軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-49.無垢なる神

サトゥーです。幼い子供は無垢で純粋な存在として語られますが、無垢であるがゆえに好奇心から残酷な行いをする者もいます。そんな子を見かけたら、優しく諭してやるのも大人の役目だと思うのです。

「なぜ?」

漆黒と虹色の火花の向こうで、パリオン神の幼い顔が不機嫌に歪む。

彼女が三柱の神々を殺すのをオレが妨害したからだ。

正直なところ、「 瘴気障壁(マイアズマ・バリア) 」なんかを教えてくれたカリオン神や姦しいだけで実害のないウリオン神はともかく、尊大なヘラルオン神まで助けるのは気が進まなかったのだが、彼もまた人界を外敵から守護する神の一人なので一緒に助けた。

「それは何? 神剣に抗える剣があるなんて、変」

パリオン神がオレの持つ虹色の剣を見つめる。

「これは 聖魔神剣(・・・・) ペンドラゴンだ」

かつてボルエハルトで奉納し、いつの間にかストレージに帰ってきていた聖魔剣ペンドラゴンをベースに、ストレージの中にあった「 竜神の牙(・・・・) 」を原始魔法で融合して作った剣だ。

神力が枯渇した状態で原始魔法を使えるか不安だったが、結果から言えば問題なかった。

そもそも原始魔法が必要とするのは莫大な魔力だ。オレの神力が枯渇していたのは、レベルを剥奪されて微少だった 魔力(MP) を神力で補った結果だったらしい。

眷属であるアリサの魔力を共有し、さらにストレージ内にあった魔力タンクを連結すれば、なんの支障もなく原始魔法が使えた。

「そんな剣、知らない」

パリオン神が無造作に「 神刈厭(かみかりえん) の大鎌」を振り下ろす。

オレはユニット配置でそれを避けた。

その隙にパリオン神が三柱の神々を殺そうとするので、再びユニット配置で再接近して妨害する。

「邪魔しないで」

振り向きざまに斬りつけられた神剣を、聖魔神剣で受け流す。

残念ながら、神剣の方がわずかに強いようだ。

『―― 最強の刀(きれぬものなし) 』

『その願い 能(あた) わず』

ウリオン神が叫ぶと、藍色の光がパリオン神に降りかかり、彼女の大鎌を覆っていた青い光を打ち消した。

それでも大鎌の一撃はカリオン神の障壁を打ち砕いたが、大鎌の勢いはそこで止まり、障壁もろともカリオン神を滅ぼそうとしたパリオン神の望みは阻止できたようだ。

「殺せない」

パリオン神が子供のように地団駄を踏む。

――あれ?

気のせいかパリオン神の青いオーラの一部が淀み、綺麗な虹色だった大鎌もまた、神剣のような漆黒のオーラを帯び始めている。

「なぜだ! パリオン! なぜなのだ!」

体勢を立て直したヘラルオン神が、そんな叫びを上げながらパリオン神に挑み掛かった。

よし、彼を囮にして、パリオン神の 武器排除(ディサーム) に努めよう。

「パリオンは反省すべき。カリオンもそう言っている」

ウリオン神もヘラルオン神に加勢する。

パリオン神の権能の方が他の三柱の神々の権能よりも優秀なようだが、さすがにオレも入れて四対一では辛いようで、どんどん劣勢になり始めた。

「大勢でいじめるのはずるい」

先ほどまでの自分の行いを忘れたかのようなセリフをパリオン神が口にする。

口をへの字に曲げてもパリオン神の攻勢は止まず、激しい戦いは続く。

何度か危ないシーンがあったものの、なんとかオレの聖魔神剣とウリオン神の持つ藍色の剣が大鎌を絡め取り、その隙を突いてヘラルオン神が神剣を持つパリオン神の腕を掴み取る事ができた。

パリオンが不機嫌そうに口元をへの字に歪める。

「おいたはこれまでだ、パリオン」

「ヘラルオンの言う通り。パリオンは危ない武器を手放すべき」

「思い、出した――」

俯いていたパリオン神の口元が僅かにつり上がるのが見えた。

「≪滅び≫を」

――まずい。

パリオン神が神剣の聖句を口にした瞬間、オレはヘラルオン神を蹴飛ばし、ウリオン神を掴んでユニット配置で安全圏に逃げる。

転移を終えたオレの視界に、膝下を滅びに飲み込まれるヘラルオン神が映った。

ヘラルオン神は這々の体で逃げ出し、カリオン神の障壁が彼を守ろうとしたが、≪滅び≫を纏った神剣の前では一瞬を持ちこたえる事もできない。

瞬く間に障壁は砕かれ、ヘラルオン神は暴虐の漆黒に呑み込まれ、その長い生涯を閉じた。

「―― パリオン(・・・・) が」

オレの横でウリオン神が愕然とした声を漏らす。

神剣に滅ぼされた ヘラルオン神(・・・・・・) ではなく、 変わり果てた(・・・・・・) パリオン神の方がショックだったらしい。

まあ、その気持ちも分かる。

パリオン神の身体からは漆黒のオーラが噴き上がり、愛らしい顔の半分を残して禍々しい漆黒の肌に変貌している。漆黒に染まった顔の半分にある目や口が、青い 虚(うろ) のようになっているのが特に怖い。

