作品タイトル不明
17-48.援軍
サトゥーです。西部劇の騎兵隊を例に挙げるまでもなく、主人公の窮地に駆けつける頼もしい援軍は物語の華の一つでしょう。もっとも、時には頼りない事も――。
◇
『助けに来たぞ――』
部屋に飛び込んできたのは、橙、蒼、黄の光を帯びた美丈夫――ヘラルオン神、ガルレオン神、ザイクーオンの三柱の男神達だった。
意外な 面子(めんつ) だ。
マップに映る光点の色から敵や仲間達でないことはすぐに分かったが、まさか彼らが来るとは思わなかったよ。
『パリオン!』
『どこだ、パリオン!』
なるほど、彼らの目的がパリオンの救出なら分からなくもない。
魔神と一戦やる事も辞さないらしく、男神達は煌びやかな武具に身を包んでいる。
『離れすぎるのは禁止。カリオンもそう言っている』
『言ってない。でも、同意。あまり離れすぎると穢れに侵蝕される』
姦しい声とともに現れたのは、藍色と朱色の光を帯びた二柱の少女神――ウリオン神とカリオン神だ。
テニオン神も来るかと思ったが、その気配はない。
彼女は留守番のようだ。
「――騒々しい」
魔神が重々しい動きで玉座から立ち上がる。
さすがの魔神も、七柱の神々相手に片手間で相手をできないようだ。
『滅びろぉおおおおおおおおおおおお』
『先走るなザイクーオン! やむを得ん、手伝えガルレオン!』
男神達は広大な魔神の居室をあっという間に駆け抜ける。
彼らの武具がそれぞれの神の色を帯びて目映く輝いた。
――げっ。
魔神めがけて駆けてくる男神達との間にはオレがいる。
『三柱とも待つ!』
『そのままだとサトゥーも巻き添えになる!』
『知るか!』
『大事の前の小事』
『貴い犠牲になるがいい』
カリオンとウリオンが止めるが、男神達は止まる事無く突っ込んでくる。
どうやら、オレごと魔神を倒す気らしい。
魔神の方も迎撃する為か、黒に近くなった暗紫色の光を集約させ始めた。
――まずい。
神力を篭めた男神達や魔神の大技は、レベル1になった今のオレには少し荷が重い。
目視ユニット配置ですばやく危険地帯から逃れるが、あの膨大な神力からして余波でも致命的な気がする。
現に原始魔法で築いた防御障壁がみるみるうちに削れていく。すぐに再構築するが吹き荒れる原色光を伴った嵐によって破壊される方が速い。
焦るオレの視界に、魔神の近くに浮かんでいた神舞装甲が映った。
――あれを。
原始魔法の助けを借りて魔神の神舞装甲をハッキングして支配下に置き、視界を原色に染める閃光と衝撃から、ギリギリで身を守る事に成功した。
助かったと思った瞬間、神々と魔神の間で激突していた膨大な神力が臨界を超え一気に爆発した。
原始魔法で慌てて張った何枚もの防御障壁と神舞装甲のお陰でなんとか即死は防げたが、それでも壁際まで吹き飛ばされた。
打撲のせいか身体が動かない。
さっきの閃光で目に残像が焼き付いていたが、しばらくして視力が復活してきた。
部屋の中央では魔神が男神達とウリオン神を相手に激しい戦いをしている。
カリオン神は後ろからの支援が中心のようだ。
神々は本調子じゃない魔神相手に押されている。
神々の攻撃が派手な技や力任せな技が多いのもあるが、神剣の性能が高いのが主要因のようだ。
魔神はカリオン神が付与する朱色の防御障壁を一撃で破壊し、受け止めた神々の武器や防具を軽々と粉砕している。
もちろん、神々も近距離戦が危険なのはすぐに察したようで、神剣の間合いの外で戦おうとするが、次元刀によって引き寄せられてしまい接近戦を余儀なくされているようだ。
なかなか身体のしびれが取れないので、ストレージからエリクサーを取り出す。
「――うおっ」
しびれた手で上手く掴めず、エリクサーの瓶を取り落としてしまった。
こんな時に「 理力の手(マジック・ハンド) 」があれば簡単なのだが、今のオレには使えない。
エリクサーの中身をストレージ経由で咥内に流し込む。
――治らない?
どうやら、この痺れは単なる打撲ではないらしい。
オレは奪った神舞装甲の陰で、身体のしびれを原始魔法で癒やしつつ戦いを見守る。
魔神と神々の戦いは権能と武器の性能が重きを占めているようで、何度か神々が力業で優位に立ちかけたものの、魔神の権能に絡め取られて無効化されたり逆に利用されたりするのを繰り返していた。
ついには、神剣の斬撃が神々の身体に届き、血の代わりに神の色をした光が飛び散った。
神剣の一撃で倒されてしまう事はないようだが、それでも斬られるたびに神々を包む光が弱まっている。
このままだと七柱の神々の敗北が決定しそうだ。
それにしても解せない。
どうして魔神は神剣の≪滅び≫を使わないんだろう?
