軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-32.迷宮都市の少年(6)

「もう一回行くぞ!」

ベリア刈りが上手くいかなくて悪態をついていたゴンだったが、ごねても相手にしてもらえないと分かると気持ちを切り替えた。

今度はゴン達も錬金ギルドの裏手まで籠を借りに行く。

「ボロボロじゃねぇか」

「うわっ、穴が空いてるよ。こっちのなんて背負いヒモが切れそうじゃないか」

良い籠は全て出払っていて穴が空いたのや、壊れかけのしかない。

「運べればなんでもいい」

「そうだね。服で巻いて運ぶよりマシだ」

ゴンとケロスが比較的マシな籠を選んで駆けていく。

「大丈夫かな?」

シナはボロボロの籠を手に不安そうだ。

「ちょっと貸して」

籠置き場に落ちていた藁を拾って縒って作ったヒモで簡単に修繕してやる。

「わー、シャロン、すごい!」

「村の冬仕事でよくやったから」

作業している間に、ラサに頼んで予備のヒモを作っておいてもらった。

きっとゴンやケロスも必要になる。

ベリア取り二回目となると、慣れて少し手早くできるようになった。

今度は全員、銅貨一枚を手に入れられた。ラサに頼んだヒモが役に立ったのは言うまでもない。

「よし、もう一回行くぞ!」

銅貨を手に入れて気を良くしたゴンが駆け出す。

俺達もその後に続くが、俺以外は皆、疲れが出始めているようだ。

その懸念はすぐに現実となり――。

「もう無理」

「僕もダメ」

最初にザキとケロスがバテてダウンした。

「ごめん、あたしも」

続いて、気丈に頑張っていたシナも。

「お前らだらしないぞ!」

ゴンが疲れてへたり込んだ子達に怒鳴る。

「俺達でやろう」

ゴンと協力して作業する。

横で見ていたから分かっているつもりだけど、すごい力だ。持久力では負けない自信があるけど、純粋な力はまるで敵わない。

俺ももっと筋肉をつけなきゃ。妹がガチムチはダメって言って、筋肉を付ける方法を教えてくれなかったんだよな。

――鍛え過ぎると背が伸びない。

けっこう食い下がったんだけど、そう言われて断念したっけ。

「よし、これで人数分だな」

ゴンがそう言って葉っぱを籠に詰めて元気に駆けていく。

「僕たちも……」

「待って、ゴン」

「すごい体力だ」

途中で作業に復帰していたケロスやシナやザキが、ゴンの後ろをふらふらと追いかける。

「……体力お化けめ」

ラサが悪態をつきながらふらふらと立ち上がる。

「待って、ラサ。ちょっと休憩して行こう」

足がもつれていたので、ラサにそう提案する。

「だ、大丈夫だ」

「無理は続かないよ。最初のうちは自分のペースを把握しないと」

意地を張るラサに、そう言って説得した。

「……分かった」

座って休憩すると思ったよりも疲れている自分に気付いた。

人の事は言えないな……。

シナ達も向こうの方で座り込んでいる。やっぱり休憩は必要だ。

しばらく休憩していると賑やかな子供達の声が聞こえてきた。

「掛かってる! 砂鼠だ!」

「やったー!」

周囲を見回すと、年下の子達が近くの岩場の陰で何かしている。

興味を惹かれて見に行ってみた。

「何をしているの?」

「ねずみ取りだよ!」

「アリサ式の罠なんだよ! いっぱい取れるの!」

子供達は罠でネズミ取りをしているようだ。

アリサというのは伝説のバンチョウで魔王よりも強いらしい。バンチョウってなんだろう?

