軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-33.世界の危機(3)

サトゥーです。天使と悪魔、帝釈天と阿修羅、神魔の対立は 古(いにしえ) より物語のモチーフとして用いられてきました。善と悪という分かり易い対比が朴訥な人々に受けたのでしょう。

「ご主人様、魔族です! 武装換装――対魔加速砲、準備」

『アイアイマム、アクセラレーション・バスターランチャー、スタンバイ』

上空に現れた魔族の軍勢を視認したルルが、黄金鎧のサポートAIに装備の換装を指示した。

魔族達は地上を睥睨すると、一瞬だけ戸惑った様子を見せた後、急降下攻撃の姿勢を取る。

――あれ?

「狙い、撃――」

「ルル、待って」

オレはトリガーを絞り込もうとしたルルを、彼女の髪の影から顔を出した小分身に止めさせる。

「――ご主人様?」

「よく見て」

「ああっ、魔族が!」

視線の先で魔族が急降下攻撃で地上を強襲する。

「どうして尖兵達を?」

そう、魔族の狙いはオレ達や外壁にいる兵士達ではなく、紫塔から溢れ出た尖兵達だったのだ。

もっとも、ほとんどの尖兵達はルルが倒した後だったので、瞬く間に尖兵達の殲滅が終わった。

拍子抜けだったのか、魔族達は周囲を見回し、尖兵が他にいないか探している。

「魔族達が倒してくれたのか?」

「そんなわけない。次は俺達に決まってる」

「あの邪悪な姿を見ろ!」

魔族の予想外の行動に、壁上の兵士達も驚きを隠せないようだ。

もっとも、魔族が味方してくれたと考える者は少数派らしい。

「ご主人様、魔族の人達は味方をしてくれたのでしょうか?」

「それはないと思うよ」

今まで見た魔族を思い出す限り、味方をしたとしても善意からでないのは間違いない。

『ご主人様、上空に現れた魔族が紫塔の周辺で尖兵を狩り出したわ』

『マスター、こちらもだと報告します』

『ご主人様、こちらに現れた魔族は、掃討の終わった後の紫塔周辺で何をするでもなく徘徊しているようです』

『同じ』

『魔族のヒトに負けないのです! あれはポチのエモノなのですよ!』

『タマも負けない~?』

どうやら、世界各地の紫塔周辺に魔族が現れて、塔から溢れた尖兵達を掃討しているらしい。

「ご主人様! 空に!」

ルルが空を指し示す。

聖母のような女性の姿が空に投影されている。

神々でも魔神でもない。

『地上に暮らす愛しき子らよ』

慈愛に満ちた声が空に響く。

壁の上にいる兵士達が、魔族の事も忘れて聖母の姿に見入る。

その様子があまりに熱狂的に見えたので、兵士達を鑑定してみたら、レベルが低めの兵士達が何割か魅了状態になっていた。

ルルは黄金鎧があるから大丈夫だろうけど、このまま放置するとヤバそうだ。

今進めている計画を中断して、本体で魅了を解除して回った方がいいかもしれない。

『紫塔――「試練の塔」に介入し、試練の魔物達を塔の外に溢れさせたのは、魔神様への信仰を失墜させようとする神々の陰謀です』

あの聖母は魔神の眷属らしい。

魔神が自分自身で主張しないのは、プロパガンダ放送さえできないほど弱っているという証左だろうか?

