軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-14.ホムンクルスとエルフ

「ご主人様、その人……」

保護した金髪美女と幼女の二人組を見下ろすアリサが、驚いた顔になった。

どうやら、鑑定系のスキルで二人の素性――エルフとホムンクルスだという事を知ったのだろう。

「ああ、アリサはホムンクルスって知ってるか?」

「うん、錬金術で造られた人間よね」

「よくいるのか?」

「さあ? 会うのも初めてだし、話を聞いた事もないわ」

ふむ、ファンタジーな異世界なら当たり前にいるのかと思ったけど、そうでもないようだ。

そんな会話をしていると、くるるとお腹が鳴る音が聞こえてきた。

「もしかして、この子、お腹が空いてるんじゃない?」

――ジェネレーター・ヒューエル・エンプティ。残存エネルギー保存の為、スリープモードに移行します。

金髪美女(ホムンクルス) ――№7が気を失う前にそんな事を言っていた覚えがある。

とはいえ、気を失っているし、起こすのも躊躇われる。

「鼻先に温かいスープを置いたら目覚めたりして」

アリサが笑いながら冗談を言う。

さすがにそれは無いだろうと思いつつも、ストレージから夜食用にストックしてある温かいスープを取り出してみたら――。

くわっ! と音がしそうな勢いで№7の目が開いた。

そのまま首だけがぐりんと動いてオレを見る。

なんだかホラーちっくな動きだ。

「補給物資の嗅覚情報を検知。補給を要求すると告げます」

独特の言い回しだけど、スープが飲みたいって事かな?

