軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-32.黄金騎士団出陣、準備(2)

サトゥーです。戦わずに済むのならそれが一番だと思うのです。でも、無抵抗主義もまた違う気がします。譲れば譲るほど侵略してくる相手には、それ相応の対応が必要なのです。

「まず、懸念事項から行こう。イタチ帝国の一般市民や転移者転生者の殆どは救出した」

「よかった……」

心配そうな顔をしていたセーラが、安堵の吐息を漏らした。

「さっすがはわたしの――」

「むぅ」

「――わたし達のご主人様ね」

ミーアの不服そうな呟きに、アリサが称賛を少し変えた。

職業軍人や都市を捨てて逃げ出した特権階級の多くは命を落としたはずだが、それについては誰も聞いてこなかったので特に言及しなかった。

「イタチ帝国の教区やデジマ島を除く多くの都市は、神の使徒による天罰によって白塩化して、誰もいない廃墟になってしまった」

「マジでか――」

よく分かっていないタマとポチ以外は、全員蒼白になっている。

軽口を叩く余裕があるのはアリサくらいだ。

「そして、イタチ帝国の帝都だけは 宮殿騎士団(テンプル・ナイツ) やカガク部隊で使徒に抵抗し、ある程度撃退に成功していた」

セーラが小さな声で「なんて、不信心な……」と神の使徒に刃向かうイタチ帝国の人々を非難していたが、宗教的なものは仕方ないので聞かなかった事にする。

「さらに帝都の傍に魔王が顕現して、両者の戦いに乱入した」

「なんでよ?」

「――さあ?」

アリサの疑問はもっともだが、オレにも理由はさっぱりだ。

魔王顕現の現場には他にも転生者がいたから、神の使徒による強制的な魔王化という陰謀説も浮かばない。

さすがに、シガ王国王都で魔王化したシン少年みたいに魔王珠を飲んだわけでないだろうしね。

「さらに謎なんだが、その三つどもえの乱戦に、ザイクーオン神まで参戦していた」

「はあぁあああ? なんでよ!」

「参戦理由は聞いていない――」

憤るアリサを宥めながら、オレは首を横に振る。

「――君子危うきに近寄らず、だよ」

ザイクーオン神に直接インタビューすれば教えてくれたかもしれないが、ヘンに縁をつなげると、バトル・フラグが立ちそうだったからね。

「――それもそうね。虎の尻尾なんて踏まないに限るわ」

オレがイタチ帝国に向かうときに、自分が言ったセリフを思い出したのか、アリサがコクコクと頷いて納得する。

「ザイクーオン神が降臨して直接神罰をくだすなんて……ありえません」

「そうよね。神が降臨するのはすっごくコストが掛かるから絶対に降りてこないって、昔の仲間が言ってたもん」

セーラの呟きをヒカルが肯定する。

「はい、神殿の歴史の中でも、神降ろしの儀式魔法以外で顕現されたのは二万年前の狗頭の邪神戦役の記録だけです」

ザイクーオン神が30年前に竜神に殺されたはずだけど、あれは地上に顕現していなかったのかな?

それとも、単純に「神殿の歴史」に載っていないだけなのだろうか?

少し気になるので、後でボルエナンの森にも顔を出すから、その時にアーゼさんに尋ねてみよう。

あの話を教えてくれたのは、迷宮都市セリビーラの女情報屋からだったけど、ザイクーオン神の神官が別の神の巫女から神託経由で教えてもらった話だと言っていたから、聞きに行っても知らない可能性が高いしね。

「なら、儀式魔法を使った神官がいたんだろうね」

オレの脳裏にスラム街で見かけたザイクーオン神殿の老神官が思い浮かんだ。

たしか、一緒にいた転生者からボドラゾーグ尊師って呼ばれていたっけ。

一応確認したけど、救出した帝都の人達の中には彼や彼のシンパはいなかった。

――神の天罰は近い! 人々よ! 神に祈り、慈悲を請うのだ!

