軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キシュレシガルザ氏族

――懐かしい。

目の前に広がる景色にそんな想いが浮かんだのが自分でも不思議だった。

だって、ここにはそんなにいい思い出はなかったから。

「リザ~?」

「お腹痛いのです?」

「いいえ、何でもありませんよ」

ウサギを追いかけていたタマとポチが駆け戻ってきて、私のお腹をさすさすと摩る。

景色を見渡していた私は、二人を心配させるような顔をしていたのかもしれません。

「ここがリザの故郷かい?」

「いいえ、ここは里が滅ぼされた後に一年ほど暮らしていた場所です」

目の前には黒焦げの家屋の跡らしきものがある。

雑草に埋もれていて遠くからは判然としないここを見つけてくれたのはご主人様だ。

「ここから先は分かる?」

「はい、ここからなら里があった場所までいけると思います」

私は微かな記憶を呼び起こし、里から隠れ里への道筋を逆に辿る。

一度しか通った事のない道だし、母や兄の背中に揺られていて道を見失ったりもしたけど、ご主人様やタマが道の痕跡を見つけてくれた。

そして私達は辿り着いた。

キシュレシガルザ村のあった場所に。

「ちゃぷちゃぷ~?」

「草さんの根元が水浸しなのです」

私は湿地に興奮しているタマとポチの声が耳に入らないほど、目の前の風景に目を奪われていた。

湿地の中にある何もない場所。

間違いありません。

ここです。

山の稜線の形やシガルザ川の流れ込む水辺が教えてくれます。

ここが私の故郷だと。

戦争で焼け、何もなくなってもシガルザ湿地の自然は生きています。

「ここがリザさんの故郷?」

「何も残っていませんが間違いありません」

「そっか、ここがリザさんが生まれ育った場所なのね」

「『国破れて山河あり』でしたか?」

「あー、前に言ったっけ?」

アリサから聞いたカン詩とかいう言葉を引用したら、気まずそうな顔で肯定された。

どうやら、気を使わせてしまったらしい。

「魚~?」

「蛙さんもいっぱいなのです」

タマとポチはマイペースに湿地の生き物を追いかけている。

「げこげこ~」

「ぴょんぴょん、なのです」

「ん、合唱」

「「げこげこ、ぴょんぴょん、げこ、ぴょんぴょん」」「なのです!」

ミーアの即興曲に合わせて、タマとポチが合唱する。

そういえば私も子供の頃にはよく歌っていました――。

◇◇◇◆◆◇◇◆◆◆

「リザリン! こっちこっち!」

幼なじみのソマリンは私を幼名で呼んでいた。

長い名前の二文字に「リン」を付けた名前が、女の子の一般的な幼名だ。

「今日はカエル釣りをしようぜ!」

「えー、ザリガニ釣りの方がいいよぉ~」

「あたしはタニシ取りの方がいい!」

生意気な男の子のザルトンと内気な男の子のモズトンの二人がソマリンと一緒にいた。

子供の頃はこの三人とよく一緒に遊んだものだ。

「「「リザリンはどっち?」」」

そういって、私に決断や調整を丸投げしてくるのもいつもの事。

私としては歯ごたえのいいザリガニが好みですが、ザリガニばかりを選ぶのは不公平というものです。

「タニシ取りの罠を仕掛けてから、活き餌の虫を捕まえて蛙釣りをしましょう。その蛙の足を使ってザリガニ釣りをするのが良いと思います」

「さすがリザリン、欲張りだぜ」

「罠を作るなら、水笹だよ」

「それなら、長耳入り江に行こうよ。あそこなら活き餌用の虫も捕れるよ」

皆でわいわい言いながら、食材集めを兼ねた遊びに向かう。

たまに喧嘩をする事もあったけど、翌日には仲直りをしていた。

「――リザリン!」

日が傾く頃、大笹舟に乗った男衆が漁から戻ってきた。

真ん中で槍を大きく振っているのは、父様だ。 上兄様(うえにいさま) や 下兄様(したにいさま) も一緒だ。

船着き場で父様達を迎える。

「 父(とと) 様、兄様!」

大きな父様に抱きつくと、働き者の汗の臭いと水辺とは違う湿地の香りがした。

小さな頃の私は、その匂いを嗅ぐととても安心した覚えがある。

「リザリュ、今日はごちそうだぞ」

上兄様が他の若衆と一緒に、大きな 蓮太鰐(ロータス・アリゲータ) を持ち上げる。

「「「おにく!」」」

めったにないご馳走に私達は踊り出しそうなほど喜んだ。

そんな私達を見て、父様や若衆達も笑顔になる。

貧しくても笑いが絶えない良い村だった。

「美味し、美味し」

少し青臭いが固く歯ごたえの良い蓮太鰐の蒸し焼きを必死で囓る。

いつもは饒舌な姉様も妹達も、ご馳走を前にしたら皆食べるのに夢中だ。

父様や母様、それに 祖父(じじ) 様は、そんな私達を見守りながら、自分達も食事を進める。

「――オヤジ」

我が家に割り当てられた蓮太鰐は、こそげ取る肉もないほど綺麗な骨になり、副菜として調理されていたカエルやザリガニ達に私達の食欲が移った頃、父様が祖父様に声をかけた。

