軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者の誤解

ここに来て、日本人フィーバーが起きているな。

三人目の日本人か。

「俺は楠一之丞。こっちではイチノジョウって名前になってます」

丁寧に言われたので俺もある程度丁寧に返す。

「イチノが苗字ではなかったのか」

今更マリーナが驚き声をあげた。そういえばこいつに自己紹介してなかったな。

キャロが俺のことをイチノと呼ぶから、それが苗字だと勘違いしていたらしい。

鈴木の職業を見た。

【聖騎士:Lv39】

うぉ、カッコいいな。

聖騎士かよ。

どうやったらなれるんだ?

少し探りをいれてみるか。

「勇者と言っていましたけど、勇者という職業なんですか?」

「いえ。正確には聖騎士という職業ですね。レベルは39です」

「へぇ、聖騎士って、もしかして天恵で?」

「いいえ、聖騎士は最上級職業です。天恵は別にいただいています」

「へぇ、どんな天恵なんですか?」

「そこはご想像にお任せしますよ」

白い歯を輝かせて鈴木は笑った。

そうそう情報はくれないか。

天恵はある種の裏技であり奥の手でもある。

俺も、未だ敵か味方かもわからないこいつに自分の天恵を話すつもりはないし。

「……まぁいいか。せっかく同じ日本人に会えたんだし、どうです? 一緒に食事でも?」

本当は太陽が沈む前に食事を済ませる予定だったが、キャロの情報から大道芸による客集めの案を思いつき、その結果夕食はまだ食べていない。

俺も空腹なんだよな。

「いえ、用事が済んだら次の町を目指す予定ですので」

「へぇ……用事ってなんですか?」

「そうですね。そこの三人の奴隷を解放してくれませんか?」

は?

このバカ、急に何を言い出すんだ?

「どういうつもりだ? 奴隷反対派か? 日本人ならその気持ちもわかるが、お前だって奴隷を三人連れてるじゃないか」

「それは彼女達の意志です。僕は三人が望むならいつでも彼女達を自由にするつもりでいます」

そう言って、鈴木は後ろに立つ三人を一瞥した。

修道服を身にまとった女性。剣士風の女性。そして、背の低い、ぬいぐるみを持った女の子。

三人の職業は【見習い法術師】【剣士】【呪術師】だ。まぁ、バランスのいいパーティーだな。

「私は見習い法術師なのですが、奴隷商人に捕まっていたところを助けて頂きました。そのご恩を返すまでは奴隷を続けようと思っています」

「うちはまぁ、剣術大会で剣闘士代表として参加したんやけど、スズキに負けてな。無理いって買ってもらったんや。この首輪が外れるときはスズキに勝った時って決めてるからな」

「……村を救ってくれたコー兄ちゃんについていくって決めたから」

本当に勇者みたいなことをやってるな、こいつ。

どこの主人公だよ。

「それならこっちだって同じだ。ハルもキャロも、二人が望むならいつでも隷属の首輪を外すつもりでいる」

俺が言うと、ハルとキャロは肯定するように頷いた。

「そちらの魔法使いの女性はどうでしょう? 実は昼間から様子を窺っていたのですが、大切なものを取り上げて意地悪をしたり、無理矢理大道芸みたいなことをさせてお金を稼がせたりしているように見えましたが」

訂正してほしい。大道芸みたいじゃなくて、大道芸そのものだ。

もっともそれを言うと本当に話がややこしくなるので言わないが。

俺が黙って話を聞こうと思えば、やはりというかそいつが立ち上がった。

「我の超魔術を見て大道芸とは。その喧嘩、高く買おうでは――あぁ、あのイチノさん、仮面を……仮面を返してください」

「お前はややこしくなるから黙ってろ」

俺は仮面を取り上げてアイテムバッグにしまい込む。

彼女は手を伸ばしてアイテムバッグから仮面を取り出そうとするが、所有者以外は取り出すことができないのがアイテムバッグの仕組み。

逆立ちしても取れない。

「本性を出しましたね。女性のアクセサリーを取り上げて自分のものにするとは。同じ男として到底許せる行為ではありません。どうやら情報は正しかったようですね」

「……あぁ、話がややこしくなった。言っておくけど、俺はお前と戦うつもりはないんだが」

「私も戦いは望みませんが、あなたが頷かないのなら仕方がありません」

そう言って、鈴木は剣を抜いた。

「わかったよ。でも、こんなところで戦ったら周りの客に迷惑だ。外に出な」

「そうですね……その通りです。外で続けましょう」

鈴木と女性三人が店を出る。

俺は――

「季節のパスタ四人前、お待たせしました」

待ってました、とばかりに運ばれてきたパスタを食べる。

季節のパスタと聞いて頼んでみたが、今の季節が春夏秋冬いつなのか俺は知らない。過ごしやすいから春なのだろうか?

