作品タイトル不明
18-38.リーングランデ異世界に行く(2)
サトゥーです。取らぬ狸の皮算用という言葉もありますが、成果を上げる前から、あれこれと思惑を巡らせる暇があるなら、成功するようにできる事を重ねていった方がいいと思うのです。
◇
日本にいるハヤトのもとに、幼女化したリーングランデ嬢を連れてきた。
「――って、そんな訳ないか」
名乗る前にリーングランデ嬢を一発で見抜いたハヤトだったが、さすがにあり得ないシチュエーションだと思ったのか、思い違いだと自分を誤魔化した。
「もしかしてリーンとサトゥーの娘さんか?」
「本人だって言ってるでしょ!」
デリカシーのないハヤトの発言に、リーングランデ嬢がお冠だ。
「本人って――」
「あれ? サトゥーさん?」
ハヤトの言葉の途中で、後ろから聞き覚えのある声がした。
現れたのはハヤトの幼なじみである橘ユミリ嬢だ。
初めて会った時に大人モードだったので、彼女と会う可能性があるシチュエーションでは大人の幻影を纏うようにしている。
「今日は娘さんと一緒なんですか? うわー、すっごい美幼女! サトゥーさんの奥さんって美人さんなんですね」
彼女はリーングランデ嬢を見て興奮している。
「こんにちは、お姉さんは橘ユミリっていうの。お名前聞かせてくれるかな?」
「何よ、この女?」
フレンドリーなユミリ嬢の発言に、リーングランデ嬢がトゲトゲした対応を取る。
「ユミリは俺の幼馴染みなんだ。お手柔らかに頼むよ」
「幼馴染み、この子が? ふーん?」
「な、なんだか値踏みされたような気がするよ、ハヤトちゃん」
リーングランデ嬢の幼女らしからぬ迫力ある視線を受けて、ユミリ嬢が狼狽えた声を上げる。
「リーングランデよ」
「え?」
「私の名前。聞いたでしょ?」
リーングランデ嬢が戸惑うユミリ嬢に名乗る。
「リーン グ(・) ラ(・) デ(・) ン(・) ちゃん? なんだかゴージャスな名前ね」
「違うわ! リーングランデよ、リーングランデ!」
名前を間違えられたリーングランデ嬢がいらだたしげに訂正する。
「リーン グランデン(・・・・・) ?」
「ンが多い! もう、良いわ。リーンって呼びなさい」
面倒になったのか、リーングランデ嬢が訂正を諦めた。
「よろしくね、リーンちゃん」
ユミリ嬢が笑顔で挨拶する。
「それでどうして、ハヤトちゃんがリーンちゃんを抱っこしているの?」
「恋人同士が抱き締め合うのは当たり前じゃない」
「えー! ハ、ハヤトちゃんがロリコンさんになっちゃったよ!」
リーングランデ嬢の言葉を聞いたユミリ嬢が「大変、大変」と慌て出す。
「落ち着け、ユミリ。リーンの冗談だ」
「え? 冗談なんだ。ハヤトちゃんの事だから、てっきり」
後半の言葉は聞き耳スキルでぎりぎり拾えるくらいの小声だったので、ハヤトには聞こえていないと思う。
「それで本当はどういう関係なの?」
「ハヤトさん、宜しければ場所を移しませんか?」
玄関先でするような話じゃないよね。
さっきからご近所の奥さん達が、こっちを見てヒソヒソと噂話してるし。
「ああ、すまん」
ハヤトの先導で屋内へと移動する。
◇
「それじゃ、改めて――よく来たな、リーン。他の 皆(みんな) は元気にしているか?」
詳しい事情より先に、ハヤトは仲間達の近況を優先した。
「元気すぎるくらい元気よ。メリーも誘ったけど、皇族としての立場があるからって」
サガ帝国の皇妹メリーエスト嬢は最後まで迷っていたけど、あの感じだと向こうで諸々の引き継ぎを終えたら来たがるんじゃないかな?