「狩りの時によそ者を見かけた」

祖父様は口元に運ぼうとしていた平たい酒杯を止め、厳しい目で父様を見る。

「メシュレシガルザかレドモシガルザあたりで追放された無頼の輩か?」

「いや、鱗族じゃない。栗鼠人と兎人だ」

「……獣人か。珍しい」

この頃の私にとって、獣人といえば行商でやってくる鼠人や鼬人くらいだった。

湿地には栗鼠も兎もいないので、それに似た獣人もまた想像の埒外だったと思う。

「戦禍で村を失ったそうだ」

「湿地で暮らしたいと?」

「ああ、そう言っていたが、奴らには無理だ。長い毛は湿地に向かん。西の森か北の海岸を勧めておいた」

「毛長にはそれが良かろう」

「オヤジ、やはり鼬人と獅子人の戦争は周りに広がってきているようだ」

「流れの行商人の話だろう。話半分に聞いておけ」

「だが、隣村の奴も東南で戦が起きていると言っておった」

「――あなた。お義父さんも、そういうお話は食事の後になさってください」

子供の頃は意味が分からず、ただ不安になっただけだった。

母様が話を遮ってくれてほっとしたのを覚えている。

それから数年は平和だった。

でも、湿地の外からは少しずつ不穏な噂が聞こえてくるようになった。

そんな噂に背を押されるように、村を守る柵が頑丈な物に作り直されたり、槍や弓矢を練習する若衆が増えた。

「リザリュ、お前に槍は早い」

「私も兄様のように槍を覚えたいです」

「おいでリザリュ、ワシが教えてやろう」

「はい、祖父様」

練習用の木槍さえ太く重かった私に、祖父は手頃な棒を削って私用の木槍を作ってくれた。

この頃に教えてもらった教訓や練習が、今の私を形作っている。

祖父からは槍以外の事も色々と教わった。

曾祖父が「戦士の砦」に挑んだ里の英雄だった事。

二人の兄もそれに憧れ、いずれ「戦士の砦」に挑みたいと思っている事。

父や母はそれに反対している事。

「祖父様、私も大きくなったら『戦士の砦』に挑戦したいです!」

「そうかそうか、それなら少なくとも父を超えねばな」

「――叔父上じゃダメ?」

里の中でも一番の戦士である父を自分が超えられる日がくるとは思えず、思わず戦いから縁遠く見える物静かな叔父を挙げてしまった。

「そりゃないぞ、リザリュ」

話を聞いていた叔父の情けない顔に、周りの大人達が笑う。

子供の私は周りに釣られて笑っていたが、今思えばずいぶんと失礼な事を言っていたのだと分かる。もし、もう一度会えるなら、叔父にこの時の事を謝りたい。

「心配するな、義弟よ。リザリュが世界で一番の槍使いになればいいのだ。そうすればリザリュが越えた最初の壁として伝説に語られる事になるぞ」

「それならいいかな? リザリュ、頑張って世界で一番になるんだぞ」

「はい!」

無邪気に答えた私の言葉に、今度こそ全員が笑顔になった。

懐かしく平和な日々。

今でも鮮明に思い出せる。

村を悪夢が襲ったのはあの日の晩。

「襲撃だ!」

「篝火を焚け! 魔法使いもいるぞ!」

「助けて! 坊やが家の下敷きに!」

「ぎゃあああああああああああ」

轟音が鳴り響き、氏族の男達の叫びや女達の悲鳴が起こる。

「母様、怖い」

私や妹達はただならぬ状況に怯え、ただ母に抱きついて泣いていた。

「ザラトンとザジトンは食料を担げ。槍はいい! 盾を持て!」

家を出るぞと言う父に引きずられるようにして出たそこは、私の知っている村ではなかった。

ひゅるひゅるという音は死神の口笛。

口笛が終わると轟音と振動が身体を揺さぶり、遠くで地面が弾ける。

土埃が家の何倍の高さにも噴き上がり、家に当たれば家が砕け、人に当たれば赤い飛沫を残して弾けた。

そこはまさに地獄だった。

今なら分かる。

あれは鼬人族のカガク部隊によるものだ。

その時の事を話すとアリサが、コーシャホーとかハクゲキホーによる攻撃だと教えてくれた。

地獄と化した村から、命からがら逃げ出した私達には、新たな試練が待ち受けていた。

『男は殺せ! 女子供は捕らえて奴隷にしろ!』

小柄な狐人の傭兵達が湿地の長い葦林の間から飛び出てきた。

「賊どもが!」

父様やお祖父様の槍が次々と狐人を血の海に沈める。

逃げ延びた若衆や里の人達も一緒だ。

『手練れだ! 手練れがいるぞ! 獅子人の奴隷を使え!』

父様よりも大きい獅子人の剣士が、他の若衆を大きな剣で切り捨てた。

「名のある戦士とお見受けする。名を名乗られよ」

『俺は奴隷。名乗る名など無い。国も守れず鼬どもの走狗と成り果てた。今の望みは、優れた戦士と戦い、戦場で死ぬ事だ』

『ならば是非もなし――いざ参る!』

槍と大剣の凄まじい攻防は、他の者達に戦いを忘れさせるほどだ。

父様は強かった。

この時に目に焼き付けた槍さばきは、今も覚えている。

