軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26.EXステージ2 その5

ついに脱いでしまった。

今の俺は下半身を完全に露出させた変態仮面だ。

風が 股間(デリケートゾーン) をくすぐり、涙が頬を伝う。

――越えてしまった一線はもう戻らない。

あの蛇、ぜってーぶっ殺してやる。

俺はフルチンで心に誓った。

「……雷蔵、作戦は今伝えた通りだ。かなり苦しいと思うが、やってくれるな?」

「ウガゥ!」

任せろと、雷蔵は力強く頷く。本当に頼りになるなコイツは。

とはいえ、不確定要素は数多くある。

まずは一つ一つ、確実なものから潰していこう。

「――『不快』」

取り巻きのジャイアント・スネイクへと不快を放つ。

食らったのは『防御、魔防-10%』か。

麻痺か苦痛が理想だったが、贅沢は言ってられない。

「シャァアアアアアアアアア!」

生き残った二体のジャイアント・スネイクがこちらへ向かってくる。

マザー・スネイクもその後に続くが遅い。

やはり先ほどと同じ戦術を使う気だ。

「……急ごしらえだが、まあ上出来か」

左足の折れた部分に木の枝を添え、丈夫なロープで固定する。

激痛は収まらないが、足はまだ動く。

どうせ長く動かさなくていい。一分持てば十分だ。

CTが終わり、もう一体のジャイアント・スネイクに『不快』を放つ。

動きからして、入ったのは『沈黙』か。

確率25%じゃ理想のデバフなんてそうそう入らない。

やっぱ100%以外は信用出来ないな。

「まあ、いい。準備は整った。行くぞ雷蔵!」

「ウガォウ!」

速攻で作ったソレを雷蔵が背負い、俺たちは走り出す。

まずは二体のジャイアント・スネイクを片付ける。

「ゴァァアアアアアアアア!」

雷蔵が『雷閃』を放つ。

二体とも麻痺状態にはならなかった。

だが、動きは一瞬止まった。

「シッ!」

接近して、急所へ一撃。

だが当たらない。

直前で体を逸らされてしまった。

(……やっぱ機動力がないと一手遅れるか)

ちらりと雷蔵の方へ視線を向ける。

「ゴァウ!」

「シャァァ!」

雷蔵ももう一体のジャイアント・スネイクと戦うが、その動きは明らかに鈍かった。

おまけに剣も折れているのだ。なかなか致命傷を与えられないでいる。

それぞれが足止めを食らい、マザー・スネイクとの距離はおよそ3メートル。

それは先ほど竜巻のスキルを使った時と同じ間合い。

――俺がマザー・スネイクなら、このタイミングを狙う。

その予感は正しかった。

ぞわりと、背筋に怖気が走った。

「ッ――走れ!」

「ゴァアアア!」

俺と雷蔵は相対するジャイアント・スネイクを無視してマザー・スネイクヘ向けて走り出す。

当然、ジャイアント・スネイクはそれを許さない。

俺たちを邪魔しようと立ちふさがる。

よし、第一段階はクリア。

「雷蔵、手を!」

「ウガォウ!」

俺と雷蔵は互いの手を掴む。

強く、強く握りしめて離さぬように。

「ジュラァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

そして次の瞬間、マザー・スネイクの叫び声と共に竜巻が発生した。

全てを飲み込む破壊の渦が俺たちへと襲い掛かろうとする。

「ここだっ!」

その刹那、俺は『着替え』を行い、武器を鞭に変えた。

マザー・スネイクへ向けて鞭を放つ。

その攻撃は、目の前のジャイアント・スネイクで死角となり、大きく弧を描いてマザー・スネイクへと命中する。

「ジュラァ……!?」

鞭はマザー・スネイクの首にしっかりと巻き付いた。

鞭は低確率で『拘束』を発生させる。

それが運よく発動した――わけではない。

この絶体絶命の状況下で運や神に祈るような根性は持ち合わせちゃいない。

これはジャイアント・スネイク相手に散々練習して身に着けた俺の技術だ。

確率の女神が微笑まないのなら、自力で運をつかむまで。

「はっ……予想、通り……スキル発動中は動けねえみたいだな!」

「ジュラァァ……ッ」

マザー・スネイクは必死に鞭を外そうとするが、大きな動きは出来ないでいる。

先ほどの竜巻、発動前と発動後のマザー・スネイクの位置は全く同じだった。

このスキルの発動中は動けないのだろう。

もしくは、動いてしまえば自分もスキルに巻き込まれてしまうからか。

マザー・スネイクは忌々しそうに俺たちを睨みつける。

「ジュラァァ! ジュラアアア!」

「誰が放すか……! ぐっ、暴れんじゃねえ!」

竜巻の中心部に近いとはいえ、轟轟と吹きすさむ風の暴力はすさまじい。

取り巻きのジャイアント・スネイクはとっくに吹き飛ばされ、残ったのは俺たちのみ。

(あと十秒……! 絶対に手を離すな……! 耐えろ、耐えるんだ!)