「ロレイヤは大きな神殿で、毎日高い酒を飲みながら悠々自適な日々を送っているわ」
「ロレイヤらしいな――サトゥー、向こうで会ったら、飲み過ぎないように注意してやってくれ」
ハヤトが呆れと懐かしさが混ざったような顔でオレに頼む。
パリオン神殿の神官ロレイヤは、竜泉酒や妖精葡萄酒の利き酒に凝っていたっけ。
「ウィーは次元潜行船ジュールベルヌの改装に没頭してる」
「飯はちゃんと喰ってるのか? ウィーは食事を忘れるから心配だな」
弓兵ウィーヤリィに最後に会った時は、異世界救済に随行できるように、と言って世界間移動に耐えられる仕組みを組み込もうと四苦八苦していた。
「ノノは各国の利害調整をするコクレンの大使をしてる。セイナはノノが訪問する国の調査を頑張っているわ」
「国連! ハヤトちゃんにそんな凄い知り合いがいたなんて!」
国連という単語にユミリ嬢が驚きの声を上げた。
「たぶん、ユミリが想像している国連じゃないと思うぞ」
書記官のノノはハヤトが言うように地球の国際連合ではなく、コクレン――国家間連絡会議という平和組織で活躍している。
斥候セイナは腕利きの諜報員として女スパイみたいな感じで暗躍しているようだ。
「ルススとフィフィは相変わらず。今は下級竜や若い成竜相手に自己鍛錬中よ」
「竜はヤバイだろ……というか、そこまで強くなっているのか。向こうに再召喚されたとしても、もう俺じゃ力になれないな」
「そんな事無いわ。私達はいつだって、 勇者ハヤト(あなた) の従者なんだから」
冗談めかして言うハヤトに、リーングランデ嬢は万感の思いが篭もった信頼の言葉を告げる。
「リーンちゃんもハヤトちゃんが勇者していた時の従者だったの?」
「そうよ」
リーングランデ嬢が真っ平らな胸を張る。
「はへー、リーンちゃんは小っちゃいのに偉いんだねー」
ユミリ嬢が感心したように言う。
「ユミリ、オレといた時のリーンはボッキュボンの大人だったんだぞ?」
「手つきが下品よ!」
それを聞いたハヤトが両手でボディーラインを表現しながら自慢し、リーングランデ嬢に肘鉄を食らっていた。
「リーンちゃんさんは大人だったのに子供になったの?」
「ええ、ハヤトの好みに合わせてみたの」
リーングランデ嬢はそう言った後、ハヤトの方を振り返る。
「どうかしら?」
「正直に言うと――等身大のビスクドールみたいで最&高な感じだ」
ハヤトが拳を握りしめて「まさにイエス・ロリータ、ノー・タッチだぜ」と叫んでいる。
「あら? 私は『合法ロリ?』だから、触って良いのよ? むしろ触りなさい、ベタベタと」
リーングランデ嬢がハヤトに抱き着いて頬ずりする。
ハヤトが「幼女の頬ずり」と叫んでダメになった。
「ちょ、ちょっとダメよ。青少年保護条例があるんだから! 未成年はエッチな事は禁止です!」
「そんなの気にしなければいいのよ」
ユミリ嬢の必死の抗議を、リーングランデ嬢が軽く受け流した。
「ダメェエエエエエエ!」
焦ったユミリ嬢が必死な感じにわたわたする。
「あらあら、ハヤトがついにユミリちゃんに手を出したのかと思ったら、お客さんだったのね」
扉がガチャリと開いて、ハヤトの母親が帰宅した。
オレはストレージから出した菓子折を渡しながら、留守中にお邪魔した事を詫びる。
「ハヤトにぃ」
母親が開けた扉の隙間を抜けるようにして、ハヤトの妹が部屋に飛び込んできて、リーンを見て固まった。
「だえ?」
「私はリーンよ。あなたは?」
「まさきあいか、さんさいです」
リーングランデ嬢に名前を問われたアイカちゃんがよそ行きの言い方で答える。
「はじめまして、お義母様。私はシガ王国オーユゴック公爵の娘、リーングランデ・オーユゴックと申します。ハヤトにプロポーズする為に日本に来ました」
「まあまあ、可愛いお嬢さんね。母のサクラです。うふふ、ユミリちゃんにライバル登場ね」
カーテシーに似た淑女の礼を取るリーングランデ嬢を見て、母親が楽しそうに微笑む。
