軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

女神去りし後

「驚きました、まさかライブラ様とお会いできるとは」

キャロは立ち上がり、さきほどライブラ様が消えた虚空を凝視する。

なにもない、そこにはなにも。

それが、俺にはなによりも恐ろしかった。

なにもないところに消えるということは、なにもないところから現れることができるということだ。

そして、そんな芸当を当たり前のようにやってのけたことが恐ろしかった。

彼女を敵にまわしたらどうなるのか?

突然背後に現れて刺されるかもしれない。いや、刺されるなんてもんで済めばいい、殺されるかもしれない。

そう思った。

それは、町を歩いていてすれ違った人間からいきなり背後を刺されるのではないかという恐怖と同種の、つまりは杞憂に過ぎないことなのだが、それでもやはり恐ろしいと思った。

「ご主人様、それでこれからどういたしましょう?」

「あぁ、そうだったな」

思わぬ珍客はあったが、ライブラ様にいじられた天地創造の書を捲ってみる。

いろいろと説明文が追加されていた。

「んー、MPは残り300ほどしかないからなぁ。今作れるとしたら湧き水くらいか。ちょっと試してみよう」

ゴミ箱を作る気はないからな。

俺は湧き水を指でなぞった。

文字が金色に光るが湧き水は現れない。

説明文によると、次のページに地図のようなものが表示され、どこに湧き水を作るか指定することができるという。

次のページ、なにもないそのページ……これが地図なのだとしたら、とてもシンプルなものだ。

なにしろ、なにもないのだから。

なにしろという接続詞がなにもない白の略ではないかと思うくらいになにもない地図だ。

俺はその地図の一点を適当に――指標もないのだから、適当にその場所をつついた。

突如、MPが吸いとられていく感じがする。

一気にMPが吸いとられ、さらに吸いとられ続けていく感じがした。

指を離すと、MPの消費がなくなった。

とその時だ。

地鳴りが響き渡る。

向こう(方角なんてわからない)の方から響いているとわかり、俺達は必死にバランスを取った。

未だに土下座を続けている……というより固まっているマリナを除いて。

そして――

「湧き出したっ!」

その姿はまるで間欠泉だ。

対象となるものがないので正確な距離は測りとれないが、それでも数キロメートル先と思われるのにここからでもはっきりと見える。

湧きだした水は、徐々にその勢いを弱めたが、止まる様子はない。

暫くはこのままだろう。

「これだと池ができる……いや、大地が乾燥しているからなぁ、地面に吸い込まれていくか」

大地の凹凸がないと、水が一ヶ所に溜まりにくいなぁ。

先に山などを作っておいたほうがいいのかもしれない。

「これがご主人様の力……」

「いや、ライブラ様が言うには俺の力じゃなくて、他の人の力、今だとライブラ様の力を借りて行なっているだけらしいんだけどな……MPを消費するのはご愛敬ってところか。今度来るときは植物の種を買ってきて育てようか。キャロ、売り物になりそうな植物の種を用意してもらっていいか?」

「かしこまりました」

「マリナ、そろそろしっかりしろ!」

「はいっっ!」

俺に背中を叩かれたマリナがピンっと立ち上がり、そして固まった。

どれだけ緊張してるんだよ……この様子だと、トレールール様に会った時も似たような状態になって、結果トレールール様の言いなりという形になっただけなのかもしれない。

もしもそうなら、今まではマリナに同情していたが、彼女の自業自得、いや、緊張してまともに喋ることのできない彼女の相手をさせられたトレールール様に同情してしまう。

気絶している状態なら何をしても無駄だろうから、仮面をつけても無駄だろうな。

俺は本を足もとに置き、マリナを背負うと、空間の裂け目を通った。

元の宿に戻ることができた。

キャロとハルも戻ってきた。

そして、俺はマリナをダブルベッドの端に置き、そのままここで寝かせることにした。

「じゃあ、寝るか…… 浄化(クリーン) !」

浄化の魔法で、マリナの体を、ハルの体を、キャロの体を、そして俺の体を洗浄した。

そして、俺はハルと一緒に隣の部屋に向かう。

MPが尽きかけているので、今日はもうこのまま寝てしまおうか。

そう思った。

だが――

「あ……あの、ご主人様」

何か言い澱むように、俺のことを呼び、

「あの、昼間の勝負の事なんですけれど」

「え? あ、あぁ、そういえばそんな勝負してたな。何でもするって言ってたけど、何をしてほしいんだ?」

「……あの……その、私の」

「ハルの?」

「お腹をさすってください」

尻尾を振ってそう言うハルに対し、俺は、

「 沈黙の部屋(サイレントルーム) !」

MPの残量など気にすることはできなかった。

町は非常事態だというのに、俺は相変わらずバカなようだ。