軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-41.魔界侵攻

サトゥーです。無能な味方は有能な敵よりも恐ろしいと誰かが言っていました。元は戦争における名言だったと思いますが、チーム単位での開発に携わってからは、その言葉の正しさを実感させられたものです。

「ねぇ、お願い! 主様を助けて!」

セーリュー市の騒動を終結させ、月軌道の掃除を済ませたオレに、ピンク髪の紫装束の幼女が魔神を救ってくれと依頼してきた。

「ご主人様、それよりも月は?」

「ああ、忘れてた。すぐに戻すよ」

オレは目視ユニット配置で月軌道に移動し、メニューのAR表示に補助を受けながら月を元の軌道に戻す。

魔界ゲート自体は月の中心部に浮かんでいた魔法的なオブジェクトにあったので、そちらは既に対神魔法の連打で破壊してある。

『まったく、地上が天変地異に見舞われたらどうするのよ』

『その時はなんとかするよ』

一時的に月を軌道から消した事で、軌道がズレたみたいだけど時間を掛けて補正すれば影響も少ないだろう。

『とりあえず津波を消してくる』

天罰事件の時に結構大変だったので、軌道上から纏めて消せるようにしておいたから楽勝だ。

多少の嵐や気候変動はあるだろうけど、その辺は各地の王や領主が都市核で調整してくれるのを期待している。

いずれにせよ、魔界ハザードで地上が汚染されるよりはマシだろう。

「ねぇねぇ、魔界に行って主様を助けて。それができるのはイレギュラーだけなの」

「どうして~?」

「女の子が言ってたの」

「誰なのです?」

翻訳魔法で意思疎通ができるようになったおかげか、タマとポチの二人が紫幼女にオヤツを分けながら話を聞いてあげている。

「ご主人様、言うまでもないと思うけど、同情して魔界に行くなんて言っちゃダメよ」

「うん、私もアリサちゃんの意見に同意する!」

アリサとヒカルが何度目か分からない釘を刺してきた。

「心配しなくていいよ」

魔界観光もしてみたいけれど、この状況だとそんな余裕があるとは思えない。

魔界侵蝕の件の前にテニオン神からオファーがあった「魔界に赴き、魔神から白天威輝晶を奪い返せ」というクエストを始める気はない。

「……サトゥーさん」

緑色の燐光を纏ったセーラが言いたくなさそうな顔でオレを見る。

「もしかして、また神託ですか?」

なんだか、テニオン神からの伝言係みたいで、少し申し訳ない。

「はい……」

セーラが何か言いにくそうだ。

何かマズい事でも起こったのかな?

