軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-47.サトゥーvs魔神

サトゥーです。窮鼠猫を噛むというのは有名な格言ですが、一矢報いるのならともかく、勝利をもぎ取るのはなかなか大変です。それが油断しない相手なら、なお一層の事――。

「――座ったまま?」

さっき「復活すらできぬように魂まで破壊し尽くしてやる」なんて言っていたわりに、魔神は玉座に腰掛けたまま立ち上がる様子もない。

両手に持つ虚無刀や次元刀も だらり(・・・) と下がっているし、穢れに侵蝕された身体の不調が治っていないのだろう。

これなら、さほど苦労せずに魔神の隙を突いて穢れを祓えそう――。

暢気にそんな事を考えた瞬間、オレは魔神の眼前に引き寄せられていた。

虚ろな刃が迫る。

――危なっ。

なんとか紙一重で避けられたが、あやうく首と胴体が分離するところだった。

それにしても、身体が重い。

死んでいる間の全能感が嘘のように消え、身体が思うように反応してくれない。

マグネットコーティングでもしたくなるような鈍さだ。

「――なぜ避けられる?」

魔神が意外そうな顔で尋ねてきた。

「レベルやスキルを奪われた貴様に避けられるはずがない」

ああ、この鈍さはレベルが1になったせいか。

魔神が改めて繰り出す雑な攻撃を、再び間一髪で回避する。

いつもなら余裕で回避できるような攻撃だ。

魔神から穢れを祓う為には接近しないといけないんだけど、後ろに回り込もうとするたびに魔神の眼前に転移させられるので目論見は果たせずにいる。

この転移は魔神の権能や魔法ではなく、次元刀によるもののようだ。

魔神が体調不良じゃなかったら、とっくに二回目の死を体験しているだろう。

オレはちらりと一瞬だけログに目を落とす。

いつもならスキルが手に入るはずのタイミングも、ログは全く無反応だ。

「――っ」

余計な動作をしたせいで回避できない位置に虚無刀が迫る。

オレはストレージから取り出した神剣で虚無刀を受けた。

神剣に触れた瞬間、虚無刀の刃が霧散し、再び魔神の持つ柄に集まって再構成された。

厄介な魔神の武器を一つ潰せたらと思ってタイミングを計っていたのは無駄だったらしい。

「それは……」

魔神が忌々しい顔で呟く。

さすがの魔神も神殺しの神剣は看過できないようだ。

その時、オレの視界にマップがポップアップした。

――赤い。

マップには魔神城へと凄い勢いで移動する赤い光点の群れが映る。

オレは反射的にそちらに意識を向けてしまった。

「気付いたか」

魔神がほくそ笑む。

「それは俺の権能を与え神界攻略に送っていた最精鋭だ」

魔神が空中に魔族の大群を映し出した。

ジェネラルタイプやアベンジャータイプに加え、戦艦や幽霊船みたいな魔族もたくさんいる。

どの魔族も穢れに侵されているのか、黒いオーラを曳いていた。

映像が増えた。

仲間達の映像だ。

大型虚空艦の周りで魔族達を掃討するゼナさん達、廊下で女性型の魔族と戦うアリサ達が映し出されている。

――まさか。

「そこで貴様の女達が蹂躙されるのを歯がみして眺めるがいい」

どうやら、魔神は最精鋭をオレではなく仲間達に向ける気らしい。

「――させないよ」

「システムは封じたままだ。仮初めの力を剥ぎ取られた貴様に何ができる」

オレにできる事――。

視界に映るAR表示。

あった。オレにできる事が。

「――できるさ」

オレはメニューを操作する。

かつて、危険ゆえにOFFにしたアイコンを戻す。

