軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

キャロの意見を尊重し、ゴマキ山経由でダキャットに向かうことにした。

ゴマキ山にはコショマーレ様の女神像があるらしいからな、ミリの情報を聞かないといけない。

トレールール様はサボっていたから何の情報も得られなかったからな。

まずは、キャロの職業を行商人にするために教会を目指した。

俺にとって職業を変える場所といえば、ハロワなんだが。まぁ、某有名ゲームでも神殿で転職するのが常識だしなぁ。

ちなみに、教会は俺の想像通り、ステンドグラスがあって、屋根の上に十字架のある大きな建物だった。

んー、気になるな。

「なぁ、教会のあの紋章って、どういう由来があるんだ?」

ちなみに、地球における十字架はイエス・キリストが処刑されたときの刑具だと伝えられている。

こっちの世界でも似たような逸話があるのだろうか?

「十字架ですね」

ハルが言った。こっちの世界でも十字架と呼ばれているらしい。

「十字架は、四つの大陸に住む全ての人、四つの種族の全員が交わる地を意味します」

そう言った。四つの大陸か。この世界には大陸が四つあるのか。もっとも、人間が未発見の大陸もまだあるかもしれないが。四つの大陸はわかるが、四つの種族ってなんだろ?

訊ねてみたら、

「ヒューム・ 小人族(ミニヒュム) ・ドワーフ・ 巨人族(ジャイアント) です」

とハルは即答した。常識問題らしい。

ドワーフや 巨人族(ジャイアント) もこの世界には存在するのか。

巨人族の戦士とか、絶対に強いだろうな。

「獣人は入ってないのか?」

「獣人やエルフは教会発足当時、女神ではなく精霊を信仰していましたから、四つの種族には入っていません」

とりあえず、十字架の由来が「なんとなく」とふわっとした感じでないことに安心しつつ、俺はあるマークについて聞くことにした。

「このマークは?」

星マーク……五芒星マークが教会の入り口の看板に書かれていた。

星が二つか。

「教会の神官様の種族とレベルによって、転職できる職業が決まります。星マークは神官様がヒュームであること、星二つだと、だいたいは剣士や魔術師程度まで転職させることができることを示します」

「転職可能職業の中にあったら何にでもなれるわけではないのか」

「はい。例えば、私の獣剣士は、獣神官しか転職させることができません。獣神官のマークは丸のマークです。丸三つ以上の獣神官しか獣剣士に転職させることはできません」

マークの数が多いほど転職する時に多くの寄付(あくまでも代金ではないらしい)を要求されるそうだ。

星二つなら、1000センスくらいだという。それでも10万円か。

転職するのも大変だな。

ちなみに、無職から平民、平民から他の職業に転職する時に限り、100センスで済むらしい。

だから、今回は100センスで済みそうだ。

「転職するのはキャロだけなんだが俺達も教会に入ってもいいのかな?」

「はい、教会内は普通に祈りを捧げる人もいますから、誰でも入れますよ」

来るもの拒まずのスタイルか。

ならば、遠慮なく入らせてもらうことにしよう。

女神様を信仰する気持ちは俺にもあるからな。

教会の中は、まるで結婚式で使われそうな教会だった。

真ん中に道があり、左右に長椅子がある。

違うとすれば、左右に四体の女神の像が、正面に二体の女神像があることか。

すぐに目につくのが左側のコショマーレ様の女神像だな。あきらかに他の女神像より大きい。

ツインテールのトレールール様の女神像、そしてもう一人、ボブカットヘアの子供の女神像が右側にある。

コショマーレ様の横にいるのは痩せて頬が少しこけた女神。

正面には美人で妖艶な女神像とワルキューレみたいに勇ましく剣を構えた女神像がある。

長椅子には何人かが祈りを捧げている。

「休息日にはもっと多くの人がいます。夕方なら聖歌隊の方々が歌を捧げる練習をしていてそれを聞きに来る人も大勢いますよ」

とキャロが教会のフォローをした。決して「教会の割には人が少ないんだな」なんて思っていないが、顔に出ていたのだろうか?

ん?

奥の部屋から一人の金持ちっぽい男が出てきた。

あいつは確か、昨日すれ違った遊び人の男。

だが、今は「防具商人」になっている。

そうか、賭場で遊ぶのに幸運を上げるために遊び人になったが、防具商人に戻ったというわけか。

ただの商人じゃなく、防具商人か。

一昨日の武器屋の店員は見習い鍛冶師だったが、この様子だと武器を売ることに特化している武器商人もいるのだろうか?

……武器販売特化のスキルってなんだ?

武器鑑定とか?

なら、防具商人なら防具鑑定でもあるのかな?

防具商人は頭を下げると、教会から出ていった。

笑顔だが、賭場では勝ったのだろうか?

