軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者ギルドに登録しよう

この世界についてはある程度はダイジロウさんの本で読んだけれど、それでも自分でも調べておかないといけないと思う。

もちろんあの本を信じていないと言う訳ではないが、町に入るための税金とか、職業を判別できる水晶球とかについては書かれていなかったし、無職のスキルについても書いていない。

情報は自分で見て確かめて初めて身に付くものだと思う。就職するために会社の概要を資料で読んだだけじゃなく、実際にプライベート時間に工場などを見学させてもらってから面接に挑んだ俺が言うんだ、間違いない。

まぁ、その自動車会社も面接前の筆記試験で落とされたけど。

情報の集まる場所といったら、酒場――と言いたいが、俺は酒は苦手だ。

20歳になったんだから、飲むのは合法だけれど、若者のアルコール離れが進んでいるといわれる昨今、20歳=酒飲み、というわけではない。

酒場の空気は肌に合わないのが目に見えているから、情報収集にはやっぱり、冒険者ギルドが一番か。

ということで、最初の目的通り、冒険者ギルドを目指すことに。

青い屋根の建物、剣と盾の看板、目的の場所はすぐに見つかった。

木造平屋の建物。扉は開いたままになっていて、多くの屈強な男がいる。いや、中には美人なお姉さんもいるけれど。

……不安だな。

なんだろう、こういう冒険者ギルドとかって、俺みたいな男が入ったら十中八九絡まれる雰囲気があるんだけど。

で、でも多くの人がいるんだし、平気だよな、うん。

白昼堂々喧嘩を売ってくるなんてことはない。

何を弱気になっているんだ俺、こんなの面接前の扉を開けるときの緊張感に比べたら屁でもないだろう。

ということで、俺は営業スマイルを掲げ、冒険者ギルドの中に入って行き、

「失礼します!」

大声で言って挨拶した。と同時に後悔した。

……やっちまった! つい面接のときのクセで。

一気に視線を集めるが、大半の冒険者はすぐに興味を失ったのか視線を戻し、幾人かの冒険者が俺を見ていた。

でもまぁ、絡まれることがなさそうで少し安心。

俺は前に出て、空いている窓口に行き、挨拶。

「はじめまして、くすの……いえ、イチノジョウと申します」

楠一之丞(くすのきいちのすけ) と名乗ろうとしたが、ここは異世界。俺のステータスがイチノジョウである以上、イチノジョウを名乗っておこう。

「いらっしゃいませ、ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどういった御用でしょうか?」

そう挨拶をしたのは、茶色い髪に琥珀色の瞳の美人受付嬢だった。

そして、その耳は顔の横にではなく、上に生えていて……

――狐耳きたぁぁぁぁっ!

思わず歓喜してしまう俺がそこにいた。いや、獣人好きというわけではないんだけどね、んー、こう、男のロマンを感じるよな。

カウンターの向こうをそっと覗くと、尻尾が見え隠れしていた。そこに痺れる憧れる。

と、そろそろ用件を言わないと怪しまれる。面接モードだ。

「道中でウサギを3匹狩りまして、買い取りはこちらでしていただけると伺いました。買い取りは可能でしょうか?」

「そうですか、ではまず、冒険者証明書の提出をお願いいたします」

「……冒険者証明書?」

「はい、神殿で戦闘職に転職なさった方は冒険者である証明書が貰えます。申し訳ありませんが、冒険者以外の方からは買い取りはできかねます」

……そんな、つまりは無職のままだと冒険者ギルドでアイテムの販売ができないってことか?

「戦闘職には、平民レベル5で転職できる狩人が一番早く転職できる条件となっております。成人男性で税金を規定額納めている方なら全員なれる職業ですよ」

「……えっと、転職しないで冒険者になる方法は?」

「ありません」

「どうしても今の職業のまま冒険者ギルドを利用したいんですけど」

「申し訳ありません、規則でできません」

……そ、そんな。

いや、これもいい機会だ、ある程度無職レベルを上げたら転職を考えよう。

考えて見ろ、これは俺にいい加減、異世界でくらい就職しろ、という神からの前向きなメッセージじゃないか。

「こんにちは、カチューシャさん」

俺が考えていると、後ろから男が受付嬢さんに声をかけた。

長い銀髪の爽やかな叔父さんだ。45歳前後だろう。

「こんにちは、マティアスさん。あの、ギルド内での営業はできれば避けてほしいのですが」

「わかりました。イチノジョウ様ですね?」

どうして俺の名前を? って、あぁ、俺の声がでかかったから周囲に聞こえてたのか。

「今、少し話が聞こえまして、なんでも冒険者ギルドに登録をしたいが、今の職業を変えたくないとか。それなら、いい方法がございますよ」

「……え?」

いい方法? またもや裏技?

