軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58.8

視界が晴れると、そこは大河さんやメイちゃんと別れた場所だった。

オープンワールドでは、前回の終了場所からスタートするって感じで間違いないな。

視界の端にはグランバルの村も見える。

見た感じ、復旧作業は進んでいるようだ。

とはいえ、わざわざ向かう必要もないだろう。

やり残したイベントがあるとも思えないし。

「さて、アポリスの町の場所を確認するか」

サブクエストの内容は『アポリスの町で魔女と出会う』だ。

魔女ってどんなヤツなんだろうか?

ともかくワールドマップで町の場所を確認する。

「……ここから西に20キロくらいか?」

かなり離れてるな。

あくまで直線距離で20キロだし、実際にはもっと掛かりそうだ。

「乗り物でもあれば楽なんだが……あ」

そうだ、あるじゃんか乗り物。

俺はポイント交換から乗り物を購入する。

・自転車 1ポイント

マウンテンバイク型。変速ギア付き。

エンジンバイクの方がもっと速いだろうが、あいにくリストにはなかった。

自動車ならあったんだけど、未舗装の道や、森の中を移動するし、小回りの利くマウンテンバイクの方が良いだろう。

急ぎじゃないしね。

「んじゃ、出発するか」

マウンテンバイクに跨り、俺はアポリスの町へと向かった。

「うーん、風が気持ちいな~」

「きゅ~♪」

雲母も気持ちよさそうな声を上げる。

走っている途中で、雲母を召喚した。

『強化』と『加速』のバフ掛けてもらうと、自転車を漕ぐスピードも上がるのだ。

(社会人になってからは車ばっかりだったからなぁ……)