まぁ、賭場に行ったというのも俺の完全な憶測だし、赤の他人だしな。

第一、俺が他人の職業を見られるということも秘密だし。

「あの部屋で職業を変えられるのか?」

「はい、運がいいですね。並んでいる時は1時間以上待たないといけないんです」

教会へのフォローなのか、それとも本当に運がいいだけなのかわからないことをキャロが言う。

「あの、イチノ様」

キャロが俺の名を呼ぶ。イチノジョウ様と呼んでいたキャロだが、ずっとそう呼ばれたら、俺の本名が 一之丞(いちのすけ) であることを忘れそうになるので、イチノと縮めて呼んでもらうことにした。

「本当によろしいのでしょうか?」

「え? 何が?」

「100センス払っていただいても」

「必要経費だろ? アイテムバッグがあれば交易も楽だし、すぐに元は取れるさ」

「……ありがとうございます。イチノ様に損をさせないように頑張ります」

キャロが握りこぶしを作って言った。

可愛い子だと思う。

まぁ、可愛いといっても、恋愛対象としてよりは、妹としての可愛さだけどね。

「私はここでセトランス様の女神像に祈りを捧げていてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、いいよ」

ハルの申し出に快く答えた。セトランスは、確か戦いと勝利の女神だったな。

ハルが信仰の対象とするのも頷ける女神様だ。

「私も、後でトレールール様の女神像に御祈りをしていいでしょうか?」

ハルが空いている時間を利用して祈りを捧げると言ったことで、キャロは少し困ったように尋ねた。

自分の祈る時間がなくなると思ったのだろうか。

彼女がトレールール様に祈りを捧げるといったのは、彼女の職業を変えたのが俺ではなくトレールール様だと思っているからだろう。俺が嘘をついたんだし。

折を見てしっかりと説明しないといけないな。

第二職業設定Ⅱのスキルについても。

「あぁ、トレールール様の女神像には皆で祈りを捧げよう。俺も世話になったからな」

キャロにはそう言っておいて、二人で奥の部屋に向かった。

その部屋は、何もない部屋だった。

テーブルを挟むように椅子が二つ、それだけの部屋だ。

そして、奥の椅子に座るのは……お爺ちゃんだった。

【神官Lv19】

あぁ、本当に神官だ。

職業を調べて確認した。

「よくぞ参った。職を変える者はそこに座りなさい」

キャロは「はい」と頷くと、椅子に座り、銀貨を1枚出す。

ここで、自分の職業と名前、変更希望の職業を言うのが規則らしい。

その間、椅子から立ち上がっても動いてもいけないそうだ。

キャロが座っている椅子は固定されており、良く見ると椅子の周りの床には細かい文字がぎっしり書き込まれている。

この世界の共通言語でもなければ、もちろん日本語や英語などでもない。

職業は決まった場所でしか変えられないと聞いたが、つまりはこの文字にその秘密があるんだろうな、と俺は思った。

「平民のキャロルと申します。行商人になるため参りました」

「よろしい……神の子キャロルよ、その生き方を変えたまえ」

神官がそう言った刹那、床の文字が青く光りを放つ。

時間にして僅か10秒。

光が消えたと思ったら……もう終わっていた。

神官が紙を取り出し、キャロの名前と職業を書き込んでいく。

「これがお主が行商人になった証明書となる。再度職業を変更する時はこの証明書を持ってくるように」

「ありがとうございました」

行商人の証明書を受け取ると、キャロは立ち上がって礼を言った。

これで終わりか。

これだけで100センスか。儲かるんだなぁ、神官って。

さっきの遊び人から防具商人に変えるような仕事だと、1000センスだからな。

この爺さん、わずか2分程度で11万円稼いでいることになる。

もっとも、神官になるのはかなり苦労するのかもしれないが。

部屋を出ると、ハルがセトランスの女神像に祈りを捧げていた。

集中しているようなので、邪魔しないように俺達は黙ってトレールール様の女神像に祈りを捧げることにした。

※※※

祈られている女神像。

だが、そのモデルとなった二人の女神は困惑していた。

彼女達が視ているのは、富士山をセーラー服姿(冬服)で登る一人の少女だった。

彼女の名前は楠ミリ。楠一之丞の妹だ。

「厄介なことになりそうだね」

コショマーレは嘆息する。彼女は間違いなく、もうすぐここに来ることをわかっていた。

ここに来て、彼女の前に来ることを予知していた。

「…………たしか、1000年前だったわね、あやつがこの世界に来たのは。妾はまだ女神ではなかったが」

トレールールが思い出すように呟いた。

「富士の火口に身を投げた憐れな少女――もっともそれ以上に憐れなのは彼女がアザワルドに来たことで人身御供としての意味を失い、富士の噴火に巻き込まれた方かもしれないがね」

「あっちは自業自得だ。他人の命を使い自分の命を救おうなど業でしかない」

「厳しいねぇ、トレールールは。怠惰の女神様とは思えないよ」

「妾は怠惰じゃが、ヒトに怠惰を教えたことはない。ヒトが働かないと女神の仕事が増えるからの」

「違いないね」

そう言いながらも、明らかに仕事が増えることに対しコショマーレは再度嘆息を漏らした。

「他の女神には言っておいたよ。あの子たちの相手は私達がするからと」

「妾は帰ってはダメか?」

「ダメに決まっているだろ」

怠惰の女神のセリフに三度目の嘆息を漏らし、コショマーレは一度目を瞑る。

あっちの世界とアザワルドとでは時間の流れが異なる。

速いときもあれば遅いときもある。

今は地球の流れが遅く、アザワルドの流れが速い。

彼女が富士の火口に再び身を投げるのはあと数時間後。

だが、アザワルドの時間では数日先か。

彼女が再びアザワルドに舞い降りたとき、世界はどう動くのか。

それは、神のみぞ知ると言いたいが、女神にもわからない。