軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-43:タケノコ狩り見学のお誘い

「空……明日一緒に、タケノコ狩りを見に行かないか?」

とある日の夕飯の席で、空は幸生にそんな提案をされた。

「たけのこがり……みにいけるの?」

「ああ。善三が、そろそろ時期だから、見たければ見学させてやると言っていた。あれの家の周りの竹林は広く、タケノコが沢山採れる」

竹細工師の竹川善三の家の周りには彼が管理する竹林が沢山ある。そこでそろそろタケノコが採れる時期が来たので、善三が幸生に声を掛けてくれたらしい。幸生や雪乃が、村の色々なことを空に見せたり体験させたいと言っていたのをちゃんと憶えていてくれたのだ。

空は善三の家に行ったことがあるので、その周りが竹林だというのは知っている。しかしこの村の竹の生態は、そういえばよく知らなかった。

「たけのこがり……あぶなくない?」

念のため聞いておこうと空が問うと、幸生は首を捻り、それから雪乃の方を見た。幸生では危ないかどうかの判断が付かないらしい。

「ばぁばとじぃじが一緒に行くから大丈夫よ。でも、見るだけにしましょうね」

雪乃は朗らかな笑顔でそう提案する。

(つまり、危ないんだね……)

空は念のため、いつもの草鞋をしっかり履いていこうと心に決めた。

「タケノコか。もうそんな季節かの。空、善三の林のタケノコは他より美味いらしいぞ。ヤナは他をよう知らぬが、誰かがそんな話をしておった」

「えー、そうなの? たのしみ!」

「善三のところのタケノコは、えぐみがなく味が良い」

幸生も美味しいと太鼓判を押してくれた。

「たけのこ、なにしてたべるのがおいしいかな?」

「そうねぇ、タケノコご飯、煮物、お味噌汁、天ぷら……普通に焼いてお塩やお醤油をかけても美味しいわ」

「採りたてなら薄く削いで刺身もいいな」

「ほあぁ……どれもおいしそう! じぃじ、ぜったいいく!」

(見学だけでも、可愛くおねだりして沢山分けてもらおう……!)

心の中でそんなあざとい事を考えながら、空は初めてのタケノコ狩りを楽しみにしつつ、その日の夕食をゆっくりと終えた。

次の日の、かなり早い時間。

空は半ばうとうとしながら、温かくて広い幸生の背で揺られていた。

まだ夜が明けたばかりという時間帯だ。空は半分眠ったような状態でおんぶ紐によって幸生の背にくくられて運ばれ、気がつけば東地区の端の竹川家の前に到着していた。

「空……着いたぞ」

「ん、うん……じぃじ、ここ、ぜんぞーさんち?」

「ホピ……」

幸生は空に声を掛け、しゃがみ込んで背中から下ろした。下ろされた空を追って幸生の頭から飛び下りたフクちゃんも若干眠そうだ。フクちゃんは空のフードの中にいそいそと潜り込むと、それっきりまた静かになった。

