軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49.出会いと別れ

「……あの、とりあずこれ解いてもらえませんかね?」

「は、はいっ。勿論です。ちょっと待っててくださいね」

大河さんは土下座から身を起こすと、鎖を解いてくれた。

どうやって解くのかなーと思っていたら、あれだ。

よいではないか、よいではないか~って帯をくるくる回す悪代官のやつ。

人間コマになった気分だった。

それを見ていた、亜人たちがどよめく。

「タ、タイガースペシャルマークⅡセカンドさんが拘束を解いた?」

「どういうことだ? あの変態はタイガースペシャルマークⅡセカンドさんと知り合いなのか?」

「あんな変態な見た目の男とタイガースペシャルマークⅡセカンドが? そんな馬鹿な」

「彼は私の知り合いだ! 少し彼と話がしたい! 皆はそちらの説得を続けてくれ!」

それまでとは打って変わって、大河さんは凛々しい口調で、仲間に指示を出す。

というか――。

「……タイガースペシャルマークⅡセカンド?」

俺がその名前? を口にすると、大河さんはビクリと震えた。

「あ、いや、その……それは組織でのコードネームでして、ほ、ホントはトラにしたんですけど、知り合いがそっちの方が絶対かっこいいよっていうもんだから……。はうぅ……」

エロエロバニーさん改め大河さん改めタイガースペシャルマークⅡセカンドさんは、顔を真っ赤にして手で覆っている。

「……とりあえず、なんとお呼びすればいいでしょうか?」

「と、トラでお願いしますっ」

「分かりました。私のこともリュウでお願いします。プレイヤー名はリュウで登録しているので」

「りょ、了解しました」

エロエロバニーさん改め大河さん改めタイガースペシャルマークⅡセカンドさん改めトラさんは少しだけほっとした表情を見せる。……なにこれ、寿限無?

「というか、トラさんもプレイヤーだったんですね」

「え、あっ、はい。……そうです」

てことは、あの時見た異世界ポイントのアイコンは見間違いじゃなかったのか。

思い返せば「EXステージクリア」とか叫んでたし。

でもまさかこんな身近にプレイヤーが居るとは思わないじゃん。

「さ、佐々木さん……あっ、いや、リュウさんもプレイヤーだったなんて驚きました。世間って狭いですね……」

「そ、そうですね。あはは」

「え、えへへ……」

「……」

「……」

き、気まずい。

お互い、格好が格好だからか、全然会話が弾まない。

なんでバニーなんですかとか聞いていいのだろうか?

駄目だな。現実だったら完全にセクハラ発言だ。

大河さんも視線はそらしているが、チラチラとその視線は乳首の星に向けられている。

やめて、見ないで。こんな汚れた俺を見ないで。

「そ、その……今、私はサブクエストの最中でしてっ。終わってからゆっくりと話しませんか? その……リアルで。今のままだとその……お互い、目のやり場に困るでしょうし」

「そ、そうですね……」

大河さんは自分の体を隠すように身じろぎする。

……うん、エロい。まさか大河さんがあのジャージの下にこんな凶悪なボディを隠していたなんて。

正直、マジで目のやり場に困る。

男なら誰だってバニースーツが好きだ。

子供の時に見たテレビの仮装大賞のバニーとかいまだに覚えてる。子供時代にあれは刺激が強すぎた。

でも、今そんな劣情を抱いてはいけない。

なにせ恥ずかしがる大河さんの手には二メートルを超える大斧が握られているのだ。しかも鎖と棘鉄球付き。

ちょっとでも機嫌を損ねれば、自分はあの斧で強制ログアウト間違いなしである。

なのでここは素直に頷くのが最良。

「分かりました。ちなみにサブクエストの内容は?」

「亜人のNPC10人の保護です」

「……!」

亜人のNPC10人の保護。

間違いなくメイちゃん達のことだろう。

「保護……と言いますと?」

「その、私、亜人解放戦線のメンバーでして……。メインストーリーが亜人の保護や解放が主なんです」

「……へえ、そうなんですね」

やっぱりメインストーリーの内容はプレイヤーによって違うのか。

そういえば、掲示板でトラさんのメインストーリーだけ特殊だって書かれてたな。

プレイヤー名は重複しない仕様らしいから、大河さんがトラさんで間違いないだろうし。

「あの亜人さんたちはお知り合いですか?」

「はい。私のメインストーリーの方で関わりがありまして……」

メイちゃんのことをかいつまんで説明する。

「そ、そうだったんですね。分かりました。彼女たちの保護は私たちに任せてください。キザルト草原に亜人たちの国があるんです。そこなら、皆さん、安全に暮らすことが出来ます。ほ、本当です。ちゃんといい国なんです! 信じてください!」

「は、はい……」

分かったから、そんなぐいぐい近づいてこないでほしい。

大河さん、自分がどんな格好しているのか忘れてない?

