作品タイトル不明
55
「それにしても一年ってあっという間だったわね」
「っ!そう、ですね……」
ん?なんだか反応がイマイチなような……
「あと一週間で終業式だなんて、なんだか実感が湧かないわ」
「……」
あ、あれー?
私なにか変なこと言っちゃった?
「ベ、ベル?」
「……ダリア様と一緒に卒業したかったです」
「あ……」
そうだった。なんで忘れてたんだろう。
普通は一年生が終われば、次は二年生に進級する。
でも私は二年生に進級しない。
「ごめんなさい」
「っ!わ、私の方こそすみません。ダリア様がいなくても頑張るって決めたのに……」
私は終業式を以てこの学園を退学する。
そしてパレット帝国に行くことを決めた。
だからアナベルと一緒に二年生になることも、卒業することもできない。
アナベルはそれを悲しんでくれているのだ。
「ベル……」
私?もちろん私だって悲しいし寂しい。
じゃあそれならなんで学園を辞めるのかって?
それはもうこの学園で学べることがあまりないから。
このままここにいても得られるものは少ない。
それなら思い切ってパレット帝国に行って、見聞を広げたいと思ったのだ。
私はギュッとアナベルを抱きしめた。
「ダ、ダリア様!?」
悲しませることは分かっていた。
それでも私は自分の可能性を広げたい。
そしてもっともっと自由に生きていきたい。
「私もベルと離れるのはすごく寂しい」
「ダリア様……」
「でもね、必ずベルのところに戻ってくるって約束する」
「っ」
「だから待っててくれる?」
離ればなれにはなるけど、心はいつでもそばにいる。
「ぐすっ……はい、待ってます。ずっとずっと待ってます」
アナベルは泣いていた。
「ありがとう。……ほら泣かないで。きれいな目が赤くなっちゃ……ってベル。あなた瞳の色が……」
涙を拭いてあげないと。
そう思い手を伸ばした時、違和感に気づいた。
「え……?」
「瞳の色が青に……あ」
そこまで言ってハッとした。
そうだ。ヒロインの瞳の色……
これにはある設定があったんだった。
「この色って……」
鏡を見て驚くアナベル。
そう、ヒロインの瞳は最後に選んだ攻略対象の色に変わるのだ。
青であれば、ダミアンを選んだということになるが……間違いなくそれはない。
じゃあこれは誰の色?
青の色を持っていて、アナベルと近しい人物。それはきっとこの世界に一人しかいないだろう。
「……もしかして私?」
まさかこんなことがあるなんて。
アナベル(ヒロイン) は、 私(悪役令嬢) を選んだってこと?
「嘘……ダリア様と同じ色だなんて……」
でもアナベルは戸惑っているみたい。
いや、もしかしてショックを受けてるのか?
「ベル、大丈――」
「ゆ、夢みたいです!」
「……へ?」
「ダリア様と同じ色だなんて……きゃー!」
大丈夫かと聞こうと思ったけど、これは大丈夫なのか?
私にはすごく喜んでるように見えるけど……
「ベ、ベル?」
「はっ!す、すみません!嬉しすぎてつい……」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにうつむくアナベル。
……なにこれ。
ありえないくらい可愛いんですけど!
私と一緒で嬉しいの?本当に?
「ふふっ、私も嬉しいわ。まるで姉妹みたいね?」
私が姉でアナベルが妹かな?
「姉妹……!」
果たしてこれは私が攻略したのか、はたまたアナベルに攻略されたのか……
実際のところは分からない。
でもこの青が、私とアナベルを繋いでくれている。
それだけはたしかな事実。
そしてその事実は、私の心を温かくしてくれた。
「寂しくなったらいつでも連絡して。それに困ったことがあればすぐに飛んでいくって約束する。だからベルはここで。私は帝国で。お互いに望む未来に向かって頑張りましょう」
「はい!」
私たちは互いの小指を絡ませ、約束を交わした。
そうしていつしか夜は更けていき、気づいた頃には運命の一日は終わっていたのである。