作品タイトル不明
17-25.魔神(2)
サトゥーです。一昔前のアイドル漫画だと、テレビに映るアイドルに後ろから話しかけられて、テレビと本人を何度も見比べて驚くシーンがよくありました。ベタだけど、ああいう演出って好きなんですよね。
◇
『わかった! すぐ行く!』
王都にいるアリサから、「空に魔神が現れた」という報告を受けたオレは、アイコンタクトでテニオン神の了承を受けた後、 空間魔法の転移(・・・・・・・) で、アリサの所に急行した。
転移後、周囲を見回す。
大丈夫、アリサ達に怪我はない。
ほっと一息吐き、現在地を把握し直す。
ここは王都にあるミツクニ公爵邸の庭に置かれた軽空母の艦橋らしい。
艦橋の窓から外を見上げると、空中に魔神らしき姿が投影されていた。
アリサが眷属通信で「これで勝ったわね」なんてフラグっぽい呟きを漏らしていたが、無意識っぽかったのでスルーしておく。
『もう一度、繰り返そう』
――神代語?
『無慈悲な神々は君達を滅ぼす事にしたようだ。私は君達を破滅から救うため、持つ力の全てを賭けて悪神達に抗うつもりだ。もし、君達が滅びを望まないなら七柱の神々に祈るな。共に戦う事を選ぶなら、塔に向かえ。我が加護を君達に与えよう』
周りを見ると、仲間達は魔神の言っている事を理解している顔だ。
「アリサ、翻訳指輪は?」
「黄金鎧の隠しに入っているけど、出す?」
オレはアリサに必要ないと返す。
どうやら、魔神は声が届いた相手全員に言葉を理解させる魔法か権能を使っているらしい。
「加護、貰お~?」
「そうです。皆で塔に向かいましょう」
タマとシスティーナ王女が変な事を言い出した。
「タマ、どうしたのです?」
「兜」
「ポチ、タマに兜を! ナナはティナ様のベールを!」
ポチとナナが行動する間に、オレも精神魔法の「 精神操作抵抗(レジスト・マインドコントロール) 」を仲間達に掛ける。
「もしかして、精神操作?」
「ああ、たぶんね」
マップを確認しつつ、アリサに首肯する。
何千人もの王都の人達が塔に向けて移動を始めていた。レベルが高いタマや王女を精神支配できたわりに、一般人の洗脳数が少ない。
なんらかの条件があるのか気になるところだが、今は優先すべき事がある。
「ご主人様」
「分かってる」
オレはストレージから世界樹の 晶枝(エメラルド・ブランチ) で作った杖を取り出す。
ここは術理魔法の禁呪である「 神威崩魔陣(ディバイン・ディストラクション) 」ではなく、精神魔法の禁呪である「 群衆支配(ドミネート・マス・サイコロジー) 」を使う。
元々は独裁者が自国民を洗脳する為に作らせた最悪の魔法だ。
――魔神に騙されるな。
オレは魔法を介して人々に訴える。
マップ上の光点が動きを改めた。
周りを見ると、精神魔法対策を施した兜やベールを装備しても、タマとシスティーナ王女はしばらく落ち着かない様子だったが、オレの禁呪を受けて落ち着きを取り戻していた。
タマとポチがひしっと抱き合い、王女がミーアから「未熟」と叱られている。
まあ、相手が魔神じゃしかたないと思う。
さて、ユニット配置で世界中を回りますか――。
◇
世界一周を終えて戻ると、仲間達は公爵邸の庭に場所を移していた。
軽空母の艦橋だと、視界が狭いからだろう。
『――神の軍勢が来たようだ』
魔神が空を見上げて呟くのが聞こえた。
空が割れ、その境目から、天使――というか白い光に輪っかが付いた球体が現れる。
「やばっ、地上に攻撃するみたい――」
「大丈夫だ。ここに実体はない」
どこかの映像を投影しているんだと思うけど、世界中を回っても魔神の本体は見つけられなかった。
球体天使が放つ攻撃魔法を、紫色の巨大な障壁が防いだ。
なかなか大迫力の映像で、思わず腰が引ける。4DXの映画みたいに、映像に合わせた熱風が吹き荒れ建物を揺らした。
普通の人なら、この映像を現実だと勘違いしそうだ。
『魔族よ! 世界を守れ!』
魔神の周囲に魔法陣が現れ、魔族の軍勢が魔法陣から這い出してくる。
「あれも、映像よね?」
「ああ、たぶん」
