軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

沈黙の部屋の間違った使い方

……頭が重い。

んー、この感覚は、20歳になった誕生日の一週間後、バイト時代の先輩にお祝いにと居酒屋に連れていかれて、梅酒やチューハイを沢山飲まされた翌日の二日酔いの時の感覚に似ている。

あの時は、ミリにかなり怒られて、頭が痛かったことははっきり覚えている(どうやって帰ったかは覚えていない)。

目を開けると――知ってる天井だった。

昨日も同じ部屋で寝たからな――一晩中睨めっこしていた天井だ。あの、良く見たら人の顏に見えるシミとかまさに同じ部屋だ。

(ってあれ? 俺、一人部屋にいなかったっけ?)

「ここは――」

壁側を見ると、ランプが吊るされていて、窓の外はすでに暗くなっていた。

「ご主人様、目を覚ましたのですね」

ハルが俺の顏を覗き込んだ。

「ハル……俺、どうして」

「MPがなくなったことによる意識消失です」

「MPがなくなったら意識を失うのか」

……ゲームとかだと魔法が使えなくなるだけだったから、ついこっちの世界でもそうなのだと思っていた。

今まで、MPが無くなることはなかったし。

現在のMPを確認してみると、30まで回復していた。

「申し訳ありません。ご主人様が迷い人であることを知っていたにもかかわらず、私が説明しなかったばかりに」

「いや、俺の不注意だ。ハルが気にすることはない……キャロは一人部屋のほうか?」

「はい、先ほどまで一緒にご主人様を見ていたのですが、顔色がよくなったのを確認し、交代でご主人様を見守ることにいたしました。ところで、夕食はいかがいたしましょう? 一応、シチューを用意したのですが、冷めてしまいました」

ベッドの横のチェストの上に冷めたシチューが置かれている。

んー、今はあんまり食欲もないしな。

ハルをじっと見る。

白い髪、白い耳、白い肌。

「温め直してきますね」

後ろを向くと、白い尻尾がスカートからはみ出ている。

俺はゆっくりとベッドから立ち上がると、後ろからハルに抱き着き、右手をスカートの中に手を入れた。

ブルマの感触が手に伝わってきた。

左手でハルの程よく大きな胸を掴む。

「ハル――昨日はできなかったから――」

職業を遊び人に変えた。

「しかし、ご主人様。この部屋の壁はとても薄く、声を上げたらキャロが気付いてしまいます」

「……大丈夫、そのために――」

俺は笑って、

「 沈黙の部屋(サイレントルーム) !」

と魔法を唱えた。

これで、何をしても声が外に漏れることはない。

俺とハル、ベッド周辺を光の部屋が包み込む。

まさに、宿屋でアレをするために用意された魔法といってもいいだろう。

正直、この魔法の説明を聞いた時から、この使い方ばかり考えていた。

「では――お世話させていただきます」

ハルは向き直り、俺をベッドへと誘う。

こうして、俺の夜は始まった。

※※※

朝食。昨日のシチューを温めなおして宿屋のおばちゃんが用意してくれたので、俺は肉たっぷりのシチューを食べることができた。

本来なら最高の朝食になるはずだった。

だが、現実は気まずい雰囲気が場を支配している。

遊び人のレベルも1しか上がらなかった。

仕方がない。

中でもキャロがかなり気まずそうにしているが、悪いのは間違いなく俺だ。

沈黙の部屋(サイレントルーム) の一番大きな欠点を完全に見逃していた。

沈黙の部屋(サイレントルーム) の範囲をベッドとその周辺にしたせいで俺達の情事の音は外に漏れることは確かになかった。

ただし、扉のノックの音も俺には聞こえなかった。

キャロが俺の看病を交代するためにノックして扉を開けたときのキャロの表情は今でもはっきりと目に焼き付いている。

鍵をかけていない俺が悪かったとも思うが、ノックして全く反応がなければ、キャロはおばちゃんから合鍵を貰ってきておばちゃんと一緒に扉を開けたかもしれない。

そんなことになればそれこそ目も当てられない。

今度からは 沈黙の部屋(サイレントルーム) の範囲をギリギリ扉が入る範囲までにしておかないといけないが、少し広がれば、光の膜が部屋の外に漏れてしまうため、かなり神経がすり減りそうだ。

