軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

152.情報が……情報が多い

「はぁぁああああああッ!」

「ウサッギィイイイイイイイイイイイ!!」

ズドンッ!! と、キザルト草原に衝撃が走る。

その発生源は激闘を繰り広げる一人の人間と化け物。

前燕尾服、後ろ全裸の変態と、筋肉モリモリの二足歩行兎。

「……絵面ぁ」

いや、俺も人のこと言えた義理じゃないけどさ。

これはこれで相当酷いと思う。

「ウッサァァ……神脚・ 兎束(トツカ) ノ 乱舞(ランブ) !」

「ッ……促成栽培・牧草ドラゴン!」

筋肉兎の蹴りが真空の刃を生み出したと思ったら、今度は絶頂会長さんの周囲の草が急成長。それらが絡み合い巨大な緑の竜を生み出し迎撃する。

まるで怪獣映画のような光景だ。

「ウッサァァァ……アテシノ蹴リデ壊レナイナンテ、相変ワラズ硬イ竜ダ!」

「ふははは! これでも防衛にかけてはトップランカーでも最高峰を自負しているからね。私にダメージを与えたければ、その三倍の蹴りを繰り出してみせたまえ!」

「ッ……ウッサギィイイイイイイイイイイイイイイイ!」

筋肉兎は次々と途轍もない威力の技を繰り出すが、その全てが緑の竜に阻まれ、絶頂会長さんまで届かない。

だがその余波で、周囲の地形がどんどん変わってゆく。

「くっ……巻き込まれないようにするだけで精一杯だ……!」

「あわ、あわわあああ~~……」

メイちゃんをお米様だっこで抱えつつ、俺は雷蔵たちと共にひたすら草原を走る。

「な、なんだこりゃぁ……」

「こ、この世の終わりじゃ……」

「フミィィィ……ママァ、パパァ……」

「皆さん! もっと早く走ってください! 結界を張っているとはいえ、いつ壊れるか分かりません! さあ、早く!」

井口の叫びに呼応して、亜人たちは必死に走る。

――NPCを一人でも死なせれば敗北。

元より誰も死なせるつもりがないが、それでも彼らを死なせない為には細心の注意を払わなければならない。

俺もマジックミラーを何度も発動させているが、戦闘の余波が来るたびに破壊されてしまう。

おそらく絶頂会長さんも、出来るだけ俺達を巻き込まないように戦ってるはずだ。

それでこれなのだから、あの二人の戦いが如何に別次元かを物語っている。

「ハァ……ハァ……メイちゃん、亜人の国まではあとどれくらいだ? 道はこっちであってるんだよな?」

「は、はい~、このままずーっと真っ直ぐです~……ふぇぇん~、お兄さん怖いよぉ~。おしっこ漏れちゃう~……」

「後でまた美味しい飴あげるから! だからもう少し! もう少し我慢しような!」

「う~~~……」

ヤバいぞ、メイちゃんの尊厳が決壊寸前だ。

走る、走る、ひたすら走る。

かなりの距離を稼いだはずなのに、背中から冷や汗が止まらない。

とにかく止まるな、走り続けろと本能が訴えてくる。

「あっ――」

すると、一人の亜人がこけた。

井口や新月も走りながら結界を維持している。

なので止まってしまえば、あっという間に結界から外れてしまう。

「ッ――雷蔵、メイちゃんを頼む!」

「ウガオゥ!」

「めぇ~」

俺は並走する雷蔵にメイちゃんをぽいっと渡すと、『時間停止』を発動。

時間が止まった世界で、こけた亜人を回収する。

「……えっ? あ、あれ? ふみゃぁ……?」

「足元に気を付けて! まだ走れる?」

「は、はい。えっと、大丈夫ですっ」

助けた亜人の少女は混乱しているようだったが、なんとか飲み込んでくれたようだ。

とはいえ、急に離せば危険だし、しばらくはこのまま抱えて走る。

