軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-23.杞憂(3)

サトゥーです。 道化(ピエロ) というのは人を楽しませるのが本来の姿だと思います。それが愚者を意味し、嘲笑を向けるべき相手になったのはいつからなんでしょうね?

『ぐおおおおおおおおおおおお』

黒ヘドロの投網に包み込まれたザイクーオンが暴れる。

弾力性があるのか、黒ヘドロの膜が破れる事はない。

やがて、ザイクーオン神が黒ヘドロの中に沈んだ。

『ばっかでー』

『あれが 主(あるじ) なんて情けない』

『死んだかな?』

ニンフ達が黒ヘドロの上を、ふよふよと周回する。

黒ヘドロが内側からポコポコと沸き上がり始めた。

興味を引かれたニンフ達が寄っていくと、凄まじい勢いで黒ヘドロが噴き上がった。

ニンフ達が慌てて逃げていく。

このままだと周囲が汚染されてしまうので、落ちていた黄金杯で黒ヘドロを受けとめて全回収した。そのまま結界で厳重に囲って、使ってない異界の一つに隔離する。

『ぐっはああああああああああああ』

黒ヘドロが散った場所にはザイクーオン神が立っていた。

ちょっとイメージチェンジしたのか、裸の上半身や顔に黒い 入れ墨(タトゥー) が浮かび上がっている。

ザイクーオン神の黄色い光から神々しさが失われて淀んだ感じだ。特に黄色い光の最外縁が黒く変色している。

その瞳は赤黒い光を帯びていた。

黒ヘドロに汚染されたニンフ達と同じだ。

『これが、禁断の、力か……』

ザイクーオン神が咳き込みながら呟く。

『……この全能感、悪くない』

見た感じ、どの程度強くなったのかは分からないが、さっきザイクーオン神を囲んでボコボコにしていたニンフ達が、ギロリとザイクーオン神に睨まれて震え上がっている。

『『『我らが 主(あるじ) 様』』』

『『『我らの忠誠はあなた様の下に』』』

どうやら、ニンフ達はザイクーオン神の傘下に戻る気のようだ。

もっとも、その主の方にはその気が無いようで――。

『ぎにゃああああああああ』

ザイクーオン神の腕が伸び、ニンフの一つを掴んで握りつぶした。

『 主様(あるじ) 、ご乱心~』

『殺されるぅうううううう』

算を乱して逃げ出すニンフを、ザイクーオン神はさっきまでとは一線を画す速度で追い回し、瞬く間にニンフ達を乱獲していった。

「――オーラが変化している?」

ザイクーオン神の黄色い光が、ニンフを狩るたびに黒みを帯びて広がっている。

そのたびにザイクーオン神が強くなっているのは間違いないが、強化というよりは汚染度が上がっている感じだ。

ニンフ達を汚染していた黒ヘドロが、ザイクーオン神に移動したのだろう。

『次はお前だ』

ザイクーオン神がオレに向かって攻撃してくる。

距離があろうと関係なく、一瞬で目前まで接近してきた。

咄嗟に発動した魔力鎧でザイクーオン神の攻撃を受け止める。

――攻撃が速く、そして何より重い。

攻撃を受けた魔力鎧にザイクーオン神と同じ入れ墨が侵蝕してくるのが見えた。

オレはユニット配置で距離を取り、魔力鎧を破棄する。

『愚か!』

オレが魔力鎧を破棄したタイミングを狙ってザイクーオン神が攻撃してきた。

再展開は間に合ったが、打撃の慣性をキャンセルする事まではできずに、吹き飛ばされ山の中腹にめり込んで、巨大なクレーターを作ってしまった。ちょっと痛い。

『ザイ、ザイ、ザイ、ザイィイイイイイイイイ』

あれはかけ声なのだろうか?