「三柱の男神達が天界の軍勢を率いて魔界に攻め込んだそうです」

白天威輝晶を取り戻すためだろうけど、正面対決なんて神力の浪費が激しそうな選択肢をよく選ぶものだ。

「――なんで、また?」

「ザイクーオン神なら分かるけど、ヘラルオン神やガルレオン神も?」

酷い言い方だが、アリサの気持ちも分かる。

「それが……魔神にパリオン神が攫われたそうなんです」

セーラからパリオン神が攫われたと聞いたゼナさんが「大変です!」と言いたげな顔で驚きを表した。

「それで、それを知った三柱の男神達がパリオン神を奪還するために魔界へ」

なるほど、それなら分かる。神界で見た限り、パリオン神は他の神々にかわいがられている感じだったからね。

ただ……。

「本当に攫われたのかな?」

「どういう事ですか?」

「神界で見たパリオン神は魔神に懐いている感じだったんですよ」

むしろ、自分から魔界に赴いて、白天威輝晶の返却交渉でもしていそうな気がする。

「マスター、幼生体は知らないでしょうかと問います」

「知ってそうですね。聞いてみましょう」

ナナの発言に頷いたシスティーナ王女が、紫幼女にパリオン神を知らないかと尋ねた。

「ぱりおん? 誰?」

紫幼女が首を傾げる。

「魔神がどこかから神様を連れてきていなかった?」

幼女と目線を合わせたルルが違う言葉で尋ねた。

「主様は寝たきりだから、そんな事しないよ?」

そういえば「主様を助けて!」って言ってたっけ。

「ラカさん、どう思います?」

『さて、幼子が嘘を吐いているようには見えぬ。だが、魔神ではなく魔族達がパリオン神を攫ったという事はあるかもしれぬ』

「タマはどう思うのです?」

「なんくるないさ~?」

カリナ嬢とラカの会話をまねたポチだったが、タマは疲れたのか艦橋のフロアに敷かれた絨毯の上をうにょ~んと伸びるばかりだ。

「タマも真面目に答えてほしいのです」

「うにゅにゅ~?」

ポチがゆさゆさとタマを揺さぶる。

タマが気持ちよさに目を細めていたが、急にポチの手を撥ね除ける勢いで飛び起きた。

「にゅ!」

「わわっ、――怒ったのです?」

タマが窓際に走っていき、円周形のモニタから地上の様子を見渡す。

これはもしかして――。

「あの辺りが変~?」

「タマの『変』が出たのです! ご主人様、大変なのですよ」

――うん、マップ検索中だ。

「「サトゥーさん」」

ゼナさんとセーラが不安そうにオレを見る。

マップには まだ(・・) 異常が出ていない。位置的には――。

「――『変幻の国』ピアロォーク王国の付近ですね」

「ピアロォーク王国というと、ザイクーオン神の中央神殿があった場所ですね」

オレが報告すると、システィーナ王女が一番気付きたくない事を指摘した。

何か起こるとしか思えない厭な組み合わせだ。

「遠見筒」

「イエス・ミーア。艦載望遠装置を起動と告げます」

ミーアの指示でナナが件の方向をズームアップする。

「今のところ何もない感じだけど」

「アリサ、中央神殿を見て!」

呟くアリサに、ルルがザイクーオン神の中央神殿がある場所を指さした。

「神殿が!」

「あれは巨人でしょうか?」

「いいえ、空に映し出されたお姿にそっくりです」

ゼナさんの問いにセーラが答える。

ザイクーオン中央神殿を突き破って現れたのは三柱の男神達だった。

まったく、何をやっているんだか……。

「あの神々って、魔界に攻め込んでいたはずよね?」

「うん、ヤバイ予感しかしないわ」

ヒカルとアリサの言葉に首肯する。

「マスター、あそこに艦を向けますかと問います」

「――そうだな、頼む」

ナナがシェル型コクピットに潜り込み、艦首を回頭する。

慣性制御装置で吸収しきれなかった僅かなGを感じつつ、オレは早着替えスキルで装備をチェンジした。

「リザ、ポチ、タマの三人はオレと一緒に先行するぞ」

「承知!」

「はいなのです!」

「あいあいさ~?」

――LYURYURYUUU。

オレは獣娘達を連れ、ユニット配置でピアロォーク王国のザイクーオン中央神殿へと転移した。

「男神達が何かと戦っているようです」

強化外装で飛ぶリザが、地上を見下ろして報告する。

神殿を壊して現れた時点で気がついていたが、映像ではなく実体化しているようだ。

「まっくろ黒っ毛~?」

「何か黒いのがうねうねしているのです」

神殿からは黒いヘドロが溢れ、それがイソギンチャクの触腕のようにうねうねとうごめき、周囲の建物を粉砕しながら、男神達を絡め取っている。

『怪獣大決戦の映画みたいね』

アリサが眷属通信で暢気な感想を呟く。

それに答えている余裕はない。今はわりと危機的状況だ。

黒ヘドロ被害は触手だけではなく、溢れて広がった黒ヘドロが、建物や植物をセーリュー市の迷宮出口と同様に魔界化していく。

せっかく「 神話封獄(ミソロジー・ジェイル) 」で魔界と人界を隔離したのに、神々が再び世界を繋げてしまったらしい。実に迷惑だ。

――「 異界(アナザーワールド) 」。

神々や黒ヘドロには干渉できなかったので、ピアロォーク王国の人々や獣をこの国を複写した異界へと転送する。

大幅に魔力を使ってしまったが、人的被害はこれで大丈夫だろう。

「にゅ!」

「ご主人様! 触手のヒトがぐぐぐ~って力を溜めているのです!」

「ポチ、リュリュを王都上空から離れさせなさい!」

獣娘達の声が重なる。

それとほぼ同時に、圧縮した黒ヘドロが周囲に飛び散った。

とっさに空間魔法系の結界で対応したが、無人の王都上空に黒ヘドロが撒き散らされるのを防ぐ事はできなかった。

「何かいっぱい出てきたのです」

「魔族と違う~?」

「ああ、あれは使徒みたいだね」

黒ヘドロで淀んでいるが、鼬帝国に現れた使徒達とそっくりだ。

『離れろ! 魔神の悪意よ!』

『ええいっ、パリオンを救出できぬどころか、この体たらくとは! 神々の首座などと偉そうに口にしていてもこの程度か!』

『黙れ、ザイクーオン! 一番に突撃して敵の大攻勢を誘発した貴様が言う事ではないわ! その程度の事がなぜ分からん!』

神々が喧嘩している背後では、今も黒ヘドロが噴き上がっていた。

早めに結界で修復しよう。

オレは魔力を再チャージしてから、メニューの魔法欄を開いた。

―― 神話封獄(ミソロジー・ジェイル) 。

前回と同様に魔界との融合点を切り離し、魔界からの噴出口を封鎖する。

『穢れが! 穢れが我が神体を――』

『ぬおおおっ、離れろヘラルオン! 我が身に穢れが移る。なんとかしろ、ガルレオン』

『貴様こそ離れるがいい! 私にまで穢れが――』

黒ヘドロに絡みつかれた神々が悪戦苦闘している。

――邪魔だな。

神々がいるせいで黒ヘドロに対神魔法が使えない。

ここで使ったら、神々まで巻き込みそうだ。

「にゅ!」

「ご主人様、使徒が!」

黒く淀んだ使徒達がリザや下級竜のリュリュに乗ったポチ達に襲いかかってきた。

「ポチ達は敵じゃないのですよ!」

――LYURYURYUUU。

ポチやリュリュの言葉など聞く耳は持たぬとばかりに攻撃してくる。

このままだとマズい。

――ユニット配置。

オレは獣娘達やリュリュを連れて、結界の外にユニット配置する。

『ご主人様、たいへん! 魔界が広がっている!』

眷属通信越しに届いたアリサの叫びに、周囲のイメージが重なる。

オレが 神話封獄(ミソロジー・ジェイル) で塞いだはずの結界が歪み、人界のそこかしこに魔界が噴出していた。

どうやら、本格的にヤバイ状況のようだ。

まったく、デスマーチ中のデバッグ作業じゃあるまいし、次々に問題が噴出するのは止めてほしいね。