軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

138.元凶

ノンノンデニッシュさんが死んでしまった。

階段から足を滑らせて……。

「う、嘘だろ……? いくらなんでもこんな間抜けな死に方……。エイトさん、流石に冗談だよな?」

「……いや、本当に死んでるよ。打ち所が悪かったんだろうね。……ど、どうしよう?」

エイトさんも冷や汗が凄い。

誤診でも冗談でもなく、マジだ、これ。

せっかく顔見知りの、しかも未来のプレイヤーに出会えたってのにこんなのってないだろ。

死んじまったら、流石に女神の雫でも治せないんだぞ。

誰か冗談だと言ってくれ!

すると、エイトさんが何かに気付いたように声を上げる。

「あれ? りゅ、リュウ! 見てくれ! ノンノンデニッシュさんの体が――」

「……光ってる?」

ノンノンデニッシュさんの体が淡く光っていた。

いったいどういうことかと思っていれば、次の瞬間、ノンノンデニッシュさんがくわっと目を開いた。

「ッ……痛た。これは……どうやら私は足を滑らせて、死んでしまったようだね」

「の、ノンノンデニッシュさん!? 大丈夫なのか?」

「すまない。まさかこんなつまらないミスで残機を一つ減らしてしまうとは」

「残機……?」

するとノンノンデニッシュさんは己の胸に手を当てる。

「私には命のストックがあるんだよ。スキル『ドMの本懐』。致命的なダメージを受けた時のみ、一日最大3回までそのダメージをなかったことに出来る。加えて復活直後はステータスも上昇し、死因に対しての耐性もつく」

「なにそれ、凄い」

「あくまで致命傷だけだけどね。普通の攻撃はダメージを受けるし、残機を使い切れば、本当に死んでしまう」

それでもあと2回。

ノンノンデニッシュさんは致命傷を受けても、生き延びることが出来る。

それもそのダメージをなかったことにし、耐性やステータスバフまで獲得して。

条件付きとはいえ、これはかなり破格のスキルだ。

回復アイテムと組み合わせば、まさに不死身と言える。

「そんな凄いスキルがあるなら、教えてくれよ……」

「すまない。これは誰にも教えていない、本当の本当に最後の切り札なんだ。もし敵に知られれば、対策されてしまうからね」

「……確かにそれもそうだな」

ノンノンデニッシュさんの言い分も分かる。

もしこの事態を引き起こしたのがプレイヤーなら、自分以外、決して信用出来ないだろう。

それこそ、心でも読めない限り。

「君たちは過去から来たプレイヤーだし、話しても問題なかったかもしれないが、つい癖でね……。それに念には念をと思って」

「いや、俺も同じ立場なら、きっとそうしていたよ」

「ともかく、無事でよかったよ。それじゃあ、先に進もうか」

再びローション結界に包まれ、先に進む。

勿論、常に『マジックミラー』や他のバフも掛け続けておく。

もうすぐ、下級幽霊がやられた場所だ。

自然と、全員の間に緊張が走る。

「――止まって」

先行して歩くノンノンデニッシュさんが手で俺たちを制する。

視線の先、薄暗い灯に照らされて、電車を待つホームのベンチに誰かが居た。

(……人、か?)

あの黒い人影のように、その全身は真っ黒なモヤで包まれていた。

男性か、女性かなのかも判別がつかない。かろうじて人型であることだけは認識できる。

どうする? こちらから仕掛けるべきか……?

『――ようやく来たか』

薄暗い駅のホームに声が響く。

男とも、女とも、子供とも、老人とも判別がつかない声が。

だが妙に気持ちが悪いと感じる声だった。

『待っていた』

ソイツがゆっくりと立ち上がる。

おおよそ人の形をしていることは分かるが、それ以外はまったく分からない。

背格好も、装備も、顔も、髪型も、その全てが黒に塗りつぶされたかのようだ。

とりあえず黒い人物とでも呼ぼうか。

「お前は……誰だ? 待っていたってことは、俺たちのことを知ってるのか?」

『ああ。俺はここでお前たちが来るのをずっと待っていた。目的も分かっている。お前たちが欲しいのは、これだろ?』

ソイツは手をかざすような仕草をする。

すると、手のひらの上に古びた手帳が現れた。

「それは……」

『これが『世界の記憶』だ。これを手に入れるためにここに来たんだろう?』

「ッ……」

マジかよ。

本当にこっちの目的までお見通しとか。

いったい何者なんだ、コイツは?

エイトさんが口を開く。

「……世界の記憶、か。まさか スマホ(・・・) とは。ずいぶん、現代風だね」

「スマホ? 何を言ってるんだ、エイトさん。あれは手帳だろ?」

「えっ? 何を言ってるんだ、二人とも。あれはフロッピーディスクと呼ばれるものだ。まあ、君らの世代なら知らないかもしれないが、一昔前の情報記録媒体だよ」

フロッピーディスク?

