軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-82:テルちゃんと七代目

「……こう来たか」

昼の宴の後、空は七代に連れられて庭の片隅にいた。

日差しが強いので木陰に二人で座り込み、空はテルちゃんを呼び出していた。フクちゃんは空の肩の上だ。

空はテルちゃんを呼び出した後、 照魂迷彦(てるたままよひこ) だと紹介したのだが、その途端向かい合って座る七代は一言呟いて動きを止めてしまった。

何事かを考えている様子なので、空は七代が動き出すのを黙って待つ。

宴の片付けを終えた後、紗雪と六代、それに樹と八代は幸生に連れられて揃って裏山に出かけていった。裏山に体を動かせる開けた場所があるので、そこで軽い手合わせや訓練をするらしい。

小雪は九代と雪乃に、魔法の基礎について家の中で教わっているようだ。

そして陸と曾祖父母は空から離れた庭の片隅で、遊びを兼ねた軽い運動をすると言っていた。

皆は今頃何をしているだろう、と考えながら、空はまだ何か悩んでいる七代と、テルちゃんを交互に見つめた。テルちゃんは手をピコピコしたり目をパチパチしたりして、七代に懸命に可愛いアピールをしている最中だ。

七代はため息を一つ吐くと、テルちゃんとフクちゃんを見比べそして首を横に振った。

「うむ……空よ。そちらは良い。だがこっちは駄目だ」

「えっ!?」

指を差して良いと言われたのはフクちゃんで、駄目と言われたのはテルちゃんだ。

テルちゃんはピャッと跳び上がり、ぷるぷると頭を横に振った。

「ナンデダヨ!? テル、イイセイレイダヨ!」

「まずそもそも、精霊なのがいかん。空の歳でお前の存在を保つには、かなりの魔力がいるはずだ」

「ソ、ソレハ……デモ、ソラハマリョクオオイヨ!」

「多くても足りぬからあれだけ食うのだろうが。お前もわかっているはずだぞ。だから一日の多くは寝ているのだろう」

「えっ、テルちゃん、そうなの!?」

空はそんなことは初めて聞いたと、驚いてテルちゃんの顔を覗き込んだ。テルちゃんはバツが悪そうに視線を逸らし、けれど小さく頷いた。

「デモ、ソラノマリョクフエテルシ……ソノウチキット、ヘイキニナルヨ!」

「それはそうだが……だが、お前の性質も問題だ。名の力が強いせいか、生まれたてなのに意思がはっきりし過ぎている」

それはアオギリ様にも指摘された事柄だ。あのときはアオギリ様が釘を刺してくれたし、何かあったら頼ればいいと空は気楽に考えていたのだが。

「それのなにがもんだいなの?」

「そういうものは自制のない子供に似ていて、大抵はそのうち退屈しだすのだ」

「たいくつ……?」

テルちゃんの方を見ると、テルちゃんは首を横に振っている。しかし、その瞳は僅かに泳いでいるように見えた。

「たいくつすると、どうなるの?」

「そりゃあ、何かこっそり悪さをすると相場が決まっている。あるいは主に手を貸すときに、わざと大きな力を使って事を大きくしたりなどだな。どうせなら面白いほうが良いと騒動を起こすのだ」

心当たりがありすぎる。

空は今までテルちゃんがしてきたおかしな手助けを思い、じとりとテルちゃんを見つめた。

テルちゃんは慌てて空のところに駆け寄り、足に縋り付いて良い精霊をアピールし出した。

「ソンナコトナイヨ! テルハイツモ、ソラヲタスケルノニ、イッショウケンメイナダケダヨ!」

「テルちゃんがぼくをたすけてくれるのは、わかってるよ。でもテルちゃんは、おもしろがってるとこあるとおもうなー」

「ウキュッ!」

テルちゃんが言葉に詰まると、七代はそうだろうなと呟いた。

「契約した精霊などは、基本的には主を裏切ることはない。だが主以外にはあまり 頓着(とんちゃく) しないものも多い。周囲に被害が出ようと、面白いからとか面倒くさいからとかいう理由で放っておいたりなどもする」

「ヤナちゃんとかとはちがうの?」

「ヤナはその家を守るものだ。家に属する者を守り、家が属する場所を守る。それはその立場も含めてだ。だから自分の行動の結果、村の中で家が孤立する可能性があると思えば、守れる範囲にいる者を見捨てるような事はしない」

それならやはり、ヤナのほうが遙かに優秀なのだなと空は感心した。

「もちろん長く生きずっと人と過ごしているので、ヤナが人間のことをよく知っていて愛情深いという面もあるだろう。それに比べてこれは人間のことをまだそれほど知らぬのだ。だから危うい」

人の中で生きるための知識も経験も足りていないのに力と好奇心ばかりが強く、退屈すれば何をしでかすかわからない、と七代は空に語った。そしてその時に、空の力が十分育っていなければ止めることが出来るかどうかわからないだろうと。

