軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

367ー長閑

暫く移動すると、景色が一気に開けた。

夏だと言うのに、山頂には雪冠を残した北の山脈。荘厳とも言える山脈が奥に連なっている。

手前の鉱山があるカール壁はまだ低い壁だった。正面奥に、壮大なカール壁が連なっている。その間に疎だが低い木々が生息していて地面は植物の緑に、白や黄色や紫色の小さな花が所々に咲いている。

「うわ、広い。少し高い場所から見ると広さがよく分かるね」

「殿下、そうでしょう? 昨日見た時とはまた違うでしょう」

「うん。全然違うよ。ルドニーク、小川も流れてるんだね」

「はい。あの小川にも薬草が生息しているんですよ」

「これは、シャルフローラ様が見られたらどうなる事か……」

レピオス、呟きがみんなに聞こえてるからね。

「シャルフローラ様は、フレイ殿下の奥方様でしたっけ?」

「ルドニーク、そうだよ。もう薬草オタクなの」

「殿下、オタ、オタ?」

「薬草に対する愛情がとんでもないの。ね、レピオス」

「はい。もうとんでもないです」

「ああ、ルドニーク。レピオスだよ。ボクの師匠なんだ」

「おー! 殿下の師匠とは凄い!」

平和な話をしながら、ゆっくりとカール底へ下りて行く。これは広いなぁ。徒歩だと今日1日ではまわれないぜ。

「ユキ、取り敢えず外周をまわってみる?」

「ああ、そうだな」

鑑定してみるか。全然分からんが。

「オク、どう?」

「まだ、分かりませんね」

だよな。もう少し近くに行かないとな。

薬草を採取していたおばちゃんや娘さん達が俺達に気付いた。離れていてもキャーキャー言ってるのが分かるよ。

「兄さま、頑張って下さい」

「リリ、私だけじゃないと思うよ?」

いやいや、どう考えてもクーファル目当てだろ。女性陣の視線を見てみろよ。

「みんな兄さまを見てますよ」

「リリ、スルーだ」

ハハハ。クーファル、スルーとか言いながら顔は微笑んでるぞ。さすが人気No.1の皇子だぜ。

「クーファル殿下の人気は凄いッスね」

「ね、ルドニークもそう思うでしょ」

「リリアス殿下もですよ。うちのばーちゃんが殿下に会いたがってました」

ばーちゃんかよ! いや、差別してる訳じゃないよ。うん、本当に。

「そう言えばさぁ、ルドニークて婚姻してんの?」

「はい。息子と娘がいます」

「え! マジ!? 大丈夫?」

「殿下、何スか? どう言う意味ですか?」

いやまあ、まんまなんだけどな。そうか、妻帯者か。ビックリだぜ。

「もう、怖くて。超しっかり者なんスよ」

「奥さんが?」

「そうッス。幼馴染なんですけどね」

丁度良いんじゃないか? ルドニークにはしっかり者の奥さんで正解だと思うぜ。

「ルドニーク、このまま馬で進んでも良いのか?」

「はい。クーファル殿下。ただ、俺が通った後をついて来て下さい。薬草を踏んだら怒られますから」

誰に怒られるんだよ。あれか。おばちゃん達にか?

「いえ、女性陣みんなにです。超怖いッス」

アハハハ。ルドニーク、大丈夫か? しかし、長閑だ。マジ平和だ。

「兄さま、こんなに長閑な事はないですね」

「リリ、そうだね。夏でもそう暑くはないし、良い気分転換になるね」

「はい、兄さま。城に帰るのが嫌になりますね」

「アハハハ。リリ、それは駄目だ」

「兄さま、分かってます」

「リリアス殿下、このまままわって大丈夫ですか?」

「うん。ルドニーク取り敢えず外まわりをお願い」

「了解ッス」

ずっと鑑定をしているんだが、特に気になる反応はないんだよなぁ。オクソールも見てくれている。

鑑定の性能はオクソールの『精霊の眼』の方が高いからな。

「リリ、もっと奥だな」

「ユキ、分かるの?」

「まだなんとなくだ」

なるほど、奥か。奥は……あれ? あれれ?

「ねえ、ルドニーク。あの奥の方はどうなってんの?」

「どこですか?」

俺は、カール壁が重なっている場所を指差した。

「ああ、小さな滝があるんです。冬は凍ります。山脈の雪解け水が流れ出てきて滝になります。行きますか?」

「うん、お願い」

滝か。滝は日本ではパワースポットになっているところが多いよな。神社とかさ。

「殿下、ここの小川もミーミユ湖に流れ込んでますね。魔素も普通より濃いです」

「薬草が自生している場所は大抵魔素が濃いのですよ。ここはこれだけの薬草があるのですから、水も地面も普通より魔素濃度が高いのでしょうな」

なるほど。レピオスさすが。てか、オクソールもうそれだけの情報が見えるのかよ。俺はまだ全然だぜ。凄いね、『精霊の眼』はさ。

小川に近付いて行くと空気が変わるのが分かった。ちょっと頬がピリッとする感じだ。

「殿下! そろそろお昼にしませんか!?」

シェフだ。後ろから声を張り上げている。

「ルドニーク、どう?」

「小川の側で昼にしますか?」

「うん」

「ウマッ! 激うま!」

シェフのサンドイッチを食べたルドニークだ。俺達は、ルドニークが提案した場所で昼食を食べている。

「なんスか、殿下はいつもこんな美味いの食べてるんスか!?」

「ボクのシェフの料理は美味しいでしょ」

「やっぱ皇子殿下は違うんスねー!」

「関係ないよ?」

「いやいや。俺、こんなの食べた事ないですから!」

なんでだよ。今日は普通のサンドイッチだぜ? と、シェフを見る。

「特に変わった事はしてませんが? 肉も普通に買える物ですし」

と、シェフも首を捻る。

「あれッスか、うちのかーちゃんが下手なんですかね?」

知らねーよ! 俺はルドニークの奥さんが作ったものを食べた事ないし、それ以前に会った事もないじゃんか。

「いや、マジで。いつも家でこんなに美味いと思った事ないんですよね。うちのかーちゃんの料理より、鉱山で賄いのおばちゃんが作る料理の方が美味いし」

それは、ちょっとどうなんだろう?

「でも、シェフの腕は帝都でも随一だよ」

プロだからね。プロ。奥さんと比べる事自体が無理があるよ。

「すんません、失礼ですよね。うちのかーちゃんと比べるのが間違ってますね。申し訳ないッス」

「いえいえ、沢山食べて下さい。まだまだありますからね」

「有難うございます!」

シェフのマジックバッグには一体どれだけの食料が入っているんだろう。想像もできないわ。