「世迷い言を――」

魔神が歪んだ愉悦の笑みを浮かべる。

別世界のオレとは思えない顔だ。

きっと穢れに侵蝕されているせいだろう。

映像の中のゼナさん達が空を指さす。

彼女達にも魔族の最精鋭部隊が見えたらしい。

「――さあ、蹂躙劇の始まりだ」

「そうだな」

魔神に同意すると、さすがの魔神もおかしいと思ったのか「――何?」と困惑の呟きを漏らした。

「……バカな」

魔族達の背負う紫色の分厚い雲を引き裂き、真っ赤に燃えた隕石が現れた。

それはすぐに数を増し、豪雨のように降り注ぎ、魔族の最精鋭達を滅ぼしていく。まさに蹂躙という言葉が相応しい。

「絶対魔法防御や絶対物理防御や絶対回避の権能を与えた者達まで滅んだだと?」

まがりなりにも最強の竜神を殺した魔法だ。

どんな相手だって倒してみせるさ。

「どうやって魔法を使った!」

魔神がオレを睨み付ける。

「――いや、違う。魔法ではありえない。貴様から魔力を感じなかった」

愕然とする魔神を横目に、オレはちらりとログを見る。

残念ながらレベルは1のまま。

撃破ログはあるものの経験値ゲージはぴくりとも動かず、スキルの取得もない。

「権能か!」

魔神が正解に辿り着いた。

そう、さっきのは魔法欄からではなく、最初に与えられた初心者救済用の「流星雨」アイコンの一つを使ったモノだ。

「竜神の権能を使い捨てにするだと?! 貴様、正気か!」

魔神が妙に驚いている。

どうやら、アイコンから使った流星雨と魔法欄から撃った流星雨は根本的に違うモノのようだ。

まあ、竜神が自分を倒す為に用意した攻撃だしね。

「だが、情に目が眩んで、切り札の使いどころを間違えたな」

魔神が玉座からふらふらと立ち上がる。

「神殺しの神剣で殺されて、何度自我を保てるかな?」

その手にはいつの間にかオレが持っていたはずの神剣が握られていた。

盗神の称号は伊達ではないらしい。

魔神が本気だ。

迫る漆黒の斬撃。ダッキングで避ける。死角から別の刀。身体を投げ出して回避。転がる視界に魔神の見下した笑み。いたぶるような斬撃が床を転がるオレを追う。侮れ魔神。その侮りがオレの逆転のチャンスを生む。

マズい。

次第に魔神の攻撃が速くなってきた。いくつかの攻撃が掠め、オレの身体に傷を作る。

ユニット配置は使わない。あれは逆転や脱出の奥の手だ。

オレは必死に回避を続ける。

「なぜ、避け続けられる?」

攻撃の手を緩めず、魔神が呟く。

そういえば傷を負わなくなってきた。

身体の重さや鈍さは相変わらずだけど、その重さや鈍さにも慣れてきた。スキルは相変わらず取得できないけれど、魔神の攻撃を必死で避けているうちにだんだんと思い出してきた。

「 神速斬撃(ファスト・スライシング) 」

暗紫色の光を帯びた魔神の攻撃を避ける。

そうだ。

回避はこうだった。

ムキになって襲ってくる魔神の攻撃をオレは軽々と避けていく。

スキルがなくても、オレの身体は覚えていたようだ。

「なぜ、権能を帯びた攻撃を避けられるのだ」

魔神は不思議そうだが、攻撃されるのが分かっていれば攻撃の速さはあまり関係ない。

どっちかっていうと、必中系のユニークスキルを使うべきだったね。

「――ならば」

そんな事を考えたのがマズかったのか、オレの身体が動かなくなった。

この感触は空間魔法だ。

業を煮やした魔神が空間魔法でオレの身体を縛ったらしい。

結界なら簡単に回避できるのに。

そう思った瞬間、オレの身体を縛る拘束が解けた。

結界無効の謎パワーが、空間魔法にも効いたのだろうか?

