軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-16.サトゥーの雑貨屋さん〔3〕

「採取完了、大っ 勝利(しょーり) ぃー」

「勝利~?」

「ポチ達の勝ちなのです!」

アリサが勝利宣言をすると、タマとポチの二人もシュピッのポーズで勝利を宣言した。

「んもー! 一個どころか全部なんてぇー!」

ケリナグーレお嬢様が文字通り地団駄を踏んで悔しがった。

大魔女発行の納品完了の証明書を見ては、文句の付けようがなかったのだろう。

一番に届けられなくても、依頼の品は随時買い取ってくれるみたいだし、無駄にはならないから。

「おめでとうございます、勇者屋の皆様。これはウッシャー商会からのお祝いの品でございます」

「あ、ありがとうございます」

お嬢様の秘書をするトマリトローレ――トマさんが目録のようなモノを店主であるロロに手渡す。

「祝いの品はどこに運べばいいっすかね?」

鼠人の運送屋が小さな身体で大きな荷物を抱えている。

レーダーによると二十人くらいの大集団だ。

「なんだかいい匂いがするのです」

「いえすぅ~?」

タマとポチが鼻をスンスンさせる。

三人のハムッ子達もだ。

「ロロさん?」

「えっと、こっちからだと廊下が狭いので、裏手に回ってもらえますか?」

秘書さんに促されたロロが運送屋に答える。

「はいっす! お任せっす!」

「ちょっと行ってきます」

ロロが店の中から倉庫のある裏庭に向かう。

「ロロ、手伝う」

「ロロ、待って」

「ロロ、撫でて」

ころころしたハムッ子達がわたわたとロロの後を追いかけた。

なぜか「幼生体」と呟くナナも一緒だ。

それを見送った秘書さんが、「それでは私どもはこれで」と言ってお嬢を連れて帰っていった。

「サトゥーさん! 皆さん! こっちに来てください!」

嬉しそうなロロの声が店舗に届く。

運送屋が運んできてくれたものは、良い品のようだ。

「ごちそう~?」

「なのです!」

「とっても美味しそうですわ!」

勇者屋の庭でテーブル狭しと並べられた異国のご馳走を前に、仲間達――黄金メンバーも白銀メンバーも期待大の様子だ。

「お待たせしました」

店舗からロロが戻ってきた。

「閉店の札を掛けてきました」

「今日はロロたんが主役なんだから、他の人に任せたら良かったのに」

「いいえ、これは店主の役目ですから」

今日の勇者屋はちょっと早じまいだ。

鍵を閉めて札をひっくり返すくらいオレがやると言ったのだが、これは自分の役目だからと言って譲らなかった。きっと何か理由があるのだろう。

「それじゃ、ロロさんが戻った事だし、宴会を始めましょー!」

ヒカルが乾杯の音頭を取って宴会が始まった。

ウッシャー商会からの祝いの品はほとんどが肉料理だったので、肉好きが多い仲間達も大満足のようだ。

特に、「硬い肉」シリーズや「甲殻類」の料理にリザとタマが狂喜乱舞している。

あんなに嬉しそうなリザはめったに見られない。

「ブロッコリー、美味」

野菜料理のエリアでは、巨大な茹でブロッコリーが山積みにされており、色々な調味料がその傍らに添えられていた。

このエリアはミーアとハムッ子達の独擅場だ。

オレもミーアに勧められて食べたが、なかなか美味しいし、色々なソースを順番に使うだけでも飽きが来ない。

ハムッ子達なんて、嬉しくて転がりながらブロッコリーをお腹に抱えてかじかじと囓っている。

その様子に、ナナは食事も忘れて見守っていた。

ナナが食いっぱぐれないように、ミーアがたまに声をかけていたから大丈夫だろう。

「楽しんでいますか?」

「はい、サトゥーさん! 異国の料理がいっぱいで嬉しいです」

ゼナさんに声を掛ける。

急に依頼を振られながらも、白銀メンバーと一緒に頑張ってくれたのだ。

「セーラ様、このお肉は美味しいですわよ」

「私はちょっと脂っこいのは苦手です」

「ポチは脂したたるお肉さんが美味しいと思うのです」

カリナ嬢に分厚いステーキを勧められたセーラが困っている。

「脂っこい肉料理が苦手なら、あちらの鳥料理はどうかしら? 野菜料理ほどじゃないけれど食べやすいと思いますわ」

「それなら私にも食べられそうですね」

「お肉さんに貴賤はないのです。ポチはどこまでもお供するのですよ」

セーラはシスティーナ王女の助け船に乗って、脂っこい料理エリアから脱出する。