息を吸い込もうとしても吸い込めない。

突き刺すような風が温度を奪い、体を硬直させてゆく。

肉体から体温が消えていく。

それでも、俺は手を離さない。

『経験値を獲得しました』

頭の中に響くアナウンス。

取り巻きのジャイアント・スネイクが死んだようだ。

マザー・スネイクの盾となり、囮となり、そして最後は死ぬ。

(……哀れな最期だな)

永遠にも感じる十秒が終わる。

竜巻が収まり、そこにはマザー・スネイクと俺たちだけが残された。

「ハァ……ハァ……」

もう握力も限界だった。

震える手から、ずるりと鞭の柄が落ちる。

「ジュラァァ!」

マザー・スネイクは大きく体を震わせ、鞭を外した。

そしてエラから空気を吐き出し、一気に跳躍した。

大きく口を開け、俺たちを丸のみするつもりなのだろう。

「……なんだよ、ジャイアント・スネイクよりも早えのかよ」

それでもギリギリ見えていた。

左足の激痛に耐え、俺はマザー・スネイクの突撃を躱す。

――だが躱したのは俺だけだった。

隣にいたソイツにマザー・スネイクは牙を突き立て、しっかりと毒を注入した後で丸のみにした。

俺はその光景を見て愕然とした。

「雷、蔵……」

返事はない。

当然だ。悲鳴を上げる間もなく丸のみにされたのだから。

猛毒も打ち込まれ生きてはいない。

「ジュラァァ……」

マザー・スネイクの瞳が俺に向けられる。

「う、うわぁああああああああああ!」

足元に落ちていた石をマザー・スネイクへと投げつける。

だがマザー・スネイクの強靭な皮膚を傷つけることなど出来るわけはない。

「返せ! 雷蔵を返せ! 出てこい! 出てこいよ雷蔵ぉぉおおお!」

「ジュララララ! ジュララララララ!」

俺の叫びが、慟哭が、たまらなく心地いいかのように、マザー・スネイクは笑い声をあげた。

投げられる小石がなくなると、俺は空の短銃を取り出して投げた。

当然、ダメージなどない。

首の下のところにコツンと当たって終わりだ。

「ジュララララララ♪ ジュララララララ~~♪」

マザー・スネイクは勝利を確信しているのだろう。

ゆっくり、ゆっくりと距離を詰めてくる。

もう俺にはなにも残っていない。

何もかも。

終わったのだ。

負けたのだ。

「――そう、思ってくれてありがとうよ」

「?」

マザー・スネイクが首をかしげる。

次の瞬間、その表情が変わった。

「ジュラッ……ラ、キェ……ゴァ……?」

苦しそうに、痛みに身をよじるように体をくねらせる。

ボコッ、ボコッと、その体の一部が隆起する。

「……あそこだな」

俺は最後の力を振り絞り、地面を駆けた。

動けないはずの激痛なのに、不思議と体は軽く、いつも以上の速度が出た。

火事場の馬鹿力ってやつだろうか?

「うぉあああああああああああああああああああ!」

動きが鈍ったマザー・スネイクへと一気に接近する。

マザー・スネイクは苦痛に身を悶えながらも、俺を迎え撃とうとする。

その瞬間、俺はボックスから取り出したソレらを周囲へと放り投げた。

「――温かい球体」

「ッ……!?」

その瞬間、マザー・スネイクの動きが明らかに鈍った。

ともすれば目標の形が急に変わったかのような混乱した動き。

「ッ……? ジュラァ?」

キョロキョロと周囲を見回している。

そうだよな。そうなると思った。

「だってお前、 目が見えな(・・・・・) いんだもんな(・・・・・・) 」

シャドウ・スネイクやジャイアント・スネイクと違い、マザー・スネイクの目は完全に退化している。

そう、図鑑に載っていた。

代わりに発達したピット器官と皮膚感覚でそれを補っているのだと。

ピット器官とは温度を感じ取る器官。

温度でもモノの形すら識別できるほどらしい。

「だからお前は間違えたんだよ」

先ほど、マザー・スネイクが毒を打ち込み、丸のみにしたのは雷蔵じゃない。

お前の仲間のぶつ切りにした胴体だ。

ジャイアント・スネイクの胴体をぶつ切りにし、そこに『温かい球体』を埋め込み、俺の履いていた『派手なパンツ』、そして雷蔵の装備を着せて丈夫なロープで固定した肉人形。

いや、肉人形と呼ぶのも不出来なほどの出来だが、見事に騙されてくれた。

温かい球体、派手なパンツによる保温機能、装備品による俺たちの匂いがお前を惑わした。

竜巻が収まった瞬間に、雷蔵をカードに戻し、背負っていた肉人形へと埋め込んだのだ。

案の定、お前はそれを雷蔵と思い込み、丸のみにした。

そして腹の中で再び、雷蔵を召喚したってわけだ。

直接、丸のみにされるのは毒を打ち込まれるリスクがあったからな。

だから肉人形をこしらえて、そこにカードを埋め込んだのだ。

ステージ内で何度もカードに戻せるのは実証済みだからな。

カード状態ならば毒など食らうことはない。

もちろん、牙に貫かれるリスクだけは考慮して、カードを仕込んだけどな。

「さっきの叫びは動揺したからじゃない。カード化した雷蔵を再び実体化させるためだったんだよ。誰が今更てめーなんかにビビるか」

「ジュ、ラァ……アガッ……ッ!?」

今、奴の体内は雷蔵によってズタズタに引き裂かれているだろう。

だがマザー・スネイクの消化器官は未知数。

生きたままゆっくりと消化すると図鑑には載っていたが、早く助けなければ、雷蔵が危ない。

「お前が一体でも 仲間(ジャイアント・スネイク) を残していればこんな雑な作戦は通じなかった」

「ッ……!」

ジャイアント・スネイクは視力がよくないとはいえ、目はちゃんと見える。

一体でも残っていれば、肉人形に気づけただろう。

仲間を仲間とも思わないお前の傲慢さがこの結果を招いたんだ。

「お前の負けだマザー・スネイク!」

首の急所へとナイフを一気に突き刺す。

温かい球体によって惑わされたマザー・スネイクは躱すこともできず、一撃で絶命した。

『モンスターを撃破しました。EXシナリオ2『森の異変 蜿蜿長蛇(えんえんちょうだ) 』がクリアされました』

頭の中に響くアナウンス。

長く長く続いた戦いがようやく終わりを告げた。