ラサが歩けるようになったので、途中でシナ達を拾って戻る。

切ってから時間が経って葉が乾いたから、賤貨一枚分減らされた。

ゴンと俺は四回目も行ったけど、残り四人はもう無理だと言って都市に残った。

今日一日で、俺は銅貨三枚と賤貨四枚、ゴンが銅貨三枚と賤貨二枚、ザキとラサが銅貨二枚と賤貨四枚、一番少ないケロスが銅貨二枚と賤貨一枚だ。

けっこう大変だったけど、晩ご飯代くらいは稼げたと思う。

「よし、飯に行こうぜ!」

ゴンが元気よく号令して広場の屋台を目指して歩き出した。

広場に近付くと良い匂いが漂ってきて、皆のお腹がギュルギュルと鳴る。俺も腹ぺこだ。

「肉串うめぇ!」

「銅貨一枚とは思えない大きさだね!」

ゴンとケロスが最初に見つけた屋台で肉串を買った。

あまりに美味しそうだったので、俺も誘惑に負けて肉串に手をだしてしまった。

なんの肉か分からないけど、貴重な塩が利いていて美味しい。

肉汁と塩が混ざって身体に染み渡るような美味しさだ。少し焦げて香ばしいのもいい。

「シナも食えよ、美味いぜ」

「あたしは止めとく。お金が足りなくなったらヤだもん」

ザキとラサもシナと同様に節約するらしい。

肉串を食べきり、皆で具沢山のスープと薄焼きパンを買う。どっちも銅貨一枚だ。

スープにはゴロゴロと芋や豆の欠片が入っている。肉も入っているけど、小さな切れ端が一つか二つだけだ。

シナは薄焼きパンの代わりに、賤貨二枚の茹で芋を買っていた。

ゴンは食べ足りないと言って、残りの稼ぎを全部茹で芋に換えて食べていた。

「お前、ゴンか?」

「――ああん? ピケ兄!」

どうやら、ゴンの同郷の知り合いらしい。

「おお、シナも迷宮都市に来たのか! お前ら、金ないだろ? 奢ってやるから来いよ!」

「ほんとか! 行く、行く! シナも行こうぜ!」

「う、うん」

「僕も行っていい? ゴンやシナの友達なんだ!」

「ああ、構わないぜ」

ゴンとシナが同郷の知り合いに誘われ、ちゃっかりケロスもそれに便乗した。

「お前らも来るか?」

「僕はいいです」

「もうお腹いっぱい」

「俺も暗くなる前に水浴びがしたいから」

俺達も誘われたけど、気後れしたザキが断り、ラサと俺もそれぞれの理由で断った。

「ここ?」

「あのへんに人がいっぱいいるから、あそこじゃないか?」

ギルドで教わった河原に来ると、たくさんの探索者たちが血の汚れを落としていた。

ラサとザキも一緒だ。

「早く浴びよう」

ザキは服を脱ぎ捨てて、浅い川にざぶざぶと入っていく。

「シャロンとラサも早く来いよ! 冷たくて気持ちいいぞ!」

「すぐ行く!」

俺は服を畳んで兜と短剣を包み、袖を使って首に巻き付ける。妹の餞別を盗まれるわけにはいかない。

ラサは服のまま川の中に入っていく。

「服が濡れるぞ」

「すぐ乾く」

ラサが服ごと身体を洗う。

濡れた服がラサの肌に張り付いて透ける。男同士なのに、なぜかドキドキする。

俺は強く首を横に振って、冷たい川の水で顔を洗った。

首元の服がびちゃびちゃだ。

俺も服を洗おう。

「ふう、気持ちよかった」

さっぱりして河原で乾かす。

「――ん?」

「どうした?」

「あれ、なんだろう?」

川上の方にある橋の所に、川に浸るほどの長さの布が下がっている。

「命が惜しかったら近寄るな」

近くの河原で涼んでいた青年が警告する。

「おいおい、新人を怖がらせるなよ」

「大丈夫だから行ってみな」

「そうそう、度胸試しだ」

青年の周りにいたお調子者っぽい仲間達が俺とザキをはやし立てる。

「いや、僕は――」

「お子様は怖いってよ」

「しかたねぇよ。臆病者には無理だ」

「怖がりはママのスカートの中に隠れてろ!」

「ぼ、僕は臆病者じゃない!」

青年達に煽られたザキが橋の方に歩き出した。

「ちょ、ちょっとザキ!」

「止めた方がいい」

「うるさい、止めるな!」

俺とラサが止めてもザキは意固地になって歩みを止めない。

しかたないのでザキの肩を掴んで止める。

「放せ! ――あっ」

「うわっ」

ザキが俺とラサの手を払ったが、バランスを崩して三人で布の向こうに倒れ込んだ。

――肌色。

薄暗い橋の下には、幾人も裸の女の人がいた。

「うわわわっ」

俺は慌ててザキとラサを掴んで布の向こうに転がり出る。

「な、何? 何があったの?」

「女子用の水浴び場だった」

「う、嘘っ!」

どうやら、ザキは向こう側を見ていなかったらしい。

ラサは女の子達の水浴びを目撃したのに、平然としたものだ。

「覗きは死刑」

「万死に値する」

布の向こうから濡れた服を着込んだ女の人がポキポキと指を鳴らしながら出てきた。