……まあ、最近は俺も自分の格好忘れがちだけどさ。

「村も壊滅状態でしたし、何があったか気になっていたんです。ささ――リュウさんのおかげで疑問が解けました。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。彼らをよろしくお願いいたします」

探そうと思っていた亜人解放戦線が向こうから接触してきてくれたのだ。

むしろ、こちらとしても好都合である。

村は壊滅状態だし、ここに彼女たちの居場所はない。

メイちゃん達の今後は彼らに任せるのが一番だろう。

そちらを見れば、彼女の仲間がこちらに手を振っていた。

「向こうでも話がまとまったみたいですね」

「そのようですね。私も行っても大丈夫ですか?」

「はい。その、本当にすいませんでした」

「いえ、疑われるような恰好をしている自覚はありますから」

本当にね。

なんで俺、こんな格好してるんだろ。

クエストは終わったんだし、普通の服になればよかったのに。

リアルでの待ち合わせ場所と時間を決めてから、メイちゃん達の方へ向かう。

「お兄さん、無事でよかったです~」

「心配したよ」

「ん……よかった」

コロロさん、ワンダさんも安心したような表情を浮かべてくれた。

「皆さんも無事でよかったです」

見たところ怪我らしい怪我もしていない。

本当に良かった。

「あの亜人たちとちょっと話をしてね。実は――」

「分かっています。亜人の国に行くんでしょう?」

「……ああ。正直、ここに居てもアタイらに先はないからね。今ならこの騒ぎのどさくさに紛れて逃げ切れるさね」

確かに村が壊滅状態の今は、彼らにとってまたとない好機だろう。

メイちゃんが少しだけ不安そうな顔になる。

俺はしゃがむと、メイちゃんの頭を軽く撫でた。

「……メイちゃん、大丈夫だよ。もう呪いは治ったし、これから行く場所には、君やミィちゃんを虐めるような奴は居ないよ。だから安心するといい」

「……お兄さんは、一緒には行けないんですかぁ~?」

「残念だけど、俺は一緒には行けない。でも、いつかまたきっとまた会える」

「本当ですぅ? 嘘だったら嫌ですよぉ~。約束ですからね~」

「ああ、約束だ」

俺がそう言うと、メイちゃんがぎゅっと抱き着いてきた。

「ありがとうございます。……ワタシ、お兄さんに会えて本当に良かったです。大好きですっ」

ちゅっと、ほっぺに唇が当たる感触がした。

「えっ」

驚いていると、メイちゃんがしてやったりと笑みを浮かべていた。

「えへへ、お兄さんは変態さんですからね~。どうせお嫁さんなんて来ないでしょうから、ワタシが大人になったら結婚してあげますよ~」

「はは、そりゃ嬉しいな。んじゃ、期待して待ってるよ。立派な大人になるんだぞ?」

「はい~、ワタシ、お兄さんがびっくりするくらいの美人さんになってやりますからね~」

花の咲くような笑みを浮かべるメイちゃんに、俺は心が温かくなるのを感じた。

ようやく年相応の顔をしてくれるようになった。

やっぱり子供はこれくらい元気じゃないとな。

コロロさんもやれやれって感じの笑みを浮かべている。

「それじゃあ、トラさん。後は頼みます」

「はい、任せてください」

メイちゃんは最後まで俺に手を振っていた。

彼女たちの姿が見えなくなると、俺の体が白い光に包まれる。

どうやらこれでイベントは終わりのようだ。

「……またな、メイちゃん」

いつかまた会おう。

そしてこれからは誰かに使い潰される人生じゃない。

君が、君自身の人生を歩めるように祈ってる。

頑張れよ。変態さんはいつだって、君の味方だ。