『やるな、トカゲ』

『お前もだ、毛長』

父様と獅子人は数度呼吸を整えた後、どちらからともなく戦いの場に足を踏み出した。

だが、二度目の戦いは長く続かなかった。

至近距離の草むらから放たれた弩の短矢が父様を狙撃したからだ。

「「「父様!」」」

膝をつく父様の下に駆け寄ろうとする私を母と叔父が止めた。

『狐どもめ! 戦士の戦いを汚すとは!』

怒った獅子人が狙撃手を一撃で切断し、隷属の首輪が彼を殺すまでの間に、10人以上の傭兵達を惨殺してみせた。

「今だ。囲みを突破するぞ!」

父様の号令で皆が駆け出す。

私は叔父の背に担がれ、ぎゅっと目を閉じて平和な朝が来るのをただ祈っていた。

でも、平和な朝は来なかった。

暗闇の中、父は矢毒で、祖父は兄を守って戦死したそうだ。

生き延びた後、はぐれた村人を集めに偵察に出た若衆によると、村は占拠されており、少なくとも数百人の鼬人兵がいたらしい。

途中で出会ったという隣村の者も一緒だったが、自分達の村にも同じくらいいたと証言し、私達の村を襲ったのが盗賊ではなく、鼬帝国による本格的な侵略だと皆が悟った。

「村を捨て、山を越えよう」

鼬人の奴隷にされるくらいなら、と人々は叔父の提案で山越えを選択した。

それは辛い行軍だった。

道なき場所を草を掻き分け進み、わずかな食料や水を分け合う。

何度か、狐人の傭兵が姿を見せたが、若衆が撃退してくれた。

一行の数は怪我や疲労で、少しずつ減っていく。

山を越え海岸に辿り着いたが、そこは魔物達の支配する危険地帯だった。

私達は海岸線を避け、海沿いに北上を選ぶ。

食料が尽き、海岸で魔物に怯えながら漁をするか迷っている私達に手を差し伸べる者がいた。

『蜥蜴、どこ行く?』

『落ち延びたか?』

『行く宛て無いか?』

木々の上から声をかけたのは栗鼠人達だ。

「そうだ! どこか私達が住めそうな場所を知っていたら教えてほしい!」

木々の上の栗鼠人達に叔父が答える。

『分かった。教える』

『蜥蜴には世話になった』

『食料の恩は忘れない』

「やはり、あの時の栗鼠人達だったか」

何年か前に戦乱で里を失った栗鼠人達に、叔父や父様達が新天地の情報と食料を融通したそうだ。

私達は義理堅い栗鼠人や近くで暮らしていた兎人の協力で、隠れ里を作る事ができた。

安住の地ではあったが、隠れ里の外は魔物が跋扈し、命がけで狩猟や採取をする日々だった。

体力がない者が飢えと病で亡くなり、力のある若衆でさえ見慣れぬ土地の魔物に不覚をとり帰らぬ人となったのだ。

そんな辛い生活も一年ほど。

なんとか慣れてきた時に、狐人の落人狩りが追いついてきた。

彼らの追っていたのは私達じゃなかったらしいけれど、狩られた私達には同じ事だ。

夜襲を受けた私達は散り散りに逃げ、最後まで一緒だった叔父も私を逃がすために囮になって別れたきりだ。

森の中、一人膝を抱えていると、どこからともなく良い香りが届いてきたのを覚えている。

匂いに誘われるまま森を進んでいくと、参道沿いの広場で野営する獣人達の商隊があった。

狐人や栗鼠人、兎人、獅子人くらいしか獣人達の区別が付かない私には、それが鼬人の商隊だとは気づけなかったのだ。

「嬢ちゃんも食べるか?」

「……食べて、いいの?」

「ああ、子供は遠慮なんていらんぞ。たんとお食べ」

空腹と疲労に何も考えられなくなっていた私は、鼬人の差し出した椀を素直に受け取ってしまった。

久々の肉の旨みを堪能する暇もなく、一服盛られた私は眠りに落ちた。

目が覚めた時、私は鉄格子が填まった馬車に鎖でつながれていた。

「目が覚めたかい? 子供にも大人と同じ量の眠り薬を入れたんだね」

声をかけてくれたのは隠れ里で一緒だった別の村出身の蜥蜴人族のお姉さんだった。

「こいつらは鼬人族の奴隷商人だよ。落ち延びたあたし達を傭兵に狩り出させて、西にあるシガ王国や南にある人族の小国に売り払いに行くんだ」

「私の家族を見ませんでしたか?」

「あんたの叔父さんが傭兵に切り倒されるのを見た。妹さんもそれを庇ったお兄さん達も、傭兵に捕まるぐらいならと崖下に身を投げて――」

お姉さんの言葉は途中までしか覚えていない。

あまりにショックな出来事を知ってしまったせいで、心を閉ざしてしまったのだろう。

そんな凍てついた心を溶かしてくれたのは、熊人アーベや豹頭族のチタといった奴隷仲間達だ。

奴隷生活は隠れ里の生活が楽園に思えるほど酷いものだったけれど、奴隷仲間がいたから耐えられた。

タマの面倒を見、言葉も話せないポチを育てるうちに私の中にも温かい心が戻ってきた。悪魔の迷宮でご主人様に救われ、世界を股にかける冒険に出かける事になるなんて、この頃の私には想像もできない事だっただろう。

