作品タイトル不明
21話 サブパートナーの意味
お茶会の日の夜、私は父の書斎のドアをノックした。
「入れ」
「失礼します。大切なお話がありまして」
父は書き物の手を止め、顔をあげて私を見た。
最近は多少認めてくれているので、話くらいは聞いてくれるのだろう。
そこで本日、バートリ家で起きた話をすべて話す。
時折、少し驚いた表情をしながらも最後まで耳を傾けてくれた。
「……そのような事があったとはな。持っているそれはなんだ?」
私は持っていた黒い杭を彼の机に置いた。
「これが地中に埋まっていました。おそらく、ジーク様はこれを使って侵入のタイミングを計ったのかと」
「……ディスレイル家の嫡男か。父親は知っているが、正直深く関わりたくはない」
公爵でやり手の父であっても、苦手なのが伝わってくる。
父は渋い顔を保ったまま話す。
「実はつい先ほど、ジーク・ディスレイル本人から直筆の書状が届いた」
「書状が……。内容を教えてくださいませ」
父が書状を読み上げていく。
内容は、アーサーと協力して、狂乱したバートリ令嬢から私を救った。
ただ私がショックを受けているだろうから、そこのケアをお願いします。
また、ノルディ公爵様の晩餐会での演説を楽しみにしております。
そんな感じの内容だった。
用意周到って言葉がまさにピッタリね。
「晩餐会はいつですか?」
「明日だ」
うわ……ジークは、そこまで計算していたのね。
おそらく今日お茶会を開くように、上手くセリアを誘導していたのだろう。
貴族たちが集まる晩餐会で、父は今日のことを話すだろう。
ジークとアーサーが娘を助けてくれたと。
瞬く間に、二人の英雄物語は社交界に広がっていく。
「明日は王家、そしてディスレイル家も来る。触れぬわけにはいかぬ」
書状までもらって、ここで触れなかったとする。
仮にアーサーやジークの方から今回のことを話された場合、父は娘の恩人にお礼も言えない非常識な男として扱われる。
つまり、話すしかないのだ。
「ソラリス。なぜ私がサブパートナーをお前に採用したか答えてみよ。ヒントは、王位継承戦だ」
父は鋭い目つきでこちらを見据える。
なんか試されている気がしたので、一応システムを起動してみる。
【総合値】+45
【懐疑】88(-)
【観察】85(+)
【興味】83(+)
【冷徹】75(-)
【期待】40(+)
私の話を鵜呑みにしているわけでもなさそう。
私がジークへの嫌がらせで嘘をついているのではないか。
まず、そういう懐疑心がある。
でも同時に興味や期待といったポジティブ要素もある。
【冷徹】はおそらく私を道具として見ている面もあるから。
人間の感情って複雑だと感じながらも私は答える。
「アーサー殿下が継承戦に勝てるか怪しい。そこで候補を分散させ、第二王子派ではないと主張したかった」
「……やはり頭が回るようになったな。思えば私も、ある時までは馬鹿息子と呼ばれていた。成長というのは徐々にではなく、一気に来ることもある」
あの、昔話はいいので早く答えを教えてもらえないかしら。
父は一つ頷いてから、真の目的を教えてくれる。
「レオンの家は第一王子派だ。消えてしまったがバイスの家は第三王子派」
「候補は五人でしたね。グレイ様は第四か第五王子でしょうか」
「いや、グレイはどこの派でもない。だが誰が王子になっても、彼の才能は欲しがる」
そういうことね。
大穴の第四、第五王子が仮に王になったとしても、取り入るチャンスは出てくる。
「公爵家は必ず勝ち馬に乗らねばならない。外せば衰退の道もあり得る」
王子とて人間。王になったら自分を推してくれた家柄を重視するし、敵対していた家には厳しく当たるだろう。
そうなれば、いくらノルディ公爵家といえども安泰ではなくなる。
だから父も必死なのだ。
「パートナー選びに、私の意思は関係なかったのですね」
「許せ。だがこれも処世術の一つだ」
変に誰かに肩入れして外すくらいなら、むしろ破棄した方がいい場合もある。
そういう考えだから、ゲームでも御しにくいソラリスを追い出すエンドなどもあったのだろう。
そして父がこの話をするということは、私に協力を求めている。
