軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-11.再び神界へ

サトゥーです。道徳の授業で読む寓話が苦手でした。文字数制限が厳しいせいだとは思いますが、あからさま過ぎる誘導をされるとお話に啓蒙される前に冷めてしまうんですよね。

「「「人族よ、進め」」」

セーラさん経由でテニオン神からの召喚指令を受けたオレは、再び神の世界を訪れていた。

「「「人族よ、謁見の輪へ」」」

神々の前へと進む。

「「「祈りを捧げよ」」」

前回できなかったアーゼさん絡みの感謝の祈りを捧げようと思ったのだが、テニオン神が緑色の輝きを瞬かせたのが目に入った。

なんとなく、「ほどほどになさい」と窘められた気がしたので、ほどほどに感謝の祈りを捧げておく。

概ね前回と同じだが、一つだけ前回と大きく違う点がある。

それは――。

「やあやあ、悪いね。そっちの都合も聞かずに呼び出しちゃって」

気さくな思念を飛ばしてきたのは、神々より二回りほど小さな紫色の構造体。

輝きも弱く構造もシンプルで、二つの三角形を組み合わせた知恵の輪のような姿をしていた。

「控えろ、魔神」

ヘラルオン神があっさりと紫構造体の正体を口にする。

やはり紫色の構造物は魔神だったらしい。

でも、なんだか軽い口調が魔神のイメージと違う。

「ヘラルオンの言う通りだ! 盗神の分際で――」

「黙れ、ザイクーオン。いたずらに他者を蔑む貴様のような者がいるから、下界の信仰心が下がるのだとなぜ分からぬ」

「うるさいぞ、ガルレオン!」

「ザイクーオンもガルレオンも黙るべき。カリオンもそう言っている」

「言ってない。ウリオンも妄言禁止」

神々が姦しい。彼らは超常的な見た目と違い、メンタル面はギリシャ神話の神々みたいな人間くささがある。

ザイクーオン神の言う事から察するに、魔神には盗神という蔑称があるようだ。

いや、待て、そんな事はどうでもいい。

気にするべき事は他にある。

そもそも、封印されているはずの魔神がなぜここにいるのか、敵対しているはずの七柱の神々と親しげなのはなぜなのか、幾つもの疑問が湧いてくる。

「これは失礼、失礼千万。道化は控えますので、どうぞ首座様」

韜晦(とうかい) する魔神が後ろに下がり、太陽のような輝きを帯びたヘラルオン神が前に出る。

その背後で、淡い青色の光が紫色の輝きに寄っていくのが見えた。

なんとなく甘える子犬みたいな印象だ。

パリオン神は魔神に懐いているのだろうか?

「『塔』の破壊を禁ずる」

ヘラルオン神の言葉を、老構造体ラルロルリルヘアーフがオレに伝える。

「活版印刷もね」

「分かっておる。道化は隅で控えておれ」

魔神が口を挟むと、ヘラルオン神が不快そうに応じて橙色の波紋を周囲に撒き散らす。

周囲のニンフや使徒達は怯えるように構造体を縮こまらせたが、魔神は「おー、怖い怖い」とおどけたように光を瞬かせて後退した。

「パリオン、離れろ!」

「魔神に近寄ってはならぬ。パリオンの無垢な光が魔神の瘴気で穢れてしまう」

「―― 嫌(や) 」

ザイクーオン神の黄色い光とガルレオン神の蒼い光が、むずがるパリオン神を魔神から引き剥がす。

「首座様からの下知である。下界での活版印刷とやらを禁じる」

ヘラルオン神が老構造体経由で通達してきた。

老構造体の言い方からして、神界に印刷物のようなモノはないようだ。

「先日、許可をいただいたばかりですが?」

「卑賤なる人族ごときが、 大神(たいしん) の命に不服を訴えるなど、身に余る無礼と知れ!」

朝令暮改な命令に遠回しな異議を唱えると、オレの行為自体にキレた老構造体がカンカンになって怒りだした。

老構造体から飛んでくる幻炎の奔流をスルーしつつ、後ろに聳える神々の方を観察する。

神々の多くは無関心な感じで、反応が違うのは気の毒そうな雰囲気を纏ったテニオン神と愉快そうな感じにこちらを観察する魔神の二柱だけだ。

話の流れからしても、活版印刷を禁止したいのは魔神に違いない。

「活版印刷を禁止する理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「こ、このっ、身の程を――」

「まあまあ、ラリルレロっち。そんなに興奮しないで」

「誰がラリルレロだ! 我が輩には首座様が名付けられたラルロルリルヘアーフという誉れある名があるのだ!!」

いつの間にか前に瞬間移動した魔神が、激高する老構造体を取りなそうとしてより一層激怒させている。

「ごめんごめん。詫び代わりに説明役を代わるからさ。いいかな、首座様?」

適当な詫びで老構造体の怒りを受け流し、魔神がヘラルオン神に問いかける。

「いいみたいだね――」

ヘラルオン神の沈黙を肯定と受け取った魔神が説明を始める。

「活版印刷はヤバいんだよ。技術の伝播が加速して科学が広まるのもあるけど、もっとヤバイのは思想の方。――神界には書籍文化がないからさ、偉い神様達にはその危なさが分からないのさ」

魔神がオレの近くまで寄って、後半の言葉を小さな思念で付け加えた。

「あなたは書籍文化を知る、と?」

「下界暮らしが長かったからさ」

魔神が肯定する。

「ですが――」

「反論は却下だ」

聞く耳は持たないと魔神は言う。

「では、魔神――様。御名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「昔の名前は捨てた。今は魔神。魔法と魔物と魔族を司る神。それでいい」

気になる言い回しだ。

「では、魔神様」

「『様』はいらない。魔神でいい」

テニオン神様みたいな呼び方になるからかな?

