軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

119.終末世界が出来るまで

井口は何があったかを話し始めた。

「……あの日、突然、変な扉があちこちに現れたんです」

「変な扉?」

「はい。なんかロダンの地獄の門みたいな、でっかくて禍々しいやつ。それが世界中に現れたって、ニュースでやってました。開くと中から大量のモンスターが湧き出してきたんです」

「……」

モンスターが現れる扉、か。

小雨の『世界扉』と似ているな。

それが世界中に現れただと?

(やっぱり世界扉を悪用したプレイヤーが居たってことか……?)

『世界扉』は小雨が使えるスキルだが、小雨だけしか使えないスキルではない。

大陸龍魚というモンスターなら、おそらくどの個体でも使える可能性はある。

終末世界の病院には、その卵塊が無数にあったし、理論上は数さえを揃えれば、世界中に『世界扉』を展開することも不可能じゃない。

(でも、だからって、やろうなんて思うか、普通?)

そんなことをして何になるって言うんだ?

個人的に恨みのある人物や会社を狙うくらいならまだ理解できる。

だが世界中だぞ?

よほどの破滅願望、もしくは世界そのものに対して強い憎しみでもなければ、そんな大それたことしようなんて思わないだろう。

(それともクラウン・レディオ――アイツが言ってた『えねみー』ってのが関係してるのか?)

明らかにアイツはそれまでのモンスターとは違っていた。

ウェザー・フェンリル――ナトゥリアのように高い知性があり、会話ができ、井口たちのようなモンスターに変異した人間をカードとして使役していた。

関係ないと考えるには、あまりに異質な存在だ。

俺はアイスコーヒーを飲む。

ふぅ、と一息。

色々考えちまうが、まずが井口から話を聞かないとな。

「モンスターが現れて世界中が大パニックって訳か。まさに終末だな……」

「はい。それでも自衛隊や、各国の軍隊も応戦して最初はなんとかなってたんです。でも、しばらくしてから、電気が全く使えなくなったんです」

「電気が?」

「電気、というか機械そのものが作動しなくなったんです。ヘリや戦車、車なんかも全然動かなくなりました」

「そりゃまた厄介な事態になったな……」

武器も機動力も通信網も制限されちまったんじゃ、モンスター相手にひとたまりもないだろう。

インフラもまともに機能しなくなる。

たった数か月であそこまで荒廃するわけだ。

「モンスターの中に電気を奪ったり、使えなくするスキルを持つ奴が居たのか?」

いや、世界中で起こったってことは、もっと別の理由か?

「そこまでは分かりません。スマホも使えなくなりましたし、友人や家族にも連絡が取れなくなりました。混乱のせいではぐれちゃいましたし、再会できたのもこの姿になった後です」

井口は自分の体に手を当てる。

「その扉が現れて、すぐにモンスターになったわけじゃないのか?」

「モンスターの中に、黒い霧を吐く奴が居たんです。ソイツの吐く霧を吸い込んだら、この姿に変異したんです」

井口の言葉に、俺は目を丸くする。

人を変異させるモンスターだと? そんな奴までいるのか?

「見た目は……えっと、アルマジロにイカの手足をくっつけたような不気味な外見で、甲羅の隙間に無数の穴が開いてて、そこから黒い霧を出すんです。大きさは、たぶん東京ドームよりもずっと大きかったと思います」

「そりゃデカいな……」

「工場の煙みたいに凄い量の霧を吐き出して……逃げるなんて無理でした。モンスターにならなかった人もいましたけど、その人達は全員、亡くなりました」

「モンスターに変異しなければ死ぬって事か……。かなりヤバいモンスターだな」

大陸龍魚に釈迦蜘蛛、黒い巨人と終末世界にはとんでもないモンスターがわらわら居たが、それに匹敵する化物だ。

この周辺に居なかったのは、幸いだったな。

もし遭遇していたら、俺も井口のようになっていたかもしれない。

「不幸中の幸いというべきか、モンスターになっても、割と理性は残ってたんですよ。不思議な力も使えるようになりましたし、一度は分かれた家族とも再会することが出来ました。……先輩のこともずっと探してたんですよ」

「手間を掛けさせちまったな」

「そうですよー」

いったい俺はその時、どこで何をしていたのだろうか?

