作品タイトル不明
114:カマクラとご馳走
初雪に伴う衝撃と初めての雪遊びの日から二日ほどたった。
雪はあれからも断続的に降り、今はもう二、三十センチほど積もっている。
しかし道路や庭への道は幸生と雪乃が綺麗に雪かきをしてくれたし、下の方の雪は締まって固くなったので、歩くのに困るほどではない。
今日は晴れ間が出たので、空は遊びに来てくれた明良と結衣と一緒に庭で再び雪遊びに挑戦していた。雪乃に見守られながら、家の前でまた雪だるま作りだ。
明良と結衣は若返った雪乃を見ても、空のように仰天したりしなかった。
美枝と雪乃の仲が良いせいか、明良は若返った雪乃を見ても「さむくなったもんねー」と慣れた様子だった。
結衣はちょっと驚いた後、「わかいおばあちゃんっていいなー!」と女の子らしい感想を述べたのみで、すぐに順応していた。
空も若くなった雪乃に大分慣れて、顔を見ても驚いたりしなくなっている。幸生はまだ若干挙動不審だが。
「アキちゃん、これどう? ちょっとうまくなった!」
空は完成させた雪だるまを見て満足そうに頷いた。今日は前回よりも丸い雪玉が作れた気がする。全体的にでこぼこした部分が減って、大きさのバランスも良くなった。
「うん、うまいとおもう! おれのはどうかなー?」
「さんだんの、かっこいいよ!」
明良は三段の雪だるまを作ってちょっと得意そうだ。
明良も結衣も、雪だるまに顔も名前も付けてはいけないという掟をもちろん知っていた。
なので、顔のない小さな雪だるまを沢山作って並べ、どれが形が良いかを話し合う。ずんぐりしたのも壊れにくいし、三段の細長いのも面白い。
結衣は雪だるまではなく、雪を丸っこい紡錘形に丸めて耳と目を付けて雪兎にしていた。これには耳と目が付けられている。
「ゆきうさぎは、めをつけてもいいの?」
「うん! ゆきうさぎはだいじょうぶだって、おかーさんがいってたよ!」
「そうなんだ……」
どういう基準なんだろうと不思議に思いつつ、幾つも出来上がっていく可愛い雪兎を空は眺めた。
雪兎の耳は南天の葉で、目は赤い実だ。南天の木は米田家にもあるが、結衣はこのために家から一枝持って遊びに来ていた。
「ゆきうさぎがいいなら、フクちゃんをつくってもへいきかな?」
「フクちゃんなら大丈夫よ。人形が良くないだけだから」
その基準に空はなるほどと頷き、綺麗な雪をがさがさとかき集める。
頭の中でフクちゃんの姿を思い出しながら雪を少しずつ固めて大きくしていく。
「くびはもっと……ほそながい、かな。あたまはこんなかんじ……」
紡錘形のような体に、細い首を付けて頭を乗せる。なかなか思ったようにはならず、空は四苦八苦しながらフクちゃんを作った。
「なんか……へん?」
「うん、なんかへんだな! フクちゃんってむずかしいやつじゃない?」
「レモンにじゃぐちがついたみたい?」
結衣に的確に表現されてしまい、空はちょっとがっかりしてしまった。自分に造形の才能はないらしいと何となく悟る。
「めをつけたら、ちょっといいんじゃない?」
明良がそう言って南天の実を二つ、頭とおぼしき場所にぎゅっと押し込む。
「あ、ちょっとかわいくなった?」
「うん、かわいいよそらちゃん!」
目が付くとちょっと可愛さが増して、すごく太った鳩のように見える気がする。
「これは、すごくふくらんだフクちゃんにする!」
空は笑顔でそう結論づけたが、多分フクちゃんがここにいたら遺憾の意を示しただろう。
「さて、皆。ちょっと裏の畑の方に行ってみない?」
「向こう?」
顔のない雪だるまや謎の雪像を量産して気が済み、次に何をしようかと三人で話していると雪乃が裏庭の方を指さした。
「はたけも、まっしろ?」
「そうね、もう畑は真っ白ね。でも、裏に良い物があるの」
「いいもの?」
「そら、いってみよ!」
「いこう、そらちゃん!」
空は二人と一緒に、さっそく雪をぎゅむぎゅむと踏みしめながら裏庭を目指した。
庭はどこもかしこもすっかり白くて、木々も帽子を被り服をまとったようになっている。
雪は降っていないのだが、その分空が明るく時折日が差してとても眩しい。
(雪って……サングラスが欲しいんだな)
そんな感想を抱きつつ、空は裏庭の入り口に辿り着いた。
良い物、とやらはすぐに見つかった。