それからしばらく必死に走り続けると、ようやく戦闘域から離脱することができた。

「ハァ……ハァ……ぜ、全員生きてるよな?」

「はい。全員居ます。亜人の人達も」

遥か遠くでは、まだ絶頂会長さんと筋肉兎の死闘が繰り広げられている。

これだけ離れてもまだその戦闘音が聞こえてくる。

あれがトップランカーか……。本当に化け物だな。

ともかく一人も犠牲者が出なかったのは本当に良かった。

くいくいっとメイちゃんが俺のマントを引っ張ってくる。

「……お兄さん」

「メイちゃん?」

「……」

メイちゃんは口元はかすかに笑みを浮かべていた。もうどうでもいいとでも言うような全てを諦めた笑みだった。

「……あっ」

どうやら俺は守れなかったようだ。

メイちゃんの――尊厳を。

その、ごめん……。

――しばらくして、絶頂会長さんが合流した。

「ふぅ……遅くなってすまない。だいぶ時間が掛かってしまった」

「いえ、こちらこそ助かりました。あの兎は?」

「なんとか倒した。といっても、時間が経てばまた復活するがね」

絶頂会長さんは特にダメージらしいダメージを負っていなかった。

多少、服が汚れている程度だ。

あの筋肉兎相手にその程度とは、とんでもないな。

「まったく 彼女(・・) にも困ったものだ。以前はああじゃなかったのだがね」

「彼女……?」

「ブルーアイズ・アルティメット・マッスル・バニーだよ。名前は 玉兎(ぎょくと) 。性別は雌。トラ―― 茜(・) の元カードさ」

「なっ……!?」

大河さんの元カード!?

た、確かにそれならあれだけの強さも納得だ。

あと雌だったのか、アイツ。

ていうか、ちょっと待て? 今、この人、大河さんの名前を言わなかったか?

いや、現実では指名手配されているから、名前を知っていてもおかしくはないか。

でもなんか妙に呼び方が気安い気が……。

「ん? ああ、そうか。自己紹介がまだだったね。私は絶頂会長。リアルでの本名は 鳥谷部(とりやべ) 桔梗(ききょう) 。 茜の兄(・・・) です。妹がお世話になっております」

「ああ、なるほど。大河さんのお兄さんでしたか。こちらこそ――って、えぇ!?」

大河さんのお兄さん!?

え、ちょっと、待って! 大河さん、お兄さん居たの!?

しかも異世界ポイントのプレイヤーで、亜人解放戦線のリーダーの絶頂会長さん!?

マジで!?

あ、でも考えてみれば、あの超人見知りの大河さんが、異世界ポイントとはいえ、他プレイヤーの組織に入るなんて、それくらいの事情がないとあり得ないか。なんか納得。

「え、でも、苗字が……その、違って」

「私は入り婿だからね。旧姓が大河なんだ。妻の実家が老舗の和菓子屋で、家業を継いでほしいって言われて婿になったんだよ」

「あ、なるほど、そういう事情でしたか。すいません、詮索するような真似を」

「別に構わないよ。君からすれば、当然の疑問だろうし。良かったら、今度買いに来てね。おまけしてあげるよ」

「……」

和菓子屋……和菓子屋かぁ……。

兄――職業:和菓子職人兼変態農業貴族兼国際指名手配犯。

妹――職業:エロ漫画家兼SMバニーメイド女王様兼国際指名手配犯。

情報が……情報が多い。

この 兄妹(きょうだい) 、キャラが濃すぎるだろ……。親、泣くぞ。

トップランカーってのは皆こうなのか?

「まあ、立ち話もなんだし、詳しくは亜人の国に着いてから話そうか。茜もバルカンもそこで君を待っている」

「あ、はい……」

バサリと、マントを翻し、背中と尻丸出しで、絶頂会長さんは俺達の前を歩く。

絵面ぁ……。

それからしばらくして、ようやく俺達は亜人の国に到着するのであった。