軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゴマキ村の夜

子供のころから車酔いとかしなかった俺にとって、馬車の中の 内職(錬金術) はちょうどいい暇つぶしだった。

鉄鉱石が次々と鉄球に変わっていき、それに伴い、見習い錬金術師のレベルが上がっていく。

今はレベル14だ。

見習い錬金術師レベル10になったときに、金属鑑定のスキルを覚えた。

金属鑑定は武器や防具など、加工済みの装備にも適用されるみたいで、

【鋼鉄:鉄と炭素の合金。中級錬金術師によって生み出される】

と、鋼鉄の剣を見たときに表示された。また、レシピも5種類増えた。

火竜の牙剣を見せてもらったが、金属ではないので鑑定できず、ショートソードを見せてもらったら鉄でできていることがわかった。

ちなみに、ゴブリンソードは、ゴブリン鉄という特殊な金属らしい。

「魔金属ですね。幾多もの魔物の血を浴び続けた金属は変異することがあるそうです。ですが、そんなことはめったになく、世界に出回っている魔金属の大半は迷宮内で魔物が落とすものです。錬金術師のレベルが上がれば、魔金属を合わせて新たな魔金属を作ることもできるそうですよ。魔合金と言われています」

「へぇ、キャロは詳しいな……じゃあ、ゴブリン鉄は貴重な鉄なのか?」

「いえ、ホブゴブリンが落とすゴブリン鉄棒が全てゴブリン鉄なので、貴重ではありません。普通の鉄よりもわずかに弱いと言われていますから、純鉄のほうが価値は上です」

「……あ、そうなんだ」

残念だ。

MPも半分を下回ったので、とりあえず休憩することにした。

馬車の中では素振りもできないし、魔法の熟練度を上げるにはMPが必要だ。

「MPを簡単に回復できる薬とかあればいいんだがな」

「マナポーションは買い占めされていて、大変貴重ですからね」

貴族や金持ちがマナポーションを買い占める。

マナポーションを使って魔法を使うことで、レベルを上げるんだとか。

だから、一流の魔術師や法術師、錬金術師というのは金持ちの息子が多いらしい。

「買い占めかぁ……買い占めはよくないよなぁ」

俺がそう呟くと、御者席に座っていたハルが会話に加わった。

「そうですね。冒険者ギルドが冒険者以外の人から素材を買い取らないのも、元は商人の買い占めが原因ですからね」

かつて、冒険者ギルドがないころ、商人たちは個別に冒険者や採取人を雇い、薬草や魔物の素材を集めさせた。

だが相場を知らない冒険者は足元を見られ、かなり安く買いたたかれたそうだ。

そんな冒険者の地位を保護しようと冒険者ギルドが発足。

すると、今度は商人はそれを良く思わず、冒険者に必要なポーション等を買い占めた。

通常の値段の数倍の値段で売ろうとする商人だったが、冒険者は誰もポーションを買わない、不買運動を起こした。

その時、魔物の大発生が起こり、その魔物と戦った冒険者の多くが死んだ。

ポーションがあれば助かったものも大勢いたという。

それから、冒険者ギルドは商人や、ポーションを作っていた薬師達を排除するようになり、最終的には冒険者以外の者から素材を買い取らないようになったとか。

「もっとも、三百年以上も前のことですし、今は薬師ギルドと冒険者ギルドはかなり友好関係を結んでいますから大分緩和されています。ご主人様が私を代理に立てて素材を売るような抜け道も冒険者ギルドは黙認していますし」

今まで戦闘系の職業ばかりレベルを上げていたが、戦わない生活を送ることを考えると、生産系の職業のレベルを上げるのも便利なんだよな。

少なくとも、命の危険はなさそうだし。

あぁ、でもハルは戦う生活のほうが好きそうだしなぁ。

馬車道が続くが、勾配が少し急になってきた。

山道に入ったようだ。

日本に住んでいると、山というのは木々が生い茂る感じだが、ここは岩山のようで、草や花、背の低い木が生えているが、高い木は生えていない。

富士山がこんな感じなんだろうな。

一度家族で富士山を五合目まで登ろうか、みたいな話になったことがあるが、ミリが断固として富士山に登るのを嫌がったので、結果、富士山旅行は取りやめになり、浜松に鰻を食べに行く旅行に変わったのを思い出した。

まぁ、今考えたら、富士山は見るものであり、登るものではないというミリの考えも納得できるのだが、あんなに意固地になったミリを見たのはあれが最初で最後だったな。

「この先に宿場村がありますから、今日はそこで泊まり、明日は迷宮に行きましょう」

「あぁ、ここがゴマキ山なのか。ハル、村は見えるか?」

「いえ、まだ村は見えません。ですが、生活の匂いが近付いてきていますので、そろそろ見えるかと」

「生活の匂い?」

人間の匂いとは違うのか?

