軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-5.神界へ

サトゥーです。高次元世界と聞くと 恒星間跳躍航行(ワープ) くらいしか思いつけない程度の科学知識しかありません。昔、SFマニアな友人が色々と教えてくれましたが、今一つ理解しきれなかったんですよね。

「マスター、ご武運をと告げます」

シュピッのポーズをしたナナがそう言って、大荷物を背負って公都の別荘から出ていく。

たぶん、公都の孤児院やアシカ人族の子達のところを訪問するのだろう。

「では、私達も参りましょう」

オレの腕を抱き寄せたセーラが正門へと向かう。

買ったばかりのこの別荘は、裏手にテニオン神殿がある。

なので、裏口から出た方が早いのだが、セーラにそういう時間効率よりも貴族としての体面が大切だからと言われて、正門から馬車で向かう事になった。

「ペンドラゴン閣下、こちらでございます」

到着したテニオン神殿の入り口で一騒ぎされた後、現巫女長さんに案内されて、前巫女長である幼女リリーが待つ部屋へとやってきた。

聖域との境に作られた入り口で現巫女長さんと別れ、オレとセーラの二人だけで部屋の奥へと進む。

「いらっしゃい、ナナシさん。それともサトゥーさんとお呼びするべきかしら?」

「この姿の時はサトゥーでお願いします」

幼女になっても、巫女長さん――リリーの雰囲気はそのままだ。

ふんわりと微笑むリリーに、オレも笑みを返す。

聖母的な雰囲気のせいか、彼女の前に来ると自然にリラックスできる気がする。

「サトゥーさん! いつまで見つめ合っているんですか!」

セーラがオレと前巫女長の間に割り込んできて、「目的を忘れていませんか?」と窘める。

割り込んでくる前に、小さく「目と目で会話するなんてずるい」なんて拗ねたような口調で呟いていたけど、それは聞こえなかった振りをしておく。

「うふふ、セーラったらヤキモチ?」

「ち、違います」

からかうリリーの言葉に、セーラはプイッと子供のように顔を背けた。

幼少の頃からリリーのもとで育ったセーラにとって、リリーは母親のような存在なのだろう。

「ブライダル・ナイツだったかしら? 私設騎士団を作ったとセーラから聞きました」

「ええ、仲間達を強引に勧誘しようとする人達が増えてきたので」

「あら? お嫁さん候補を集めた騎士団だと聞いたのだけれど――」

「それは誤解ですよ」

間違いは訂正せねば。

「そうだったのね。巫女見習いでも加入できるなら、私も入りたかったわ」

「リリー様なら大歓迎ですよ」

「本当? とっても嬉しいわ」

リリーが手を叩いて子供のように喜ぶ。

小さな声で「お嫁さんじゃないのは残念だけど」と呟くのを聞き耳スキルが拾ってきた。

目が合ったオレに、ちろりと小さく舌を出して恥ずかしそうに笑う。どうやら、さっきのは冗談だったらしい。

「便利な魔法があるのね。でも、セーラにとっては残念だったかしら?」

「そ、そんな事はありません!」

裸で抱き合う儀式を避けるために自作した精神魔法の「 精神接続、改(マインド・コネクション・アドバンス) 」の話を聞いて、リリーが感心した後にセーラをからかっていた。

真っ赤な顔で否定するセーラは少し残念そう――「本当に、そんな事ありませんからね!」――多くは語るまい。

「そう? なら、着衣のまま儀式を進めましょう」

周りを囲む一部の巫女さんがセーラと同様に気落ちしていたような気もするが、たぶん気のせいだろう。

儀式用の白い 聖衣(せいい) に着替え、聖紋転写を受けた後、少し簡略化された儀式を行う。

『――神よ』

念話スキルごしにセーラの心の声が伝わってくる。

他の神殿では肉声で呼びかけていたので、心の中で呼びかけるのはテニオン神殿の独自のものだろう。

『我らを見守る偉大なる神よ』

セーラの呼びかけに応えて、空から静謐な光が降ってきた。

前回は神の力に慣れていなかったせいか、ただの白色光に見えたが、今なら白色光にうっすらと緑色の光が混ざっているのがわかる。これがテニオン神の固有色なのだろう。

恍惚の表情をしていたセーラから表情が抜ける。

トランス状態に入ったようだ。

<<<祝福>>><<<古王>>><<<試練>>>

セーラを通して言葉とイメージの羅列が光の奔流と一緒に流れ込んでくる。

ノイズまみれだったそれが、視界が白く染まるのと同時に明瞭になっていく。

『よくぞ、全ての神々から証を得ましたね、サトゥー・ペンドラゴン。試練を見事果たしたあなたを、約束通り神の園へと招きます』

白い光の中に立つセーラのイメージが、テニオン神の言葉を伝える。

『心を強く持って光の扉を潜りなさい』

セーラが指さす方向に、緑色の輪郭を持つ光の扉が現れた。

そちらに意識を向けた瞬間、扉の前に立つ自分に気付く。

『心を強く持ちなさい。それがあなたを守ります』

同じ言葉を繰り返したテニオン神の助言に頷き返し、オレは扉を潜った。

「緑色の光に満ちた神殿?」

周囲には白色と緑色の光が混ざり合った奔流がうねり、この神殿を繭のように包んでいる。

「ここは『狭間の世界』。テニオン様の聖域です」

周囲を見回していたオレは、声を掛けられた方に視線を向ける。

そこには緑色の巫女服を着た女性がいた。

――アーゼさん?