「いいよ。熱いから気をつけてね」

「注意事項を受諾。救助者に感謝すると告げます」

№7は特徴的な口調でそう言うと、オレが渡すのも待ちきれないとばかりに、オレの手ごと掴んでスープカップを口元に運んで、勢いよくごくりと飲み込んだ。

「あっ、そんなに勢いよく飲んだら・・・」

№7は無表情のままこちらを見上げ、涙目で「熱いと告げます」と言った。

なるほど、彼女は表情変化が苦手なようだ。

「ふーふーして飲んでごらん」

「イエス・コーチ」

誰がコーチだ。

№7は言われた通り、素直にフーフーと息を吹きかけて冷ましながらスープを飲む。

「ご主人様、いつまでその子の手を握ってるのかしら?」

アリサがちょっと拗ねたように言う。

「握っているんじゃなくて、掴まれてるんだよ」

「それはそうかもしれないけどー」

アリサが№7と反対側に回り込んでオレにペタリとくっついた。甘えたかったらしい。

「あらら、サトゥーさん、モテモテね」

ノックもなく扉が開いて、 牧場主の娘(メリンナ) さんが入ってきた。

彼女の後ろには報告に行ったリザとルル、それから牧場主の姿がある。

「えらい別嬪さんの迷子だな」

牧場主に経緯を説明する。

「そういう事なら、そっちの妹さんが元気になるまで置いてやるぞ」

「牧場主に感謝をすると告げます。ですが姫は妹ではないと訂正します」

「姫? お姫さんと侍女の組み合わせか?」

牧場主が面白そうに言う。

彼は№7の発言を信じていないようだ。

「サトゥー。姫が目覚めないと報告します」

朝の牧場仕事から戻ると、№7が無表情ながらに、しょぼんとした雰囲気でオレに訴える。

姫こと幼女エルフのミサナリーアちゃんは青白い顔で眠ったままだ。

彼女の横にAR表示される情報によると、魔力欠乏症という状態らしい。

この情報は昨晩のうちに知っていたけど、ゲームのように一晩寝かせておけば魔力が回復するかと思って寝かせておいたのだ。

だが、現状を見る限り、現実はそう甘くないらしい。

「アリサ、魔力欠乏症の治し方は知ってるか?」

「さすがにウィキペディアなアリサちゃんでも知らないわ」

無茶振りされたアリサが困り顔で肩を竦める。

「やっぱり、お医者さんに診せた方がいいんじゃないでしょうか?」

そう言うルルの意見を採用し、牧場主の娘メリンナさんに尋ねたところ――。

「医者? そんなの領都までいかないといないよ」

――との事だった。

さすがに病人を乗り心地の悪い馬車で運ぶのは躊躇われる。

「このあたりの人は病気になったらどうするの?」

「行商に来る薬師の婆ちゃんの薬を飲むか、寝て治す感じ」

なるほど、なかなか大変そうだ。

「でも、この子は運が良かったね。婆ちゃんが来るのは、明後日の月初め頃だから領都まで買いに行くよりは薬が早く手に入るよ」

メリンナさんがミサナリーアちゃんの顔を眺めながら言う。

ちなみに、メリンナさんは人族にはいないミサナリーアちゃんの淡い青緑色の髪の毛や髪の間から覗く少し尖った耳を見ても、特に言及はない。

後で尋ねたら、「獣人や鱗族に比べたら、誤差みたいなものじゃない」との回答を得た。

さすがは獣娘達を快く受け入れてくれた懐深い牧場の娘さんだけはある。

その日の夕食後――。

「聞いていいかな?」

№7に雨の中を彷徨っていた事情を尋ねてみた。

「私達はマスターから 役目を終えた(・・・・・・) 姫を安全な場所へと運ぶ命令を受けているのだと告げます」

――安全な場所。

すなわち、彼女達がいた場所は危険だったって事か。

それに、「役目」。なんだか、重厚なストーリーを感じる。

これがゲームだったら、イベントシーンに突入後、イベントバトルが待っているパターンだ。

「どこまで連れていく予定だったんだい?」

「セーリュー市か迷宮都市セリビーラにいるエルフに会わせる予定だったと告げます」

セーリュー市にいるエルフ、というとオレが出会った「何でも屋」の店長さんか?

「何でも屋の店長さんなら、セーリュー伯爵領の鉱山都市へ行くって言っていたよ」

「情報感謝。ですが、セーリュー伯爵領は危険ゆえに、私達の長女が候補から外しました」

№7って名前だし、他に少なくとも六人の姉や兄がいるんじゃないかと思う。

「あら? だったら、迷宮都市セリビーラに行くのね?」

「イエス・アリサ。その予定だと告げます」

「ポチ達と一緒なのです!」

「ういうい、一緒に行こう~?」

「それがいいのです! 皆一緒なら安心安全なのですよ!」

アリサの言葉に№7が首肯したのを見て、ポチとタマの二人が笑顔で同行を提案した。

「二人とも待ちなさい。それはご主人様の決める事です」

リザが焦った顔でポチとタマを叱りつける。

「いいよ、リザ。君達が良ければ、オレ達と一緒に行こう」

「……提案を保留。姫の意思を確認したいと主張します」

なるほど、お姫様――主君の意向が優先というのも分かる。

「なら、そのあたりを決めるのは、ミサナリーアちゃんが元気になってからにしよう」

「イエス・サトゥー。貴君の決定を支持すると告げます」

№7が無表情な顔でこくりと頷いた。

「ねぇねぇ、№7たん――なんか呼びにくいわね。あだ名とか付けていい?」

「イエス・アリサ。許可すると告げます」

「金髪美女だし、どんな名前がいいかしら? ホムホムとか?」

ホムンクルスから取ったのか?

時間を何度も遡行して因果律を束ねそうなので却下だ。

「№7だし、ナナでいいんじゃないか?」

「シンプルで良い名だと評価します。私の事はナナと仮称して良いと告げます」

「えー、もっと凝ろうよ~」

アリサは不満そうだが、呼ばれる№7が納得しているので、彼女のあだ名はナナに決まった。

そんなほのぼのとした雰囲気の中――。

「何か聞こえたのです!」

「狼の声~?」

「いいえ、少し違うようです」

獣娘達が何かに気づいた。

「どうやら、追っ手のようだと告げます」

「追っ手? 誰かに追われているの?」

「イエス・アリサ。私達を追っているのは――」

ナナの言葉の途中で、ドカンッと轟音を上げて壁が吹き飛んだ。

大穴の向こうから雨粒が吹き込み、オレ達の身体を濡らす。

「ご主人様!」

リザがオレを庇うように立ち、オレも年少組を背後に隠す。

壁を砕いた何者かが暗闇の向こうにいる。

「脅威を検知――」

ナナが呟く。

「――戦闘人形モードへ移行」

彼女の額に小さな魔法陣のようなモノが現れ、オーラのようなものがその身体を包むのが見えた。

「ご主人様、来ます」

リザの警告と同時に、黒い影が部屋に飛び込んできた。

狼だ。

いや、シルエットこそ狼だが、明らかにヤバい見た目をしている。

異形の狼、それが殺気を篭めて俺達を睥睨した。

その視線がナナに留まる。

『ミツケタ』

地獄の底から響くような恐ろしい声が、狼の口から響いた。