◆◆◆◇◇◆◆◇◇◇

「一つ積んでは~」

「リザの為なのです!」

タマとポチが村があった場所を一望できる丘の上に、石を積んでくれている。

あれはここで散った里の者達の墓標だ。

「サトゥー、空」

「マスター、飛空艇を発見したと報告します」

ミーアとナナが空を見上げる。

「紋章があるわね。ルル、見える?」

「うん、ちょっと小さいけど、あれはエチゴヤ商会の紋章よ」

「思ったよりも早かったね」

ルルの答えを聞いたご主人様が飛空艇に大きく手を振る。

「ご主人様は知ってたの?」

「今日来るとは思わなかったけどね」

話すうちにも飛空艇は上空に達し、湿地の中で比較的平坦な場所に着陸した。

扉が開き、収納式のタラップが伸びると、見覚えのある顔が覗いた。

「若様っす! 連れてきたっすよ!」

「資材も持ってきたよー。荷下ろしを先にした方がいい?」

赤毛のネルを先頭に、石狼に乗った小柄な娘ロゥーナがタラップを降りてくる。

「ネルさん、先に中の人達を下ろしてください」

「分かったっす! スミナ姐さん、降車指示っす!」

「はいよ!」

中から幾人もの亜人が出てくる。湿地に向いた蜥蜴人族が多い。

痩せた者が多かったが、隷属の首輪をした者やボロを身にまとった者はいない。

「リザリン!」

蜥蜴人族の中から一人の女性が飛び出してきた。

あれは――。

「――ソマリン!」

懐かしい再会に私達は固く抱きしめ合った。

村で遊んだのを最後に、隠れ里への移動時にはもういなかった親友と再会できるなんて。

望外の喜びに私の瞳から涙が流れる。

「たいへん~?」

「リザが泣いているのです」

「今はいいところだから、二人ともお口チャックよ」

「ん、見守る」

「イエス・ミーア。ハンカチの貯蔵は潤沢だと告げます」

「リザさん、良かったですね」

遠くから仲間達の声が聞こえる。

「リザ、右斜め前を見てごらん」

ご主人様が飛空艇の方を指し示しながら囁く。

「――っ」

言葉にできない。

そこにはいるはずのない人達がいた。

「下兄様! 姉様! シリリン! シザリン!」

「「「リザリン!」」」

ザジトン兄様やウェジリン姉様、上の妹のシリリンと下の妹のシザリンがいる。

崖の下に身を投げたと聞いていた家族が私の前に現れた。

私は兄姉妹達と再会を祝う。

「僕の事も忘れないでくれるとうれしいな」

「叔父上!」

私を逃がして傭兵に斬られたはずの叔父上もいた。

片腕と片足を失っているが、ちゃんと生きている。

「僕は死んだふりが得意なんだよ。ちょっと欠けちゃってるけどね」

叔父上がおどけた顔で肩をすくめる。

「エチゴヤ商会の人達が奴隷だった私達の身柄を買い取ってくれたんだよ」

「それは違う。私達はペンドラゴン卿の依頼を果たしただけー」

石狼娘ロゥーナが何かの書類をご主人様に渡しながら言う。

「ありがとうございます、ご主人様」

「家族までいると分かっていたら、もっと早く会わせてあげたんだけどね」

ごめん、と優しいご主人様が詫びの言葉を口にした。

「いいえ。いいえ、感謝しています」