いや、違う。

顔はそっくりだが、髪の色が違う。

AR表示によるとバレオナン氏族のハイエルフさんらしい。

「どうかしましたか? 人族の子よ」

「すみません、知り合いに似ていたので」

「ハイエルフに知り合いが?」

「はい、ボルエナンの森の聖樹、アイアリーゼ様と親しくさせていただいています」

できれば恋人だと言いたかったが、嘘はいけないので自重した。

「そう」

彼女は興味なさそうに頷いた。

どうやら、ボルエナンの森には興味がないようだ。

「他にもバレオナン氏族のルーゼ様に魔法の指南を受けた事があります」

ほんの少しだけだけど。

「そう――あの子は元気にしていた?」

「はい、活力的に行動されていました」

無表情だったハイエルフさんの口元が少し緩む。

「こちらへ、人族の子よ」

ハイエルフさんがオレを神殿の奥へと導く。

「私はサトゥー・ペンドラゴンと申します。宜しければ、あなたのお名前を聞かせていただけますか?」

「私はシルムフーゼ。テニオン様にお仕えするハイエルフ」

会話のキャッチボールが成立したのはここまでで、「いつ頃からここに?」とか「氏族の方に伝言があればお伝えしましょうか?」なんかの言葉には返事がなかった。

オレはシルムフーゼさんに続いて長い通路を歩く。

マップは予想通り「マップの存在しないエリアです」と表示されて、空白表示だった。

かなり歩いた所で、シルムフーゼさんが立ち止まった。

「ここで身を清めなさい」

手水場のような場所で 柄杓(ひしゃく) を手に取り、光る水で手を洗う。

「――うわっ」

手に掛けた水がふわりと広がり、オレの全身をなでつけるように巡る。

シルムフーゼさんも柄杓を手に取ると、お風呂のかけ湯のような感じで光る水を肩口に掛け、オレを促して更に神殿の奥へと導く。

さっきの光る水の効果だと思うが、歩くたびにふわふわして不思議な感じだ。

AR表示される状態欄は、「高揚」になっている。

「綺麗だ――」

神殿の奥は円筒形の広場になっており、天井方向からキラキラした光が流れ落ちている。

――何かおかしい。

通路の端まで来て、違和感の正体に気付いた。

スケールだ。

対比物がないので勘違いしていたが、このホールはかなり広い。

細く見えた水の流れも、ナイアガラの滝よりも規模が大きいのは間違いなさそうだ。

「人族のサトゥー、こちらに」

通路の果てに階段があり、少し低い場所にある奈落の縁に、魔法陣付きの祭壇があった。

「これは?」

「肉体からアストラル体を分離するための 秘宝(アーティファクト) です」

祭壇を見ると、彼女の言葉を肯定する情報がAR表示された。

離魂祭壇という名前らしい。

「肉の身体を持ったまま神々の園へは入れません。そのまま無理に行けば、次元差によって肉体は霧散してしまいます。私は別に構いませんが、神々の世界から戻った時に戻る身体がなくなりますよ?」

次元差?

神々の世界は高次元に存在するのかな?

「分かりました」

ここに戻る事が前提みたいなので素直に従う。

AR表示を見る限り罠ではなさそうだしね。

オレが魔法陣の中央に立つと、魔法陣から虹色の光が溢れる。

さっきまでのふわふわ感が増し、気がついたらオレは肉体から幽体離脱していた。

死霊魔法で幽体離脱した時とは微妙に感覚が違う。

肉体と幽体の間にあるはずの魂の緒がない。

「心配しなくても、ここに戻ってくれば肉体に戻れます。もちろん、肉体が劣化する事もありません」

シルムフーゼさんがオレの肉体を魔法陣の横にある寝台に寝かせる。

すぐに魔法陣に戻ってくると、彼女自身も魔法陣で幽体離脱してみせた。

シルムフーゼさんは術理魔法の「 理力の手(マジック・ハンド) 」か「 理力の腕(マジック・アーム) 」で、自分の身体を寝台に運ぶ。

幽体離脱中のアストラル体でも魔法は使えるらしい。

「これから滝を登ります」

シルムフーゼさんがホールの中央にある滝を指さした後、奈落の縁から舞い上がる。

覗き込んだ奈落の底は闇ではなく、光で満ちていて白く見えない。

「人族のサトゥー?」

「すみません、すぐ行きます」

オレも空へと舞い上がる。

――狭間の空間に己の身体を置いていくな。

そんな言葉がオレの脳裏に過ぎった。

――かならず自分の手荷物に入れて運ぶのじゃ。

そう忠告されていたのを思い出した。

オレは「 理力の手(マジック・ハンド) 」を伸ばして自分の肉体に触れ、そのままストレージへと収納した。

アストラル体でもストレージの操作は問題ないようだ。

オレは先行するシルムフーゼさんの後を追う。

上昇する彼女のスカートがふわふわとめくれて目のやり場に困る。

それも滝に触れるまでの話だ。

さらさらとした砂みたいな感触と共に光が散る。

見た目ほど速くない流れに身を委ねると、なんとなく気持ちいい。

「早く来なさい、人族のサトゥー」

上方で流れに逆らって静止したシルムフーゼさんが呼ぶ。

波打ち際で足の裏を流れる砂みたいな感触を楽しみながら、流れを遡る。

「ここからは急ぎます」

「どうしてでしょう?」

神々を待たせているのかな?

「『 禊(みそ) ぎの滝』に長く打たれると、人の世の 穢(けが) れだけではなく、様々な欲望に根ざした活力や記憶まで失ってしまいますよ」

おっと、それは嫌だな。

オレは気合いを入れてシルムフーゼさんの後を追う。

外縁部は緩やかだったが、光の瀑布の中央付近までくると、痛いほど激しい光の奔流で、遡るのがなかなか大変だ。

オレは鯉の滝登りの気分で、光の滝を登る。

やがて、永遠とも思える滝登りも終わり、光に満ちた世界へと辿り着いた。