老神官ボドラゾーグは狂気に満ちた目を爛々と輝かせながら、そんな説法をしていたはず。

あの狂信者なら、自分や配下の命を対価に神を降臨させる儀式くらいしそうだ。

まあ、いいか。

ここで推測しても、正しいかどうか分からないし、分かっても当事者は死んでいるだろうしね。

オレは横道に少し逸れた話を本題に戻す。

「で、イタチ皇帝は自国を滅ぼした神と最後の決闘をするために、魔王になってザイクーオン神へと挑んでいった」

あのイタチ皇帝が正面から殴り合うかは疑問だ。

たぶんだけど、手持ちの戦力を全部ぶつけて、知謀の限りを尽くして戦うに違いない。

「皇帝が魔王になってザイクーオン神とバトルねぇ……勝てるのかな?」

「たぶん、無理だと思う」

アリサの質問に、オレは首を横に振る。

そもそも魔王になった皇帝のユニークスキルは戦闘用じゃない。

知能の限りを尽くしても、損害を与えるのがやっとだろう。

軍師の用意した「自爆装置」が最後の希望なのかもね。

「現状はそんな感じだ。神がこちらをターゲットにしない限り、こちらから干渉する気はない」

身内を危険に晒してまで、神と敵対するメリットも義理もないしね。

なお、オレの正体がイタチ皇帝や軍師トウヤにばれた件、軍師トウヤの正体がエルフの賢者トラザユーヤであるという話は省略した。

この辺りの情報は後日必要になった時か、茶飲み話ですれば良いだろう。

「さて、それじゃ、黄金騎士団の派遣先を決めようか」

オレはパンッと手を叩いて、皆の雰囲気をリセットしてから、セーラのもたらした魔物のスタンピード災害防止の話を始めた。

「迷宮のある迷宮都市セリビーラとセーリュー市の二箇所には先に人を派遣し、それ以外の場所にはエチゴヤ商会支社からの報告が入り次第に、救援部隊を派遣しようと思っている」

オレは一気にそう告げ、仲間達を見回す。

特に異議はないようだ。

「サ、サトゥーさん――私を」

「もちろん、ゼナさんはセーリュー市に行っていただきます。ポチと騎竜のリュリュを付けますから、上級魔族やダンジョン・マスターが攻めてきても大丈夫ですよ」

あそこにはエチゴヤ商会のゴーレム部隊やゼナさんの弟のマリエンテール士爵もいるし、迷宮の間引きも充分に終わっているから、多少派遣が遅れても大丈夫だと思うけどね。

「迷宮都市セリビーラはナナとミーアの二人に任せたい」

あそこも間引きが終わっているし、戦闘部隊にはギルド長や探索者達が沢山いる。

ナナの防御力とミーアの精霊魔法があれば、概ね問題ないだろう。

「あ、あのっ、ヨウォーク王国の迷宮は?」

おずおずとルルが尋ねてくる。

再生迷宮があるのは、ヨウォーク王国に侵略されたルルとアリサの故郷がある場所だ。

良い思い出はあまり無さそうだけど、故郷が魔物に蹂躙されるのはイヤだろう。

「そうだね。あそこも人を送った方が良さそうだ。ルル、行ってくれるかい?」

「は、はい!」

「それじゃ、私も――」

「アリサは他で役目があるからダメだよ」

役目というのは嘘だ。

イタチ帝国で得た「神の欠片を持つ者は神に逆らえない」という情報があるので、しばらくはアリサ、ヒカルの二人は外に派遣できない。

本当に逆らえないかどうかは分からないが、イタチ帝国での異常な魔王発生率を見ていると、あながち嘘じゃない気がするのだ。

前に精神攻撃対策で作ったアイテムがあるので大丈夫だと思いたいが、神の使徒ならともかく、神相手だと少し心許ない気がする。

それにルルなら一人でも大丈夫だ。

ルルは遠距離で最高性能を発揮するが、ナナに次ぐ強力な防御主体装備に、上級まで使える術理魔法、さらにシガ八剣の攻撃を捌ける程度に護身術スキルを磨いている。

内気な性格のために目立たないが、チーム・ペンドラゴンの中でもマルチに戦えるオールラウンダーなのだ。

たぶん、魔王クラスが相手でない限り一人でも大丈夫だろう。

もちろん、サポート要員にブラウニー達や随伴ゴーレム隊は付けるけどさ。

「ヒカルは後で天竜にフジサン山脈沿いの魔物のスタンピードを見つけたら殲滅するように頼んでおいてくれ」

天竜の神殿にゲートをつなげて、そこから話してもらえば大丈夫だろう。

もしくはアリサの「 無限遠話・改(ワールド・フォン・ネオ) 」で通信を仲介してもらうかな?