ポチは全料理を制覇しようとでもいうのか、ぽっこりお腹になりながらも果敢に挑戦を続けているようだ。

「ルルさん、その料理が気に入ったんですか?」

「はい、素朴な感じだけど、深みがあって美味しいです」

「だったら、今度教えましょうか? その料理はアーカティアの家庭料理なんです」

ルルとロロが仲良く料理談義をしている。

「いやー、今度のクエストは大変だったわー」

一通り食べてお腹がいっぱいになったアリサが、アーカティア特産のシロップジュースを片手にやってきた。たぶん、苦労話を聞かせたいのだろう。

「どんな風に大変だったんだい?」

「城は楽勝だったのよ。力押しで行けるし、そんなに数は出てこないから。大変だったのは湿地の方だったわ。ね、ミーア」

「ん、害虫」

ミーアが顔の前でバッテンを作る。

「害虫? 虫型の魔物なんていたかな?」

「違うわ。ヤブ蚊みたいなのがいっぱい出たのよ」

「虫除けは?」

「虫除けの魔法も薬もぜんぜん効かないヤツがいてさー」

「ん、厄介だった」

「イエス・ミーア。アンデッドだとは思わなかったと告げます」

なるほど、それは普通の虫除けは効かないね。

「苦労話なら交ぜてー」

「来たな酔っ払い」

「イチロー兄ぃってばひどいー」

ワイン片手にやってきたヒカルがオレに抱き着いてきて、鉄壁ペアに剥がされている。

「汚泥遺跡は移動が大変でした」

セーラがしみじみとした顔で言う。

「 泥濘(でいねい) に足が取られるから大変そうですね」

「ええ、それも大変だったんですが……」

「臭いが最悪でしたね」

「風魔法で散らしても、足下の泥から臭ってきますし、消臭してもすぐ上書きされちゃって効果が持続しなくて大変でした」

システィーナ王女やゼナさんもセーラと同じ表情になった。

カリナ嬢は未だに獣娘達と料理の敗残兵掃討作戦に参加していて、こっちには顔を出していないが、遠見の魔法で見守っていた時にカエルを捕まえようとして汚泥の中に突っ込んでドロドロになっていた。本人の名誉の為にも、この情報は墓まで持っていこうと思う。

「この後はまた鬼人街に?」

「んー、もうちょいで、最奥まで殲滅完了って感じだけど、みんな飽きてきている感じだしなー」

鬼人街は名前のとおり、デミゴブリンやデミオーガなどの鬼をイメージした魔物ばかりがいる広大な地区だ。外縁部ほどザコが多く、駆け出しから中堅まで幅広い冒険者が狩り場として採用している。

数が増えすぎると穴鼠人族の国であるルインベリア王国にスタンピードが始まるので、一定数の冒険者が攻略するように、ルインベリアから討伐報酬がでているほどだ。

ヒカル達が攻略していた最奥エリアは、中級上位から上級の冒険者向けで、普段は誰も手を出さない危険地帯として知られている。

「城はまだ危ないから、針山砦の中心部あたりかしら?」

「それがいいかもね。あそこもスタンピード寸前だから」

ヒカルの言葉に首肯する。

森鼠人族の国であるマシォーク王国からほど近い場所に、通称「針山砦」エリアがある。ここは外縁部に硬めの魔物が徘徊し、砦と呼ばれる場所に近付くほど魔物が大きく硬くなっていく。

砦には遠距離攻撃型の魔物が多く、砦近傍で戦っているとフレンドリーファイヤーを怖れずに攻撃してくるので、砦の中まで攻め込む物好きはめったにいないそうだ。

砦の中にはラプトル風の恐竜タイプの魔物がいて、デミゴブリンのようにファイターやメイジなどのジョブ系亜種が色々いる。

噂では砦の奥には古代の魔王が遺した秘宝が眠っているらしい。

「レベル的には蛙取りで行った『汚泥遺跡』の方がいいんじゃない?」

「それはそうなんだけど……」

「あそこは 臭(にお) いが」

アリサの問いに、ヒカルを始めとした白銀メンバーが難色を示した。

「防毒マスクならあるけど?」

「――イチロー兄ぃ」

ヒカルが引きつった笑顔を向けた。

「そんな事を言うのはこの口かー!」

ヒカルがオレの口をむにむにと引っ張りながら、そのまま庭に押し倒した。

――この酔っ払いめ。

「ぎるてぃ!」

「ちょ、ちょっと離れなさい!」

「そうです! 離れてください!」

鉄壁ペアやセーラがヒカルをオレから引き剥がそうとするが、酔っ払っているヒカルはオレの首に抱き着いていやいやと首を横に振った。気のせいか、剥がそうとしていたはずのセーラまでセクハラ気味に身体を押しつけてきている気がする。

