軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24階層の牛人

迷宮22階層を、二つの足音が短い間隔で迷宮内に響く。

俺とハルの足音だ。

魔物に一匹も出くわすこともなく、俺達は全力で走っていた。

23階層の階段を見つけて下っていく。

「匂いが近付いてきました。今もキャロさんはオレゲール様と一緒にいるようです」

「……キャロ達はもう24階層にたどり着いている可能性も高いかもな」

「それと、ご主人様、微かですが、血の匂いが……恐らく、ここでセバスタン様が負傷したと思われます」

セバスタンといえば、執事戦士レベル49の老紳士か。

ソロ狩りだったらまだしも、オレゲールを守りながら戦っているのだ、怪我くらいするだろう。

でも、その頼みの綱のセバスタンが怪我をしたのに、オレゲールは引き返さなかったってことか?

それは正常な判断とは言えない。

「オレゲールは貴族なんだろ? 貴族の中には回復魔法を使える奴が多いって言ってたが、あいつは使えないのか?」

「使っているところを見たことはございませんし、使えると聞いたこともありません」

「そうか……」

頼みの綱のセバスタンが負傷しているとなると、時間をかけていられないな。

24階層まで続く階段を探さないと。

24階層は23階層までの広さの5倍、魔物が湧く速度は通常の20倍と言われていて、一定数まで増えるとそれ以上魔物が増えなくなるシステムらしい。ハルが昨日、武器屋で聞いた話らしい。

「階段だ、行くぞ……ってちょっと待て!」

24階層に続く階段を見つけたが、俺はハルを立ち止まらせる。

階段の下から何かの気配がする。

狩人スキルの気配探知のスキルのおかげだ。

気配は一つ、階段の下に近付いてきている。

そして、階段の真下まで来ると、今度は反対方向に遠ざかって行った。

十中八九魔物だろう。

「ハルはここにいてくれ、俺はあの魔物をこっそり追いかける」

「ご主人様、私も――」

「オレゲールに見つかったら厄介だ。ハルは宿に戻っていてくれ。俺なら大丈夫だから」

俺はそう言うと、鋼鉄の剣を抜き、階段の下へ下りて行った。

彼女の力なら、ましてや魔物がほとんどいないこの迷宮なら命の危険はまずない。

この迷宮の難易度は中級レベルだって言っていたし。

24階層に下り立った俺は、先ほどの気配を探り、それを追いかけた。

気配の魔物の行く先に三人が――キャロがいる可能性が高いからな。

気配によると、あの曲がり角の先に魔物がいる。

角から顔を出してみてみると――そこにいたのは、巨大な牛人間だった。

二本足で立ち、立派な双角を持つ茶毛の牛だ。しかも、牛革でできてるっぽい鎧まで着ていて、巨大な斧を持っている。

ミノタウロス……ハルが言っていた敵の名前。

その名前は俺が日本にいたころにも聞いたことがある。

ギリシャ神話に登場する半人半牛の化け物だったよな。

そして、そのミノタウロスを閉じ込めたのが、二度と出ることもできない広大な迷宮だったという話も残っている。

なるほど、そう思えば迷宮にミノタウロスはつきものだ。

女神の言葉を信じるのなら、ミノタウロスがもともとこの世界にいて、古代ヨーロッパに神話として話が伝わったと考えるのが普通だろうな。地球のギリシャ神話に出てくるミノタウロスは、体が人間で頭だけが牛の化け物だが、こっちのミノタウロスはほとんど牛だな。

まぁ、こっちのほうが戦いやすいか。

ただし、身長が2メートル50センチを超える化け物だけど。

角なんてもうほとんど天井ギリギリじゃないか。

ミノタウロスは俺の様子に気付く様子もなく進む。途中で25階層に続く階段があったが、そこを通り過ぎて奥へ。さらにT字路を曲がっていく。

俺もこっそり跡をつけようとしたところで、正面から別のミノタウロスがやってきた。数が多いというのは本当のようだ。

そのミノタウロスが丁字路を、先ほどのミノタウロスが曲がった方向と同じ向きに進んだのを再度見て、俺は走り出し、そこで見たのは――ミノタウロスの大渋滞だった。

何が起こっているんだ?

と思ったら怒鳴るような大きな声が聞こえてきた。

「また来たぞ! セバスタン! 早く倒せ!」

どうやら、セバスタンが戦っているようだ。

ミノタウロスの数が多すぎるので三人以外の人がいるのかどうかはわからないが、少なくともオレゲールとセバスタンは無事。

そして魔物が引き寄せられているということはキャロも無事のようだ。

「オレゲール様、もう私もそろそろ限界です!」

セバスタンが弱音を吐く。早く助けないといけないようだ。

「やはりその奴隷を殺しましょう! そうすればミノタウロスはこれ以上やってきません!」

…………!?

セバスタン、キャロを殺そうって言うのか?

確かに、そうしたら魔物はこれ以上来なくなるだろうが、なんて自分勝手な奴らだ。

「おい、助けに来たぞ!」

俺はそう叫び、剣を鞘から抜き、

「スラッシュ!」

と叫び、剣戟の真空波を放つ。だが――硬いっ!

ミノタウロスの腹数十センチにまでスラッシュは切り裂いたが、致命傷には至っていない。

脇腹に大きな傷を負ったミノタウロス一頭がこちらを敵とみなして斧を構えて近付いて来た。

ならば、と俺は職業を「無職・剣士・見習い剣士・拳闘士・狩人」の物理攻撃特化の職業に変更する。

今の俺の物理攻撃力はレベル20の剣士の約3倍、これで敵わないような敵なら、ここはもう中級レベルの迷宮じゃない。

ミノタウロスは斧を自分の頭の僅かに上――天井付近まで上げて、振り下ろしてきた。

だが、明らかにその速度は遅い。狭い迷宮という地形がミノタウロスにとっては不利なのだ。

俺の剣はミノタウロスの斧よりも早く、その腹を切り裂いた。

今度こそ致命傷となり、ミノタウロスは膝から崩れ落ち、その姿は煙と化した。

残ったのは魔石と牛の角、そして肉の塊。

……今夜は牛丼だな。

「今一体倒した! すぐに助けるから待っていろ!」

「おぉ、誰かはしらぬが大儀である! 早く僕を助けるんだ!」

偉そうな奴だ。

オレゲールがミノタウロスに殺されるまで待ちたい気持ちになるが、そんなことになったら先に二人にキャロが殺されてしまう。

「あぁ、待っていろ、すぐに終わらせる!」

俺はそう叫び、残りのミノタウロスを目掛けて走って行った。