「おっけー! わたしもアリサと同じ留守番組?」

「ああ、悪いけど、出番は少し後だ」

天竜達なら、問題無くフジサン山脈沿いの広大な「魔物の領域」をカバーしてくれるだろう。

「シズカも――」

「はいはい、ここでトランプ遊びでもして出番を待ってるわ」

魔王シズカには、各地で発生する魔王達の「神の欠片」を抜いてもらう大事な役目があるので、アリサと同じ理由以外でも、ここを離れてもらうわけにはいかない。

残りはリザ、タマ、カリナ嬢、セーラ、王女の五人。

「少し方針を変える――」

最初はエチゴヤ商会からの報告が来るまでは、孤島宮殿で待機してもらう予定だったけど、各々の故郷や 縁(ゆかり) の地が心配だろうから、それぞれの場所に派遣しておく事にしよう。

この孤島宮殿にユニット配置で引き戻すのはいつでもできるし、緊急出動役はタマとリザの二人にお願いするとしよう。

「――カリナ様は隣接する『魔物の領域』が多いムーノ伯爵領へ」

「わ、分かりましたわ! ムーノ伯爵領は必ず守りきってみせます」

カリナ嬢が自分の胸に拳を押し当てて指令を受諾してくれた。

魔乳が変形して、危険なレベルの魅力波動を発している気がする。

『サトゥー殿やリザ殿の任地も忘れずに守ろう』

「ありがとう、ラカ」

気遣いのできる「 知性ある魔法道具(インテリジェンス・アイテム) 」は素晴らしい。

「セーラさんも迷宮遺跡のある公都に行っていただきます」

「はい、サトゥーさんが守ってくださった公都の人々や町並みを、今度は私が守ってみせます」

決意に満ちた瞳で、セーラがオレを見つめる。

一人で頑張りそうな気配を感じたので、危なくなる前にオレに連絡するように伝えておく。

二人には移動補助用に「小光船」を預けておこうと思う。

高速移動タイプの次元潜行型飛空艇だ。操船にはブラウニー飛行隊を派遣する。

「 私(わたくし) は王都ですか?」

「はい、シガ王国の王都は度重なる災害のせいで、住民達が不安がっている可能性が高いのです。ですから、強そうなゴーレム騎士団で王都をパレードして、住民達を励ましてあげてほしいのです」

彼女を最前線に出すわけにもいかないしね。

「戦闘用には使えませんが、索敵用ドローンゴーレムを1024体までの同時運用できる 千手玉座(サウンザンド・スローン) の試作品をエチゴヤ商会経由でお持ちしますので、パレードにはそれを使って下さい」

「まあ! 前にアリサが冗談で言っていた『まんが』に出てくる管制用魔法装置ね! とても素晴らしいわ!」

宝石類やドレスはあまり喜ばない王女だが、魔法書やこういうロマン系の魔法装置への食いつきは激しい。

試作品はかなり大型なので、小型の飛空艇に載せて運び込もう。

王女の部屋は広いし、床も頑丈なので搬入できるはずだ。

なお、パレード後に王都周辺の索敵をお願いしておいた。

「タマは~?」

タマが心配そうな顔で尋ねてくる。

「しばらくはリザと一緒に待機だよ」

「あい~」

残念そうなタマの頭を撫で、リザに頷いてやる。

「心配しなくても、出番はすぐにやってくるよ」

「あい!」

「はい、ご主人様」

オレは皆に出陣準備を調えさせている間に、ボルエナンの森に向かった。

「アーゼ、久しぶり」

「サトゥー」

ボルエナンの森の樹上の家にユニット配置で移動したオレは、そこに想い人の姿を見つけて嬉しくなった。

軽く抱擁して、その温もりに癒やされる。

「サトゥーさん。そのような破廉恥な行いは、神格を得てからにしてください」

「こんにちはルーアさん」

こんな事なら、軍師トウヤにザイクーオン神だと言われた時に、そういう事にしておけば良かった。

――ってダメか。

そんな事を騙ってもすぐにバレるだけだ。

オレが抱擁を解くと、アーゼさんが意を決したようにオレを見つめる。

「本当は言っちゃいけないんだけど、少し前に神々から聖樹会議に通達があったの」

聖樹会議というのは各世界樹のハイエルフ達の代表が集まる会議の事だ。

「イタチ人族の帝国への神罰の執行と……世界各地の魔物の領域や迷宮にある魔神の加護を解くって通知だったの。それから、この話を各国の王達に話したり支援したりしてはならないと釘を刺されて……」