「あの……イチノ様……昨日は」

「……キャロ……すまない。昨日のことは忘れてくれ」

「……はい」

結局、こうなった。

ハルも少し落ち込んでいる。

ハルにとってキャロは妹みたいなものだからな、妹にあれをしているところを見られるのは辛いだろう。

俺にも実妹がいるからよくわかる。

「とにかく、昨日はMP0になってしまってすまない。今度から気を付けるよ」

「ご主人様はMPが通常の錬金術師より遥かに高いですから油断してしまうのは仕方がないことです」

「ですが、昨日イチノ様が作られた鉄球を確認しましたが、品質が明らかに上昇しています。流石はイチノ様です」

不自然な笑顔ばかりの食卓が俺達の前に広がっていた。

うん、シチューはやっぱり肉入りだよな。

※※※

馬車に乗り、俺達は山を下って行った。

MPが全快するまで、MPを使わずに経験値を貯められる職業はないかと模索していたが、結局何も見つからず、気配探知を使い続け、近くに魔物がいないか探ることにした。

が、遠くに一匹、二匹の魔物がいるだけで、街道沿いには魔物は全くいなかった。

昼過ぎになり、MPが全快したので、錬金術を試すことに。

アイテムバッグから鉄鉱石の入った箱を取り出す。

ちなみに、昨日一日、気を失うまで頑張った結果。

見習い錬金術師のレベルは37に、錬金術師のレベルは18になっていた。

覚えたスキルは以下の通り。

【見習い錬金術師スキル:金属精錬を取得した】

【錬金術師スキル:金属精錬が金属精錬Ⅱにスキルアップした】

【錬金術師スキル:魔金属融合を取得した】

金属精錬は、金属から不純物を取り除く技術。ランクによって精錬可能な金属が変わるらしい。

魔金属融合は、前にキャロから教えてもらった魔金属を融合するスキルらしい。

今のところゴブリン鉄しか持っていない俺には関係のないスキルだな。

レシピも増えたが、やっぱりミスリルはまだ鉱石から製錬できないらしい。

ミスリルを作るためにも、錬金術レベルを上げないとな。

今の俺は、錬金術師の4倍くらいのMPがある。

MPの回復量は最大MPに依存するようなので、MP回復量も通常の錬金術師の4倍だ。

しかも天恵により、他の人より400倍成長しやすい。

つまり、今の俺は魔物を倒さずに錬金術だけで経験値を貯める場合、同じ方法でレベルを上げる他の錬金術師の1600倍の速度で成長できるわけだ。

もっとも、金持ちの錬金術師はマナポーションを買ってレベル上げをしているそうなので、そいつらには敵わないだろうが。

そうして、そんな風にレベルを上げたら、他の錬金術師にはできないことができる。ミスリル鉱石をミスリルに変えるみたいに。そうしたら、それが金になり、マナポーションをさらに買うことができる。

好循環だ。

金持ちのところには金が集まるシステムだ。

マナポーションか。手に入るのはいつになることか。

普通の店では扱っていないらしいから、マナポーションを手に入れるにはコネも必要になるだろうしなぁ。

「ハルさん、そのあたりで馬車を止めてください!」

キャロが言った。

トイレ休憩か? とか考えたら、

「イチノ様、このあたりにマナグラスの群生地があるそうです」

「マナグラス?」

魔力の硝子?

いや、群生地って言ってたから、草のほうか。

アールとエルの発音の区別ができない弊害が出たな。

魔力の草――薬草だろうか?

「はい、マナポーションの材料です。村の狩人さんが偶然見つけたそうで、教えてもらったんです。ファースト職業を行商人で続けていく以上、薬師ギルドには入れませんから、薬草は自分で見つけないといけません」

昨日、調べていたのは薬草の情報なのか。

狩人から聞いた目印を頼りに森に入って行き、土で手を汚しながら魔法草を取るキャロを見て、マナポーションが手に入るまでそう時間がかからないのではないかと思った。

俺も手伝いたかったが、俺が採取したらキャロの経験値にならないからな。

そのかわり、採取が終わったら 浄化(クリーン) で綺麗に洗ってやろうと思った。