軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-15.サトゥーの雑貨屋さん〔2〕

「鄙びた店とはずいぶんな言い方じゃない?」

非友好的な金髪ツインテールの少女に言い返したのはアリサだ。

「何、あなた? 冒険者風情が要塞都市アーカティアで随一の 大店(おおだな) 、ウッシャー商会の長女であるケリナグーレと対等に話せるとでも? 少し思い上がりが――」

「ケルナグール? 昔そんなCMを見たわね」

すまない、アリサ。

そんなCMは知らない。きっと昭和時代か平成初期のCMだろう。

「間違えないでちょうだい! 私の名前はケリナグーレ! 我がウッシャー家はひいお祖父様の代にブライブロガ王国で巫山戯卿の地位を与えられたほどの名家ですのよ!」

ヒートアップする少女に、アリサはごめんごめんと軽い感じで謝る。

少し尖った耳が気になってAR表示を確認すると、少女は妖精族のレプラコーンらしい。

たしか、地球の伝承だと、いたずら好きの妖精だったはずだ。

「あ、あの! それでケレナグーリさんは――」

「だから、ケリナグーレ! 私の名前はケリナグーレよ!」

素で言い間違えたロロを少女が怒鳴りつける。

少女は涙目になっていて、ちょっとかわいそうだ。

なんとなく迷宮都市セリビーラにある「蔦の館」の「家妖精」レリリルを思い出す。

「ロロ、守る」

「ロロ、悪くない」

「ロロ、撫でて」

ナイト気取りなのか、ハムッ子達がロロの前でかわいいファイティングポーズを取った。

「それでウッシャー商会のお嬢様が勇者屋にどのようなご用件ですか?」

オレはそんなハムッ子達の前に出て、少女の用件を確認する。

そういえば勇者屋の錬金術師を引き抜いたのもウッシャー商会だったっけ。

「ふ、ふん! 初めからそういえばいいのです!」

少女は目元に浮かんだ涙を拭うと、「勝負ですわ!」とオレを指さして叫んだ。

「何、この焼き菓子? なんでこんなに美味しいの?」

金髪ツインテ少女は上品な仕草を維持したまま、凄まじい速さで焼き菓子を口に運んでいる。

よっぽど焼き菓子が気に入ったのだろう。

足下ではハムッ子達も、焼き菓子をお裾分けしてもらってコリコリとひたむきに食べていた。

タマとポチの二人も自然な感じにハムッ子達と一緒にオヤツ中だ。

『――勝負じゃなかったの?』

『このまま勝負を忘れて帰ってくれたら楽なんだけどね』

アリサと空間魔法の「 遠話(テレフォン) 」で内緒話をする。

店先で立ったまま話すのも営業妨害なので、店のすぐ奥の応接間でお茶を勧めたところ、少女はお茶菓子のお手製クッキーに心を奪われてしまったのだ。

このクッキーは暇な店番の合間に、現地素材で作れるスイーツ・レシピを開発していた時の副産物だ。

「お嬢様、飛び出していったと思ったら、お茶会ですか?」

「トマリ!」

店舗の方から美女が声をかけてきた。

店番のリザに阻止されて、こっちに来れないようだ。

リザに通していいよと告げると、背の低い美女がこっちにやってくる。

少女と同じ尖った耳からして、彼女も妖精レプラコーンなのだろう。

「はじめまして、ケリナグーレお嬢様の秘書をしております、ウッシャー商会の手代トマリトローレと申します」

レプラコーンは舌を噛みそうな名前ばかりなのかな?

「お嬢様、お話が終わりましたのなら、そろそろ戻りませんと。金獅子級の冒険者ティガーの皆さんが待ちくたびれておいでですよ」

アリサが横で「獅子なのにタイガー?」と呟いて首を傾げているけど、単に発音がドイツ語に似ているだけだと思う。

「ハッ! そう言えば、終わってない! 危うく焼き菓子の罠に嵌まって、何もせずに帰るところだったわ」

残念。少女が思い出してしまった。

「勝負ですわ!」

少女が椅子から立ち上がって叫んだ。

「特別に大魔女様の依頼に参加させてあげる! この依頼を達成できたら、この店も大魔女様のお墨付きをいただけるのよ!」

「大魔女様のお墨付きを!」

ロロが珍しく大きな声を出した。

どうやら、よっぽど凄い事らしい。

アーカティア国語スキルが翻訳してくれているが、「お墨付き」と翻訳している言葉を厳密に日本語訳をするなら、「大魔女様の認定商会を表す正当護符と印璽を与えられし栄誉」という長々しい言葉だった。