「ルルさん、あれは?」

「ちょっとしたレクリエーションみたいなもの、かな?」

困惑した感じのロロの問いに、ルルが苦笑を返す。

お腹がいっぱいになったハムッ子達は、ロロの足下でお腹を見せてすぴすぴ眠っている。

さて、子供達の教育に悪いし、酔っ払いを部屋で寝かせたら宴会もお開きかな?

「それじゃ行ってくるわ! お土産を期待しててね!」

「イチロー兄ぃ、私達も出発するね。魔王の秘宝を期待してて」

「皆、怪我をしないようにね」

翌朝、アリサ達やヒカル達が修業に出発した。

ヒカルは二日酔い気味だったが、酔い醒ましの魔法薬で全回復している。

ロロが営業中の札を表にするとすぐに客が来た。

「こんちー、保存食の美味い方を五食と迷わずの蝋燭を二本おくれ」

「おれっちは保存食の美味い方を二食と魔法薬セットっす」

駆け出しを脱した餓狼級冒険者達が消耗品を買い集めて今日の冒険に出発する。

このクラスは獣人の中でも体格の大きい者が多いが、それでも一番多いのは住民の大多数を占める色々な種類の鼠人達だ。

「美味い方か腹持ちのいい方か、迷う」

「贅沢は敵だ! 腹持ちのいい方に決まってるだろ!」

「しゃーないな。迷わずの蝋燭なしに森にはいけないし」

駆け出しの野鼠級冒険者達が少ない資金をやりくりして商品を吟味している。

ゲームなんかだと一番面白い時期だが、現実には一番辛い時期なんじゃないかと思う。

彼らの言う腹持ちのいい方は、ロロが食糧ギルドで仕入れた標準タイプの保存食だ。

保存期間が長いと、麦穂に付いていた卵が孵って虫が湧くのが普通だが、勇者屋のはオレのストレージを通して湧いた虫を除去してあるので安心して食べられる。まあ、冒険者のほとんどは虫が湧いても気にしないけどさ。

「若様、剣の研ぎを頼む」

「骨製のは少し高いけどいいか?」

「もちろんだ。若様の研ぎをするのとしないのじゃ、狩りの効率が全然違うからよ」

アリサ達と同じ銀虎級は研ぎを頼みに来る者が増えた。

骨製の剣は死霊魔法の「 骨加工(ボーン・クラフト) 」で刃の部分を再加工する形で切れ味を取り戻す。呪いが掛かった骨武器や準魔剣みたいな骨武器は、呪いを解除したり本物の魔剣に変えたりしてしまう危険があるので「研ぎ」の対象外だ。

前にうっかり魔剣にした時は誤魔化すのに苦労した。

最終的には、「詐術」スキル先生の勝利だったけどさ。

金獅子級の冒険者が息せき切って飛び込んできた。

「骨剣、やたらめったら斬れる骨剣はないっすか! カンジーさんが店に売ってたって言ってたっすよ!」

「ごめんね。あれはたまたま入荷しただけで、次がいつになるか分からないんだよ」

「残念っす。もし入ったらぜったいぜったい取り置きしておいてほしいっす!」

「分かった。入荷したらね」

「絶対っすよー!」

それでもこんな客が来るのはいつもの事だ。

迷宮のただ中にある要塞都市という土地柄のせいか、強くなる事への渇望が凄いんだよね。

そんな人達を除いても、勇者屋は日に日に来客数が増えてきた。

ロロとハムっ子達だけだと客を捌ききれないから、そろそろ店員を増やした方がいいかもしれないね。

アリサ達が遠征に出て何日かしたある日――。

「ようやく一段落したかな?」

「ご苦労様です。お茶にしましょう」

朝の激戦区が終わって、ロロとゆったりとしたお茶の時間を楽しむ。

大忙しでてんてこ舞いしてダウンしたハムッ子達も、むくりと起き上がって焼き菓子をかしかしとかじる。

「ノナさん達、今回は遅いですね」

「大丈夫だよ。大きなグループと一緒に遠征しているらしいから」

ロロが友人を心配する。

予定通りなら、昨日くらいに帰ってくるはずだったけど、大人数での遠征はトラブルが起こりやすいし、予定が遅れるのもよくある事だ。

「心配しなくていいわ。銀虎級のジャミが主催する遠征でしょ? 慎重なジャミが全滅するなんて事はありえないわ」

いつの間にか一人増えていた。

最近はお茶の時間になると、クッキーの虜になったケリナグーレお嬢様が、どこからともなく現れてお茶に参加する。

ここは喫茶店じゃないんだけど?