「薪を燃やす匂い、パンを焼く匂いといった、人々が生活する香りです」

そういうことか。

ハルは本当に鼻がいいな。

彼女の言う通り、村はそれからほどなくして見えてきた。

フロアランスやベラスラと違い、本当に小さな村で、人口は二十人程度のゴマキ村という名前らしい。

山の名前をそのまま使っているそうだ。

南東にあるダキャットとの国境町、南西にあるコラットとの国境町、どちらに行くにせよここから馬車で2日はかかるそうなので、両国を目指す旅人や行商人はここで泊まっていくそうだ。

ということは、明日は迷宮に行って帰って泊まるとして、明後日の夜は野宿になりそうだな。

村の入り口に馬車の列が並んでいた。なんでもフロアランスを目指す 隊商(キャラバン) らしい。

荷物も馬車に乗せているので、厩には止めずにあそこに止めているそうだ。

厩があり、そこに馬を預けることにした。

馬の名前はまだ考えていない。

とりあえず、ハルから馬に、暴れないようにと念を押してもらい、俺達三人は馬車を降りた。

ちなみに、馬車の預ける料金は明後日の朝までで10センス、馬を預ける料金は馬の種族によって決まるらしく、白馬――アークホースという種族だと今更知った――は50センス(餌代込み)だった。

合計60センス、銅貨10枚束を6つ渡して預かり証を受け取る。

「それにしても立派な馬だなぁ。今朝のよく食べるスロウドンキーとは大違いだよ」

白馬を見て厩の茶髪のおっちゃんがそう感想を漏らした。

「スロウドンキー?」

「あぁ、今朝に妙な男女が訪れて、ここに預けていったんだよ。小さいのに本当によく食うスロウドンキーでなぁ。昼過ぎに村を出て行ったんだけど、厩にあった藁の半分を食べちまいやがった。こっちは大赤字さ」

間違いない、ジョフレとエリーズだ。

あいつら、昨日は宿に泊まらずにそのまま旅に出たのか。

なんともタフな奴らだ。

でも、きっとそんな辛い旅でも、笑顔で続けているんだろうな。

「そいつら、どこに行くとか言ってませんでした?」

「さぁねぇ、南を目指すとは言っていたけど」

「そうですか」

また会う予感はしていたが、本当にすぐに会いそうだな。

まぁ、こっちはここで一日過ごすわけだし、すぐに追いつけるとは思えないが。

「ところで、ここの名物料理って何かありますか?」

「あぁ、山羊乳と小麦粉を使ったシチューが絶品だよ。宿に行ったら嫌でも食べさせてくれるさ」

「そうですか、ありがとうございます」

山羊乳のシチューか。

うん、旅と言ったらやっぱり名物料理もしっかり味わわないとな。

宿場村といっても、小さな村だ。

宿も一つしかない。

厩では他に預かっているっぽい馬もいたから、客がいないというわけはないだろうが。

「いらっしゃい、3名かい? 奴隷なら納屋も用意できるけどどうする?」

おばちゃんが笑顔で声をかけてきた。

ハルはスカーフで隷属の首輪を隠していたが、キャロの隷属の首輪は丸見えだ。

おばちゃんに悪気がないのはすぐにわかる。そう聞くのがこの世界では普通なのかもしれない。

「いえ、普通の部屋でお願いします。食事も全員同じものを」

「はいよ。部屋はどうする? ダブルの部屋一つにするかい? それとも大部屋に布団を敷くかい? あいにく、シングルの部屋は埋まっちまってねぇ」

ダブルの値段は30センス、大部屋なら一人5センスでいいらしい。ただし、現在7人が使用中のためかなり狭い状態だそうだ。

食事の代金は別で夕食なら7センス、朝食は3センス。

「ダブル二部屋はダメですか?」

「悪いね。ダブルももう一部屋しかないんだよ。商隊の団体客が入っちゃってね」

村の入り口に馬車を止めていた 隊商(キャラバン) のことか。

見張りを立ててはいるが、全員馬車で寝るわけないよな。

そりゃ、たまにはベッドで寝たいと思うこともあるだろう。

仕方がない、ダブルの部屋を借りて、俺達はとりあえず部屋に向かった。

アイテムバッグは他の人には使えないようになっているとはいえ、盗まれたら困るものなので、肌身離さず持っておくとして……さて、どうしたものか。

「では、キャロがベッドの横で寝させていただきますから、ハルさんとイチノ様でお使いください。ハルさんは今日一日馬車を操って疲れているでしょうから」

「いえ、キャロのほうが小柄だから、キャロとご主人様がベッドを使って。その方がご主人様も楽だと思いますし」

「じゃあ、間を取って俺がベッドの横で寝るから女の子二人がベッドで――」

「「それはダメです」」

うん、絶対にそう言われると思った。

といってもな、女の子を床で寝かせて男がベッドで寝るのってどうよ?

