軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-62:季節は緩やかに

「よーい、どん!」

明良の声に合わせて、空はタッと地を蹴った。

「空、頑張れー!」

目指す先ではヤナが手を振っている。

空が走っているのは矢田家から米田家へと続く道だ。矢田家の前から明良の掛け声で走り出し、その先の米田家を目指す。

百メートルほどの距離を走ることは、今の空には難しい事ではなくなった。しかしその速さは、明良たち友人と比べると、まだ大分遅い。保育所の同じ歳の子供たちに比べてもやはり遅い。

いずれはもっと速くなりたいと、空は最近こうして家の前で走る練習をしているのだ。

「空、もう少しだぞ!」

手を振るヤナを目指して真っ直ぐ走っていると、空のすぐ横をタタタッと何か小さなものが走り抜けた。

「ピルルルルッ!」

「あっ、フクちゃ、はやっ」

思わず手を伸ばすも、フクちゃんは軽快に走って行く。多分空より後に走り出したはずなのにあっという間に追い抜かされてしまった。

ちょっと悔しいが仕方ないと諦め、空は懸命に駆け抜けた。もう少しでヤナのところまで辿り着くと思った瞬間、気が緩んだのか小さな石を踏んでカクリとバランスを崩し、足がもつれる。

「わっ!?」

「おっと!」

転ぶ、と空が一瞬目を瞑ると、その体がふわりと浮いた。空が転ぶ前に駆けつけたヤナがひょいと掬い上げてくれたのだ。

「ごーるなのだぞ、空!」

「ヤナちゃん……ありがと!」

最後にちょっと失敗したが、そんな事は気にせずヤナは空を高く持ち上げて笑いかけた。空もちょっと照れくさそうにしたものの、一応走りきったしと笑顔を見せる。

「そら、まえよりあしはやくなったよ!」

空のあとを追って走ってきた明良もそう言って褒めてくれた。

「ほんと? やったぁ!」

足が速くなっていると言われて空は嬉しくなった。

空の周りには今のところ空より足が速く動きが良い者しかいないため、あまり自分が成長している実感がないのだ。

「うむうむ。空は自分が思うより、ずっと育ってきておるぞ。安心するが良い」

「うん! ぼく、りくとおなじくらいになれてるかなぁ」

東京の陸のことを思い、空はそう呟く。

先日届いた紗雪からの手紙に、陸は春からずっと頑張って体を鍛えている、足も大分速くなった、と書かれていたのだ。

空はそれを読んで急に自分はどうだろうかと心配になり、こうして少しずつ練習することにしたのだった。

「きっと同じくらいなのだぞ。空もどんどん速くなっているから、あまり気に病まぬことだ」

「うん……ね、まりょくをあしにつかったら、もっとはやくならないかなぁ」

気に病んでいる、というほどではないが、やはり速く走ったりできるようになりたいという思いはある。

今のところ空が自慢出来るのは、年の割に魔力が多いということくらいで、保育所でもまだ外遊びにはほとんど参加出来ないのだし。

しかしそんな空の提案に、ヤナは首を横に振った。

「今の空では、魔力で足だけ強化したところで、他の何もかもが追いつかなくてすぐに転んでしまうと思うのだぞ。そういうのはもう少し体が育ってからだな」

「そっかぁ」

「魔力の制御は大分上手くなってきたから、強化自体はできるだろうが……まずはもう少し体の使い方を学ばねばならんのだぞ」

それは確かにそうかも、と空は納得して頷いた。そもそもまだ幼児なので、空の体は頭の比率が大きくバランスが悪い。

「何かちょうど良い遊びを探さねばな。ヤナも紗雪以来、子供の相手をしておらぬから……ご近所に聞いて回ろうかの」

「ままいらい……ままって、どんなことしてたの?」

好奇心から空が問いかけると、ヤナは首を捻った。どんな事をしていたんだったかと考え、幸生によって屋根の高さまで放り上げられながら、キャッキャと大喜びで宙返りの練習をしていた紗雪の姿がヤナの脳裏を過る。

ヤナはしばし遠くを見て、それから真剣な顔で首を横に振った。

「アレは、空にはまだ早い!」

「えっ……う、うん」

紗雪は一体どんな遊びで体を鍛えていったのか、知りたいような知りたくないような。

空は、とりあえず自分には絶対まだ無理なんだな、ということはなんとなく悟ったのだった。