「テル、ソンナコトシナイヨ……」

「テルちゃん……ななだいさま、でも、テルちゃんはぼくいがいも、ちゃんとたすけてくれたよ。りくがなやんでるのとか、たけばやしがあぶなかったときとか」

「それはそやつに利があったからではないのか? 権能を使えば力が増すからな」

それも確かにアオギリ様に言われたのと同じ事だった。照魂迷彦、という名が示す権能を使うと強くなる。それを目的としてテルちゃんは勝手に動いたという事らしい。

それでテルちゃんは迷子の案内という言葉に執着を見せるのか、と空は納得できた。

「じゃあぼく、どうしたらいいの?」

空は真剣な眼差しで、七代の瞳を真っ直ぐ見返した。テルちゃんは空にとってはもう失えない、大事な友達だ。気軽に手放せるなら、そもそも契約なんてしなかった。

「なにかできること、おしえてください!」

七代は空のその瞳を見て、うむ、と一つ頷き手を挙げて指を一本曲げた。

「幾つか手立ては考えられるが……たとえば、空が七つを過ぎるまで依り代に封印して一切出さない」

「ヒドイヨ! セイレーギャクタイダヨ!」

「ではその大層な名を一部奪い、根本的に力を弱める」

「テルノナマエハ、テルノダイジナモノダヨー! ソンナノドロボーダヨ!」

「ならば力だけに封印を施すか?」

「ソシタラソラヲ、タスケラレナイヨ!」

七代が提案した方法に、テルちゃんは激しく抗議した。どの方法を選んでも、実行すればテルちゃんは大分弱くなるだろう。

それでは空の精霊として役に立てないと、テルちゃんはどれも嫌だと言い張った。

「まったく、意思がはっきりしていると真に面倒だ。どれもこれも嫌となると……あとは、空がこれの退屈を晴らすしかないのだが」

「ぼくが? どうやって?」

「何でもいいから、これを使って農作業でも狩りでもするしかなかろうな」

そう言って七代はまた少し考えると、顔を上げて空の肩に乗るフクちゃんを手招いた。

フクちゃんはパタパタと軽く羽ばたいて肩から飛び立ち、七代の前にふわりと降りた。

「空、目を閉じて、フクのことを考えてみよ」

「フクちゃんのことを?」

空は言われるがままに目を閉じて、フクちゃんのことを考えてみた。

「フクの姿を思い浮かべてみるのだ。そうすると、フクと自分の間に細い線がある気がしてこないか?」

「せん……」

空は頭の中でフクちゃんの姿を思い浮かべる。すぐ手前の地面にいて、こちらを見ていた白い鳥。すると徐々にその想像ははっきりとした姿を結び、そしてそのフクちゃんとの間に確かに細い線のようなものがあると何となく感じられた。

「なんか……わかる、かも?」

「それがお前とフクとを繋ぐものだ。それを通じて、フクは魔力を得て存在を確かにしている。テルも同じだ」

同じだと言われて、空はついでにテルちゃんのことも考える。するとテルちゃんとの間にも確かに線があると感じられた。フクちゃんとのものよりも少し太い気がする。

「あ、テルちゃんとも、つながってる」

「そうだ。もう目を開けてもよいぞ」

そう言われてパチリと目を開けると、自分を見上げるフクちゃんとテルちゃんが目に入った。空は何となく手を伸ばして、二人の頭をそっと撫でた。

「まず大事なことは、これらがお前から勝手に魔力を引き出さぬよう意識することだ」

「かってに……ぼく、まりょくちょうだいっていわれて、いいよっていったけど、それがだめってこと?」

「うむ。魔力は必要な分をお前が意識して与えるのだ。勝手に使わせてはいかん」

七代に厳しくそう言われて、空は今までのことを思い返し少なからず反省した。友達のような感覚だったし、つい甘やかしてしまっていた気がする。

「それと、何かをさせる際に命じることにも慣れねばな」

「めいじる……おねがいじゃだめってこと?」

「ああ。お願い、助けて、などというのは最悪だ。 賭場(とば) で財布を丸ごと他人に渡して、好きにしろというようなものだ。何をどうしてほしいのか、どのくらいの規模でどんな現象を起こすのか、それをお前がきちんと決めて命じなければならん」

その最悪と言われたことをやっていた空は、深く反省してテルちゃんを見つめた。テルちゃんはテへ、と可愛くポーズを決めている。空はそれを見ていると何となくちょっとだけ腹が立って、テルちゃんをそっと抱き上げると上下に細かく揺さぶった。

「テルちゃん、ぼくは、とっても、はんせい、しま、した!」

「ワキャキャキャキャ!」

テルちゃんのほうは若干喜んでいるようだったが。