空は大きなあくびを一つ零すと目を擦り、周囲をぐるりと見回した。辺りはまだ薄暗いので見分けが付きづらい。

けれど確かに目の前にある家には見覚えがある。そしてその後ろには黒々と影を作る竹林らしき姿が見えた。

「おう、来たか、こっちだ。おはようさん」

「ああ、おはよう」

「おはよう、善三さん」

竹林の傍では善三が切り株に腰を下ろして待っていて、空たちの到着に手を振って挨拶してくれた。

善三の傍には善三の妻の楓と、もう一人別の女性が座ってお茶を飲んでいる。

「あら、佳乃子さん。おはよう、佳乃子さんも参加?」

佳乃子と呼ばれたもう一人の女性は、同じ東地区内の住人だ。地区内の主婦が集まる共同作業やお茶会に雪乃と行った際、空も何度か顔を合わせたことがある。

「おはよう。今日は私も助っ人を兼ねてお呼ばれしたのよ。今年はタケノコが豊作だから、人手が欲しいんですって」

「佳乃子さんはタケノコ採るの得意だものねぇ」

「ええ、任せておいて!」

佳乃子は動きやすそうな服装に、地下足袋を履いて準備万端のようだ。

「私はすぐに茹でたり料理出来るように、準備して待っているわね」

楓はどうやらタケノコ狩りでは裏方で応援する係らしい。竹川家の作業小屋の横にはレンガで組んだ竈があり、そこに大きな鍋が据えられていた。

空は掘りたて茹でたてのタケノコを思い、今から何だかそわそわしてしまう。

大人たちの雑談をしばらく眺めていると、竹川家の母屋の方からまた誰かやって来た。今度はぞろぞろと四人ほどだ。

「遅えぞ、正竹、芳竹」

「皆さん、おはようございます。いや、父さんが早すぎるんだよ」

善三を父さん、と呼んだのは竹川家の長男、竹川正竹だった。善三を少し若くしたような細面で、雰囲気もよく似ている。正竹はこの竹川家の敷地内に自分の家を建て、そこで妻と暮らしているのだ。

「あら、芳竹くんたちも今日は手伝いに来たの?」

「ええ。ちょうど仕事も休みですし、夫婦でタケノコを分けてもらいに」

そう言って笑うのは次男の竹川芳竹。こちらは楓に似たのか善三とはあまり似ていない、丸みのある穏やかな顔立ちだった。芳竹は隣の魔狩村で仕事を見つけ、普段はそちらで暮らしている。

正竹の妻は動きやすい格好なのでタケノコ掘りに、芳竹の妻はエプロン姿なのでその後処理や料理に参加する予定らしい。

「おし、じゃあ揃ったし、やるか」

「うむ」

立ち上がった善三に幸生が頷くと、善三はキッと眉を上げて、幸生に向かってビシリと指を突きつけた。

「良いか幸生! お前は、空と見学だからな!」

「……うむ」

空は素直に頷いた幸生を驚いたように見上げた。

「じぃじはけんがくなの?」

「ああ。幸生は絶対やり過ぎるからな。だから参加するかじゃなくて、見学するかって呼んだんだよ」

幸生は地魔法が得意なので地に関するものとは相性が良い。しかし同時に、加減をするにはそれなりの練習や準備が必要で、一本だけタケノコを掘る、などの細かい作業は苦手なのだ。

「お前んとこの分はちゃんと分けてやるから、空は幸生と一緒に、大人しく竹林の傍で見学してろ」

「うん!」

タケノコが貰えるならまぁいいかと空は素直に返事をした。佳乃子たちと話をしていた雪乃も傍に戻ってきて、皆で竹林へと移動する。

竹川家の竹林は丁寧に手入れがされていることがよくわかる場所だった。林の敷地は竹で作った長い塀でぐるりと囲まれている。そこに生えた太い竹はどれも一定の間隔を保っていて、鬱蒼としていない。落ち葉が積もった地面は雑草の姿も少なく、遠くまで綺麗に見渡せた。

善三は塀を開けると全員を竹林の中に招き入れた。入り口付近には白っぽい砂利が敷いてある。

「ここなら、とりあえずタケノコは襲ってこねぇ。まずはここから見学してるといい」

(タケノコ……襲ってくるんだ……)

何となく危険がある事は予想していた。だからまだ大丈夫、と空は自分に言い聞かせ、隣にいる幸生のズボンをきゅっと掴む。幸生はそんな空の不安を察してか、何も言わず優しく頭を撫でてくれた。

「ここは 妄想竹(もうそうちく) の竹林だ。本来ならちっと面倒くさい気性をしてるんだが、タケノコの出る季節なら竹は襲ってこねぇ。だから上は警戒しなくていいからな」

それ以外の季節は竹も襲ってくるらしい。空は善三に用があっても、竹林にいる時は近づかないことにしようと、そっと記憶した。

(孟宗竹かぁ……なんか名前からして強そうだもんね)

耳で聞いただけなので、漢字が間違っていることに空は気付かなかった。