魔神が作り出した異界あたりで撮影しているんじゃないかと思う。
ひび割れから、橙色と蒼色の鮮烈な光が溢れだした。
『この痴れ者め!』
『神々の名を騙るとは、恥を知れ!』
おおっと神々の直接対決らしい。
ヘラルオン神が橙色の稲妻を、ガルレオン神が三日月型をした蒼色の刃を、それぞれ放った。
ザイクーオン神が放った黄色い極太ビームにも匹敵する迫力を感じる。
地上へと迫るそれを、魔神の積層防御障壁が防ぎ切った。
わずかに外へ漏れた余波が、遠くの山々や田畑を粉砕するのが映し出された。
『地上に暮らす者達を傷付ける事に躊躇せぬとは、それでも神か!』
『盗神の分際で神を語るか』
『貴様のような輩がいるから信心が乱れると何故分からん!』
神々の喧嘩を聞き流しつつ、オレはアリサから魔神の演説内容をかいつまんで教えてもらう。
色々と突っ込みたい事はあるが、それよりも――。
「なぜ、このタイミングで?」
神を告発するにしても、もう少し良いタイミングがあったはずだ。
『ザイクーオンの愚か者が不甲斐ないせいだ』
その声は上空から降り注ぐ神の声に酷似していた。
◇
「――魔神」
そこにいたのは悪魔の仮面を被った魔神だった。
『様を付けろ! 頭頂が寂しくなる呪いを掛けるぞお』
『そうだそうだ! 敬え! 腰痛に苦しむ呪いを掛けるぞお』
魔神のまわりに紫の大鎌を担いだピンク髪の幼女達が現れた。
それを見た仲間達が臨戦態勢に移る。そのまま王都のど真ん中で戦闘を開始されても困るので、「指示を待て」と手信号を送り、魔神の前に一歩踏み出す。
『神々と対峙中では?』
ここに来る前に神々と会った感じからして、上空に投影されているのは録画放送じゃないはずだ。
『神は遍在する。あれは分け御霊の一つだ』
魔神がこちらに一歩踏み出す。
『なんの御用でこちらに?』
『当ててみろ』
神との対決を分霊に任せてまでここに来た理由を尋ねたのだが、あっさりとはぐらかされてしまった。
さっき魔神が現れた時に「ザイクーオンの愚か者が不甲斐ないせいだ」と言っていたはず。
『もしかして恨み言を仰りに?』
魔神がフンッと鼻で笑う。
当たらずといえども遠からずって感じかな?
『禁断の力を与えられ暴走したザイクーオン神が 勇者ナナシ(わたし) を倒し、その余勢を駆って地上の国を滅ぼしたところで介入する予定だったとか?』
魔神に変化はないが、まわりのピンク髪の幼女達がニマニマと笑う。
『はずれー』
『介入するのは 主(あるじ) 様じゃないもん』
『暴走する ザイクーオン(バカ神) に神々をぶつけるの』
『互いに消耗したところをギョフ・リーするんだよね』
幼女達が姦しい。
ギョフ・リーとは「漁夫の利」あたりの覚え間違えかな?
まあ、そんな事はどうでもいい。
幼女達の発言からして、ザイクーオン神と神々をぶつけて消耗させるつもりが、オレがさっくりと阻止してしまったせいで、魔神の計画が潰れたって事かな?
世界中の人々を洗脳して帰依させる作戦もオレが阻止してしまったし、魔神に恨まれてもしかたないのかもしれない。逆恨みもいいところだけどさ。
「やっぱ、恨み言を言いにきたんじゃない」
アリサの呟きに魔神の視線が向く。
オレはその視線から守るように、縮地でアリサの前へと移動した。
『ずいぶんと狭量に思われているようだ』
魔神が不快そうに呟く。
『今日の目的は貴様だ』
魔神がオレを指さす。
「神と言えど、ご主人様を害する事は許しません」
決死の形相でリザが竜槍を構え、タマとポチも竜牙剣を手にオレを守る位置に立つ。
ナナは後期型「 不落城(キャッスル) 」モードを発動し、後衛陣も杖や銃を励起状態へと移行させていた。
それを見たピンク髪幼女達が大鎌をジャキンと戦闘態勢に変形させる。
『控えろ』
魔神の一言で、ピンク髪幼女達が戦闘態勢を解除する。
AR表示されるログに目をやると、「 強制(ギアス) 」をレジストしたと表示されていた。
まあ、神様だし、そのくらいの力は普通にあるか……。
『ふむ、神の言葉に抗うか』
魔神がオレや仲間達を興味深そうに眺める。