なんて文句は最初の内に言い飽きた。

最近はウッシャー商会で仕入れた商材の話をロロにしてくれるので、お茶会への参加はむしろ大歓迎だ。

「ロロ、いるー?」

「こんにちは、ティアさん。ティアさんもお茶をいかがですか?」

「ありがとう、ロロ。ここのお茶や焼き菓子は美味しいから、激務の合間の癒やしなの――ってそうじゃないわ! ロロ、大変なのよ」

どうやら、何かトラブルがあったようだ。

「――そんな! ノナさんは? ノナさんは大丈夫なんですか?」

ロロがティアの肩を揺さぶる。

ティアの話によれば、鬼人街に遠征していたレイドが壊滅寸前の被害を受けたそうだ。

時期的にも場所的にも、ノナが参加していた遠征隊で間違いないらしい。

「……無事が確認された冒険者の中に、ノナの名前はないわ」

「そんなっ」

ティアの言葉を聞いたロロの顔が絶望に染まる。

「ロロ、大変」

「ロロ、落ち着く」

「ロロ、どうしよー」

ハムッ子達がロロの周りで右往左往の大忙しだ。

オレは心配そうなロロの肩に手を添える。

「大丈夫だよ、ロロ」

マップ検索でノナの無事は確認した。

「でも、サトゥーさん」

「救援隊を派遣すれば助かるさ」

「で、でも……ルルさん達が遠征から帰るのは何日も後だし」

ロロの美貌が曇る。

「ギルドには救援依頼が出たらしいから安心しなさい」

ティアも一緒にロロを慰めてくれる。

「ティアさん、少しの間ロロを頼みます」

「どこに行くの?」

「ちょっと薬草が不足しているので仕入れてきます」

もちろん、嘘だ。

「ロロが心配しないように早く行ってくるのよ」

「ええ、分かっています」

ティアさんは小さく笑った後、そう言ってくれた。

彼女にはオレの嘘がばれているようだ。

「――さてと」

鬼人街に転移したオレは脱出ルートを確認しつつ、レイド崩壊を招いた異常な鬼人系魔物をチェックした。

――なるほど、これは酷い。

すごい数のデミゴブリンやデミオーガがいる。それらの亜種や上級種もだ。

中でも凶悪なデミオーガ・ロードにデミゴブリン・ミュータント。デミトロール・エクスキューショナーまでいるのがまずい。レベル三〇級までの魔物しかいないような場所に、レベル四〇級のが交ざったら、そりゃパニックにもなろうと言うものだ。

ノナから助けたいところだが、今にも死にそうな冒険者が結構いるので優先度や救出ルートを考えないと犠牲者が出そうだ。

勇者屋での息抜きができなくなると困るので、バージョンアップ中の黄金鎧の試作品を着込んで行動する事にした。

フルフェイスタイプの兜なので、声だけ腹話術スキルで誤魔化せばいいだろう。

「くっそぉおおおおおおおおおお!」

「死んでたまるかぁああああああ!」

血みどろの仲間を守りながら奮闘している牛人や馬人の冒険者の前に自在盾を作り出して守り、まとめて治癒魔法で癒やす。

あっけにとられる冒険者をスルーして、彼らが対峙しているデミオーガ・バーサーカーの首を切り落として次に向かう。今は時間との勝負だ。

同じようなシチュエーションで冒険者達を何組も救い、ようやく本命の場所に辿り着いた。

「死にたくない、死にたくない、死にたくない。……死にたくないよぉおお」

「もう、大丈夫だ」

廃材の陰で膝を抱えて泣いていたノナを救い、回復させた冒険者達に合流させて安全な経路を進ませる。

なんども礼を言われたり、正体を尋ねられたりしたが、いずれも一言二言で誤魔化して救助作業を続けた。

二五名ほどを助けて、残りは三人ほど。

この三人は魔物に連れ去られたらしく、鬼人街の中心部にある寺院の中にいた。

寺院の中にはたくさんの魔物が集まっており、生き残っているのが不思議なほどだ。

「デミゴブリンがこんなに?」

寺院の周囲には数百匹ものデミゴブリンがいた。

数は少ないがデミオーガやデミトロールの姿もある。

――あれは?