「ま、まぁ、夕食でも食べてから考えようか。いいアイデアが浮かぶかもしれないし」

俺はそう言って、三人で夕食をとるために食堂に向かった。

シチューは大きな鍋にすでに用意されていた。具材は野菜が少し入っているだけで肉は入っていない。

普段から多めに作っていて、残った分は自分達や村人で食べるのだとか。

ただ、今日は団体客が入っているから余らないだろうと言っていた。

シチューはとても濃厚な味で、牛乳を使ったシチューよりもおいしく感じたが、一緒に出されたパンはとても固く、シチューに浸さないと食べれたもんじゃなかった。

んー、でもやっぱり肉があったほうがいいなぁ。

なんて思いながら食事を食べ終えて部屋に戻る。

で、何の問題も解決していないことに今更気付く。

誰が床で寝るか。

二人はいっそのこと、俺だけがベッドで寝て自分達が床で寝るという最悪の結論を出そうとしている。

女の子二人を床で寝かせて男一人ベッドの上なんて、そんなの俺の紳士心が崩壊するわ。

といって、俺が床に寝るための案を出す方法が思い浮かばない。

実はベッド恐怖症で――って、ハルと旅をしている間はずっとベッドで寝ていた。

主人としての命令で二人をベッドで寝させる……そんなことで無理矢理命令を使うのは嫌だ。

そうだ、そもそも主人と奴隷という立場がいけないんだ。

「二人とも、俺の奴隷をやめないか?」

あれこれ言う二人に、俺はそう提案した。

すると――直後、二人の顏が青ざめた。

キャロなんて涙が溢れている。

「……ご主人様、私は、私は一生ご主人様についていく所存であります。なにとぞ傍に置いてください」

「キャロもです! キャロはイチノ様とともにこのまま生きていたいです。イチノ様と離れたくないです」

え、ええ!?

しまった、言い方がまずかった。

「ちょ、ちょっと待て。奴隷をやめないか? って言ったのは、隷属の首輪を外して、主従という関係を無くして、対等な仲間とならないか? って思ってるだけだ。俺の元から去れって言ってるわけじゃない」

俺は慌てて訂正する。

全く――言葉足らず過ぎるだろ、俺。

奴隷をやめないかと尋ねたのは、さっきの宿屋のおばちゃんのセリフが原因でもある。

奴隷を下に見るこの世界の慣習が、俺は未だに馴染めずにいた。正直、さっきのおばちゃんのセリフにもイラっとしたほどだ。なら、いっそのこと二人を奴隷から解放したほうが俺も楽なんじゃないかと思ったんだ。

俺の訂正に、二人の表情は和らいだものの、結果、俺の提案は拒否された。

「私はご主人様の奴隷になっていることに誇りを持っています。この首輪はいわば忠義の剣。どうかこのままでいさせてください」

「キャロもです。キャロはイチノ様に沢山の幸せを頂きました。そのご恩をお返しできないままこの首輪を外すことはできません」

いい子たちだ。チクショウ。

こんないい子たちが奴隷になるなんて世界は間違っている。

俺が奴隷から解放させてやりたい!

とさらに思ったのに、奴隷を解放することを拒否されるこのジレンマ、一体どうしたらいいんだろうか。

そして、問題はまだ解決していない。

誰がベッドで寝て、誰が床で寝るか。

さっき俺に対してあれだけの信頼を示してくれた二人を床で寝かせることなんてできるわけがない。

「いっそのこと三人で寝るか……なんて……な」

俺がそう言うと――

「確かに……ベッドは通常のダブルベッドより少し広いようですし」

「キャロも小柄ですから……少しのスペースがあれば寝られますね」

……え? マジですか?

三人で寝るの?

「「ご 主人(イチノ) 様がよろしければ――」」

「……三人で寝るか」

俺の案が採用されてしまった。

夜――左側にハル、右側にキャロという夢の三人ベッドが完成されたのだが――当然簡単に眠れるはずもない。

キャロが俺の腕に抱き枕のように抱きついてきたり、ハルが時折出す色っぽい寝息と女の子独特の香りに耳と鼻腔が刺激されたりして俺は興奮するのだが。

だが、横にキャロがいるので、ハルとごにょごにょできるわけもなく、ただ蛇の生殺し状態で俺は一晩を明かすことになる。

太陽はまだ昇らない。