軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-80:帰ってきたご先祖様

お盆の支度もようやく全て終わった、次の日の朝。

空はうとうとしながら、何だか騒がしいな、と意識の端でぼんやり思った。

もう目を覚ました兄弟たちが起きて騒いでいるのかと思ったのだが、それにしては喧噪が遠い。

どこか遠く、多分下の階から、わいわいざわざわと大勢の人の声が聞こえているのだ。

「ん……なに?」

もそりと動いて目を開け、空は寝ていた場所の横に視線を向けた。隣には陸が寝ていて、まだすやすやと眠りの中だ。もう反対側には紗雪がいたはずとそちらに首を回すと、布団は空っぽだった。

「まま……?」

カーテンの隙間から漏れる光を見れば、まだ早朝のようだ。体を起こして陸の向こうを覗くと、まだ樹も小雪も気持ち良さそうに眠っていた。

「うるさいのは……したのへや? おきゃくさんかな」

こんな早朝に珍しい、と思いながら空は掛けていたタオルケットをもそもそと避け、一段ずつ階段を下りて階下を目指した。

下の部屋ではもう幸生たちが起きているらしく、賑やかな声が聞こえてくる。

だがその数が随分多いうえに知らない声が混じっているようで、空は首を傾げつつ階段を下りた。

「じぃじ、ばぁば? おはよ……ぴっ!?」

空は居間の障子戸を開け、その向こうにいるはずの幸生や雪乃に挨拶を――しようとして、ピタリと固まった。

居間の中には、何人もの見知らぬ大人たちがずらりと並んでいたのだ。しかもその全員が空の方をぐるりと振り向き、じっと見つめてくる。

知らない人たちだ、と思うと同時に、空の目は一点に釘付けになった。

囲炉裏の周りに並んだ客たちの中で、一際大きな体躯をした男性の、その頭の上に。

「つ……つの?」

額の両脇から、ニョキリと二本の角が生えている。

「おう、おはよう。お前が紗雪の子か! 昨日は迎えに来てくれてありがとうよ!」

角の生えたその人は、にかりと笑うとそう言って手を上げた。

「え……え、おむかえ……」

空は何を言われたか一瞬理解出来ず、キョロキョロと辺りを見回して玄関に飾ってある鬼灯の枝にふと目を止めた。

昨日の夜帰ってきてから雪乃が花瓶に入れて飾ってくれたものだ。朝の明るさの中では、もう灯っていたその光はわからない。

その鬼灯を見て、昨日の記憶が空の頭を過る。

「ご……ごせんぞ、さま?」

「おう、そうだぞ! わしは米田の六代当主だ。よろしくな!」

「七代」

「おはよう坊や。七代の妻よ」

「俺は八代」

「私が九代ね」

「ぬしの曾祖父だな、ひいじいちゃんと呼んでくれ」

「私はひいばあちゃんよ」

ずらりと並んだご先祖様たちはそう言って順番に自己紹介をしていく。

「え、え……ええぇ!?」

空はそんなご先祖様たちを、こぼれ落ちそうなほど目を見開いて見回した。誰も彼も存在感抜群で、足もあり、透けてもいない。にこにこ笑うその姿は到底幽霊には見えなかった。

「どういうこと……?」

魔砕村のお盆は、ご先祖様たちが物理的に帰ってくる……らしい。

空は朝からまた一つ、知らないほうがいいことを知ってしまった気がして何だかくらくらした。

「空、おはよう! もう目が覚めちゃった?」

「お、おはよ、まま……ま、まま、まま! ごごご、ごせんぞさまって、ほんと!?」

空が呆然としていると、台所から顔を出した紗雪が空を現実に引き戻してくれた。空は紗雪とご先祖様たちを交互に見て、慌ててそう問いかけた。

「ええ、本当よ。昨日空たちが迎えに行ってくれた、ご先祖様たちよ」

「ほ、ほんとなんだ……」

「皆面白い人たちだからきっと仲良くなれるわよ。気になることがあったら教えてもらうといいわ。あ、朝ご飯はもうちょっと待っててね。先に顔洗ってきてね」

「う、うん」

紗雪はご先祖様たちが朝から囲炉裏端でお茶を飲んでいる事を全く不思議に思っていないようだ。そんな母の態度を見て、どうやらこの村ではそういうものらしいと空も諦めて受け入れる覚悟を決めた。

しかしそれらを受け入れる前に、どうしても一つ気になることがある。

「あの、まま……えっと、ろくだい? のごせんぞさま……なんで、つのはえてるの?」

その角の形は、節分の日に幸生が頭に付けていた物とどことなく似ていた。しかしあれは動物の牙を鉢巻きに挟んで額に付けていた物で、本物ではなかった。

今目の前にいるご先祖様は鉢巻きを巻いていないし、どう見てもその角は額の両端からにょきっと突き出ているように見える。

六代目のご先祖様はにこにこと人好きのする笑顔を浮かべているが、体格や顔つきは幸生とよく似ていた。額の角と相まって、笑顔でなければ子供が逃げ出しそうな風貌をしているのだ。

空のそんな困惑と疑問に答えてくれたのは、紗雪ではなく当の本人だった。

「ああ、わしのこりゃあ先祖返りだ。米田の初代は、鬼だったからな! 何代かに一人くらい、わしみたいなのが出るんだよ。さすがに幸生くらいまでくると角は生えなかったようだがなぁ」

「おに……つの……え、おに!? えええぇぇぇっ!?」

空のその驚愕の叫びは家中に響き渡った。当然その声は二階ですやすや寝ていた兄弟たちをたたき起こし、この後またしばらく大騒ぎになったのだった。