穢れに侵蝕された魔神の外見に似ている。

確証のない推測だけど、パリオン神が神剣の聖句を発動した事で、神剣に吸い込まれていた穢れが彼女に逆流したんじゃないかと思う。

パリオン神の変貌のせいでインパクトが薄いけれど、彼女の持つ大鎌もまた神剣とお揃いの漆黒へと変化していた。

「 光の歩法(だれよりもはやく) 」

カリオン神の前に瞬間移動したパリオン神が、≪滅び≫の神剣を振り下ろす。

――させないよ。

オレはユニット配置で割り込み、必死の形相で朱色の障壁を次々に張るカリオン神を掴む。

≪滅び≫の神剣が迫る。

脱出は間に合わない。

ここは作ったばかりの聖魔神剣ペンドラゴンを生け贄に時間を稼ぐしか――。

焦るオレの眼前からパリオン神が消し飛んだ。

「へへん、アリサちゃんを無視するとは迂闊にも程があるわ!」

どうやら、アリサの対神魔法がパリオン神を吹き飛ばしたらしい。

オレとウリオン神も余波で吹き飛ばされたが、お陰で九死に一生を得られた。

「まったくだよね!」

「ん、同意」

ヒカルの対神魔法がパリオン神に追撃を掛け、さらにミーアが召喚したレッサー・フェンリルがパリオン神に喰らいつく。

残念だけど、対魔王用の下位互換バージョンではパリオン神に痛手を与えるには至らないようだ。

パリオン神が大鎌でレッサー・フェンリルを撥ね除け、神剣で滅ぼしてみせる。

「なまいき」

幼い目がアリサ達を睨み付ける。

「≪断罪≫」

パリオン神が大鎌の聖句を使う。

オレはユニット配置で仲間達を手元に引き寄せ、水平に薙ぎ払ったパリオン神の大鎌を空振りさせる。

――まずい。

オレは仲間達ごと空中にユニット配置する。

パリオン神が空振りした勢いでぐるっと身体を横に一回転させた。

≪断罪≫の力を帯びた漆黒のオーラが、魔神の居室をぐるりと輪切りにする。

ナナの「 不落守護領地(パラディン・ドメイン) 」もカリオン神の朱色の障壁も、漆黒のオーラが悉く破壊し尽くす。

「ウリオン!」

逃げ遅れたウリオン神が、半身を消し飛ばされた。

「ぱややんな顔をしてるくせに、強い」

唸るように言うアリサには全面的に賛成だ。

「コア・ツー、緊急発進準備だ」

オレは仲間達を連れ、大型虚空艦の甲板にユニット配置で帰還した。

もちろん、ウリオン神とカリオン神、それに紫幼女達も一緒だ。

聖魔神剣という切り札があっても、「神剣」と「 神刈厭(かみかりえん) の大鎌」の聖句を使いこなし、穢れを身に纏ったパリオン神は戦うのが難しい相手だ。

何より、オレにはパリオン神と命がけで殺し合う理由がない。

神々をこれ以上殺されたら人界の安寧が損なわれそうだという理由がなければ、神々の内輪モメに介入する事もなかっただろう。

「噴火~?」

「あんびりーばぼーなのです」

周囲の変わり果てた光景にタマとポチを始めとした仲間達が呆気に取られた。

魔界の山々が噴火し、大地がひび割れ、噴煙に曇る空も、そこかしこで雷雲が紫電を光らせ、竜巻が吹き荒れている。

「魔神を失った魔界が不安定になるのは当然」

「カリオンに同意」

ウリオン神は失った半身の再生を終えたようだ。

「マスター、発進準備完了!」

「緊急発進だ。遠距離攻撃で周囲の敵を蹴散らしてくれ」

「はい!」

「おっけー!」

艦外活動しているゼナさんとカリナ様も甲板に回収し、群がる魔族達を大型虚空艦で挽きつぶしながら発進する。

ユニット配置で大型虚空艦を安全圏に運ぶ方が確実だが、後の事を考えると神力の無駄遣いはしない方がいいだろう。

魔神城を脱したその先に、空間の揺らぎが生まれた。

「通せんぼ」

転移してきたパリオン神が行く手を塞ぐ。

「――それは想定内だ」

オレは目視ユニット配置でパリオン神を振り切る。

「逃がさない」

やっぱり追いついてきたか。

きっと人界に転移しても追いついてくるに違いない。

「なんだか大っきくなってない?」

「なってるね」

今やパリオン神は大型虚空艦を両手で掴めるほど巨大化していた。

「教えてパリオン! どうして、こんな事を!」

甲板に飛び出してきたセーラが叫ぶ。

彼女の身体から溢れる碧色のオーラからして、テニオン神が彼女の身体を借りているのだろう。

「それが使命」

神的な力なのか、パリオン神はセーラを介したテニオン神の言葉が聞こえるようだ。

「――使命?」

「創造神様が言った。階梯を上げ、立派な神になれと」

パリオン神がとつとつと語る。

「テニオンは覚えていない?」

こてりと首を傾げる。

「覚えています。けれど、その前に『人を育み、信仰心を育てよ』とも言われたはずです!」

「それは枝葉。ヒトは 魔素(マナ) を肥やしに微少な神力を生むイキモノ。創造神様が最終的に求めるのは、膨大な神力を得て階梯の上がった神」

テニオンが口籠もる。

どうやら、それは事実らしい。

「でも、だからと言って……」

「そして階梯を上げるには他の神を屠って、その魂ごと神力を喰らうのが最適」

パリオンが無垢な顔でこくこくと頷く。

どうやら、彼女は悪意からではなく、創造神にそう命じられたから行動しているだけらしい。

「時間稼ぎに付き合うのは終了」

パリオンが腕をグルグル回す。

「馴染んできた」

パリオン神の背後に、五重の光輪が生まれる。

その色は彼女が神殺しで屠った神の色――紫、橙、蒼、黄と彼女自身の青の五色だった。

穢れの影響か、光の輪郭が黒く淀んでいる。

「あのパリオンは危険。カリオンもそう言っている」

「言ってない。でも危険なのは同意。パリオンの階梯は私達よりも二つは上にいる。テニオンと合流しても絶望的」

そんなにか……。

「うん、パリオンは最強」