◇
「ご主人様ぁあああああああ!」
アリサの声が広大な魔神の居室に響く。
どうやら、黄金メンバーが到着してしまったらしい。
『アリサ、こっちだ』
神々の戦いはナナの「 不落守護領地(パラディン・ドメイン) 」でも危ないので、壁沿いに遠回りで来るように眷属通信で伝える。
「ご主人様ぁああああああ!」
アリサが皆を連れてオレの傍に転移してくる。
「良かった! 急にご主人様の気配が弾けるみたいに広がって消えたから死んだかと思ったわよ!」
泣きながらアリサがオレの胸にすがりついてきた。
どうやら、眷属的な繋がりで、オレの死を察知してしまったらしい。
「ごめんごめん、魔神にレベルやスキルを剥奪されちゃってね。ちょっとピンチだったんだ」
「げっ、レベル1じゃん!」
これ以上心配させたくなかったので、一度死んだことを言うのはやめておいた。
「むぅ? 治らない」
ミーアが治癒魔法を掛けてくれたがエリクサー同様効果がなかった。
『それは神力を過度に消耗したから』
脳裏にカリオン神の声が届く。
眷属通信に似た感じだ。
『――神力?』
オレは人だよ?
『原始魔法は神力で行う奇跡。あなたは人の身でそれを使いすぎた』
カリオン神がオレを諭すように言う。
まあ、使わなかったら、神々と魔神の激突に巻き込まれて死んでいたんだけどさ。
『カリオン! 守りが甘いぞ!』
『ザイクーオンは迂闊に突出し過ぎ。周りと連携を取るべき』
カリオン神の意識がオレから離れた。
直後にザイクーオンが片腕と両足を吹き飛ばされて地面を転がる。
一人で突出していたザイクーオンが真っ先に脱落したらしい。
続いてガルレオンが片腕を失い、ヘラルオンとウリオンが満身創痍で退場した。
カリオンが幾重もの障壁で皆を守るが、それも神剣の前に砕ける寸前だ。
オレはにぎにぎと手を動かして身体の復調を確認する。
「そろそろ行けそうだ」
魔神の注意は完全に神々に向いている。
今なら隙を突くことも可能だ。
「まだダメよ。武器だってないじゃない」
「これがあるさ」
オレはストレージから、聖魔剣ペンドラゴンを取り出す。
奉納したのに戻ってきた寂しがり屋の剣だ。
「確かに凄い力を感じるけど、あの黒い剣でだって敵わなかったんでしょう?」
「ああ、このままじゃ敵わない。でも、オレには秘策がある」
それにオレの目的は魔神を倒すことじゃなくて、穢れを祓って正気に戻すことだ。
カグラもそれを望んでいるしね。
「にゅ!」
タマが目を見開いて驚いた。
その先には――。
◇
『よくやったぞ、パリオン!』
ヘラルオンが叫んだ。
紫幼女を結界で守っていた大鎌が、魔神の胸から生えている。
いや、背から魔神の胸を貫いているのだ。
『何をするパリオン』
大鎌で魔神を攻撃したのは、ぽややんとした表情の幼い女神、パリオンだった。
『神殺し』
『裏切ったの、か?』
『裏切り? よくわからない』
魔神の輪郭が崩れ、暗紫色の霧となって大鎌に吸い込まれる。
あまりにもあっけない最期だ。
『偉いぞ、パリオン』
『魔神の牢獄から自力で脱したのだな』
『神核を砕かれては魔神も蘇る事はできまい』
男神達が口々にパリオン神の行為を褒める。
パリオン神はそれに答えず、魔神が落とした神剣を拾って神々の下へと歩み寄る。
『パリオン、その危ない剣は最強の神である俺様が預かってやろう』
手を差し出すザイクーオンにパリオン神が歩み寄り神剣を――。
突き刺した。
どうして、と問いたげな顔で、ザイクーオンが黄色い光となって散った。
黄色い光が神剣の刀身に吸い込まれる。
『次』
パリオン神がヘラルオン神を殺そうと眼前に瞬間移動する。
だが、それを朱色の光が防ぐ。
『邪魔』
『どうして?』
『殺せない、から?』
カリオン神の問いにパリオン神がぽややんとした顔で首を傾げる。
『えい』
『パリオン!』
パリオン神が大鎌で朱色の障壁を破壊したタイミングで、ガルレオン神が飛びかかった。
『―― 先見の明(さきよみ) 』
ガルレオン神の持つ蒼剣を神剣で防ぐと蒼と漆黒の火花が散る。
『―― 最強の刀(きれぬものなし) 』
青い光を帯びた大鎌がガルレオン神の首を刈り取る。
あれは勇者メイコが得意としていたユニークスキルだ。
『―― 無敵の機動(あたることなし) 』
ヘラルオンが放った橙色の光弾をパリオンは 動くことなく(・・・・・・) 回避した。
『――強い』
『鍛えさせた』
カリオンの言葉に、パリオン神が子供のように自慢げに胸を張る。
ユニークスキル――権能を鍛えさせる為に勇者達に能力を与えていたようだ。
首を失ったガルレオン神の心臓めがけてパリオン神が神剣を突き入れる。
『させない』
カリオン神が朱色の障壁を展開する。
『―― 最強の矛(つらぬけぬものなし) 』
青い光を帯びた神剣が朱色の障壁ごとガルレオン神の心臓を貫いた。
さっきの攻撃は勇者ハヤトが使っていたユニークスキルだ。
どうやら、パリオン神は勇者達が使っていたユニークスキルを全て使う事ができるらしい。
『ガルレオン!』
神核とやらを破壊されたのか、ガルレオン神は蒼い光に変わって神剣に吸い込まれていく。
『残り三柱』
パリオン神が次の標的を求めて神々を見る。
カリオン神の障壁が攻撃を防ぐが、神剣と大鎌ですぐに砕かれてしまった。
『これで、もっと強くなる』
パリオン神が神剣を振りかぶる。
――させないよ。
オレはユニット配置でパリオン神の眼前に移動し、 虹色の剣(・・・・) でパリオン神の攻撃を受け止めた。