ああ、あの市役所とかで使ってるやつか。

ワードとか上書き保存のアイコンになってるやつ。

「……どういうことだ? 三人とも、違うものに見えてるって事か?」

すると、黒い人物からふっと笑う声が聞こえた。

『その通り。世界の記憶は見る者によって姿を変える。ソイツがイメージする記憶の形にな。人によっては手帳に見えたり、日記に見えたり、スマホに見えたりもする』

そうなんだ……。

てか、意外とちゃんと説明してくれるんだな。

てっきり罠か、何かだと思った。

『こんなつまらないことで罠なんて張らないさ。お前らは正面から叩き潰してやらなければ、意味がないからな』

「ッ……」

ぞわり、と。

黒い人物の纏う威圧感が膨れ上がった。

なんという凄まじさだ。

あのクラウン・レディオや『廻転輪廻』の扉の向こう側に居たヘリアスにも匹敵するかもしれない。

「お前は……えねみーなのか? それとも俺たちと同じプレイヤーなのか?」

『それを聞いてどうする? 戦う事には変わりないだろうに? まあ、いい。教えてやるよ。俺は『プレイヤー』だ』

「ッ……」

本当に俺たちと同じ『異世界ポイント』の所有者。

だったら……どうして?

「……戦う前に聞きたいことがある」

『なんだ?』

「お前なのか?」

そう、どうしても確認しておかなければならないことがある。

ディザスさんから聞いたあの言葉を、確かめなければ。

「お前が……世界をこんな風にしたのか? 現実を終末世界に変えたのか?」

『そうだ』

あっさりと、黒い人物は認めた。

自分が元凶であると。

世界を終末に変えた犯人であると。

「アイツが……ッ」

俺の後ろに控えていた井口から膨大な殺気が溢れ出る。

今にも襲い掛かりそうな気配。

当然だ。自分をモンスターに変えた憎い元凶が目の前に居るんだからな。

「井口、落ち着け。逸る気持ちも分かるが、冷静になれ。勝てる勝負も勝てなくなるぞ。落ち着くんだ」

「ふっー、ふーっ……はい」

井口の表情からは、怒りと憎しみがありありと浮かんでいる。

頭では冷静にならなきゃいけないと分かっていても、難しいよな。

井口だけじゃない。

俺やノンノンデニッシュさんやエイトさんも気持ちは同じだ。

絶対に許せない存在を前に、怒りがマグマのように沸き立っている。

「なんで……なんでそんなことをした? 世界を変えた目的はなんだ?」

『なんで……?』

黒い人物は少しだけ考えるような素振りを見せてから。

『お前らが弱いから』

「…………は?」

一瞬、俺はポカンとする。

何を言ったのか、理解できなかった。

「どういう……意味だ?」

『言葉通りの意味だ。現実の奴らも、お前らプレイヤーも、揃いも揃って弱者ばかりだ。弱くて、愚かで、失敗してばかり。そのくせ、何かあれば『あの時ああしていれば』なんて、くだらないことをいいやがる。典型的な負け犬。愚か者だ』

黒い人物は両手を広げる。

俺たちを蔑むように。

俺たちを見下すように。

俺たちを嘲笑うかのように。

『だから変えてやったんだ。お前らみたいな弱い奴が居ない世界に。強い奴だけが生き残れる世界に。お前らは俺が憎いかもしれないが、俺だってお前らが憎いんだぜ? なんでまだ死んでないんだよ? さっさとくたばってほしいのによ』

「……なるほど。よく分かった」

何か理由があるんじゃないかと思っていた。

世界をこんな風に変えるだけの理由が。

なのに……そんな、身勝手な理由で。

「職業柄、今までいろんな人に会ってきたけど、初めてだよ。こんなにも傷つけることに罪悪感の湧かない人間が居るなんてね」

「こんな奴のせいで……私と妻の未来が壊されただと? ふざけるな!」

エイトさんもノンノンデニッシュさんも気持ちは同じのようだ。

「先輩……私、もう我慢できません」

「安心しろ、俺もだ」

一つだけ感謝しないとな。

コイツと戦うことに、なんの躊躇もなくなったってことだけは。

「ぶっ殺す」

『やってみろよ』

ゾゾゾゾゾと、黒い人物の周囲に大量の黒い泥があふれ出す。

そこから這いずり出るように、様々な形の黒い化け物共が姿を現す。

その数は軽く百体を超えるだろう。

『さあ、始めようか。……もっとも頭にキノコの生えたパンツを被った男と変な数字とパンツのおっさんじゃ、戦いになるとも思えないがな』

「「「……ッ!」」」

絶対ぶっ殺す。

世界を終末世界に変えた元凶との戦いが始まった。