ザイクーオン神の飽和魔法攻撃がオレめがけて降ってきた。

一撃一撃に上級魔法や禁呪並みの破壊力を感じる。

攻撃魔法が山を抉り、地形を変えていく。

『くは、くは、くははははははは』

空に浮かんだまま、ザイクーオン神が哄笑する。

勝ち誇る彼には悪いが、最初の着弾と同時にユニット配置で逃げて、魔素迷彩で潜伏中だ。

『――逃げたか』

おっと、脱出したのに気付かれたようだ。

『ならば、ヤツの国を滅ぼして炙り出してやる』

神様とは思えない発言だ。

本当に実行しそうなので、オレは魔素迷彩を解除して姿を現す。

『ふん、早くも炙り出されたか』

『むやみに人を殺さないんじゃなかったのか?』

敬語を忘れてしまったが、まあいいだろう。

もはや表面を取り繕う気も失せた。

『この強大な力があれば、神力源が多少減ろうと問題ない。人など放置すれば勝手に増えるものだ』

うん、それは身の丈に合わない力に溺れたヤツが言うセリフだ。

『……そうか。そうだ。人など増える。なぜ遠慮していたのだ。ニンフほどではなくとも国単位で滅ぼせば、我は命を糧にもっと強くなる』

『何を言っている?』

ザイクーオン神が熱に浮かされたように危ない発言を始めた。

『我が強くなれば外敵を滅ぼせる。まやかしで誤魔化す必要などない。我こそが神々の首座に相応しい。強くならねば。……強く、もっと強く、その為には世界に――≪滅び≫を』

ザイクーオン神のオーラが漆黒へと変わる。

さっきの聖句といい、漆黒のオーラといい、オレの持つ神剣のようだ。

ザイクーオン神の周囲の大地が急速に砂漠化していく。

さて、あまり様子見をしている場合じゃなさそうだ。

そろそろ決断をする時なのかもしれない。

『地上に蔓延る命を刈る。――まずは貴様だ』

ザイクーオン神が赤黒く染まった目で、オレを睨め付ける。ニンフと同じような感じだ。

ちょっと目を覚ましてもらおう。

こういう時はショック療法だ。

『 神話崩壊:劣(レッサー・ミソロジー・ダウン) 』

『ぐおおおおおおおおお』

対魔王用に劣化させた神話崩壊を、加減してザイクーオン神に撃ち込んでみた。

見た目は派手だが、神々を倒すのに必要な複数次元への浸透効果を弱めてあるので、 不死身(イモータル) な存在には効果が薄い。

クレーター状の大地の底でぴくぴくしているが、ちゃんと生存しているようだ。

ザイクーオン神を覆っていた漆黒のオーラが吹き飛び、体表が暗黄色を取り戻していた。

もっとも、それは 一時(ひととき) だけで、すぐに漆黒のオーラがザイクーオン神を覆う。

『さ、最強、至高の神たる我に、不敬であるぞ』

『はいはい』

劣化版なら手加減して使えばザイクーオン神が死ぬ事はなさそうだ。

オレは適当に相槌を打ちながら、「神話崩壊:劣」をタイミング良く撃ち込んでいく。

『我は』

立ち上がろうとしたザイクーオン神が地面にめり込む。

劣化版でも神話崩壊を喰らった直後は、動きが緩慢なようだ。

発動タイムラグがほとんどないのも理由だろうけど、面白いように命中する。

『最強』

最強らしいので、もう少し強めに行こう。

『無敵』

無敵なら、撃ち込むペースを増やしても大丈夫かな?

数発で魔力が枯渇するので、魔力バッテリーから補充しつつ作業を繰り返す。

なかなか、しぶとい。

いや、さすがは神と言うべきか。

これだけ喰らっても戦意を失わないとは。ちょっと面倒になってきたし、普通の神話崩壊でもいいんじゃないかと思う。

さすがにそれだと死んでしまうかな?