「お嬢様、いくら幾つもの商会が同時に受けた競争依頼とは言え、いたずらに競争相手を増やすのはどうかと」

「いいのよ! あんたが負けたら、『勇者屋特製保存食』の入荷ルートを教えてもらうわ! それが依頼に参加する賭け金代わりよ!」

なるほど、勝てば「大魔女のお墨付き」を得、負ければ「特製保存食の入荷ルートの情報」を与えるという事か。

うん、失うものは何もないね。入荷ルートはオレだし。

「受ける前に、依頼の内容を知りたいんだけど? まさかとは思うけど、既に依頼品を集め終わっているなんて事は無いわよね?」

「あたりまえでしょ! 依頼があったのは今日の朝! どこの商会にも在庫がない品だから依頼が出たのよ!」

アリサの疑惑が心外だとばかりに、少女の発言がヒートアップする。

「依頼の品は?」

「ここに書いてあるわ」

少女が広げた巻物に書かれていた素材は三つ。

マッシャー蛙の舌、地下這いモグ百合根、巨大古竜種の背で育った寄生茸の三種らしい。

マップ検索によると、アーカティア市内にはない。

少女の言葉に嘘はないようだ。

樹海迷宮を検索したかぎりでは、蛙が樹海西方の上級者区画「汚泥遺跡」、百合根が樹海南方の中級上位者区画「血吸い湿地」、寄生茸は「城」と呼ばれる最上級者向けの危険地帯にあるようだ。

一見、百合根が一番簡単そうに見えるが、広大な領域の地下数メートルの場所を徘徊しているので、採り方を知っているか土魔法や空間魔法の使い手でない限り、手に入れるのは不可能だろう。

