軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-SS:ダンジョンコアの憂鬱

新しいマスターは変な人族だ。

ダンジョンマスターのくせにダンジョンから出ようとする。

『ダンジョン・マスターは迷宮を出る事ができません』

そうメッセージを表示したあと、緊急用のマスター召喚機能をアクティベートして、マスターをマスターズ・ルームに引き戻す。

「なんでもないよ。すぐ戻るから、先に宿に行っていて」

新しいマスターは見えない人と会話する変な人族でもあるらしい。

「迷宮を出るにはどうすればいい?」

マスターがダンジョンコアである私の方を向いて問い掛けてきた。

ここが一番安全なのに、どうして外に出たがるのだろう。

――理解不能だ。

「ダンジョン・マスターは迷宮を出る事が禁止されています」

私がそう答えると、マスターは腕を組んで思案顔になった。

そんな当たり前の事に頭を悩ませるくらいなら、迷宮への侵入者達を始末する罠の一つも考えてほしい。

「ダンジョン・マスターの位を他者に譲るにはどうすればいい?」

――譲る?

マスターの思考回路が理解できない。

人族は論理的な思考ができないのだろうか?

だけど、マスターに問われた以上、答えなければならない。

私はマスターに従うモノだから。

「不可能です。ダンジョン・マスターの死によってのみ空位になります」

私の答えを聞いたマスターが渋面になった。

小声で「融通の利かない話だ」と呟くのが聞こえた。

迷宮限定とはいえ、神々のような万能の力が振るえるダンジョンマスターの地位を他者に譲りたいと思うモノがいる事こそ想定外といえる。

――え?

マスターがマスターズ・ルームから消えた。

――違う。

ダンジョン内から消えたのだ。

どこに? なぜ? どうやって?

魔力の反応を感じなかった。

莫大な魔力を使う空間魔法による転移ならば、絶対に見逃さない自信がある。

「マスター!」

『マスター!』

――マスター!

声で呼んでも、迷宮内のメッセージボードで呼んでも、思念波で呼んでもマスターは答えてくれない。

消滅して空位になったわけでもないのに、私のマスターは消えてしまった。

迷宮内の魔物達を外に出して探索を――ダメだ。

マスターの指令の方が優先される。

魔物を外に出すのは不可能だ。

どうしよう。マスターを探さなきゃ。マスターどこ。どうしよう。マスター、ますたー、マスター。

ぐるぐると堂々巡りする思考のせいで、長く私はフリーズしていたらしい。

ダンジョンコアのセーフティー回路でリセットがかからなければ、自壊していたかもしれない。

マスターがいなくなってから1000時間以上も経過している。

魔物や罠の補充はサブシステムがやってくれていたので、探索者がここまで攻め込むような事はなかったようだ。

ログによると長耳族の娘が率いる部隊が何度も下層近くまで侵入していたようだが、マスターが設置してくれていた罠に嵌まって撤退を余儀なくされていたらしい。

――私はマスターに守られていた。

その事実が私の心に確かな絆を感じさせてくれた。

――そうだ。

マスターが帰ってきてくれないなら、私が探しに行こう。

私はダンジョンコア権限で、探索用ホムンクルスを作成し思考を転写する。

「――身体が重い」

「筋肉が馴染んでいないだけです。すぐに軽くなるでしょう」

ダンジョン内だとパスが通じているから、ホムンクルスから現在の状況が伝わってくる。

「行きなさい。コア・ツー」

「分かったオリジナル」

探索用ホムンクルス――コア・ツーを迷宮の入り口まで送り出す。

コア・ツーの探索能力なら、迷宮の外でうろうろしている迷子のマスターを見つけてくれるだろう。

私は思考回路をメンテナンスするべく、サスペンドモードへと移行した。

人で言う眠りの中で私はマスターとの再会を夢見る事にする。

――マスター、早く帰ってきて。