軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

66.幼魚

人間の感覚ってのは不思議なもんだ。

あれだけ物々しい雰囲気だった終末世界が、エイトさんが登場しただけで一気に軽くなったように感じる。

だって8だもの。

終末世界をバックに8が立ってるんだもの。

こんなんギャグだろ。いや、ギャグだとしてもシュール過ぎるけど。

まあ、それを言ったら俺の格好も大概だけどさ。

それでも8よりはマシだと思うんだ……きっと、たぶん。

「いやぁ、知り合いに会えて良かったよ。これまでとは一気に世界観が変わったからな! 私だけ別ゲームでも始まるかと思ったくらいだぞ!」

「確かに今までと全然違うからな……」

なんせ現実とそっくりな終末世界だからな。

戦国時代も気になるけど。

「とはいえ、ここに来れたのはリュウのおかげだ! 礼を言う!」

「俺の?」

「ああ。君のおかげで、手こずってたステージをようやくクリア出来たんだ。クリア報酬の中に『デイリーダンジョンが解放された』ってのがあったので、早速やってみたんだ」

「なるほど」

てことは、エイトさんは本当に今来たばかりなのか。

俺がちょうどクリアするこのタイミングで?

あまりにもタイミングが良すぎる気がするが偶然か?

「エイトのスタート地点はここだったのか?」

「ああ。正確には後ろの病院の一室だな。驚いたよ。見慣れた町並みが、こんな状態になってるんだからな」

「まあ、驚くよな」

見慣れた町並み?

ひょっとしてエイトさんもリアルじゃこの町に住んでるのか?

しかも病院ってことは患者? もしくは医者や看護師?

……いや、リアルを詮索するのはマナー違反だな。出会い厨じゃないんだから。

大河さんは例外だ。

「ちなみにミッションの内容は?」

「マッピングを0.2%まで広げる、だな。報酬は大空の欠片、晴天の欠片、雷鳴の欠片だ。病院の中を歩き回ってたら、0.16%まではいった」

「この病院、広いからな。でもそれじゃあ、クリア条件や報酬もほぼ俺と同じか」

「じゃあ、リュウも今マッピング中なのか? な、なら、その……一緒に回らないか?」

「そうしたいのは山々だけど、俺の方ははもうすぐ終わるんだ。あと0.01%だから」

「……そうか。じゃあ、もうお別れか……」

8の上の部分を少し曲げてシュンとなるエイトさん。

……残念そうな気配が伝わってくる。

「まあ、残りちょっとだけど、その分なら付き合うよ。その前に少し話さないか? この世界に来たばかりなんだろ? なら俺の知った情報でよければ教えるよ。この世界はヤバいモンスターが多いんだ」

「おお、それは助かる! 是非、教えてくれ!」

俺は巨大アロワナや嘆きの白など、自分が出会ったモンスターについてエイトさんに説明した。

俺が来た方向はモンスターに囲まれ危険だと言うことも、ついでに俺が見た黒い人影についても。

「……なるほどな。その釈迦蜘蛛や黒い巨人の『死ねない』というのは中々に厄介なリスクだな」

「ああ。捕まったら終わりだ」

瓦礫蟲や嘆きの白も出会ったらほぼ即死という危険さを持っているが、こっちはまだ 死ねる(・・・) だけマシとも言える。

釈迦蜘蛛や黒い巨人は死ぬまでこの世界に囚われるのだ。

異世界ポイントと現実の時間経過は違うとは言え、何十年も囚われれば、現実の肉体も無事では済まないだろう。

「…… デイリー(・・・) と銘打ってる割には危険度も難易度も、通常のストーリーとは桁違いだな。おかしくないか? 本当になんなのだ、このアプリは?」

「それに関しては、俺もさっぱり分からないよ」

この『異世界ポイント』というアプリがなんなのか?