井口は話を続ける。

「それで……私みたいにモンスターに変異した人同士で協力して、先輩や生き残った人々を探しながら、モンスターと戦い続けたんです。結界みたいなことが出来る人が居たので、モンスターの目につきにくい山奥とかにコロニーを作って、少しずつ生活の基盤を作って――」

そこで井口は少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。

「それで……人も増えれば、やっぱり私達のことを怖がる人も居て。それから色々あって、私と何人かはコロニーを離れることになりました。結界や最低限必要な人材を残して」

「おいおい……」

ゾンビ映画にありがちな人間同士の諍いかよ。

本当にあるんだな、そういうの。

(いや、分かっていても難しいか……)

理解と感情は別だ。

どれだけ自分たちに味方し、助けてくれたとしても、次はその牙が自分たちに向けられるかもしれないと不安になるのだろう。

ましてや極限状態のストレスの中では、感情をコントロールするのは難しい。

「それでも皆で出来ることをしようって、町で生き残りを探したり、モンスターを倒し続けました。狙撃兵になった自衛隊の人と知り合ったのもその時です」

「……失礼を承知で言うが、それ本当にお前の話だよな? すっげー今更だけどさ」

「ど、どういう意味ですか!?」

「いや、だってお前、会社の時とキャラ違い過ぎるだろ」

職場での勤務態度からは、考えられないくらいの立派な行動だ。

目の前の女性は、本当にあの井口なのだろうか?

ちょっと不安になるぞ。

井口は気まずそうに眼を逸らす。

「それは……そう言われても仕方ないですけど。うぅ……なんで以前の私はあんなことを……」

ちょんちょんと指先をいじりながら、ブツブツと呟く。

「……だって先輩に構ってほしかったんだもの」

「え?」

「な、なんでもないですっ。ともかく会社の頃の私については一旦、忘れてください。というか、先輩にお願いがあります!」

ぬぅっと凄い迫力で、井口が迫る。

「お、おぅ、なんだ?」

「この時代の私に言ってあげて下さい。『そういうやり方は、むしろ相手の反感を買うだけだ。もっと素直になれって』。絶対伝えて下さいよ! 絶対ですからね!」

「あ、ああ、なんかよく分かんないけど、分かった。必ず伝えておくよ」

「……ああ、ぶん殴ってやりたい。あの時の私ぃ……」

井口は頭を抱えて悶えている。

うん、今のお前は立派だと思うぞ、ほんと。

その姿勢を、現代のお前にも見習わせたい。

「それで……しばらくして、あのピエロみたいなやつに、捕まってしまったんです。そこからはずっと記憶が曖昧で……夢の中に居るような感覚でした」

「なるほどな……」

そこから俺たちとの遭遇に繋がる、と。

「じゃあ終末世界にも、人間のコロニーはあるってことか?」

「おそらくは」

井口はコロニーになっているであろう、ポイントをいくつか教えてくれた。

一番近い場所でも、市街地からかなり離れてる。

キャンプ場や、山の中にある温泉宿が多いみたいだ。

……ん? ていうかちょっと待て?

「なあ、井口。お前、嘆きの白とか釈迦蜘蛛なんかはどうやって回避してたんだ?」

「え?」

「だって、川沿いにずらっと嘆きの白が配置されてたんだぞ? それにお前が言うキャンプ場に向かうには釈迦蜘蛛や黒い巨人の警戒範囲のすぐ近くを通らなきゃいけないだろ?」

いったいどうやって井口はその問題を解決したのか?

すると井口は、首を傾げた。

「……嘆きの白ってなんですか? 釈迦蜘蛛?」

「モンスターだよ。白いくねくねした見た目の。見たら数秒で正気を失うかなり危険なモンスターだ。釈迦蜘蛛は――」

俺は井口に釈迦蜘蛛や他のモンスターの特徴も伝える。

井口はますます険しい顔をした。

「……そんなモンスター、 居なかった(・・・・・) ですよ?」

「なんだって?」

「少なくとも私は見たことがないです。川辺も普通に通ることが出来ましたし、そんなヤバいモンスターが近くにいるならコロニーなんて作りませんよ」

「そりゃ……そうだな」

確かに井口の言う通りだ。

でも……だとすれば、どういうことだ?

あれらのモンスターは、井口がクラウン・レディオに囚われた後に現れたモンスターってことか?

(現れた……いや、『配置』された?)

何のために?

決まってる。

デイリーダンジョンの ギミック(・・・・) としてだ。

それ以外に考えられない。

アイツらは最初から終末世界には居なかった。

終末となった世界に、プレイヤーへのギミックとして後から召喚されたんだ。

そう考えれば、あの不自然な縄張りにも納得がいく。

「……マジでなんなんだこのアプリは……」

厄ネタってレベルじゃねーだろ。

おかしいな。俺にとって『異世界ポイント』はただの楽しい副業程度のはずだったのに……。

今更ながら、とんでもないことに巻き込まれてる実感がひしひしと湧いてくるのであった。