仲間達は戦闘態勢こそ解除していないものの、精神的な重圧に曝されている感じだ。
黄金鎧や白銀鎧には精神魔法を阻害する機能があるが、神の使うギアスを完全に振り払う事はできないらしい。
『面白い』
魔神からの重圧が消えた。
それと入れ替わりに、手加減された殺気がオレ達に叩き付けられる。
「 竜翼牙突貫(ドラゴニック・アクセラレーション) なのです!」
「 竜刃喰牙(ドラゴニック・イーター) ~?」
「 竜槍貫牙(ドラゴニック・ペネトレイター) !!」
獣娘達が殺気に反応して魔神に殺到する。
ポチが黄金鎧の発生させた加速陣を突き抜けて超加速し、無数に分身した忍者タマが魔神を包み込むように襲う。
強化外装の装着にコンマ一秒遅れたリザが、ポチに倍する速度で魔神へ突撃した。
オレは獣娘達を庇うべく縮地を――。
眼前に白刃が現れた。ストレージから出した聖剣で弾く。剣身が砕けた。まずい。縮地で回避。掠めた白刃は自在剣のよう。ナナシ装備を紙のように切り裂いた。危険。あれは竜破剣。狗頭が言っていたヤツだ。
久々に思考が加速する。
まだオレを追ってくる竜破剣を、改良型の自在剣や自作の聖剣で逸らしつつ、仲間達のフォローをすべく意識を向ける。
ポチやタマの竜牙剣とリザの竜槍が魔神の前に現れた盾に防がれている。
「『全てを貫く』竜槍が防がれた?!」
「そんなの反則なのです!」
「あんびりーばぼ~?」
――いや、貫いている。
竜槍や竜牙剣が盾を貫くたびに、次々に新しい層が現れ続けているようだ。
あれが狗頭が言っていた神舞装甲に違いない。
「あうち~」
タマの分身の何体かが盾の隙間から内側に滑り込もうとしたが、いつの間にか現れた別の盾に撥ね飛ばされていた。
「 積層巨盾(ジャイアント・シールド) 」
「 超隔絶壁(ハイパー・デラシネーター) 」
ヒカルとアリサの防御魔法が、オレと竜破剣の間に現れたが一瞬も耐える事なく貫かれて消えた。
「狙い――撃ちます!」
ルルが竜破剣の軌道を逸らそうと加速銃で竜破剣の刀身を狙ったが、刀身に届く寸前で弾丸が砕け散った。
「マスターは傷付けさせないと告げます」
固定式のキャッスルから機動力のある 御座(アブソリュート・スローン) に切り替えたナナが割り込んだ。
「エマージェンシー、御座が砕かれたと報告します」
ナナがすぐさま使い捨ての防御盾ファランクスを次々に起動するが、大した抵抗もできずに砕かれていく。
このままではナナが竜破剣に貫かれてしまう。
ならば――。
オレはユニット配置でナナと場所を入れ替え、準備していた奥の手の一つを使う。
『竜破剣だと?!』
オレは偽王シン少年から得た禁呪「 竜破剣(ドラゴン・スレイヤー) 」で生み出された魔法剣で、魔神の竜破剣を打ち払う。
オレの出した竜破剣の方が弱い。
魔神の竜破剣を弾き飛ばす事はできたが、その代償にオレの竜破剣は砕けてしまった。
残念ながら神舞装甲の魔法は知らない。カリオン神に貰った「叡智の書カリセフェル」にも、魔神由来の竜破剣や神舞装甲の魔法は載っていなかったからだ。
『「 魔術の司(マスター・ウィザード) 」持ちから学んだか……』
魔神が正解を言い当てる。
竜破剣が魔神の傍らに帰還し、姿を消した。
同時に、神舞装甲を突破しようと頑張っていた獣娘達を、衝撃波のようなモノが後方へ吹き飛ばした。
『ヒトは順調に成長しているようだ』
魔神が満足そうに呟くと、ピンク髪の幼女達が彼の傍らに戻る。
幼女達は白銀メンバーを牽制していたらしい。
『さて、力量差は把握できたか?』
魔神の言葉に首肯する。
竜破剣一つ取ってみても、現時点で魔神がオレの上位互換なのは間違いない。
だが、対抗手段はある。
魔神が使う竜破剣や神舞装甲は強力だが、神剣ならなんとかできる気がする。
だが、神剣だけに頼るのは悪手だ。神剣を奪われたら、対抗手段がなくなってしまう。何か 武器以外(・・・・) にも対抗手段が必要だろう。
魔神を人里離れた場所に誘い出せば、流星雨や対神魔法もあるしね。
『では本題に戻ろう』
そう言いながら、魔神が悪魔の仮面を脱ぎ去る。
仮面の下から現れたのは――。