それについては分からない。ヒントも情報も無いし。

なので考えない。考えたって無駄だからな。

考えられる情報が集まったなら考えるけど、今は分からないという事しか分からない。

「しかし一つ気になる事があるのだが……」

「なんだ?」

「その黒い人影が言っていた『共に進む仲間』というのは本当に私のことか?」

「え?」

エイトさんの予想外の発言に俺は面食らう。

「だって私は今、たまたまこの世界に来たのだぞ? デイリーダンジョンを始めず、ログアウトする可能性だってあったのだ。それに今後ずっと一緒に居る訳じゃないだろ? それが報酬とは疑問を感じずにはいられないな」

「……確かに」

エイトさんの言うとおりだ。

「つまり俺のクリア報酬は別にあると?」

「たぶん、そうなんじゃないか? ……ま、まあ、私がリュウの報酬、というのも悪い気はしないがな」

「正直、エイトを見つけて嬉しくて、その可能性を思いつかなかったよ。ホント、この世界、おっかなくてさ。見つけたとき、本当に安心したんだ」

「そ、そうか? 私に会えたことがそんなに嬉しかったのか? ホントに?」

「ああ、凄い嬉しかった」

「そ、そうか……。うん、そうか……んふふ」

いや、これに関しては本当に嬉しかった。

だってこの世界、怖すぎるんだよ。

冷静に思い返してみれば、さっきの作戦も割と狂気の沙汰だな。

なんとかなったから良かったけど。

「よし、じゃあ先にリュウの報酬を探そう」

「いいのか?」

「勿論だ。実を言えば、先ほど気になるものを見つけてな。ひょっとしたら、それが関係してるのかもしれない」

「気になるもの?」

「ああ、付いてきてくれ」

いったい何だろうか?

俺はエイトについて、病院の中へと向かった。

やってきたのは病院の中央ロビーだ。

その一角にある一際大きな柱を、エイトさんは指さす。

「リュウ、アレだ。アレを見てくれ」

「アレは……」

柱には不気味なブドウのような房が張り付いていた。

いや、ブドウというよりも、ジャンボタニシの卵塊に近いな。

一粒、一粒が一メートル近くある。

卵のほとんどは破れて中身がないが、一つだけ孵らず脈打っているものがあった。

「正直、不気味すぎてすぐにこの場を離れたんだんだが、ひょっとしたらと思ってな」

「なるほど……」

脈打っている卵は卵塊の中でも一番大きい。

今にも孵りそうだ。

「あっ」

卵を破って何かが外に出てくる。

ぬるんと出てきたそれは、どこかあの巨大アロワナに似た幼魚だった。

びちゃり、と幼魚は床に落ちる。

『……』

ややあって、口をぱくぱくさせながら、じっと俺の方を見る。

不意に、その体が宙に浮かんだ。

「う、浮いた!?」

「ああ、浮いたな」

巨大アロワナも空を泳いでたし、この世界の魚は宙に浮けるのだろう。

すいすいと空中を泳ぐその姿は、あの巨大アロワナそっくりだ。

きゅっと、エイトさんが俺のマントの縁を掴んでくる。

「リュ、リュウ……大丈夫なのか?」

「……少なくとも、今のところは敵意を感じないけど……」

幼魚といっても一メートル近くあるのだ。

そりゃ不気味だろう。

幼魚は少し空中を泳いでは、床に落ち、それを何度か繰り返す。

やがてコツを覚えたのか、すいすいと俺たちの周りを泳ぎ始めた。

時折、鼻を近づけて何やら匂いを嗅いで何かを確認するような仕草を見せた。

『……ボ……ボ』

すると頭の中に声が響く。

これ、まさかこの幼魚の声か?

「今、喋ったのはお前か?」

『……ボ』

幼魚は頷く。

こっちの言葉を理解しているのか。

『ボ……ボ……ボ』

なんだ? 何を言っている?

「なあ、リュウ、この子、何かを見せて欲しいんじゃないか?」

「言ってることが分かるのか?」

「ミーちゃんとハッくんを見てれば、たいていの仕草は見当が付く」

「なるほど……」

流石、普段から音符や数字のモンスターを従えている数字である。

説得力が違う。

ミーちゃんは3、ハッくんは八分音符だったっけ?

エイトさんは幼魚の挙動をじっと見つめる。

「大切なもの……? 金? いや、宝石か? それが見たいのか?」

「宝石……」

ひょっとしてこれか?

俺は収納リストから『魔女の心臓』を取り出す。

すると、魚は「それそれ」と嬉しそうに口先で何度も魔女の心臓をつっついた

『……ボ、ボ』

魚は俺を見つめる。

『大陸龍魚(幼体)が 従属(カード) 化を希望しています』

『 従属(カード) 化しますか?』

「なっ……!?」

マジか。

ひょっとしたらと思ったが、どうやらこの幼魚、本当にあの巨大アロワナの子供だったようだ。