なんとなく「魔神」だと、呼び捨てにしているみたいで呼びかけにくい。

「人口密集地の近傍に建てられた危険な『塔』を、破壊してはいけない理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

個人的には活版印刷についてもう少し食い下がりたいが、こちらの方が重要度が高い。

「あー、それね。うん、せっかくなけなしの神力を使って作ったんだから、簡単に壊されると困るのさ。まー、壊そうと思って壊せるモノじゃないんだけどさ。本当はね?」

やはり、紫塔は予想通り魔神が作ったようだ。

でも、何の為に――。

「『塔』を作った理由を知りたい?」

「はい」

オレの心を読んだように問う魔神に首肯する。

「従来の魔族や魔物による脅威システムだと限界があったからさ。僕への畏れや嫌悪は無駄に増えるくせに、想定したほど神々への信仰値が増えなかったんだ」

神々の信仰心収集の為のマッチポンプだった事を白状した。

「人間同士の戦争抑止には十分だったけど、迷宮ほど瘴気の収集や浄化のシステムとしては機能しなかったし。失敗とは言えないけど、成功とも言いがたい」

ふむ、一応、人間同士の戦争を抑制したいというのは事実だったようだ。

「『塔』はその為のバージョンアップ。迷宮の亜種だけど、神々への感謝や祈りが集まるほど塔内の魔物が弱くなる。君から人々に伝えてもいいけど、ヒントを配置してあるからそのうち気付くんじゃないかな? 神々への信仰心を可視化するのに苦労したけど、人は現金だから目の前のニンジン――現世利益があれば必死に祈りを捧げるだろうさ」

嘲るような口調と裏腹に、魔神から寂しさや哀しみのような雰囲気が伝わってくる。

「つまり神々の為に塔を作った、と?」

「そうさ。一応、間接的には人々の為。もちろん、自分の為でもある」

お零れに貰える神力は魅力的だしね、と魔神が嘯いた。

なんとなくだけど、神力自体はどうでもよさそうな感じだ。

「つまり『塔』とは人々が神々に祈りを捧げるように促す装置であるという理解でよろしいでしょうか?」

「合っているよ。一方的に捧げるだけじゃなく、人々が必要とする魔核や宝を得る為の成長装置でもある」

オレの質問に魔神が答える。

同時に、喉元に突きつけられた刃でもあると思う。

人々が禁忌を犯せば、いつでも「魔物のスタンピード」という天罰を落とす事ができる刃だ。

「言っておくけど、神々は人類の敵じゃない」

オレの内心を察したのか、魔神が断言する。

「大地を人々が快適に暮らせるように改変したのは神々だし、人々を作り出したのも神々だ。彼らが 正しく(・・・) 成長するのを見守り、反抗期で暴れる子供を叱り、 歪みを矯正する(・・・・・・・) のもまた神々の役割なのさ」

なんとなく引っかかる言い方だが、彼が言った言葉の前半はアーゼさん達からも聞いた事がある。

「人々を羊に例えるなら、神々は牧場主かな? 信仰心という名の毛を刈り、その対価に外敵から守り牧草を育てる環境を整える。実にWIN-WINな関係じゃないか」

魔神の言葉に微量の嘲りを感じる。

彼は神々サイドではあるけれど、微妙にスタンスや目的が違うようだ。

「まあ、そんな感じかな? まだ何か質問がある? 答えられる質問なら答えてあげてもいいよ?」

「あなたは転生――」

オレの言葉が途中で消える。

転生者達に欠片を与えて何がしたいのか尋ねようとしたのだが、魔神から届く束縛波がそれを妨げた。

気合いを入れれば束縛を弾き飛ばせそうだったが、そうして質問を最後まで続けても答えは得られないだろう。

むしろ、この反応がある意味答えとも言える。

「下界に伝わる伝承では、あなたは神々によって月に封じられているという事になっているのですが、それについてお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「封印? されているよ」

どういう事だろう?

魔神は二人いるのだろうか?

