軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-99:小さな知らせ

段々と空が高く、夏より少しばかり薄い秋めいた色になってきた頃。

朝の畑仕事の手伝いをするべく空が裏庭に出ると、頭の上を何かの影がスイと通り過ぎた。

見上げればそれは小さな鳥のようだった。しかし飛んでいる姿は素早く、何の鳥かはわからない。

鳥が畑の上空をくるりと一回りするとその下にしゃがみ込んでいたヤナが立ち上がり、上に向かって手を伸ばす。鳥はパタパタと羽ばたいて高度を下げると、ヤナの手の甲にふわりと降り立った。

「おてがみかな?」

空がそう思いながら近づくと、ヤナの手に載った小鳥の姿がよく見えた。小鳥は時折頭をひょこひょこと動かしながら、ヤナに向かって可愛い声で囀っている。

黒い頭にピンクの嘴、白い頬。そして灰色の体――それは、空も知っている小鳥だった。

「ぶんちょうさんだ! かわいい!」

「ホピッ!?」

可愛い姿に空が思わず声を上げると、肩にいるフクちゃんがライバル出現と思ったのかビービーと警戒するような声で鳴き、足元にいるテルちゃんが不思議そうに空の服の裾を引っ張った。

「ソラ、ソラ、アレナニ?」

小さなテルちゃんはヤナと話す小鳥がよく見えないのか、ピョンピョンと小さく跳ねている。空はテルちゃんを抱き上げ小鳥の方に向けると、以前空がヤナから教えてもらったことを思い出しながら、あれはね、と口を開いた。

「あれは、ぶんちょうっていうとりなんだけど……ヤナちゃんとはなしてるあのこはたぶん、ふみどりっていうのだとおもうな」

「ブンチョー? フミドリ?」

同じ鳥に名前が二つあることに悩んだのか、テルちゃんは不思議そうに頭を傾けた。

「えっと、たしか、どこかのかみさまのおつかいなんだって。かぜのうわさびんっていうおやくめがあって、ヤナちゃんみたいないえもりとかに、とおくのできごとをおしらせしてくれるんだってさ」

「ヘー! オモシロソウ! オシラセ、ドンナノ?」

「どんなのかなぁ。あとでヤナちゃんにきいてみようね」

しばらく眺めていると、ヤナと文鳥の会話は終わったらしい。ヤナがありがとうと言って手を高く上げると、文鳥がパッと飛び立つ。その姿はあっという間に高く昇って遠くなり、小さくなって去っていった。

