軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13 極上の串肉の炙り[食材:ロワイヤムードラー]

騎士たちの分も、といっても、希少部位では到底足りない。この一番美味しいと思われる部位は公爵様のために取っておくことにして、私は肩肉を使うことにした。もちろん、騎士たちに手伝ってもらい、串肉を大量に作っていく。

(どうしよう、公爵様の香辛料をこんなに使ってもいいのかな)

私はお伺いをたてようと思い公爵様を探す。

「閣下、私は別に焼きたてじゃなくてもいいので、その肉を毒見しますよ」

「これは俺のだ。毒見なら他の肉でもいいだろう」

「今から焼くのですから、冷えますよ、それ」

「いいと言っているだろう。熱々をさっさと食べて安全だと確認しろ」

「なんです、閣下。まさか、メルフィエラ様が最初に焼いてくれた肉は誰にも渡さんとか考えてるんですか?」

「うっ、煩いぞ。自分の毒見用の肉は自分で焼け!」

串肉を持った公爵様とケイオスさんが、最初に焼いた肉の取り合いをしていた。私は慌てて毒見用の串肉を焼くため、かまどに串肉を置いて火力を調整する。危なかった。あの串肉は希少部位の中でも一番上等な部分なのだ。毒見用にされてはたまらない。

「メルフィエラ様。毒見役であれば私が」

「まあ、クロード騎士長。貴方もですか?」

私が肉の焼き加減を見ていると、さらにクロード騎士長までもが毒見役を買って出てきた。その後ろにいる騎士たち全員が、焼けていく肉を鬼気迫る形相で見ている。マーシャルレイドの騎士たちは、私の調理した魔物食をたまに食べてくれるけれど、彼らのこんなに期待のこもった目を見るのは初めてだ。

マーシャルレイド領に棲息する魔獣は、人に危害を加えて害獣となったものを討伐するのが普通だ。だから、肉食系の魔獣なんかが多く、草食系の魔獣は滅多に狩らない。はっきり言って、肉食系の魔獣はあまり美味しいものではない。ロワイヤムードラーのように香ばしく食欲をそそられるような匂いは、彼らにとっても珍しいのかもしれない。公爵様からいただいた香辛料は、結局かなりの量を使ってしまった。

(使ってしまったものは仕方ないわ。もしあちらの料理長に怒られるというのであれば、私が調合した香辛料を持って帰っていただきましょう)

それにしても、クロード騎士長がケイオスさんの方をチラチラと見ているのは何故なのだろう。表情も、ほんの少しだけ不満そうだ。元々あまり笑顔を見せるような人ではないけれど、彼は真面目な騎士長だ。毒見役を譲る気はないようなので、私はケイオスさんとクロード騎士長に焼き上がった串肉を手渡した。

「しっかり焼けました。これを……えっと、あの、毒見、お願いします」

「もちろんです。スカッツビットの干し肉はまんまと閣下ご自身で毒見をなされましたからね。今回は、私が是非とも務めさせていただきますよ」

ケイオスさんが率先して串肉を受け取り、その匂いを嗅ぐ。そういえばそうだった。スカッツビットの干し肉は、毒見をせずに公爵様が食べてしまったのだったわ。ケイオスさんの対面にいたクロード騎士長は、私に少し咎めるような視線を向けてきた。マーシャルレイド領内ならまだしも、他の場所で魔物食を披露してしまったのは駄目だったかしら。

「早く食べろ。お前が余計なことを言うからお預けを食らってしまったではないか」

思いっきり文句を垂れたものの、公爵様も今回はきちんとケイオスさんに従うようだ。やっぱり、毒見って必要よね。私もうっかりしていたけれど、ロワイヤムードラーは立派な魔獣だ。いくら私は慣れているとはいえ、公爵様たちにとっては未知なる食物で、毒見をするのは当たり前のことだった。

「それではさっそく。尊い命に感謝します……」

皆が注目する中、ケイオスさんは短く祈ると、大きな口を開けて串肉にかぶりつく。少し熱かったのか、はふはふといわせながら肉を串から引き抜いた。食べやすいようにひと口大に切っているので、肉の塊は一瞬にして口の中に消えていく。その動作があまりに美味しそうで、私は思わず一緒に開きそうになった口を閉じる。

「ど、どうでしょうか」

下処理を任された私としては、ケイオスさんの反応はとても気になる。本当は、身体に何か悪い影響が出ないかだとか、倒れたりしないかだとかを心配しなければならないのだけれど。私はロワイヤムードラーの味や火加減、それに香辛料の味ばかりが知りたくて仕方がなかった。

黙々と咀嚼していたケイオスさんが、肉を飲み下した。その顔からは、美味しいだとか不味いだとかがわからない。早く、早く感想を聞かせてほしい。うずうずとして拳を握った私に、ケイオスさんがようやく口を開いた。