裏庭の入り口から少し入った場所に、丸くて大きな白い山があったのだ。
「あっ! すごいおっきい!」
「やったぁ!」
一目見てそれが何かわかった明良と結衣が駆けて行く。
空はそのあとを追い、山の前まで辿り着いてようやくその正体に気がついた。
「これ……かまくら!?」
丸い山にはぽっかりと入り口が開いて、中に入れるようになっている。雪の山自体もすごく大きく作ってあり、中はかなり広そうだ。
目を輝かせて雪山をペタペタ触り入り口から中を覗き込む空に、後から来た雪乃がくすくすと笑った。
「空、中に入らないの?」
「は、はいっていいの!?」
「もちろん。空に入ってもらうために、私とじぃじで作ったのよ?」
本来なら二、三十センチほどの積雪ではカマクラのような大きな物を作るには雪の量が少なすぎる。
そこで雪乃が得意の氷雪魔法を使って、ピンポイントでここにだけドカ雪を降らせたのだ。若返った雪乃は、氷雪魔法に限ればどんな無茶も軽々とやってのける。
水分を適度に調節した雪をどんどん降り積もらせ、それを幸生が叩いて硬くし、その上にさらに雪を降らせる、という繰り返しで、たった一日で雪はうずたかく積み上がった。
後はそれの形を整え、穴を開けて完成だ。
幸生の馬鹿力で圧し固められた雪は大量で、さらに雪乃が魔法を使って全体的に氷のように固くしてあるので、暖かい日があっても当分溶けることはなさそうな頑丈さだ。穴ももちろん魔法で開けてある。
もはやカマクラというより、氷で作られた住居に近い。
「そら、なかひろいよ、はやくはやく!」
「すごいよそらちゃん!」
雪遊びになれている明良と結衣は全く遠慮無くカマクラの中から空を手招く。
空は憧れのカマクラにドキドキしながら入り口を潜り、そろそろと中に入った。
「わぁ……あったかい! ひろい!」
祖父母二人の頑張りによって造られたカマクラはかなり大きかった。
全体的に驚くほど頑丈なので、壁が比較的薄く作られている。雪乃と幸生ならではの工法のお陰かもしれない。
幸生が入るには少し背が低いかもしれないが、雪乃くらいの体格の人なら二、三人は入れそうだ。
中に入ると薄暗いが、外の風が遮られてそれだけで暖かく感じる。
空はパタパタとカマクラの中を一周、二周と歩き回り、気が済むと入り口から顔を出して雪乃に手を振った。
「ばぁば、すごいひろい! かまくらすごい! ありがとう!」
外にいた雪乃が嬉しそうに空に手を振る。
「せっかくだから何か温かいおやつでも持ってくるわ。ちょっと待っててね」
「おやつ!」
空が大喜びで声を上げると、明良と結衣があははと笑う。
「そら、おやつのほうがうれしそう!」
「そらちゃん、くいしんぼうだもんね!」
「うん!」
もはやすっかり立派な食いしん坊になった空は、照れもせず笑って頷いた。
「はい、どうぞ。お汁粉よ」
雪乃が持ってきてくれたのは湯気が立つお汁粉だった。
「ふわああぁ、おしるこ! かまくらとおしるこ!」
何という王道だと空はお椀を受け取り感動に打ち震えた。本や映像でしか見たことのない、カマクラとお汁粉の黄金コンビだ。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきまっす!」
言うが早いか、空はさっそくお汁粉に口を付けた。
ふーふーと軽く吹いてからそっと啜ると、餡子の優しい甘さとその温かさでほっと息が漏れる。
箸を入れると中から白いお餅が出てくる。小さく切った餅を焼いてから入れたらしく、口に運ぶと少しだけ焦げた部分が香ばしくて美味しい。
「おいひぃ……」
ずず、と汁粉を啜りながら呟くと、明良も結衣も頷いた。
「なんかさ、カマクラだと、もっとおいしくない?」
「うん、いつもよりおいしい!」
確かに、外で食べるのも特別なら、カマクラの中で食べるのはもっと特別だ。
「いつもおいしいけど、かまくらだともっとおいしいの、ふしぎ……かまくらのまほう?」
「そうね、魔法かもしれないわね」
雪乃も一緒にカマクラでお汁粉を食べながら、微笑んで頷いた。
白い湯気が温かな汁粉から立ち上り、カマクラの中にふわりと広がって消えて行く。
寒いのに不思議と温かいこの空間で、皆で食べるお汁粉はいつもよりずっと美味しかった。