パスタの上には茹でられた野草のようなものが乗っていて、味はホウレンソウに似ていた。

女性三人にも食べるように勧め、四人で食事を進めることに。

「イチノ様、行かなくていいんですか?」

「腹拵えが先だ」

「私はあの剣士の女性と戦ってみたいですね」

「あの、イチノさん、仮面を……あ、おいしい」

四人で仲良くパスタを食べていると、

「貴様――何をしている!」

顔を真っ赤にして鈴木がギルドの中に戻ってきた。

「何をって、食事だよ。あれか? 勇者ってのは食事時に襲ってきて食事の邪魔をする職業なのか?」

俺がそう言うと、さらに顔を赤くした鈴木だったが、息を吐き出して肩の力を抜き、

「……食べ終わるまで待とう」

「てか、お前等も食えよ。4人前追加したからさ。このパスタ、うまいぞ?」

「いや、実は私は小麦アレルギーで……」

「小麦アレルギーって、この世界じゃ大変だろ。パンが主食みたいだし」

「アイテムバッグに芋を入れているから、それを主食に――ってそうじゃない!」

「わかったよ。勝負だっけか? で、俺が負けたらどうするんだ?」

「彼女達にこう命令をするんだ。『過去の命令を全て無視して、奴隷をやめたいかどうか正直に言うように』と。奴隷をやめたい子がいたら奴隷から解放してもらう」

なるほど。それならこっちにデメリットは何もない。

今すぐその命令を三人にしたら全部解決しそうな気がするが。

「ちなみに俺が勝ったら?」

「仲間に手を出さないのなら、私に対して何を命令してくれてもかまわない」

「命令は1個だけか?」

「いくつでも構わない」

自分が負けるわけがない。そんな余裕が鈴木からは感じられた。

「よし、わかったよ。勝負しよう」

パスタを食べ終わり、俺はそう言った。

「で、勝負方法はジャンケンでいいか?」

「何を言っている! 勝負は――」

「暴力でしか解決できないのか? 勇者とやらは」

「……いいだろう」

鈴木は勝負方法をジャンケンで認めたようだ。

ジャンケンで済むなら食べ終わるのを待たせる必要はなかったんだが、まぁ、俺のことを悪人みたいに扱っていることへの嫌がらせだ。

「ただし、勝負はどちらかが三回勝つまで。それでいいか?」

鈴木が条件を追加してくる。

俺は「いいぞ」と答えた。

「言い忘れたが、聖戦士は数ある職業の中でも女神様の加護が与えられる職業で幸運値が高い。幸運値しか取り柄のない遊び人に匹敵するほどだ。一度の勝負ならば万が一にも君にも勝てる可能性はあったが、複数回の勝負となると君に勝ち目があるわけがない。策士策に溺れるとはまさにこのことだ!」

――10秒後。

「なんで!? なんで勝てないんだ! いったい、何をしたんだ!?」

「何をしたって、ジャンケンをしただけだろ?」

ただし、職業をちょっと変えたけどな。遊び人と狩人をつけて、幸運値をかなり高めさせてもらったがな。

「くそっ……」

鈴木が絶望に頽れる。

目的も達成できそうだし、そろそろ誤解を解いておくか。

「あぁ、ハル、キャロ、ついでにマリナ。命令だ。過去の命令を全て無視して、奴隷をやめたいかどうか正直に言うように」

俺が三人に命令をした。できるだけ、鈴木が言ったセリフを忠実に。

「前にも申しましたが、私はご主人様の奴隷をやめるつもりはありません」

「キャロもです。キャロはキャロの意志でイチノ様の奴隷をしています」

ハルとキャロが告げた。

「わ……私は、その……」

アイテムバッグから仮面を取り出して、マリナに渡す。

マリナはいそいそとその仮面を付け、

「勘違いするな、イチノ。主は我の仮の主であり、我が認めし主は盟友カノンに他ならぬ。貴様に我をどうこうする権利など元からないわ」

と快活に笑って言った。

「ということだ」

勝ち誇ったように俺が言うと、鈴木は顔を真っ青にし、

「す、すまなかった。完全に私の勘違いだ。どうか許してほしい」

見事なまでのジャパニーズアイムソーリースタイル……つまり土下座を披露した。

俺は鈴木の肩を叩き、「勇者がそんな謝り方をするもんじゃないぞ」と優しく言う。

「で、誰に聞いたんだ? 俺が極悪人だって。情報を貰ったんだよな?」

「……それは言えない」

「何でも言うことを聞くって言っただろ? 教えてもらおうか?」

「……わかった。ただし、お願いだ。私と一緒に来てくれ。あと、私が今から言うことを誰にも言わないでほしい」

「わかってる。大体予想はついてるからな。やはり大当たりか」

俺は邪悪な笑みを浮かべて、冒険者ギルドを出た。

そこには、鈴木の仲間三人が待っていた。

俺は「誤解は解けたからもう勝負の必要はない。それより、料理を注文してしまってな。よかったら三人で食べてくれ」と笑顔で言った。

そして、「ちょっと日本人同士、大切な話があるから、俺達は席を外すけど、すぐに戻る」とも言っておく。

「で、鈴木。やっぱり、俺の悪い噂を流した男は、Dを持ってるのか?」

「D……そうか、楠君。君も知っているのか。そうだ、彼はDを持っている」

そもそも、初めて訪れたこの町で、俺に恨みを持っている人間なんて三人しかいない。

つまり、冒険者ギルドで絡んできたあの三人の男だ。

俺はあいつらにもう一度会わないといけない。

「こっそり読んだあの D(同人誌) の続き、じっくり読ませてもらわないとな」

あと、鈴木から、詫びとして聖騎士になる方法もこっそり教えてもらった。

騎士レベル50になった貴族が聖騎士に転職できるようになるらしい……って、そう言えばハルから聞いてた。

……へぇ、貴族なんだ。

まぁ、貴族として扱われるのはあまり好きじゃないそうだし、うん、聞かなかったことにしよう。