橋の脚と布の間から、女の子達が顔だけ出してこっちをみている。怒っている顔、恥ずかしがっている顔、あきれ果てた顔、色々だ。怒っている子が多い。

「す、すみません!」

ザキとラサの頭を掴んで一緒に下げる。

その頭を乱暴に引き上げられ、おもいっきり頬を張られた。一瞬で視界がぶれ、川面に叩き付けられる。口の中に鉄の味が広がった。

どうやら、ビンタされて川に落ちたらしい。

「今日のところはこれで許してあげるわ」

「どうせ馬鹿どもに煽られたか騙されたんでしょ?」

怖い女の人達は「次は無いわよ」と言い捨てて布の向こうに戻っていった。

腫れた頬を撫でながら川から出る。

「あれ? なんで」

「知らない」

ラサは何故か無傷だ。

まあ、裸を見ちゃった俺と原因のザキはともかく、ラサは巻き込まれただけだしね。

次の日――。

「身体がいたい」

頬の腫れは引いたけど、筋肉痛で体中が痛い。

畑仕事とは身体の使い方が違うみたいだ。

水汲みをして戻ってくると、全員が起きてきた。同郷の者と行ったゴン達も戻ってきている。

俺以外も筋肉痛だったけど、動けないほどの者はいない。

今日も炊き出しで朝ご飯を食べ、仕事に行く活力を得る。

「今日もベリア刈りを頑張ろう!」

「俺は行かないぞ」

「僕も!」

気合いを入れて宣言したら、ゴンとケロスが拒否した。

「他の仕事ってこと?」

「俺達は迷宮に行く」

「ゴン! 迷賊の事を忘れたのか? 迷宮に行くのは講習に出てからって決めたじゃないか!」

ゴンの言葉にびっくりして強めの言葉が出てしまった。

「僕たちはゴンの知り合いと迷宮に行くんだ」

「昨日の人達と?」

「そうだ。ピケ兄達と一緒だから大丈夫だ」

「もう二年も迷宮に潜ってるベテランなんだって!」

慣れた人と一緒なら危なくないかな?

「それじゃ、二人は知り合いと迷宮に行くんだね?」

「あ、あの。あたしも」

シナがゴンの後ろに隠れながら言う。

そんなにビクビクしなくても、抜け駆けを怒ったりしないのに。

ゴン達は土産話を楽しみにしてろと言って待ち合わせの場所へ去っていった。

「二人はどうする?」

俺はザキとラサに声を掛ける。

「僕はもう少し楽な仕事を探すよ。さすがに連日は身体が辛い」

ザキはそう言ってギルドの中に入っていった。

「行こう、シャロン」

ラサは一緒に来てくれるみたいなので、昨日と同じように札を貰ってから籠を借りてベリア畑に行った。

二人でもなんとかなるけど、肉厚の葉を刈るのに時間がかかる。

昨日より時間が掛かって一回目を終わらせた。

今日は三回くらいが限界っぽい。

「良かった、いた!」

「ザキ?」

ベリアの葉を届けたら、なぜかザキが待っていた。

「どうしたんだ?」

「落ち着け」

ゼーハーと荒い息をするザキに尋ねる。

こんなに必死なザキは見た事がない。

「これが落ち着いてられるか! 大変なんだ!」

◆◆◆とある村にて◆◆◆

「こんにちは、レイナさん」

アキンドーさんは私のような子供にも丁寧だ。

それは四年前、私が二歳の時に初めて出会ってから一貫している。

「それじゃ、さっそくだけど商談に移りましょう」

私はアイテムボックスを開いて取り出した商材を、アキンドーさんに渡す。

彼は子供相手でも足下を見たりしないので信用できる。

「宝石が七つと金塊が一つ。宝石は綺麗に磨かれていますし、金塊もどこに出しても恥ずかしくないくらい高純度です。腕を上げましたね」

「ユニークスキルのお陰よ。私が凄いわけじゃないわ」

ちらりと見ただけで純度が分かるとか、アキンドーさんは普通じゃない。

たぶん、その事を隠すそぶりがない事こそ、私への信頼の証だと示しているんじゃないかと思う。

「ユニークスキルの使いすぎは――」

「分かってる」

魔王になる気はないわ。

勇者になったロム兄さんと最終決戦っていうのも燃えるけど、今世はバトルより恋愛モノの路線で行きたいと思う。

「それだけあったら足りる?」

「等級の高い魔核と属性石でしたね? どの属性石が欲しいんですか?」

「そうね……」

カマイタチやサイクロンを起こすなら風属性だし、火属性で爆発系も捨てがたいけど、実用的に考えたらサンダーが便利そうね。

「雷石がいいわ。もし足りるなら水石も」

私はアイテムボックスがあるけど、ロム兄さんには水分補給手段も必要だから。

「水石は沢山あるからサービスいたしますよ」

「ありがとう、アキンドーさん」

私は念願の属性石を手に入れた。

な、何をするキサマらー!

脳内寸劇を済ませ、属性石と魔核をアイテムボックスへ収納し、こちらを優しい目で見るアキンドーさんに視線を移す。

「聞いていいかしら、アキンドーさん」