私は家族や知り合いがいるか探すのが怖くて何もできなかった。

それだけの資金も人脈もありながら、探した結果、生死不明な家族や友人の死が確定するのが怖かったのだ。

「そろそろ物資を下ろしたいな。涙の再会をしたい者以外は作業を始めてー」

「ロゥーナ、お前、よくこの状況で言えるな。感心するわ」

「まったくっす。あたしにはできないっすよ」

「なんだか、不本意ー」

実務を担当してくれたエチゴヤ商会の人達にも礼を言う。

彼女達は物資を降ろし終わると、次の資材を受け取りに行くと言って飛空艇を出発させた。

「ご主人様、これだけの人達を集めたって事は?」

「うん、リザ達の故郷を再建するついでに、鼬人族に滅ぼされた亜人達の集落を復興させようと思ってさ」

ご主人様が魔法を使うと、長大で頑丈な外壁が現れ、その中に次々と家が建っていく。

家族や運ばれた人達は、それをミーアの魔法だと思ったのか、「さすがはエルフ様!」と言ってミーアを称賛していた。

「村が……また、ここで家族一緒に暮らせるのね」

「ええ、姉様」

村を滅ぼした鼬帝国も今は塩の底だ。

「住む場所と一年分くらいの食料、それと狩りや漁の道具に日用雑貨は用意してある。必要な家具や道具は資材から作っていってほしい。定期的にエチゴヤ商会の飛空艇が来るから、村でまかなえない物は都度注文してくれ」

「ペンドラゴン様のご慈悲に感謝いたします」

叔父上が代表してご主人様に頭を下げる。

「感謝ならリザに。彼女がいなかったら、私は復興しようなんて思わなかった」

「ありがとう、リザリン――いや、リザ。一族を代表して礼を言う」

「頭を上げてください、叔父上。叔父上が身を投げ出して庇ってくれなければ、私はあの時に死んでいたのですから」

あの時に死んでいたら、今の私はない。

「そんな事より、村の再建を祝して宴を開きましょう!」

アリサの元気な掛け声とともに始まった宴は、賑やかに夜を徹して続けられた。

一晩の間に、それまでの空白期間を埋めるように家族やソマリンとたくさんの事を話した。辛かった事が多かったみたいだが、それでも姉様は伴侶を見つけていた。下兄様もだ。

きっと妹達やソマリンもすぐに伴侶を見つけ、たくさんの子を産む事だろう。

半月ほど滞在した私達は、村の周辺にいる危険な魔物を狩り尽くして村の安全を確保した。

もちろん、その間に叔父上を始め身体の欠損があった人達は、ご主人様の魔法薬で再生していただけた。

「リザリン、本当に行っちゃうの?」

「ええ、ソマリン。私には果たすべき役目があるのです」

「叔父上、皆を頼みます」

「分かった。リザも元気で」

年内に里帰りすると告げ、ご主人様の飛空艇へと乗り込む。

「リザ、残りたかったら残ってもいいんだよ?」

「いいえ、私はご主人様の槍ですから」

その誓いを果たすため、私は常にご主人様の傍らで、彼の敵と戦おう。

「ポチも一緒なのですよ!」

「タマもはっぴーせっと~?」

「ええ、一緒です」

ポチとタマ、そして他の皆とともに、これからもご主人様との冒険を楽しみましょう。