さすがに大魔女からの採取依頼だけあって、初心者や中級下位向けの「針山砦」や「鬼人街」は今回の依頼で出番はないらしい。

「聞いた事のない素材ばかりね。ロロは知ってる?」

アリサがロロに尋ねた。

「蛙と百合根は聞いた事があります。魔法使いのティアさんが採取に苦労したって言っていました。寄生茸もティアさんなら知っていると思います」

「なら、そのティアさんって人を探したら大丈夫ね」

「そうなんですが……」

「何か問題があるの?」

「遠征しているのか、ここ半月ほどはお店に来ていなくて」

「大丈夫だよ。どこを探せばいいかくらいは分かるから」

さっきマップ検索したしね。

「なら、問題ないわね。冒険者ギルドへの紹介状はいるかしら?」

「必要ないわ。ロロには私達がいるもの!」

「あなた達が? 階級は?」

「アーカティアに来て日が浅いから、まだ銀虎級だけど、実力は金獅子級にも負けないと自負しているわ!」

「そう?」

少女は値踏みする視線でリザやナナを見た後、「なら、頑張りなさい」と言い捨てて店を出て行った。秘書さんに何度もせかされていたしね。

「ごめんなさい。勝手にサトゥーさん達を巻き込んで」

「気にしなくていいよ。あの条件なら負けても失うモノはないし、この子達なら負ける事はないからね」

オレがそう言うと仲間達が誇らしげな顔で微笑んだ。

ロロに店番を頼み、仲間達をすぐ奥の応接間へ連れていき、採取するアイテムの場所をレクチャーする。

「どんなアイテムなの?」

「ちょっと待っててくれ」

オレはマップ位置を基準にゲートの魔法で現地に移動し、各種魔法を駆使してサンプルをゲットして戻る。所要時間は三分ほどだ。

「こんな感じのアイテムだ。蛙は動けないように氷柱の中に閉じ込めてあるけど、発見されると一斉に汚泥の中に潜って逃げるから注意して」

サンプルを見せながら、仲間達に注意点を伝える。

「あ! ティアさん!」

「おひさー」

店の方からロロの弾んだ声と、ティアと呼ばれた女性のダウナーな声が聞こえた。

ロロが依頼や勝負の件を説明して協力を求めている。彼女がさっき話題に出た魔法使いのティアさんらしい。

「サトゥーさん、ティアさんです!」

ロロが鍔の広い大きな帽子を被った地味顔の女性を連れてきた。

女性がロロそっくりなルルの顔を見て驚いている。

――げっ。

AR表示がティアさんとやらの正体を教えてくれる。

ロロは知らないみたいだし、本人が秘密にしているなら正体を暴くのはやめておこう。

「ああ! マッシャー蛙の舌、地下這いモグ百合根、巨大古竜種の背で育った寄生茸! なんで揃ってるの!」

ティアさんが叫んだ。

「これはサンプルです」

オレはアイテムボックスを開いて、その中に証拠隠滅する。

「あ、あああっ」

ティアさんがあうあう言いながら手を伸ばすが、三種のアイテムに触れる事は叶わなかった。

「それじゃ、レクチャーも終わったし、採取に向かうとしようか?」

「なんでよ! それを納品したらいいじゃない!」

ティアさんが冴えたツッコミを入れる。

「ズルはいけません」

「そうよ! 勝負なんだから、ちゃんと採取に行かなくちゃ!」

「いやまあ、そうなんだろうけどさー」

オレやアリサの言葉に、ティアさんは納得がいかないようだ。

「『城』に行かないといけないし、三方に分けるのは危険ね。順番に回るのは距離的に効率悪いか……。湿地か汚泥遺跡のどっちか一方はカリナたん達に頼めないかしら? ヒカルたんがオブザーバーについているから、どっちでもいけると思うんだけど」

「それなら汚泥遺跡の方を頼もう。湿地の百合根は捜索範囲が広いから、アリサかミーアの魔法がないと辛いと思う」

百合根は地下だから、ゼナさんの風魔法向きじゃないんだよね。

システィーナ殿下の土魔法だと、それほど広範囲の捜索はできないし。

「それじゃ『城』から行ってくるわ! ヒカルたんにはご主人様から話しておいてくれる?」

「ああ、分かった。怪我のないように気をつけていくんだよ」

「「「はーい」」」

仲間達が元気よく出発した。

「ちょ、ちょっと」

ティアさんがオレの肩を掴む。

「何でしょう?」

「止めないと! あんな小さい子がいるのに、『城』に行かせるのはダメよ。あそこの危なさをちゃんと分かっている? レベル五〇級の化け物が山ほどいるのよ」

「大丈夫ですよ」

その化け物が彼女達の「美味しい」獲物ですから。

「大丈夫って、あそこは金獅子級筆頭のティガー達だって敬遠するのよ?」

「ティガーさんは存じ上げませんが、あの子達も地元じゃ誰にも負けないくらい強いから大丈夫ですよ」

「ならいいけど――」

それに、いつでも「 遠見(クレアボヤンス) 」や「 遠耳(クレアヒアリス) 」で見守っているから。

「――というか、あなた誰なの? 二週間ほど顔を見せない間にいつの間にかいて、『何年も前から店員です』みたいな顔をしているし」

ティアさんが腰に手を当てて詰問してきた。

「ちょっとした縁で店を手伝っているんですよ。私の仲間のルルがロロさんと『はとこ』なんです」

「はとこって、勇者ワタリの子孫って事?」

「そうなりますね。そっくりだったでしょ?」

さっきルルの顔を見て驚いていたしね。

「そういえばセイコーは?」

ティアさんが話を変えてロロに尋ねた。

「店の魔法薬をちょっと見たけど、すごく腕を上げていたじゃない。ちょっと手ほどきしただけの関係だけど、頑張った成果は褒めてやらないとね」

「セイコーさんは店を辞めました」

「マジで?」

「はい、他の商会に引き抜かれました」

「あんの恩知らずめっ」

ティアさんが鞍替えしたセイコーに怒り心頭らしい。

「それじゃ、あの魔法薬は他の錬金術師から仕入れたの? あれだけの品質だと高かったでしょ」

「あの魔法薬はサトゥーさんが作ってくれたんです」

「ええっ? あんたが? もしかして天才?」

いいえ、ただのチートです。

「サトゥーさんは凄いんですよ! 料理も凄く美味しくて、保存食だって改良してくれたんです! それに武器や防具の整備から鍋の修理までやってくれるんですよ。バザールで買ったガラクタをあっと言う間に修理して商品に変えちゃうんです! まるで魔法みたいなんですよ!」

ロロが目をキラキラさせながらティアさんに自慢する。

そこまで褒められると背中がむず痒い。

「あんた、本当に何者?」

「遠い国の貴族です。今は故郷に居づらくなったので、ここで羽を伸ばしている最中なんですよ」

だから、詮索しないでほしいというオレの願いは彼女に通じたようだ。

「分かったわ。これ以上あれこれ聞かない。でも、一つだけ約束しなさい。ロロを絶対に泣かせない事! 手を出したら、ちゃんと嫁に貰う事!」

ティアさん、二つ挙げてますよ。

「約束だからね! ちゃんと守りなさいよ!」

そう言ってティアさんは帰っていった。

気に入ったのか、焼き菓子を袋一杯に詰めて。

「サトゥーさん、ルルさん達は大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫。今ごろは鼻歌交じりに『城』を突き進んでいるから」

城に到着するまでの間に、いくつかの冒険者パーティーを救ったみたいだ。

ルル達は大丈夫そうだし、そろそろヒカル達に連絡を取るとしよう。