父が私を道具として使うように、こちらもまた彼を利用すべきだ。
「わかりましたわ。その代わり、お父様も私に極力協力してくださいな」
「そのつもりだ」
「参考までに、現時点では誰が次の王に近いとお考えでしょう?」
「貴族の間でよく言われるのは第一か第三だ。第四と第五はほぼない。そして大穴は第二」
アーサー評価低すぎでしょう。
でも貴族たちの人を見る目は確かだと感心する。
彼単独では、どうやっても勝ち目がない。
「お前の目から見て、第二王子の目はあるか?」
「アーサー殿下単独ではゼロです。でもジークが入ると、少し話は変わりますわね」
「私も同じ意見だ。状況によっては協力するのもありか?」
「反対です。ジークはノルディ家の狙いを読んでいて、簡単には殿下を本命に選ばないのを知っている。他を選ぼうとする前に潰すか、強制的に傘下に入れさせようとします」
バートリ家の二の舞だけは父だって嫌だろう。
ここはハッキリと意思表示して、敵だと認識させた方がいい。
少しの間、父は両手を組んで考え込んだ。
そして低い声で短く答える。
「……わかった」
私は黒い杭を取ると、一礼して書斎を出ていく。
それにしても、まさか父のスケジュールまで考慮した上で仕掛けてくるとはね。
蜘蛛ってのは糸を何本も張り巡らす。
ジークの思考もそういうタイプで、一本槍の戦術はあまり使ってこない。
自室に戻ると、私はベッドに仰向けのまま倒れ込む。
「ふかふかね……」
重たくなっていく瞼にそのまま従うつもりだったのに、そうもいかなくなる。
少し開けていた窓の外から、誰かが侵入してきたからだ。
「誰!?」
飛び起きて叫ぶと、侵入者は暢気に手をあげて挨拶する。
「やあソラリス。我慢できなくて来ちゃったよ」
なんとグレイだった。
私の部屋は二階なので壁をよじ登ってきたことになる。
「グレイ様……普通に玄関から来てください」
「もう夜も遅いしさ。会わせてもらえないかと思って」
魔道具のことになると人並み外れた行動力になるのね。
でも表情や話し方とか、以前よりだいぶ明るくなった気もする。
せっかくなので、グレイに杭を渡して調べてもらう。
「捜し物はこれですよね」
「それだよ! ありがとう」
彼は杭をあちこち調べて、自前のノートに魔術式のようなものを書き込んでいく。
解析が終わると困ったように低く唸る。
「……うーん。これは結構まずいね。軍で採用されてもおかしくない高度な魔道具だ」
「音声を拾うものですか?」
「それは機能のほんの一部。これは送信機で受信機に拾ったデータを送っているんだ」
「どんなデータを?」
「主に魔力の波長だよ。どんな魔法を使ったかや、所持品の魔道具もバレている。カゲロウのデータも少し取られたかも」
カゲロウは庭で毒狼と戦ったので、杭は確実にデータを拾っているだろう。
私はまだ身につけていた通信イヤリングと精神を守ってくれる指輪を外す。
グレイはそれを見て険しい顔をする。
「それもバレたと思う。新しいのに新調するよ。機能はそのままに、見た目を変える。数日待って」
「グレイ様は本当に天才ですわね」
素直に思ったことを口にすると、グレイは少し照れくさそうにした。
私は杭を手に取って、もう一度よく眺めてみる。
「バートリ家の万能の魔石もそうだったように、これも他国の魔道具ですか?」
「そうだね」
私たちにとっては悲報だ。
ディスレイル家とバートリ家は、他国の有力貴族や権力者と繋がっている可能性がある。
少し頭が痛くなってきたところでグレイがさらに気になる発言をする。
「でもさ、あのセリアって子もある意味被害者だよね。僕も少し気持ちわかるから、辛かったな」
オルドとの師弟関係を思い出したのだろう。
彼の言葉を聞いて、私はハッとした。
ジークの目的はこの国の影の王になることだろう。
そのために大事なのことの一つは、表の王に信頼されること。
仮にアーサーが、セリア並みにジークに心酔しているなら危険だ。
しかし逆にチャンスでもある。
もしも私がアーサーの心を奪うことができたら?
この戦いはこちらが圧倒的有利になるだろう。