軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-3.園遊会(2)

サトゥーです。絵本で有名な話が原作ではグロテスクな事はわりとある気がします。意味のあるグロさや不遇な境遇、教訓としての不幸な結末はありだと思いますが、読後感が悪くなるだけの無意味なバッドエンドは止めてほしいですね。

「それ、知ってますわ!」

メリーエスト皇女が発した「世界の終焉」という不穏なワードに反応した者がいた。

「『勇者の婿入り』で魔神が勇者に言った言葉ですわ!」

ポチやタマとジャーキー勝負をしていたカリナ嬢が、目をキラキラさせて話に入ってきた。

大好きな勇者の話題を聞きつけて、話題に入りたくなったのだろう。

「ええ、その通りです」

メリーエスト皇女が首肯する。

「さすがは勇者研究の第一人者であるレオン・ムーノ閣下のご息女だけはありますね。初版本にしか書かれていないセリフだから、知っている方は珍しいのに」

「我が家にも陛下から下賜された初版本がありますわ! 『勇者の婿入り』は大好きなお話ですもの、何十回も読んで好きなシーンなら幾らでも暗唱できますわ!」

彼女達が話題にしている「勇者の婿入り」は、サガ帝国を建国した初代勇者を主人公にした創作童話との事だ。

上下巻構成の物語で、上巻では七体の魔王を率いる魔神を、人の身に降りたパリオン神が勇者と一緒に撃退し、空の彼方の月に追い払う話だ。先ほどの不穏なワードはクライマックスで、負けそうな魔神が勇者に向けて放った言葉らしい。