先ほどの魅了がなかったら、ちょっとは耳を傾けたかもしれないが、さすがに今回の事件は魔神が黒幕だろう。

『パリオン神を除く「七柱の神々」を信じてはなりませ――』

『民草よ! 魔神の謀略に騙されるでないぞ!』

聖母の声を、威厳のある声が遮った。

聖母に相対する位置に、橙色の光で作られた美丈夫のシルエットが現れた。ヘラルオン神だ。

橙色の光に照らされると、聖母の姿が歪み、女性的なフォルムをした金属質の魔族の姿へと変わる。

それと同時に、兵士達の魅了状態が解除された。

ヘラルオン神もたまには良い事をしてくれるようだ。

『魔神の狙いは我らへの信仰を失墜させ、この世界を自らの手に収める事だ』

『人々よ! 貴様らの生みの親たる我らを信じよ! 地を這う貴様らにできる事はそれだけだ! 魔神なぞ、戦神ガルレオン様が滅ぼしてくれるわ!』

『違うぞ、ガルレオン! 魔神を滅ぼすのは、このザイクーオン様だ!』

ヘラルオン神の声に続いて、ガルレオン神やザイクーオンの声が響いた。

珍しくヘラルオン神がまともに神様しているのに、この二柱の神々のせいで台無しだ。

『ヘラルオン、広域神託システムがガルレオンやザイクーオンの声を拡散している。この不具合はすぐに訂正するべき。カリオンも言っている』

『言ってない。でも、訂正には同意する』

ぐだぐだな放送だと思ったら、広域神託システムとやらがバグっていたようだ。

すぐに神々の声が消え、橙色の光が脈動を緩める。

『 人々(ヒドビト) ヨ。愚神ニ騙サレテハ、イケマセン』

魔族聖母の姿に相応しい、おどろおどろしい声がびりびりと身体を揺らす。

先ほどまでと違い、壁上の兵士達は魔族聖母の姿や声に怯え、弓や槍をそちらに向けている。

『人々ノ事ヲ、真ニ想ウノハ、魔神様ト、ぱりおん神ノ二柱ノミ』

――パリオン神も魔神の陣営なのかな?

『魔神の手先よ! 神々の首座、ヘラルオンの名の下に命じる! この世界より退去し、魔界へと疾く去りゆけ!』

目映い橙色の閃光を受けて、魔族聖母の姿がどろどろと溶けていく。

『人々ヨ。愚神ノ奸計ヲ、信ジテハ――』

言葉の途中で魔族聖母の姿が消え去った。

『民草よ。ヒトの世はお前達の手で治めるのが理ではあるが、此度は特別に奇跡を授けよう』

ヘラルオン神の光が瞬くと、その場に幾何学模様の使徒が現れた。

その数はあまり多くないが、輪郭の色が異なる六種の使徒達が魔族へと襲いかかる。

神力が不足気味の神々とは思えない大盤振る舞いだ。

きっと、ここで神々は人々の味方だと印象付けて、信仰心の回復を促したいのだろう。

「頑張れ、使徒様!」

「魔族なんて潰しちまえ!」

壁上の兵士達が使徒を応援する。

この反応を見る限り、神々の思惑は当たった感じだ。

もっとも、使徒が出てこなくても魔族が尖兵達を殲滅したら勝手に引き上げたと思うんだけどね。

「ご主人様、どうしましょう?」

「兵士達が危なくならない限りスルーでいいよ」

オレはルルにそう告げ、小分身の意識を切り替えて仲間達の状況を確認する。

「使徒の攻撃は魔族への特攻があるようだと分析します」

ナナのいる場所では、使徒が優勢のようだ。

「なんだか、よく分からないのです。リュリュ、ポチはどの子と戦ったらいいのです?」

――LYURYURYUUU。

ポチのいる場所では、紫塔から今も溢れている尖兵と魔族と使徒が三つ巴の戦いを繰り広げていた。

ポチは尖兵を倒すのか魔族を倒すのか迷っているようだ。

使徒はリュリュの姿を見るなり逃げていくので、攻撃対象にはならないらしい。

「タマは白衣の天使さん~?」

タマのいる場所もポチと同様に、三つ巴の戦いを繰り広げていたが、ちょっと様子が違う。

ピンクマントの猫忍者は黄金鎧姿のまま、尖塔の天辺に鎮座して微動だにしていないのだが、中のヒトは白衣の天使コスプレで、尖兵との戦いで傷付いた人達を魔法薬で癒やして回っていた。

