軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93:新しい玩具

「あ、アキラ! ソラ!」

一生懸命ドングリを拾い集めていると、不意に後ろから声が掛けられた。

聞き覚えのある声に振り向けば、そこにいたのは勇馬とその父の圭人だった。友達と久しぶりに会えた明良も、嬉しそうにパッと立ち上がって手を振った。

「ユウマ! ユウマもドングリひろい?」

「うん! とうちゃんがいっしょにきてくれたんだ!」

「こんにちは。皆に会えてちょうど良かった。勇馬が退屈しちゃってたんですよ」

「こんにちは。沢田家の片付けは良いのかの?」

「僕のとこの葡萄畑は幸いあんまり被害がなくて。それでも棚を補修したり、アレコレと世話を焼こうとしたら、葡萄たちに邪魔だと追い払われまして……」

相変わらず圭人は葡萄の木々の尻(?)に敷かれているようだ。

挨拶もそこそこに勇馬はさっそくドングリ拾いに加わり、圭人はヤナと一緒にそんな子供たちをのんびりと見守った。

「神社のドングリは大人しいから、子供の遊び道具にちょうどいいですね」

「うむ。大きさもちょうど良いし、何より安全だからの」

聞こえてきた二人の言葉に、空は手の中のドングリをじっと見つめてから顔を上げた。

「ヤナちゃん、どんぐり、おっきいのもある?」

「うむ、山奥にな。大人の頭より大きいドングリとか、落ちると弾けて飛び散るドングリとか……そういうのがなる木の下は、秋は危なくて通れぬのだぞ」

秋の山は上から爆弾が降ってくるのか、と空はぞっとした。

手の中のメタリックドングリが急に可愛く見えてくる気がする。

そんな事を考えていると、勇馬が皆に声を掛けた。

「なー、いちばんかっこいいの、くらべっこしようぜ!」

「おれすごいあおいの、ひろったよ!」

「かわいいのにしようよ!」

「大きいのだろ?」

勇馬の声で子供たちはにわかに騒ぎだし、皆自慢の一個を探してまた熱心にドングリを拾い始めた。

空はそんな皆から少しだけ距離を取り、竹籠のベルトに差して持ってきていた投石器を取り出した。

それから足下のドングリを適当に一つ拾ってゴムの真ん中にセットして、ぎゅっと引っ張ってみる。

「んん……」

ゴムを強く引き延ばすには結構力が必要で、空にはまだ少し硬い。ドングリも大きいので、空の小さな手ではちょっとギリギリだ。

それでも手の力を強くしたい、と意識しながら引っ張ると上手く力が入ってなんとかゴムを引くことが出来た。

「えい!」

十分引けた、と思ったところでパッと手を離すと、パチンと弾かれたドングリがヒュッと飛んで行く。

カコン! と硬い音を立てて、ドングリは斜め前方にあった木の幹に当たって跳ね返った。

「あたった!」

本当は隣の木を狙っていた事実はなかったことにして、空はぴょんとその場で跳びはねる。

「あ、そら、それさっきの? みたいみたい!」

「なぁに? あたらしいおもちゃ?」

明良と結衣が空の立てた音に気付いて近くに寄ってくる。

空は投石器を二人に見せて、ちょっと自慢げに微笑んだ。

「えへへ、これ、とーせきき! いしとか、どんぐりとかぱちんってして、とばすの!」

「へ~! やってみせて!」

結衣に言われて、空はもう一つドングリを拾って飛ばしてみた。今度はさっきよりもスムーズにゴムを引けて、目標の木の端っこをかすめてその向こうに飛んでいった。

「おもしろーい!」

「そら、おれもやってみたい! ちょっとだけかして!」

「オレもオレも!」

「面白そうだなー。これ、何で出来てるの?」

「いいよ、アキちゃんからね! かぶとむしのつのだよ! まえにユウちゃんがくれたやつ!」

投石器を渡すと、早速明良も足下のドングリを拾って帽子を取り、弾にしてパチンと飛ばした。

明良が飛ばしたドングリは上手に前方の木の真ん中に高い音を立てて当たった。

「あたった! えー、かんたんだし、おもしろい!」

「つぎかして!」

投石器は明良から勇馬、結衣、武志の手に順番に渡り、空ももちろん交じって、皆で何度もドングリを飛ばして遊んだ。

「カブトムシの角のてっぺんかぁ。オレ、あそこ小刀にしてもらっちゃった……もったいないことしたかな」

「らいねん、おれととりにいこーよ!」

「オレも! オレもいくー!」

「わたしもこれほしい!」

子供たちが自分もほしいと騒ぎ出すと、話を聞いていた圭人が声を掛けた。

「その部分、捨てる子も確か結構いるはずだよ。そういうのはすぐゴミにしないで取ってあることが多いんだ。細かい部品とか小さい刃物用にね。店で素材として在庫してたりするから、聞いてみたらどうかな」

「ホント!? とーちゃん、こんどきいてきて!」

「あはは、わかったよ。じゃあ隣村に行った時にね」

「えー、俺も父ちゃんたちに頼もう!」

「わたしのも!」

「いいな~、おれもばーちゃんにたのんでみようかな」

子供四人分くらいの素材だったら間に合いそうだな、と空も笑顔で頷く。

多分そのあと村で流行って、足りなくなってカブトムシが狙われる事が増える気がするが。

カブトムシに心の中で手を合わせながら、空は足下のドングリを一つ拾った。

「ね、じゃあいまから、どんぐりいっぱいひろっとこ!」

空が提案すると、子供たちの目の色が変わる。

「いっぱいひろわないと、なくなったら、またらいねんだよな」

「ここの、ちょうどよさそうだよね!」

「オレまだぜんぜんひろってない……」

「これから集めれば足りるって!」

子供たちは今度は色や珍しさに拘らず、せっせとドングリを拾い始めた。

圭人やヤナも手伝ってくれて、周囲からドングリが少しずつ減って行く。それでもまだまだ沢山あって、なくなることはなさそうだった。

満足するまでドングリを拾い集め、広場の木陰でおやつの果物やおにぎりを分け合って食べ、また少し遊んだ後。

空たちは皆で連れだって家に帰ることにした。

時間はまだ昼には少し早いという頃だ。今から帰ればお昼にちょうど良い。

子供たちの背負ったリュックや身につけた籠は色とりどりのドングリでいっぱいで、皆嬉しそうな笑顔だった。

「そら、かえりにうちによって、じーちゃんかばーちゃんに、とーせきき、みせてもいい?」

「うん、いいよー!」

「うちも帰ったら、父ちゃんたちに頼もうな」

「うん!」

「オレ、とーちゃんがとなりむらいくとき、いっしょにいくから!」

「はは、分かったよ。一緒に行こうな」

新しい玩具に子供たちは皆夢中で、お喋りしながら帰る足取りは軽い。

神社のある広場を後にし、東に伸びる道をしばらく歩いたところで、武志が南に延びる細い農道を指さした。

「こっちから帰らない? この道だと勇馬の家の方にも近いし」

皆と一緒に帰りたいという子供たちの希望を受けて、勇馬と圭人は遠回りして家を目指している。

武志の提案に皆頷き、大きな通りから砂利の細道へと入った。

稲がなくなった田んぼの中の道は見通しが良く、ずっと先までよく見える。

木陰などはないが、秋の日差しは柔らかく風もちょうどいい涼しさで、心地が良くて遠足やハイキングのような気分でいくらでも歩けそうだ。

天気が良くて良かったな、と空が思っていると、不意にどこかからカーン、と鐘が鳴る音がした。