軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78:餅と鳥もち

「……空、出来たぞ」

「もう!? じぃじ、すごい!」

青空の下、土手の上で空は跳びあがって喜んだ。

目の前には杵と臼と、手招きする幸生。そして息も絶え絶えと言う様子でその傍に座り込む和義と善三の姿がある。

稲狩りが終わってしばらくの後、見物の村人はそれぞれ割り当てられた地区の田んぼに散り、今度こそ本当に稲刈りへと向かっていった。

ヌシとの戦いに参加した幸生らは今日は無理に作業に加わらなくても良いらしく、それぞれが少し休憩をするということになった。

善三は自分の家の近くの田んぼに向かおうとしたのだが、朝早くから見物していたのでお腹が空いたと言いだした空の為、急遽皆で採れたての餅米を使ってここで餅をついてくれる、ということになったのだ。

幸生らがどこかから臼と杵を借りてきて、その間に雪乃が巨大な餅米を魔法で乾燥させ、殻を剥いて細かく砕いて浸水させて蒸しあげて……それを臼に移してから僅か五分で餅はつきあがった。

文字通り、目にも留まらぬ超高速餅つきだった。

それに付き合わされた合いの手の和義と、道具が壊れないように魔法を掛けていた善三は疲れ切っているが、一応は無事だ。

空は幸生に手招かれ、走って近づき臼を覗き込んだ。

「うわぁ……おいしそう! じぃじ、ありがとう!」

臼の中には真っ白くてツヤツヤのお餅が出来上がっていた。ほのかに湯気が立っていて、まだ温かそうだ。

よだれを垂らしそうな顔で餅を見ていると雪乃がやって来て、出来上がった餅を魔法でふわりと浮かすと、濡らした木桶の中に移してくれる。

「今日はお外だからあんまり色々用意していないんだけど……もしかしたらその場で餅つきになるかと思って一応餡子ときなこくらいは持ってきたのよ。空、最初はどっちが良い?」

「えっ、ど、どっち!?」

そんな究極の選択を突きつけられ空は困った。結局どっちも食べるとしても、一番最初の、期待感が高まって最高に美味しい餅をどちらで食べたものか。

空はうんうん唸ってしばらく考えてから雪乃を見上げ、自分の口の脇に手を添えて内緒話をするような仕草で少しだけ声を潜めた。

「ばぁば……ね、どっちもかけちゃ、だめ?」

「もっちろん良いわよ!」

ちょっと恥ずかしそうな空のその姿は、雪乃の心に刺さったらしい。

雪乃はものすごい笑顔でどこからともなく大きなお椀を取り出すと、片手に木桶を持ったままパパパッと餅を千切って山盛りにし、そこにたっぷりときなこと餡子をかけてくれた。

大きな木桶を抱えていて手が空いていないのに、全てを魔法で浮かせて補っての行動だ。可愛い孫を前に木桶を置く時間も惜しい、と言わんばかりだった。

その姿をへたり込んだまま眺めていた和義と善三は、隣でやりきった空気を出しながら天を仰ぐ幸生を見て、ため息を吐いた。

「似た者夫婦だぁな」

「ああ……全くだ」

そんな会話も、餅を受け取ってもうそれしか見えていない空には聞こえていない。空は土手に敷かれた敷物の上に座り込むと満面の笑みで手を合わせた。

「いただきまっす!」

自宅から持ってきたらしい空用の箸で、餅を刺して引っかけるように持ち上げ、ぐいと伸ばす。

つきたての餅は柔らかくぐんぐん伸びた。空はその端っこに餡子やきなこを擦り付け、まとめて口に運んだ。

「んん……おいひい……!」

つきたての餅は米特有の甘い香りがして、ほのかに温かい。水分が多くてしっとりしているのに、しっかり弾力もあった。

きなこの香ばしさや餡子の甘みが良く絡み、もぎゅもぎゅとよく噛んでいると餅自体の甘さが出てくる。

空はほっぺたをぷっくりと膨らませながら、幸せそうに笑みを浮かべた。

喉に詰まらせないようによく噛んで、けれど口の中からなくなるのが残念で、つい次を掻き込むように口に運んでしまう。

小さめに千切ってお椀にたっぷり入れられていた餅はあっという間になくなり、それがなくなってからようやく空は顔を上げた。

「じぃじ、すごいおいしーよ!」

「うむ」

「かずおじちゃんも、ぜんぞうさんも、ありがとー!」

「おう、良かったぜ……」

「ああ……たんと食え」

疲れ切った様子の二人も、空の笑顔を見て少し生気を取り戻して微笑む。

「空、お代わりする? しょっぱい味だと、バターとお醤油を持ってきてるのよ」

「ば、ばたー!? ぼく、いまのにばたーもほしい!」

餡子とバターは絶対に合うのだ。だがしかしバター醤油も捨てがたい……甘いものの次はしょっぱいものにするのが永久機関を生み出す際の鉄則だ。

空は熟考の末、二杯目にバター醤油、三杯目に餡バターきなこという欲張りセットを選択した。

「ふはー……おいしかったぁ」

お腹が落ちつくまでお代わりし、満足した空は、ふとこの餅米を獲ってきてくれた自分の相棒の事を思い出した。フクちゃんも雪乃から小さな皿に小さな餅を入れてもらい、すぐ横で食べていたはずだ。

「フクちゃん、おいしかった……フクちゃん?」

空は自分の横を見て首を傾げた。そこで小皿に餅を貰って食べていたはずのフクちゃんは、ほとんど減っていない餅を前に、羽を広げて地面に伏せるようにして倒れていたのだ。

「フクちゃん!? どしたの? おもち、のどにつまっちゃった!?」

「ビビ……」

空が慌ててフクちゃんを手のひらに乗せると、弱々しく起き上がったフクちゃんが首を横に振る。

「ちがうの? だいじょぶ?」

大丈夫かという問いにも、フクちゃんは首を横に振った。

ならば一体どうしたのかと空がフクちゃんをよく観察すると、その嘴に餅がへばりついてベタベタになっているのが見て取れた。

「もしかして……おもちがくっついて、とれなくなっちゃった?」

「ビィ……」

空が膝にフクちゃんを乗せると、フクちゃんは空のズボンに嘴を必死でなするような動作をする。しかしベタベタしている上に半ば乾き掛けた餅は手強く、なかなか落ちる気配がない。

嘴が気持ち悪いのか、しょぼんとしょげた様子で座り込んだフクちゃんを雪乃が受け取り、濡れた布巾で嘴を丁寧に拭ってくれた。

「フクちゃんにお餅は向いてなかったみたいね?」

「そっか……フクちゃん、ごめんね?」

「ホピピ……」

空は嘴を綺麗にしてもらったフクちゃんを膝に乗せて、優しく撫でた。

「フクちゃんは、ぱらぱらしたごはんがすき?」

「ピピッ!」

頷くフクちゃんに、空もまた笑顔で頷く。

「じゃあ、フクちゃんのぶんは、ぼくがたべるね!」

「ホピ……」

餅に未練はないし、空が喜んでくれるのはフクちゃんも嬉しい。しかし空のその笑顔に、倍食べられる! と書いてある気がする。フクちゃんは少しばかり複雑そうに、小さな鳴き声と共に空の膝を軽く突っついた。

とりあえず、フクちゃんが獲ってきた大量の餅米は、半分こにされる事はなさそうだ。

秋晴れの青空の下、外で食べる餅はいつもより更においしい気がして、空は満足そうにお腹をさすり、頷いた。

「やっぱり、おもちは、のみもの!」