「使徒は歯ごたえがありません。馬鹿正直に正面から突撃してくるだけとは……。魔族のように油断ならない隠し技や騙し討ちをしないようでは練習相手にもならないようです」

リザは使徒の存在を無視して魔族を狩っていたようだが、誤って攻撃してきた使徒に反撃して倒してしまっていたようだ。

まあ、使徒は自動機械的なモノみたいだし、正当防衛だよね。

「むぅ、弱い」

ミーアのいる戦場では使徒が敗北し、魔族が勝ち鬨を上げていた。

外壁の前にはミーアが召喚したベヒモスが鎮座し、魔族の動向を警戒している。

「ご主人様、こっちは両方壊滅よ」

アリサが担当する戦場には魔族も使徒も尖兵も生き残っていなかった。

全てを討伐したわけではなさそうだが、その多くはアリサが設置した 奈落罠(ボーテックス・トラップ) に飲み込まれて次元の彼方に放逐されてしまったようだ。

「使徒や魔族が現れたのは人口密集地だけか……」

「はい、この辺りは尖兵の暴走が続いているようです」

セーリュー市での任務を終えたゼナさんが、領軍に先行してカイノナの街や村落を調査した結果を教えてくれた。

他の仲間達にもその情報を共有し、魔族や使徒がいない場所を中心にスタンピードの解消を進めてもらう事にした。

『サトゥーさん』

セーラが彼女に付けた小分身に話しかけた。

オレは意識をそちらに切り替える。

「どうしました、セーラさん?」

「プタの街に魔神の眷属が現れました」

「プタの街に?」

「はい、錬金術店を粉砕した後、逃亡したそうです」

「その錬金術店の人は?」

「最近サガ帝国から移り住んだという錬金術士の若夫婦が住んでいたそうなんですが、魔神の眷属がいなくなった後にその二人も姿を消したそうです」

――サガ帝国から移り住んだという錬金術士の若夫婦。

微妙に思い当たる人物像だ。

「拉致されたんでしょうか?」

「いいえ、一部始終を目撃していたケナという魔狩人の話だと、眷属を撃退した後に奥方の魔法で転移したそうです」

転移か……やはり、軍師トウヤと転移のユニークスキルを持つ地味顔転生者の二人の可能性が高い。

マーカー一覧によると、今はサガ帝国にある旧アジトの一つに身を潜ませているようだ。

あそこにはユイカの結界があったはずだから、魔神の眷属達に嗅ぎつけられる心配も少ないだろう。

「あぅ、あ――くぅ」

セーラが胸を押さえて苦悶の声を上げる。

彼女の周りに淡い緑色の光が瞬いているが、状況から考えてテニオン神から貸与されたユニークスキルを使ったわけではないはずだ。

苦悶の顔はすぐに和らぎ、セーラは汗に濡れた顔でオレの小分身を見上げる。

「サトゥーさん、テニオン神からの神託がありました」

さっきのはテニオン神からの神託を受信していた影響との事だ。

いつもとは違う感じだったのは、ユニークスキルの基になる「神の欠片」を共振させて、無理矢理高密度の情報を送り込まれた為だったらしい。

「どんな神託だったのですか?」

「はい、厳重に梱包された荷物みたいな感じで、紐解くのに少し時間がかかります」

セーラはそう言って目を閉じる。

「サ、サトゥーさん、大変です!」

くわっと目を見開いたセーラが小分身を抱きしめながら訴える。

「神々の園の奥深くに保管されていた神力の結晶『白天威輝晶』を魔神に強奪されてしまったそうです」

「――神力の結晶を?」

それはまずい。

この世界を外敵の目から逸らす結界を維持するのも、神力が必要だったはずだ。

「梱包された情報の中に、テニオン神からサトゥーさんへの依頼がありました。魔界に赴き、魔神から白天威輝晶を奪い返してほしいそうです」

これはまた、とんでもない無茶振りだ。