「それが貴様の権能か!」

今度は麻痺系の魔法を放ってきたが、それも同様に解除できた。

原理はよく分からないけど、便利でいいね。

「――げっ」

今度は広範囲攻撃魔法を使ってきた。

やばいと思った瞬間、眼前に迫る魔法が消える。

「魔力の反応がない? それも貴様の権能か!」

魔神が驚いているが、それはオレも同じだ。

もしかして――そう思ってストレージを確認すると、魔神の攻撃魔法が保存されていた。

さっき「やばい」と思った瞬間に魔法を掴むようなイメージをしたのが良かったのかもしれない。

まあ、何度もやってみせる自信はないので、魔神が警戒して魔法を使わないでいてくれると助かる。

さて、そろそろ反撃に移ろう。

「ならば――」

魔神が空間魔法による拘束と斬撃を同時に使ってきた。

――回避不能。

そう判断したオレは奥の手の一つを切る事にした。

「神剣を受け止めた、だと?」

魔神の持つ漆黒の神剣は、オレが持つ同色の槍に受け流されていた。

残念ながら今のオレと魔神では地力が違う。まともに受け止めたら壁に叩き付けられて潰れちゃうからね。

「なんだ、その槍は?」

「――奥の手さ」

かつて「魔神の落とし子」を天竜から引き剥がした時に、穢れに侵されてしまったオレの左腕を素材に作った槍だ。

名前は付けていなかったけど、あえて呼ぶなら黒腕槍あたりかな。

驚く魔神に黒腕槍で攻撃してみたが、常駐防御らしき障壁に軽々と防がれてしまった。

黒腕槍は神剣の盾にする事はできても、魔神を傷付けるには力不足のようだ。

神剣や虚無刀の攻撃を、素の回避と黒腕槍で避ける。

ランダムに空間魔法や影魔法でフェイントを入れてくるので、なかなかヘビーだ。

このままでは一度でもミスをしたら殺されてしまう。

マズい。

神剣を回避し、虚無刀を受け流したところに、紫色をした透明な刃――竜破斬が襲ってきた。

それも三本だ。

「――貫け!」

ストレージから取り出した白い竜槍が三本の透明な刃を貫き、魔神の常駐障壁を穿ち、なおも勢いを止めずに魔神に迫る。

キシッ、キシッ、キシッと音を立て、紫色の透明な盾が竜槍の勢いを殺した。

あれが本家本元の神舞装甲らしい。

「全てを貫く」竜の牙を使って作った竜槍を止めるほどだとは思わなかった。魔神城を守る神舞装甲を貫けたからいけるかと思ったんだけど、魔神が使うヤツはさらに強力だったらしい。

「竜槍か――」

魔神が忌々しそうな顔でオレの持つ白い槍を睨み付けた。

「――俺に届くかな?」

どうやら、竜槍の欠点はバレているようだ。

黒腕槍と違って、竜槍は脆い。神剣はおろか虚無刀や竜破斬すら受け止められないだろう。

こちらは完全に攻撃専用だ。

「届かせてみせるさ」

オレは黒腕槍を盾に、竜槍を矛に魔神と戦う。

既に回避だけじゃなく、槍術や先読みなんかの感覚も思い出してきた。

だが、時間はオレだけの味方じゃないらしい。

魔神の動きが少しずつ良くなってきている。

まだまだ億劫そうな雑な動きだが、このままだと相手の方が先に本調子に戻りそうだ。

――そうか。

オレは気付いた。

魔神から溢れる穢れが減っている。

その穢れは魔神の持つ神剣に続いている。戦う内に魔神を蝕む穢れが神剣に吸い込まれて、そのせいで魔神の動きが良くなったらしい。

魔神が動きを止めて神剣を見る。

どうやら、向こうも気付いたようだ。

「余分な瘴気を喰らったか。呪われた神殺しの剣に助けられるとはな」

呪われていたのか。

だけど、どうして神剣の≪滅び≫を使わないんだろう?

――ピシッ。

黒腕槍は耐えた。

神をも傷付ける虚無刀の斬撃を。

――ピシッ。

竜を滅ぼす竜破斬の雨を。

――ビシッ。

なにより、神すら殺す神殺しの神剣の攻撃を凌いでみせた。

だが、歪みと傷は累積し、やがて限界を超える。

バキンと音がして、ついに黒腕槍が砕けた。

「くくく、イレギュラー。貴様を守る槍はなくなったぞ」

魔神が嘲りの笑みを浮かべる。

やはり神剣の方が上だったか……。

このままだとじり貧だ。

だが、逃げるのはまだ早い。

怪我の功名だが、神剣のお陰で魔神の穢れはかなり減った。

誰かが魔神の注意を逸らしてくれれば、魔神から残りの穢れを引き剥がす事はできると思う。

「――無粋な」

魔神が視線を謁見の間の扉に向けた。

轟音を上げて重厚な扉が吹き飛び、ジェネラルが地面を転がってくる。

『魔神様、やつらが――』

ジェネラルが扉を指さす。

どうやら援軍が到着したようだ。