「封印されているのは二つに裂かれた僕の半身、爪と牙――戦意と狂気が封じてある」

ここにいるのは魔神の理性を司る部分のようだ。

どちらかが分け 御霊(みたま) 的な存在らしい。

「――なんてね。黒歴史的なやつだから、月には近付かないように。次元をずらした場所に封じてあるから大丈夫だろうけど、下手に近寄ったら呑まれるから」

なるほど、それでオレが月に行った時にはなにもなかったのか。

運悪く見つけていたら、魔神サトゥーが爆誕していたかも。

「僕の事はオフレコでね。特に魔族や魔王には言わないように。僕が封印されていない事を知ったら、またヤンチャしようとするからさ」

理性サイドの魔神が封印の外側にいるのは魔族達にも秘密らしい。

「もしかして、ゴブリンの魔王が月の封印を解こうとしていたのを止められたのは――」

「ああ、そうさ。僕がやった。あんな乱暴な解き方で封印が解ける訳じゃないけど、中途半端に緩む可能性はあったからさ」

アリサ達が出会ったのは、彼だったようだ。

「まあ、そんな訳だからさ。紫塔を破壊しない事と活版印刷を広めない事を厳守するように。もちろん、ここでの話もオフレコだ」

魔神がもう一度釘を刺す。

「まあ、禁止ばかりじゃあれだし、君が秘密裏に活版印刷や 複写(コピー) 機を作ったり使ったりするのは許可してあげるよ。いいよね、首座様?」

魔神の問いに、ヘラルオン神が容認を示す光波を飛ばす。

「いいってさ。そうそう、『塔』の攻略方法は広めてもいいよ――やばい攻略法が出たらアップデートパッチで塞ぐし、気にせず広めて」

魔神がゲーム開発者のような言葉を付け加えた。

「大儀であった。下がれ、人族」

老構造体経由で伝えられたヘラルオン神の退出の言葉で、オレはそれ以上の質問をする事もできずに、強制的に神界から帰還する事になってしまった。

「えー、活版印刷が禁止ぃ~」

「紫塔の件は各神殿に神々からの神託があったわ」

孤島宮殿帰還後、小鬼姫ユイカに作ってもらった完全閉鎖可能な結界内で、アリサ、リザ、ヒカルの三人だけを呼び出して、事の次第を伝えた。

「ご主人様、私達に話してよろしかったのですか?」

「構わないよ。ここでの話は外に漏れないから安心して」

アリサの中にある「魔神の欠片」がバックドアになっている可能性はあるけど、神々は無関心な感じだったし、魔神自身も本気で口止めをする意思があったようには感じなかった。

むしろ――。

「言いふらさせて、神様達の信仰心を地に落とそうって考えていてもおかしくないわよね」

「うん、私もそう思う。だって、紫塔の破壊を禁ずるだけの話なのに、わざわざ神様と魔神が組んでマッチポンプしていたなんて話をサトゥーに話す必要なんてなかったはずだもの」

「確かに」

アリサやヒカルの話を聞いたリザが頷く。

「魔神の話は鵜呑みにしない方がいいわね」

「うん、それがいいと思う」

アリサの発言に、ヒカルを始めオレやリザも首肯する。

「それで、神託はどんな感じだったんだ?」

「神託はね『魔族の企みたる塔は神々の力で封印せり。勇気ある信徒達よ、塔に挑み魔族の企みを粉砕せよ。力なき者よ、敬虔に祈れ、それが勇気ある者達を助けると知れ』みたいな感じだったらしいわ」

ヒカルによると各神殿で内容に若干の違いがあったらしい。

この神託が広まると同時に、塔に入ろうとする猛者が殺到して、国王の命令でも抑えきれなくなっているそうだ。

「紫塔破壊禁止の件はセテに伝える?」

「いつまでも黙っている訳にもいかないしね」

「それって、正攻法で攻略させるって事? それだと魔神の計画に乗る事にならないかしら?」

アリサの心配はもっともだ。

「――アリサ」

「何、リザさん?」

静かに耳を傾けていたリザがアリサの方を向く。

「罠が恐ろしいのは、罠としらずに掛かる事です。どれだけ巧妙に隠されていようと、どれほど危険な罠であろうと、罠がある事が知れた罠に怯える必要はありません。罠に備え、発動と同時に食い破ればいいのです」

実にリザらしい発言だ。

ヒカルとアリサがお互いに顔を見合わせ、どちらからともなく笑いだす。

「うん、そうよね」

「こっちにはチートなご主人様もいるし」

全部の塔の近くにユニット配置ができる転移ポイントを設置し、対神魔法の被害が人里に届かないように備えておけば、罠の発動から数時間以内に全世界の塔を破壊できる。

後は塔の中に侵入中の探索者達をまとめて救出する方法を考えればいいかな?

「沈思黙考モードに入っちゃった」

「あの顔なら大丈夫そうね」

「それじゃ、私はセテに紫塔破壊禁止を伝えてくるわ」

「なら、わたしは皆に紫塔を攻略する事が魔神の罠かもしれないって伝えてくる」

オレが思考の海から戻ってくると、アリサとヒカルはいなくなっており、膝の上で丸くなるタマとオレにもたれて眠るポチとミーアの姿があった。

穏やかに眠る三人を見ていると、オレまで眠くなってくる。

幾つか考えた対策は今日明日で片付くようなモノでもないし、ちょっとだけ休息を取るとしよう。

おやすみなさい――ZZZzzz。