軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

105:狩りと留守番

日々は過ぎ、少しずつ冬らしい曇天が増え、冷たい風雨が吹き付ける日が増えてきた。

そんな悪天候の合間に嘘のように晴れたその日、空は朝食のあと、雪乃に連れられて村の中央の神社にやって来た。今日はフクちゃんも一緒だ。

神社へ来るまでの道行きも、到着した境内や拝殿の中も、見回せば空と似たような年頃の子供たちとその親たちでいっぱいだった。

「おはようございます、アオギリ様」

「アオギリさま、おはよーございます!」

「ピッ!」

「うむ、おはよう。空と……フクだったか。よう来たのう」

アオギリ様は拝殿の入り口で子供連れの家族を迎えていた。雪乃と一緒に空もフクちゃんも元気よく挨拶する。

それから空は周りをくるりと見回した。

集まった子供たちは境内を走り回ったり、友達同士で集まってお喋りをしたりと賑やかなことこの上ない。

空はこんなに沢山の子供を見たのは夏のトウモロコシ収穫祭以来のような気がして、物珍しくあちこちを眺めた。

「あ、そら、おはよー!」

「おはよー、アキちゃん!」

子供たちの中には明良もいて、空を見つけて手を振ってくれた。

明良とは美枝が一緒に来ていて、美枝と雪乃も挨拶を交わす。

「美枝ちゃんは今年は子守の当番だったわよね?」

「ええ、ここで皆のこと見ているわ」

「空の事もよろしくお願いね」

「ええ。雪乃ちゃん、頑張って来てね」

雪乃は美枝の言葉に頷くと、しゃがみ込んで空に目線を合わせた。

「じゃあ空、ばぁばもじぃじたちと一緒に狩りに行ってくるから、ここでフクちゃんや皆とお留守番して、遊んでてね。アオギリ様や大人の人の言うことはちゃんと聞いてちょうだいね」

「うん!」

「ホピッ!」

事前に今日の説明を聞かされていた空は元気よく頷いた。フクちゃんも任せろとばかりに胸を張って高く鳴く。

今日は村人総出で、冬前の狩りが行われる日だ。

山の木々が葉を落とし草が枯れるこの頃になると、村の周りには村に残った冬野菜や干した作物、村人の力でまだ繁る草木を狙って鹿や猪などの動物が集結するのだという。

それらは普段はアオギリ様が張る獣用の結界に阻まれて、村に入って来る事はほとんどない。

しかしアオギリ様はもうじき眠りについてしまう。

眠りにつくとアオギリ様の結界は少しばかり弱まり、どうしても薄い場所や小さな穴が空いた場所が出来たりする事があるらしい。そうなるとそこから山の獣が村に入り込むことがあるのだそうだ。

そんな訳で、アオギリ様が眠りにつく前に村人がほぼ総出で大規模な狩りを行い、村の近辺に集まっている獣の数を減らすのだ。空は雪乃に今日の事をそう教えてもらっていた。

もちろんそれだけではなく、冬に備えた肉の確保のための行事という意味も大きいらしい。

狩りは村内の山際の数ヶ所で行われるのだが、その時だけアオギリ様がその場所の結界に穴を開けて獣を誘う。

その間、うっかり討ちもらした魔獣がその穴から村に入ってきても危なくないよう、狩りに参加できない小さな子供は神社に集めて守りを厚くし、まとめて面倒を見ることになっているのだ。

ある程度自衛出来る年齢になったり、安心できるほど強い子供は狩りに参加したりもするらしい。

「そらちゃん、おはよー!」

「あ、ユイちゃんおはよう!」

雪乃からおやつとお弁当の入った包みを受け取っていると、後ろから声が掛けられた。空が振り向くと、野沢家の武志と結衣と、その両親が立っていた。

「空、明良、おはよ。今日は結衣のことよろしくな!」

「タケちゃんおはよう! タケちゃんは、かりにいくの?」

空が聞くと武志が嬉しそうに頷く。

「へへー、強くなると参加できるんだぜ! 俺は野ウサギなら挑戦してもいいって言われてるんだ。解体とかも習うから、楽しいぞ!」

「いいなー、タケちゃん!」

「そ、そうなんだ……」

明良は羨ましそうな声を上げたが、解体と聞いて空は思わず少し怯んだ。

前世でも今世でも空が目にしたことがある肉は、綺麗に処理されたりパックされたりしたものか調理済みのものだけだった。

皮を剥いだり血や内臓を抜いたり、食べるためには当然そういう事が必要だと知識ではわかっているがまだ実際に見たことはない。

もう何年か後にはそんな行事に自分も参加するのだろうか、果たして出来るのだろうか、と空は考え、少し怖じ気づく。しかしそんな空を横で見ていた雪乃が、魔法の言葉を教えてくれた。

「空、良いこと教えてあげましょうか。子供たちが狩った動物は、全部狩った子のものになるのよ。自分で食べたいだけお肉を狩って良いの」

その言葉の効果は抜群だった。空の顔がさっと上がり、瞳がキラリと煌めく。

自分で狩ったら、全部自分の物。何という甘美な言葉だろう。

「じゃあぼくがかったら、ぜんぶぼくの? たべたいだけ!?」

「ええ、そうよ! 参加するにはある程度強くなって、周りの大人の許可をもらわないとだからまだ先だけど……お肉食べ放題目指してがんばりましょうね!」

「うん!」

空はまだ見ぬ肉に思いを馳せ、零れかけた涎を拭う。

お腹いっぱい気兼ねなく肉が食べられるなら、空はいくらでも頑張れる気がした。

「がんばって、つよくなって、いっぱいたべる!」

「ふふ、その意気よ。でも今日はまだ、皆とお留守番しててね」

「うん、いってらっしゃいばぁば! おにく、たのしみにしてるね!」

「任せてちょうだい! 沢山獲って来るわね!」

雪乃は可愛い孫の声援を受けて張り切って出かけて行った。

あとに残ったのは大勢の子供たちと、その子守をする数名の若者や大人たちだ。

子守の人達は空よりも小さくまだ手の掛かる乳幼児たちの面倒を見ながら、自分で遊べる年頃の子供たちが危ないことをしないよう、目の届かないところに勝手に行かないように見守っている。

「そら、かくれんぼしよう!」

「うん!」

空は明良に誘われ、結衣や遅れてきた勇馬、それからかくれんぼに参加したいという何人もの知らない子たちと一緒に境内や拝殿を駆け回った。隠れ場所は沢山あるので、鬼を変えて何度もやっても飽きが来ない。

アオギリ様は拝殿の階段に腰を掛け、遊ぶ子供たちを楽しそうに眺めていた。