の話はここまでにして、あとはノルディ公爵にお願いしよう」

万雷の拍手が鳴り、王と父が入れ替わる。

私も少し緊張してきた。

父は堂々たるもので物怖じせずに話す。

「このような場でご挨拶できること、光栄に存じます。さて、私がお伝えしたいことは……感謝です。実は先日――」

知らない人のため、簡潔にバートリ家での出来事を説明する。

その上で、アーサーとジークに感謝すると口頭で述べて、私の方に視線を送ってくる。

「我が娘、ソラリスです」

ここで私がホールの真ん中に向かう。

三百六十度囲まれてて、まさに監視されてるって感じね。

父の隣について、ドレスの裾をつまみ、カーテシーを行う。

真正面にはジークとアーサーがいて、目が合った。

ジークのチャートを表示させると【愉悦】と【優越】がツートップだった。

優越感はなにかしら?

この挨拶で褒め称えられるから、勝ち誇っているの?

ではその自信たっぷりの表情がどのくらい続けられるか。

「それは紅茶を嗜んでいたときでした。毒狼という魔物が窓を破って侵入してきたのです」

どよめきが起きる。

まどろっこしい挨拶などは抜きで、本題に入っていく。

「そのとき、サブパートナーの一人であるレオン様が身を挺して守ってくれました」

私は腕をレオンの方に伸ばす。観客たちがそちらに注目する。

次にその腕を横に動かしていき、グレイのところで止める。

「同じくサブパートナーのグレイ様のくれた魔道具も、私を助けてくれました。さらによく見れば、毒狼の尻尾は切れておりました。なぜでしょう!?」

演技がかった私の話に聴衆は生唾を飲み込む。

噂はみんな気になっていた。

当事者がストーリー風に話せば、退屈する人はいないだろう。

一応私、ラノベやマンガが盛んな日本出身なので、素養はあるのかもね。

「毒狼の尻尾を切った者がいたのです! それこそ――」

勿体ぶって、私は腕を上げる。

その腕が指し示すのは誰か?

聴衆たちは一斉にアーサーとジークの方に顔を向ける。

ところが残念。私の腕が指した人は反対側にいるカゲロウだ。

「私の親友であるカゲロウです!」

おいマジかよって感じに、カゲロウは嫌そうな顔をしている。

ごめんなさいね。これもジークへの反発心だから許して。

お集まりの皆様の期待を裏切ったところで、一応アーサーとジークも出しておく。

「私たちは庭に逃げました。しつこく追ってきた毒狼を討ってくれたのが、アーサー殿下でした。それとジーク様もいました。たしか」

【不快】96(-)

ジークの感情の変化が目まぐるしい。

愉悦や優越なんてもう消えてしまっている。

二人を下げたりはしない。

代わりに他の人を持ち上げる。

そうすることで彼らが得られる賞賛を減らす戦法に出たのだ。

これなら私は非難されず、あちらのメンタルを削ることができる。

ほくそ笑もうと思ったが、父の目つきが恐ろしいものになった。

王も微妙な顔をしているし、もう少しアーサーをフォローしておこう。

「毒狼の首は驚くほど簡単に落ちました。国王陛下。アーサー様の剣は王家の名にふさわしいものでした」

「おおぉ!? そうかそうかっ。でかしたぞアーサー!」

王は立ち上がって興奮するし、父もでかしたと口端を上げている。

おじさんたちって、意外とチョロいのかもしれない。

周囲からアーサーが絶賛される中、ジークも穏やかに拍手を送っている。

内面はだいぶ荒れているのに、表に出さないのは敵ながら舌を巻く。

私は淑女の礼をして、元の場所に戻る。

こっそりと舌を出しながら。