寺院のすぐ傍にいたデミゴブリンの一匹が闇に包まれてもがいていたと思ったら、デミゴブリン・ロードに変わっていた。

見ている間にも、何匹ものデミゴブリンが上位種や亜種に変わっていく。

どうやら、寺院の中で何か怪しげな事が行われているようだ。

天駆で寺院の上から近付く。

半分くらいの天井が抜け落ちていて、寺院の中がよく見える。

邪教神官のような格好をしたデミゴブリン・プリーストやデミゴブリン・ビショップが、怪しげな祭壇の前で儀式をしている。

祭壇には縛られた三人の冒険者がおり、その周りには供え物らしき生き物の死骸が積まれていた。

――あれは?

高度を下げて寺院の天井付近から侵入すると、祭壇の真上に吊り下げられた巨大な掌が見えた。

掌と言ったが、たぶんオレの身体よりも大きい。

いや、大きさの問題じゃない。AR表示が掌の正体をオレに教えてくれた。

――あれは魔王の掌だ。

あれを触媒にして外のデミゴブリン達を上位の存在に変換しているのだろうか?

「うわっ、うわっ、うわっ」

「くるなくるなくるなああああ」

「やみがやみがやみみみみ」

おっと、考察している場合じゃない。

三人の冒険者に闇でできた触手のようなものが迫っている。

さくさくと助けますか――。

閃駆で飛び込み、祭壇周辺を守っていた結界を通り抜け、光魔法で闇を切り払う。

デミゴブリンの神官達がぐぎゃぐぎゃ、ぐげぐげ言っていたが、特に気にせずに助け出した冒険者達を脱出中の冒険者達の近くに転移させる。

「後始末は忘れずに」

魔王の掌ごと寺院の中の魔物を、中級の火魔法で焼き払った。

危うく自分まで焼けそうになったけど、目視ユニット配置で寺院の外に出て事なきを得た。

魔王の掌は焼け残っているかと思ったが、綺麗に焼け落ちている。

灰も炎が作り出した風に乗って散ったから、二度と悪用される事はないだろう。

冒険者達が脱出する経路に近付きそうな強めの魔物は、 誘導矢(リモート・アロー) で殲滅し、上空から彼らの脱出を見守る。

順調だし、この様子なら、日が暮れる前に鬼人街の近くにある冒険者キャンプまで戻れそうだ。

「おっと、忘れていた」

オレはマップ検索で薬草を検索し、樹海迷宮内ならどこにでも生えている種類の薬草を摘む。

一応、薬草を仕入れるって言って出てきたしね。

「ただいま」

「おかえりなさい、サトゥーさん!」

店に戻ると、元気な顔のロロが出迎えてくれた。

「さっきティアさんから伝書鳩が来て、ノナさんの無事を教えてくれたんです!」

「ロロ、喜ぶ」

「ロロ、嬉しい」

「ロロ、撫でて」

喜ぶロロを見て、ハムッ子達も嬉しそうだ。

「ノナさんが戻ったら、生還のお祝いをしないとね」

「はい!」

値千金のキラキラした笑顔を浮かべるロロの頭を撫で、薬草を作業スペースまで運ぶ。

「ロロ達は夕飯を食べたかい?」

「あ、まだです」

その言葉を待っていたように、ハムッ子達のお腹で空腹の三重奏が奏でられる。

「ロロ、おなかへった」

「ロロ、何か食べよ」

「ロロ、野菜がいい」

「野菜シチューを温めよう。ベーコンのいいのがあったから、それも焼こうか」

「私はパンを切りますね。皆は食器を並べて」

「ロロ、手伝う」

「皿、並べる」

「食器、並べる」

賑やかな準備を終え、ロロやハムッ子達と一緒に少し遅い夕飯を食べる。

生還祝いは何がいいかとか、売れすぎる商品の補充をどうしようかとか、お客さんからのリクエストとかを話していると、あっという間に就寝の時刻だ。

ロロと一緒に寝落ちしたハムッ子達をベッドに寝かしつけ、話し足りなそうなロロに睡眠の重要性を語った後、こっそりと作業部屋に戻る。

さて、明日売る商品の仕込みをしないと、明日売る商品が足りない。

ロロに睡眠の重要性を語った事だし、今日はちゃんと寝ないと。

いやはや、雑貨屋もなかなか忙しいね。