「ヤナちゃん、ことりのおしらせ、どんなだった?」

「ん? ああ、見ておったか。他愛のない話が多かったが……一つだけ、空が気になりそうな話があったぞ」

「ぼくの?」

「オシエテホシイヨ!」

「ホピピッ!」

空に続いてテルちゃんとフクちゃんが催促すると、ヤナは笑って頷いた。

「あのな、近々この村に、団子屋が行商に来るらしいのだぞ。美味しいと評判の団子屋だ。二、三日中に村の広場に来るらしいから、一緒に行ってみるかの?」

「おだんごやさん!? おだんご、たべたい!」

食べ物と聞いた途端、空の目がキラリと輝き声のトーンが少し上がる。

「うむ。前にも村に来たことがある店でな。ちと変わった団子屋だが、味は間違いないはずだ。後で雪乃や幸生にも声を掛けてみるかの」

「うん! えへへ、おだんご、なにあじがあるかなぁ」

お団子は空のおやつにたまに出る。もちろん雪乃の手作りだ。空が食べやすいよう小さめに丸め、串には刺さずにフォークで食べられるようにして出してくれる。

餡子が載ったものやみたらし餡をとろりと掛けたものが多いが、どちらもとても美味しい。

けれど、お店なら普段食べない変わった味のものもあるかも知れない、と空はまだ見ぬ団子屋に思いを馳せた。

「さて、団子はまだ少し先の話なのだぞ。それは後のお楽しみにして、先に野菜の収穫をしてしまおう。幸生、こっちのトマトはそろそろ終わりで良いか?」

「うむ。今日で全部採って、水煮にでもしてくれ」

季節が終わりかけのトマトは少しばかり皮が固い。しかし湯につけて皮を剥き、水煮やトマトソースにすれば美味しく食べられる。

「じゃあぼくがほめるね! なつのあいだ、ずっとありがとうっていわなきゃ!」

「うむ、良い心がけなのだぞ。じゃあ、今朝の作業をサッと終わらせるかの。それから朝ご飯だ」

「はーい!」

空は朝ご飯への期待を胸に元気良く返事をし、さっそくトマトの棚の間に分け入って残った実を一生懸命褒めていった。

その二日後。

空は雪乃とヤナと共にワクワクしながら家を出た。

先日文鳥が教えてくれた団子屋が広場に来ているらしく、空のおやつを買いに行こうということになったのだ。

幸生も誘ったが用があるとのことだったので、留守番に残してお土産を買ってくることになっている。テルちゃんは今日も依り代の中で昼寝中だ。

「おだんご、おだんご~、おいしくってもちもち!」

「ホピ、ホピピ、ピルルルル!」

空はお団子が楽しみすぎて、おかしな歌を歌いながらスキップを踏むような足取りで道を進む。

手を繋いでいるヤナがその歌を聞いてくすくす笑う。

肩の上にいるフクちゃんは跳ねる体に翻弄されて、時折バサバサと羽ばたいてバランスを取っている。その動きに居心地悪そうにしつつも、空が嬉しそうなのはフクちゃんも嬉しいようで、歌に合わせて可愛い鳴き声を響かせていた。

「空、お団子そんなに楽しみ?」

「うん! ばぁばのおだんごもすっごくおいしいけど、おみせのって、きっとちがうあじだもん! ぼく、いろんなのたべてみたい!」

空の食への探究心は底なしだ。

「お団子も色々あるけど、私はついいつも同じのを作っちゃうもんね……空はどんな味が好きかしら?」

「なんでもすき! ばぁばのあんこもみたらしも、とってもおいしいよ!」

別にいつも同じ団子が出てきても、空は文句なく美味しくいただくだろう。しかしそれはそれとして他の味も食べてみたいという気持ちもある。

そんな話をしながら歩いていると、やがて三人は神社の前の広場に辿り着いた。

「ついたー! おだんごやさん、どこかな?」

空はさっそく広場をくるりと見回し、団子屋らしき姿を探した。しかしそれらしいお店も屋台も見当たらない。

「あれー、おだんごやさん……ないね?」

「本当ね。どこかしら?」

「はて、今日来ているという話だったのだが……お?」

三人がきょろきょろと周囲を見回していると、ヤナが神社の鳥居の下に目を留めた。そこに知った姿が手を振っているのが見えたのだ。

「あそこにアオギリ様がいらっしゃるのだぞ。空、どうやらこちらを呼んでいるようだぞ」

「えっ? あ、ホントだ! アオギリさまだ! こんにちはー!」

鳥居の下にいたのは神社の祭神、アオギリ様だった。

アオギリ様はひらひらと空たちに手を振り、それから手を前に倒して手招きをした。空は手を振り返し、大きな声で挨拶しながらアオギリ様に駆け寄った。

「こんにちはアオギリ様」

「アオギリ様、お久しぶりなのだぞ」

「うむ、こんにちは。久しぶりだのう。空は今日も元気が良いな」

「うん! あ、アオギリさま、おだんごやさんしらない? ぼく、おだんごかいにきたの!」

空が聞いてみると、アオギリ様は知っておるぞと微笑んで鳥居の向こうを指さした。

「団子屋は今、神社の境内におるぞ。今日は日差しが強く暑いゆえ、木陰を貸しておるのだ」

「そうなんだ、よかったぁ。アオギリさまも、おだんごたべた?」

「ああ、美味かったぞ。我はちと食べ過ぎたゆえ、腹ごなしの散歩中だったのだよ。空たちもゆっくりしておいで」

アオギリ様はそう言うと、鳥居を潜ってふらりと広場に出て行った。空はその後ろ姿にお礼を言い、それからヤナの顔を見上げて頷き、鳥居の向こうへと足を進めた。