下巻ではタイトル通り、パリオン神の婿になる為に神々の試練を果たし、亜神として神界に招かれるまでの話との事だ。

もしかしたら、サガ帝国の帝都で魔神復活を阻止した黒髪の男性は、サガ帝国の初代勇者だったのかも――なんてね。フィクションと現実をごっちゃにしたら笑われそうだ。

そういえばオレが以前、タマやポチに読んであげた絵本にも似た話があったが、それとは少し内容が違った。少なくとも「世界の終焉」なんてヤバげなワードは出てきていない。

たぶん、絵本の方は子供向けに色々と省略してあったのだろう。

「それでその『世界の終焉』って、どんなの?」

アリサがじれったそうに先を促した。

「魔神が勇者に向かって言ったのですわ――」

カリナ嬢が声色を作って、魔神のセリフを 諳(そら) んじる。

『無駄な努力だ。貴様が何度生まれ変わろうと、貴様の願いは叶わぬ』

――生まれ変わるだけじゃダメなの。神と人では寿命が違うわ。

カリナ嬢の声に重なって、いつか聞いた誰かの声が脳裏に蘇る。

『そんな事はない! 僕は絶対に叶えてみせる! 神様だってそれを望んでいるんだ!』

『幼女神がいかに望もうと、人が神にはなれぬ』

――好きに神格を与えられるほど神様も万能じゃないのよ。

それがいつ聞いた言葉だったのか思い出せない。

『貴様のような凡夫など、幾百、幾千集まろうとも不可能だ』

――一人分の魂じゃ足りないの、幾つも縁り合わせないとね。

幼い声が脳裏でリフレインする。

「にゅる~ん」

オレの首に くるり(・・・) と巻き付いたのはタマだ。

「だいじょび~?」

くりっとした目でタマがオレを見上げる。

周りの子達の視線も、オレに集まっていた。

どうやら、カリナ嬢の朗読も聞かずに物思いに沈んでいたようだ。

「ありがとう、タマ。なんでもないよ」

後半はオレを心配そうに見る人達に告げる。

「ごめん、途中から聞いてなかった。結局、『世界の終焉』ってどんな感じなんだ?」

「仕方ありませんわね。もう一度、教えてあげますわ」

カリナ嬢が気分を害した様子もなく、先ほどの一節を諳んじてくれる。

どうやら、さっきの「幾百、幾千」から、そんなに長くなかったようだ。

問題の言葉は、竜神が作った漆黒の聖剣で魔神を月に放逐する時に出てくるらしい。

『勇者よ、魔神たる我を凌駕する恐るべき者よ。いかに貴様が強かろうが、世界の終わりが訪れる命運は変わらぬ』

『世界の終わりだと? この僕がいる限り、神様が大切にしているこの世界をお前達の好きにはさせない!』

『よきかな、我が宿敵よ。時の果て、三柱の大魔王が世界を滅ぼす為に現れるだろう。それは「世界の終焉」が始まる鏑矢、世界が終わる鐘の音だ』

『世界は終わらない! なぜならば、僕は神様の眷属となって世界を守護するからだ!』

『ならば、その言葉を証明してみせよ。この世界の終わり、「世界の終焉」が始まるその時に我は再び蘇る。神の座に昇ってみせるというなら、その時に再び相まみえよう』

なるほど、「世界の終焉」が始まる予兆として、三柱の大魔王「黄金の猪王」「狗頭の古王」「ゴブリンの魔王」が現れるらしい。

「もしかしたら、あの黒髪の人は……」

アリサがフィクションを真に受けて、魔神復活を阻止した黒髪は初代勇者だと言い出しそうな顔をしている。

「フィクションだよ、アリサ」

「……そうよ、ね」

もし、初代勇者が本当に昇神していたなら、昇神についてアーゼさんに尋ねた時に成功例として教えてくれたはずだ。

「でも、サトゥー」

ヒカルが自分を指さす。

そういえば、ヒカルは魔法的な人工冬眠で、シガ王国建国から六百年以上経った現代に活動していたっけ。

初代勇者はその倍くらい前の人物だけど、若返りの薬を連続使用する事で生き延びられそうではある。

「マスター! 向こうにシャンパン・タワーが用意されていると告げます」

「ご主人様、すごいのです! とってもとっても凄いのです!」

「ご主人様、あちらに 蛇竜(ナーガ) の姿焼きが用意されています。ご一緒にいかがでしょうか?」

ナナ、ポチ、リザの明るい声が、オレ達の重い空気を吹き飛ばす。

「姿焼きはルルが火加減を見てくれているので、ぜひとも!」

「ありがとう、それじゃ皆で行こう」

よく考えたら、初代勇者が現代まで生きていても特に困らない。

魔神が本当に復活したら嫌だけどさ。

「ご主人様、タレはエチゴヤ商会の皆さんが用意してくださったんですよ」

ルルの近くにはエチゴヤ商会の面々がいた。

「ペンドラゴン閣下、このたびは騎士団結成おめでとうございます」

「ありがとう、エルテリーナ総支配人」

オレが礼を言うと支配人が感動したような顔で目を閉じた。

「おめでとうございます、ペンドラゴン閣下。このたびはブライダル・ナイツ騎士団の装備を発注頂き、まことにありがとうございます」

支配人に付き従っていたティファリーザが、いつも通りの怜悧な瞳でお礼を言う。

今回の装備はウェディングドレス風の見た目がオレにバレないようにする為か、装備の最終組み立てや装飾はエチゴヤ商会でやってもらったようだ。

「騎士団に所属する中に武勇に優れた方以外もいるとは思いませんでした」

ティファリーザが「聞き耳」スキルで辛うじて拾えるくらいの小さな声で囁く。

その瞳はブライトン市の太守代理をしてくれているリナ嬢を捉えている。

「ああ、彼女は騎士団の本拠地を管理してもらうからね」

もしかしたら、ティファリーザも私設騎士団に入りたかったのだろうか?

「では、私達は兵站担当という事でいかがでしょう?」

「それは良い考えだわ!」

ティファリーザの提案に支配人が食いついてきた。

どうやら、支配人もティファリーザと同様に加入希望だったようだ。

クロとの関係を疑われそうな気もするが、すでにオレの事を「もう一人のナナシ」あるいは「ナナシを補佐する竜の化身」や「勇者ナナシの部下の一人」と思われているようだし、今さらかもしれない。

それよりも、いつも「縁の下の力持ち」として頑張ってくれている彼女達に、もう少し報いていいかもしれない。

不安そうな目でオレを見上げる二人に頷いてやる。

「では、兵站と整備はエチゴヤ商会にお願いいたしましょう」

「ありがとうございます!」

「粉骨砕身、尽くさせていただきます」

支配人とティファリーザが満面の笑みになる。

「他の者にも伝えて参ります」

「その前にドレスアーマーを追加発注しなくては!」

二人が「失礼します、ク――ペンドラゴン閣下!」と言って去っていった。

もしかしたら、ブライダル・ナイツに加入したかったのは、ドレスアーマーを着たかっただけだったりして。

「よっぽど嬉しかったのね」

二人を見送りながら呟くアリサに首肯する。

うっかりとオレをクロと呼びかけてしまうほどだしね。

「はあ、楽しかったけど、疲れた~」

アリサが「どっこいしょ」と言いながらソファーに腰を下ろす。

「風呂を用意してくれているみたいだし、ゆっくり浸かって疲れを癒やしておいで」

「ご主人様も一緒に行きましょうよ」

「ん、一緒」

「せなか流す~?」

「ポチも流すのです! ポチは背中流しのプロなのですよ!」

年少組がオレを風呂に誘うが、式典前にやっていた作業を軽くまとめておきたいので断った。

窓から外を見上げると満月がほんのりと紫色の光を帯びているのが見えた。

「 紫月(しげつ) ね」

「紫月?」

ヒカルの呟きを鸚鵡返しに聞き返す。

「一応、吉兆の一つかな? あの紫色の光は魔神が月の封印を解こうと暴れているからだって云われているの」

「封印を解こうとしているのが吉兆?」

「うん、そうよ。封印を解こうとしているって事は、『魔神の封印が解けていない』って事だから」

「なるほど」

そういう解釈もあるわけか――。

頷くオレに笑みを残し、ヒカルも他の子達の後を追って浴場へと向かった。

オレは月に視線を戻す。

そもそも魔神は本当に封印されているのだろうか?

オレが知るだけでも、魔神の髪が部分召喚されたり、権能を分け与えて今でも転生者達を生み出したりしている。

「まあ、考えすぎか……」

封印されていなかったら、イタチ大魔王やゴブリンの魔王が魔神の封印を解こうとして行動していないだろう。

どちらかというと封印に隙間や緩みがある感じかな?

――おっと。

オレは変な方向に流れた思考を打ち切る。

変なフラグを立てて、封印が解けたりしないようにしないとね。

翌朝――。

「旦那様、お客様です」

メイドに起こされて――なぜか応接間ではなく――エントランスホールへ行くと、シガ八剣のヘイム氏が待っていた。

早朝から難しい顔をしている。

「ペンドラゴン伯爵、朝早くからすまん。貴公に見てほしいものがあるのだ」