漆黒のオーラはかなり剥がれたので、良しとしよう。

ダメならムクロから教わった対神封印魔法で封じるくらいしか手が残っていないが、あれは虚空の外敵に対する結界維持の観点から考えると、殺すのと大差ないんだよね。

殺してしまうのは趣味じゃないから、他に手がない時は封印を選ぶだろうけどさ。

『……わ、れ……し、こ、う……』

おっと、まだ元気があるみたいだ。

先ほどと同じ攻撃を、もう1セットほど繰り返してみよう。

ザイクーオン神が何か言っていたが、2セット目が終わる頃には途切れた。

しばらく観察していると、ピクリと指が動く。

『……けっして……ゆるさぬ……ちじょうに……ほろび、を……』

心を折るどころか、復讐心を煽る結果に終わったようだ。

しかたない。

劣化版じゃない方の「 神話崩壊(ミソロジー・ダウン) 」で危機感を持ってもらおう。

間違って殺してしまわないように、可能な限り威力を弱めて――。

『くぉろぉしぃてぇやぁるぅうううううううううう』

ボロボロのザイクーオン神が、獣のように襲ってきた。

―― 神話崩壊(ミソロジー・ダウン) 。

先ほどまでの紛い物とは比べ物にならない、痛いほどの閃光と魂を揺さぶるほどの震動が、大地を、空を、遍く蹂躙した。

大地は大きく抉れ、吹き上げられた土砂が黒く分厚い雲を作る。

暗雲は渦を巻き、吹きすさぶ風が大地に残った瓦礫を吹き飛ばす。

「ちょっと、やり過ぎたかな?」

流星雨よりは遥かに被害が少ないが、普通の禁呪以上の破壊力だ。

――マジか。

抉れた大地の底に、ザイクーオン神がいた。

「――朱色の結界?」

朱色の光でできた結界がザイクーオン神を守っていた。

それも一回守るのが限界だったのか、見ているうちにヒビ割れが大きくなる。

『待って』

『そう、君は待つべき。カリオンもそう言っている』

『ウリオンも働く。神理盾でも次は防げない』

『それは驚き』

藍色の光を帯びた少女と、朱色の光を帯びた小柄な少女が現れた。

会話からしてウリオン神とカリオン神だろう。

光が強すぎて、いずれもシルエットしか見えない。

『禁忌の力に手を出したあげく、人族にいいようにされるとは……』

『まったく、我ら神族の面汚しだ』

さらに橙色と蒼色の光を帯びたヒト型の偉丈夫が現れる。

今度はヘラルオン神とガルレオン神に違いない。

『お待たせしました』

緑色の光を帯びた女性らしいシルエットが現れた。

これはテニオン神だろう。

『カリオンとウリオンはザイクーオンを神理檻に収監して。浄化はヘラルオンとガルレオンに任せていいかしら』

首肯する神々を確認したテニオン神が、オレの方に向きなおる。

『ごめんなさい。ヘラルオンに代わって謝罪するわ』

オレに謝られても困る。

『謝罪なら、ボルエナンの森の聖樹、アイアリーゼ様にお願いします』

『ええ、もちろんよ』

なら、謝罪を受け入れてもいいか。

『次は神理盾を砕いたのをぶち込んでやればいい。カリオンもそう言っている』

『言ってない。でも、ザイクーオンは一度身の程を知るべき』

ウリオン神とカリオン神が物騒な事を言う。

温和なテニオン神もそれを否定しないという事は、今度またザイクーオン神がやんちゃをしたら、問答無用で「神話崩壊」を叩き込んでいいという事だろう。

『でも、間違わないで。本当の敵は他にいます』

『――本当の敵?』

彼女が言外に言いたいのが誰の事かは分かるが、それはオレじゃなくて彼ら神々の敵ではなかろうか?

『その名を私達が口にしても貴方は信じないでしょう。だから、貴方が信じる相手に伝えさせましょう』

テニオン神が天に手を差し伸べると、遠くの方で何かが軋んだ気配がした。

『ザイクーオンが私達の目を逃れるために、世界の外側から張った結界です』

彼女がそう言って手を振り下ろすと、軋んでいた結界が砕けるのが分かった。

世界の外側には何度か出た事があるが、あんな不安定な場所に結界を張るとは、神々も意外と侮れないかもしれない。

『さあ、そろそろ届くはずです』

テニオン神がそう告げるのと同時に、耳元にアリサの声が届いた。眷属通信だ。

ザイクーオン神が張っていたさっきの結界が、眷属通信を妨げていたらしい。

『ご主人様、大変よ! 空に魔神が!』