なるほど、それでボルエナンの森から孤島宮殿への通信が一つもなかったのか。

「光船を出動させることも、情報を与える事も、みんな禁止されてしまったのよ」

「では、孤島宮殿に派遣していただいているブラウニー達も帰した方が良いですか?」

「いいえ、禁止されたのはエルフ達だけ。私達が口添えする事はできないけど、戦いの得意なスプリガンやレプラコーン、それにトロール達を――」

アーゼさんの唇を指で押さえる。

戦力増加はわりと嬉しいけど、アーゼさんの立場が悪くなるのは避けたい。

神々との交流はほとんどないみたいだけど、一億年単位の数少ない知り合いだろうしさ。

「ブラウニー達がいてくれるだけで充分です」

「でも、あの子達は戦うのが得意じゃないから」

「戦うのは矢面だけじゃありませんよ。ブラウニー達が後方で支援してくれるからこそ、他の子達が前線でおもいっきり戦えるんです」

ブラウニー達がいないと、色々と困る。

料理はともかく、洗濯やベッドメイキングや庭の手入れなんかはブラウニー任せだしね。

「アーゼが知っているか判らないけど――」

オレは前に迷宮都市セリビーラの女情報屋から聞いた「ザイクーオン神は30年ほど前に竜神の勘気に触れて殺された」という話について尋ねた。

「ええ、事実よ」

「どこで殺されたか知っていますか?」

「たぶん、竜の谷かどこかの神域じゃないかしら?」

アーゼさんも、どこで殺されたかまでは知らないようだ。

「神域というと公都のテニオン神殿にあるようなモノですか?」

「七柱の神々が住む神界の一部をちぎって作られた場所よ。サトゥーが前に見せてくれた『異界』に近いモノかしら? 私は行った事がないけど、訪問したハイエルフの話だと、清浄な空気と濃い神気に満ちた素晴らしい場所だったそうよ」

なるほど、ゲームなんかである 一時的な戦闘空間(インスタンス・バトルフィールド) みたいな場所で戦ったわけか。

きっと、全力で力を振るっても、他に影響が出ない場所なんだろう。

そうだ、最後にトラザユーヤ氏の事を伝えておかないと。

オレはミーアの母であり、トラザユーヤ氏の娘であるリリナトーアさんを呼んでもらう。

「お久しぶり、サトゥーさん。久しぶりだわ! ミーアは元気? きっと元気よね」

「はい、とても元気ですよ」

無口なミーアと対照的に饒舌なリリナトーアさんと挨拶を交わし、軽くお茶で口を湿らせてから本題に入る。

「――トーヤが?」

「はい、イタチ帝国で軍師トウヤという名前で、ご存命でした」

「……そう」

ミーアを思わせる短文で、リリナトーアさんが目を伏せる。

イタチ帝国に神罰が落ちたという話を彼女も知っているのだろう。

「ありがとう、教えてくれて。感謝しているわ」

無理に作った笑顔だが、彼女を慰める役は彼女の夫であるラミサウーヤ氏に任せるとしよう。

「ギリルやドハルには伝えたの?」

「いえ、まだです」

「なら、ボルエナンの森にいるギリルには私から伝えておくわ」

オレはアーゼさんの申し出に礼を告げて、ボルエナンの森を後にした。

ボルエハルト市のドハル老にも話さないといけないけど、向こうも思い出話をしているような余裕がないかもしれないから、話しに行くのは少し後になりそうだ。

孤島宮殿に戻ったオレは、エチゴヤ商会経由で届いたスタンピード情報を受ける事になった。

「緊迫してきたわね」

「そうだね――」

オレは少し思案する。

「――みんな聞いてほしい」

今回ばかりは秘密を守りつつ戦うのが困難になるかもしれない。

積極的に披露する必要はないけど、不可抗力でバレる事は気にしなくて良い。

そう仲間達に告げた。

「いいの?」

「ああ、それを気にして、救える命を助けられなかったら、後悔してもしきれないだろう?」

「うん、それはそうだけど――」

たぶん、アリサは観光がしにくくなる事をいいたいのだろう。

「大丈夫だよ。観光の時は幻術もあるし、変装すればどこでも問題なく遊びに行けるよ」

イタチ帝国の着ぐるみ観光で実証済みだ。

オレは皆を見回して告げる。

「さあ、黄金騎士団出陣だ」

金色と銀色に輝く鎧に身を包んだ仲間達を一人、また一人と、戦場へ送っていく。

この時のオレは絵の幼女が語った「天罰は世界樹に乗ってやってきた七柱全ての神が揃わないと下せない」という言葉と、石板やイタチ皇帝の話す天罰の話にある矛盾に気付きながら――その意味する事に気付けずにいた――。

それをオレが知ったのは、もう少し先。

――イタチ帝国がこの大陸から消える日の事だった。