「ママ、ぷろぽーずって何?」
「結婚しましょうって恋人に言う事よ」
「ダメー! ハヤトにぃはアイカとけっこんすうの!」
説明を聞いたアイカちゃんが、リーングランデ嬢とハヤトの間に割り込んだ。
両手を広げて徹底抗戦の構えだ。
「ハヤトは妹に好かれているのね」
リーングランデ嬢がうらやましそうに言う。
妹のセーラ嬢とアイカちゃんを重ねているのかもしれない。
「アイカは俺の宝物だからな」
「えへへー、アイカがいちばん?」
「おう! 一番だ!」
ハヤトがアイカを両手で抱き上げてくるくると回る。
「危ないから止めなさい。お客さんが来ているのに、お茶も出さないなんて、男の子はダメね」
「手伝います」
「いいのよ。佐藤さんはお客様なんだから座っていて」
母親はユミリ嬢だけを連れて台所へと消えた。
「きょうは新しいおゆうぎを覚えたお!」
アイカちゃんがお遊戯を披露するのを、ハヤトが満面の笑みで応援し、リーングランデ嬢が複雑な顔でその隣に座っている。
「――サトゥー」
「なんでしょう?」
リーングランデ嬢がぽつりと呟くようにオレの名を呼ぶ。
「私、間違っていたわ。ユミリがライバルだと思っていたけど、最大のライバルはあの子の方だったのね」
「心配しなくても、アイカちゃんはハヤトの実妹ですよ」
「そんなの大した障害にはならないわ。適当な貴族の養子にしてから結婚すれば問題ないわ」
「シガ王国ではそうかもしれませんが――」
真剣な顔で思考を巡らせるリーングランデ嬢に、日本の法律では三親等以内の血族とは結婚はできないのだと図解入りで説明して理解してもらう。
「サトゥーさん達は紅茶です。ハヤトちゃんはペカリね」
「アイカもペカリー!」
「ちゃんとありますよー」
「わーい。ユミリちゃんあいあと」
幼いアイカ用のペカリは炭酸を抜いてあるらしい。
「佐藤さん達はゆっくりしていけるの?」
「ええ、今回は一週間ほど市内のホテルを取ってあります」
せっかく異世界の地球に来たし、いろいろと仕入れて回る予定だ。
ハヤトと雑談をしているうちに、リーングランデ嬢はハヤトの母親や 妹(アイカ) と仲良くなったらしく、楽しげに談笑している。
この調子なら、明日以降はこの家に送った後、彼女と別行動をしても問題なさそうだ。
さっきテレビでやってた紛争や災害は、仕入れのついでに片付けてこようと思う。
「サトゥー」
そんな事を考えていたら、リーングランデ嬢に呼ばれた。
「なんでしょう?」
「私、ここの子になるわ!」
リーングランデ嬢が唐突な事を言い出した。
「リーンちゃんなら大歓迎よ」
「ご迷惑では?」
「佐藤さんはお仕事があるんでしょう? それなら、日本に滞在している間はうちでリーンちゃんを預かってあげるわ」
なるほど、そういう事なら。
「ちょっと待て! 部屋はどうするんだよ」
「もちろん、ハヤトの部屋よ」
「それはダメだろ」
「どうして? 野営した時なんてよく一緒に雑魚寝したじゃない」
しどろもどろになるハヤトに、リーングランデ嬢があっけらかんと言い放った。
「まったく、これだから童貞は……」
母親が小声で毒を吐くのを聞き耳スキルが拾ってきた。
「小さい女の子と一緒に寝たって、間違いなんて起きないでしょ? それとも私の息子はペド野郎だったの?」
「そんな訳あるか! イエス・ロリータ、ノー・タッチだぜ」
「はいはい。そんな事ばっかり言っていると、ユミリちゃんに愛想を尽かされちゃうわよ」
母親が雑な感じでハヤトの主張を切り捨てる。
「アイカも! アイカもリーンちゃんと一緒にハヤトにぃの部屋で寝う!」
「うふふ、仲良しね」
アイカがリーングランデ嬢の腕を持って主張した。
「ちょっと思惑がずれたけど、一番最初のハードルは越えたわ」
リーングランデ嬢がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「一週間後にはハヤトを私の魅力でメロメロにしてみせるわ!」