「あの、マティアスさん、ですからギルド内での営業は――」

「失礼しました、カチューシャさん。では、説明をしますのでこちらへどうぞ。安心してください、私とカチューシャさんは友人としてですが親しい間柄。ギルド職員の友人に悪い人間はいません」

いや、いるだろ。

怪しい人間じゃないって言う人間のほうが怪しいんだけどな。

でも、これも何かの運命なんだろうか? こう、俺を無職のままでいさせようとする運命みたいなのが働いているんじゃないだろうか?

ギルドを出て、マティアスは歩きながら俺に説明を始めた。

「冒険者ギルドだけでなく、錬金術ギルドや鍛冶師ギルド、漁師ギルドなど、様々なギルドが存在し、そのギルドに所属するには特定の職業にならないといけません。ですが、転職せずにギルドからの恩恵を授かるには一つの方法があります」

マティアスは指を立てて言った。

「代理を立てればいいんです。例えば兎を売りたいイチノジョウ様なら、既に冒険者である人に頼んで、代わりに売ってもらえばいい」

なるほど、確かにそれは有効だ。

「それって反則じゃないのか?」

「いえいえ、これはギルドが黙認している行為です。もちろん、中間マージンは必要ですがね」

「手数料がかかるってことか。つまり、マティアスさんがその冒険者で、俺のアイテムを代わりに売ってくれると?」

「いえいえ、私は冒険者ではありません。奴隷商を営んでおります」

奴隷商?

奴隷商って、あの……つまり、奴隷を売るってこと?

うわぁ、マジかよ。人身売買か。

奴隷がいることはダイジロウさんの手記で知っていたけれど、どこか遠い存在だと思っていた。

「あぁ、奴隷といっても、この国での奴隷の扱いはそう悪い物ではありません。衣食住を与えるのは主人の義務ですし、扱いが酷いと国から罰を受けますから」

俺の顔色が悪くなったのを見て、マティアスが説明をした。

んー、でもなぁ。

奴隷ってどうしてもイメージは最悪だ。

「当社では、奴隷の販売だけでなく、レンタルも致しております。レンタルなら人にもよりますが、1時間5センス。兎肉は1匹10センスで、通常3割が冒険者の中間マージンになりますから、3匹売れば、30センスの3割、9センスが冒険者の取り分に、21センスがイチノジョウ様の取り分になります。ですが、奴隷をレンタルしたら、30センスが貴方の物に、レンタル料の銅貨5枚を支払っても25センスが残ります。ちなみに、レンタルの奴隷に対しては暴力や性行為は全て禁止です」

あぁ、それなら確かに悪い気がしない。

簡単にいえば人材派遣だ。

「ちなみに、買うとどのくらいなのでしょうか?」

「人にもよりますが、ヒュームだと10000センスから30000センスくらいです」

金貨1枚~3枚……100万円から300万円程度か。

安くはないけれど、人間一人の値段としては高いとも言い切れない。

「もちろん、特殊技能を持っている者もいるので一概には言えません。当店で一番の高値の奴隷は、エルフとドワーフのハーフの女性でして、魔剣鍛冶師をしています。彼女の値段は1000万センスです。レンタル料は1時間500センス」

レンタルなら時給5万円、売り値10億円か。

魔剣鍛冶師とは、素材を加工して武器を作る鍛冶師の上位職で、魔剣を作ることができるらしい。

「その他にも人頭税の支払いの義務が発生します。毎年1000センスの支払いが必要ですね」

毎年10万円……んー、この世界の1年も12ヶ月だとしたら1ヵ月1万円以下の貯金でなんとかなるってわけか。

とはいえ、毎回5センス支払った方がいいか。毎日冒険者ギルドを使うというわけじゃないし。

それに、奴隷を養う余裕は我が家にはありません。