「まっ……」

「ま?」

「……たく、臭みがありませんね」

そう言うと、ケイオスさんは串肉をもうひと齧りしてうんうんと頷いた。

「それに、とろけます。肉ではなく飲み物と言っても過言ではありません」

「とろける飲み物! まあ、それで、お味はいかがですか? 火は通っていますか? 塩加減は?」

「口の中で肉と脂が溶けていきます。火加減は、私はもう少し血の滴っている方が好みですが、このとろける肉ならば、完全に火を通しても美味さを損ねることはないでしょう」

一気にそう語ったケイオスさんが、串肉を最後まで食べていく。滴る脂がこれまた美味しそうで、私はこぼれ落ちた脂を見て、思わず「ああ、もったいない」と口に出していた。

「くそっ、何という拷問だ。ケイオス、毒などないだろう。よもや腹を壊したりしないよな?」

「毒のような感じはありませんね。何より、あの激不味魔獣のように、魔力特有の違和感もありませんし。ですが、魔力による腹痛は時間が経たないと」

ケイオスさんの冷静な意見に、公爵様はむっつりとした顔になる。私は魔物に含まれる魔力で腹痛を起こしたことがないのでなんとも言えないけれど、魔物を食してあたったことがある人は、だいたい早くても一刻、遅ければ一晩経ってから症状が現れ始めると言っていた。お母様の研究記録には、消化が始まる頃から腹痛や発熱を訴え始めると書いてある。人は魔物のように、外部から取り入れた魔力を自力で分解することができないのだ。

「明日の朝まで待てるわけがないだろう⁈ もういい、毒見は終わりだ。俺は食べる」

「私たちも閣下と同じ意見です。ケイオス補佐だけずるい。毒見役とかいいながら全部食べてるじゃないですか」

焦れに焦れた公爵様とガルブレイスの騎士たちが、ケイオスさんに詰め寄る。マーシャルレイドの騎士たちも、毒見は何処へやら、何も言わずにペロリと食べてしまったクロード騎士長を羨ましそうに見ていた。私は騎士長に感想を聞いてみることにする。

「クロード騎士長、いかがでしたか?」

「えっ、ええ……まあ、普通に食肉でした」

「他には? 味とか、味とか、味とか」

「味は、そうですね。リシャール印の白毛長牛を食べたような後味がしました」

「そう、クロード騎士長はリシャール印の白毛長牛を食べたことがおありなのね」

私の指摘に、クロード騎士長の目が泳いだ。リシャール印の白毛長牛は、食肉用の牛の中でも最高級品種で、私だって食べたことはない。いつどこで食べたのか後から追及しなきゃ。それはともかく、最高級品種の食肉牛を食べたような後味というのならば、毒見の結果など待てるはずがない。

「皆さん、冷えてしまう前にいただきましょう。もし具合が悪くなっても大丈夫です。一応、お薬はすぐに用意できますし、マーシャルレイドの屋敷で手厚い看護をいたします」

私は皆に焼けた串肉を渡して回る。公爵様の分は、新たに焼いた物と交換して、私は冷えてしまった串肉を持つ。熱々な方が美味しいけれど、冷えた肉の方が味がよくわかる。きちんと吟味するために、冷えた肉は最適だった。

「それでは、試食といきましょうか」

それぞれ食べる前の祈りの言葉を口にして、我先にと串肉にかじりつく。思わず「美味い!」と声を漏らす者、何も言わずにひたすら食べる者、味わいながら食べる者。騎士たちは立ったまま食べており、私も野外ということで立ったまま直接肉にかじりついた。

(すごい、香ばしくて、野生の獣特有の臭みがない!)

かじった場所から、肉汁が滲み出てくる。温いくらいになっているのに、さらさらの脂は固まっておらず、濃厚な木の実の味が口の中に広がった。

(この香辛料、何かしら。丸い種を潰すとビリっとした刺激があるのに、辛くない)

肉本来の味を損なうことなく、木の実やキノコを食べているロワイヤムードラーにぴったりの香辛料だ。塩加減も絶妙で、ここに冷たいエールがあればと思わずにはいられない。乾杯ができたら最高だ。

「メルフィエラ、お前は天才だな!」

「そんな、公爵様。母の研究のおかげです」

「謙遜するな。正直、私は魔獣がこんなに美味いものだとは思っていなかったのだ。下処理とやらをせずに、今まで散々な目に遭ってきたからな」

そう話している間にも、ガルブレイスの騎士たちから感嘆の溜め息が漏れ聞こえていた。「俺、メルフィエラ様に下処理の方法を教えていただきたい!」とか、「今度魔獣を狩ったらここに持ってきてもいいかな?」など、私にとって嬉しい感想ばかりだ。

「こんなに美味いものを今まで廃棄してきたなど、考えたくないものだ」

「そんなことありません。魔物食を禁忌としている者もおりますから。それにしてもロワイヤムードラーは素晴らしいですね。煮込みにするのがもったいないくらいです。炙りで正解でした」

「部位によって食感や味わいが違うからな。煮込みに最適な部位もあるのではないか?」

公爵様は一本目をたいらげ、二本目に突入している。一本目とは違う部位なので、その味の違いを楽しんでいるようだ。マーシャルレイドの騎士たちも、非常にいい笑顔になっている。クロード騎士長も、騎士たちがどんどん串肉をたいらげていく姿を見ながら二本目をかじっていた。

「メルフィエラ様、あの……もう少し、食べてみたいのですが」

ガルブレイスの騎士ミュランが、私に許可を求めてくる。そうだ、このロワイヤムードラーは、公爵様から私に贈られたお土産だった。私は少しだけ考える素振りをして、期待に目を輝かせているミュランさんににこりと笑った。

「お屋敷で用意しているお食事をきちんといただいてくださるのであれば、もう少しだけどうぞ」

ロワイヤムードラーの串肉は最高だけれど、マーシャルレイドの料理だってすごく美味しい。お父様は、全員分の食事の準備をさせていることだろう。それに――

(念のために、ガルブレイスの騎士たちには泊まっていただき、何もないことを確認しておかなければ)

魔力あたりがないとも限らないので、少しでも違和感を覚えたら申告してもらうことにした。