こうして風を切って走るのは、本当に久しぶりだ。

自転車の性能も申し分なく、舗装されていない道でも楽に進むことが出来る。

「ふぅー、二時間かけてようやく半分か……」

途中で自転車が走れないような場所も結構あったからな。

それでも、徒歩よりかはずっと早い。

少し体を休めていると、どこからか水の音が聞こえてきた。

マップを確認すると、どうやら近くに川があるみたいだ。

「せっかくだし、川の傍で休憩するか」

「きゅー」

音のする方へ向かうと、そこには立派な川があった。

流れも穏やかで、水質も良さそうだ。

周囲にモンスターの気配もないし、ここで休憩しよう。

「雷蔵と夜空、出てこい」

「ウガァ?」

「キキィ~♪」

すわっ、敵か? と刀を構える雷蔵と、すぐさま俺の斜め後ろにぴたっとくっつく夜空。

「はは、雷蔵、そう警戒しないでくれ。良い天気だし、眺めも良いから、みんなでリフレッシュでもしようかなと思って呼んだんだ」

「ウガァォ……?」

リフレッシュってなに? と雷蔵が首をかしげる。

「えーっと、英気を養うって言えば良いのかな? ずっと戦闘ばっかりだったからさ。たまにはのんびり休もうってことだ。美味しい餌や、飲み物もあるぞ?」

「……ウガォ♪」

分かってくれたみたいだ。

……単に食べ物が嬉しいだけにも見えるけど、まあ気にしないでおこう。

「本当は他の猿たちも呼びたいんだけど、数が数だからな……」

90匹以上もいるし、否が応でも目立って、モンスターを呼び寄せてしまうだろう。

コイツらにはまた後で別で埋め合わせをしよう。

「確かショップの方にアウトドア用の長椅子やハンモックもあったんだよな」

お値段も200イェンで格安。

雷蔵が座れる大きいサイズもある。

さっそく購入して、収納リストから取り出す。

「ほら、雷蔵。座ってみろよ」

「ウガォ……?」

雷蔵は「えー、これに座るの~?」みたいな表情をしていたが、座った途端に笑みを浮かべた。

「……ウガァ~♪」

気に入ってくれたみたいだ。

体を動かしたり、伸びをしてみたりと、思いっきり楽しんでいる。

夜空と俺の分も購入して、雲母は……ペット用のクッションで良いか。

それと美味しい餌と飲み物も取り出す。

俺もビール、といきたいけどリストにないんだよな……。

普通に水を交換した。ゲームの中とはいえ、流石に生水は怖いし。

「きゅ~♪」

「ウッキキ~♪」

雲母と夜空も気に入ってくれたらしい。

雲母は猫みたいに丸くなり、夜空は体を伸ばして、寝ながらびょんびょんと飛び跳ねてる。

俺も自分の長椅子に横になった。

「……はぁ~……」

頬を撫でる風、虫の声や木々のせせらぎが心地良い。

うーん、良い。これは良いものだ。

現代社会で疲れた心が癒やされていくのを感じる。

趣味がアウトドアの人の気持ちが少し理解できた。

都会の喧噪から離れて、こうして自然を感じるのは心にとてもいい栄養を与えてくれる。

「ウガォ♪ ムグ、アゴゥン♪」

「きゅー♪ むぐむぐ……きゅっぷい」

「んぐっ……ウッキャァ~♪」

俺が心の栄養を満喫している横で、雷蔵たちも口いっぱいに美味しい餌を頬張っていた。

……うん、長椅子やクッションは気に入ってくれたみたいだけど、やっぱり癒やしよりも食い気か。

「お代わりもあるから、もう少し静かに食えよー」

「ウガァ♪」

「きゅー♪」

「キキィ~♪」

そんな感じで、俺達はしばしつかの間の休息を満喫するのだった。

それからしばらくして――。

「ふぅ~、さてそろそろ出発するか」

しっかり体を休めたし、動くとしよう。

「……ん?」

不意にどこからか足音が聞こえた気がした。

すぐに周囲を確認するが、それらしい人影やモンスターの姿は見えない。

気のせいだろうか?

「キ、キィ……」

すると夜空がどこかを指さしている。

少し離れた茂みに、何かがぶら下がっていた。

一体なんだろうか?

ゆっくりと近づいて、それが何かを確認する。

「これは……下着?」

下着ってか、水着か?

明らかに女性ものの水着だ。それにその下を見れば、ブーツやマントが折りたたまれて置かれていた。

「……誰かが水浴びでもしてるのか?」

気にはなるが、流石に覗きは犯罪だ。

ゲームの中であっても、それはやっちゃ駄目。

俺は見た目は変質者だが、心まで変質者になった覚えはない。

急いでその場を去ろうとした。

次の瞬間だった。

「そこに居るのは誰だ!」

後ろから叫び声がした。

反射的に、そちらの方へ視線を向けてしまった。

その瞬間、俺の思考は停止した。

「…………?」

そこには――数字が居た。

8だ。

文字通りの『8』が立っていた。

8に棒人間のような手足が生えているとしか形容しようがなかった。

「え、あ……え?」

意味が分からなかった。

だって8だもの。

数字の8から、漫画で見るような適当な手足が生えているんだもの。

水浴びをしていたからか、あちこちから水が滴っている。

え、まさかとは思うけど、今の声って、これが上げたの?

この数字が?

うそでしょ?

「貴様……乙女の水浴びを覗くとはいい度胸だな?」

「喋った!?」

よく見ると、8の上の部分に目と口があった。

8の人は、棒みたいな手で8の真ん中から少し上の部分を隠している。

どこがどこなんですか?

とりあえずこれ、後ろを向いた方が良いのかな?

俺は後ろを向いた。

「見るからに怪しい変態め……。ただでは済まさんぞ?」

「いや、覗いてません! 勘違いです。というか、怪しさ云々で言えば、そちらもいい勝負だと思いますが……?」

「ワタシのどこが怪しいというのだ!」

「全てですよ!」

だって8だもの。

8人間だもの。

後ろ向いて、目を逸らしてみたけど無理だって。

ついチラチラ見ちゃうってこれ。

いや、ていうか、ちょっと待て……まさか。

「あの……まさかアナタは3+3=8さんですか?」

「さんたすさんいこーるはち? 違う!」

違った。どうやら人違いだったようだ。

「我がプレイヤー名のルビは『サンサン・エイト』だ! 二度と間違えるな変態が!」

あ、違った。人違いじゃなかった。

そっかー、3+3=8ってサンサン・エイトって読むのか。

読めるか!

(特徴的な外見をしてるって言ってたけど、特徴的すぎるだろ……)

まさか本当に数字だったとは。

SMバニーメイド女王様に続き、数字の8とか。

ひょっとして異世界ポイントのプレイヤーって変な奴しかいないのか?

『ぷれいやーって変わってる人が多いって聞きますからねぇ~』

……メイちゃん、君の言ってたことは正しかったよ。

俺も含めて、今のところ、変なプレイヤーにしか会ってません。

君は今、どこで何をしていますか。

変態さんはとても心細いです。

……たすけて。