軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者始めました その6

「ていうことは、やっぱりナターシャが本物のナターリアで、どういうわけか偽者認定されて追われていると?」

ナターシャが言うには、彼女の本名はナターリア。

元々は貴族ではなく、普通の平民だったそうだけれども、ある時、公爵家の養女になり、貴族という職業を貰ったそうだ。

ラインとルートは平民だった時の友達らしい。

公爵家の養女になる条件として、ナターシャは週に一度、住んでいた街に出る許可を貰った。

そこで、ナターシャは週に一度限定でラインとルートと三人で冒険者として活動をしていたという。

ある日、ナターシャが街から帰ると、家に自分と全く同じ姿をした女性がいたそうだ。

同じ人物が二人いることで公爵家は混乱したそうだが、ここにいるナターシャが偽者であると断定され、屋敷の離れに幽閉されたそうだ。

ナターシャと一緒に屋敷を抜け出ていたメイドが、このナターシャが本物のナターリアだと言っても聞き入れてもらえなかった。

そして、そのメイドさんは、拷問されそうになったナターシャを命がけで逃がしてくれたそうだ。

「事情はわかったけれど、でも、なんで迷宮なんかに逃げ込んだんだ?」

「ここは冒険者しか入れない迷宮だから公爵家の人間も追ってこれないと思ったってのもあるけれど、この迷宮にしかない魔物が目当てなんだ」

「魔物?」

「ドッペルゲンガーっていう名前の魔物で、特定の人間そっくりに化ける魔物なんだ」

「もしかして、ナターシャに化けているのも、そのドッペルゲンガーなのか?」

「……それはありません。ドッペルゲンガーは記憶すらも模倣する魔物ですが、長時間の記憶の蓄積ができないんです。そんな魔物が長い間他人に成りすますことはできません」

長時間の記憶の蓄積ができないというのは、わかりやすく言えば物忘れがものすごく酷いということ。長時間の記憶というのがどれだけの時間かはわからないが、仮に半日だとすると、半日以上前に起こったすべての出来事を忘れているということだ。

最初は誤魔化せるかもしれないが、厳しいだろうな。

「……私たちが求めているのは、ドッペルゲンガーが落とす、真実の瞳というアイテムです」

真実の瞳を使えば、周囲の幻影等を消し去ることができるそうだ。

ただし、使い捨ての道具で、非常に高価らしく簡単に手に入らない。

三人の目的はこの迷宮でドッペルゲンガーを倒し、真実の瞳を手に入れることだったらしい。

かなり無茶な話だが、何年かけてでも成し遂げるつもりだったんだろう。

「それと気になるのは、なんでナターシャが偽者扱いされたのかってところよね?」

ミリが言う。

確かに、たとえ偽者が完全に成りすましていたとしても、こっちのナターシャが一方的に偽者扱いされる理由がわからない。

何か、本物と偽者を見極めるコツがあったのだろうか?

「……それは、何故か私の職業が奪われてしまったからです」

「職業?」

「……はい。私は特別な職業を持っていたのですが、その職業が奪われてしまい、それに付随するスキルを偽者が使えたのです」

「どんな職業?」

「……聖女です」

聖女?

女性限定の職業だろうか?

「聖女……よりにもよって聖女か……」

「聖女の何か問題があるのか?」

「聖女って言うのは、勇者や教皇、魔王にも匹敵する激レア職業なの。簡単に言えば回復魔法のエキスパート職業で、時代によっては一国の王様より地位があるんだけど……でも、一番の問題は、五百年程前から、聖女は代々教会が管理しているはずってことなのよね。王族が国民の幸福度によってステータスが増減するのと同じように、聖女っていうのは助けた人の感謝の気持ちが能力向上に繋がるから、教会で大々的に聖女として担ぎ上げて、聖女としての力を高めなければいけないって決まりがあるの」

うわぁ、なんかすごい職業だな。

聖女というからには、たぶん女性限定職業だし、激レア職ってことは、キャロのように生まれながら持っていた職業なのだろう。

でも、職業コレクターとしては手に入れたい職業だ。

「ミリ様、でもナターシャさんの話では――」

「そう、彼女は教会ではなく、公爵家にいた。多分、彼女の能力を公爵家、もしくはこの国が独占しているのよ。聖女は基礎段階でもかなり優れた回復魔術の使い手だし……」

「……たぶん、養父様だと思います。養父様は……その、野心家ですから」

なるほど、大体事情はわかった。

「おにい、どうだった?」

「ああ、ナターシャは嘘を吐いていない」

「……信じて下さるのですか?」

確かに、突拍子の無い話である。

ただ、彼女が貴族であるのは確かだ。

それと――

「俺には思考トレースというスキルがあるんだ。対象の感情を自分に写し取るスキルでな……辛いという気持ちが痛いほど伝わってくるが、嘘をついている罪悪感や騙してやろうという悪感情はなかった。無断で使って悪かったよ」

コピーキャットのスキルだが、かなり役に立っている。

無断で悪いと思ったが、実際のところ彼女が本当に偽令嬢っていう可能性もあったから、無断で使わせてもらった。

彼女の辛い感情が俺の胸を締め付けてくるので、正直俺もかなり辛かった。

「そんなスキルもあるのか……イチノジョウさん、何者なんだ?」

「俺は――まぁ、俺の事はどうでもいい」

ただの無職だって言うところだった。

「職業を奪う方法、他人に成りすます方法には心当たりがある。職奪の宝玉という他人から職業を奪って自分の物にする宝玉と、変化の腕輪っていう他人に成りすますことができる腕輪がある」

かつて、鬼術師の男はそれを使ってクリーニング屋に化け、呪いをばら撒いていたな。

あの時はいろいろと苦労させられた。

ハルがキャロ(大人ver)に化けたこともあったな。

「公爵も偽令嬢とグルだという可能性があるわね。おにい、キャロを呼んでもらっていい?」

「ああ、わかった」

俺は眷属召喚を使い、キャロを呼ぶ。

「はい、イチノ様、キャロに何か御用ですか?」

キャロが現れたことで、ルートたちが驚いた。

まぁ、この世界って召喚魔法とか超激レアスキルらしいからな。

俺はキャロに事情を説明した。

「ということで、私とキャロはこれから情報を集めるわ」

「頼む」

「うん、任せて」

ミリはそう言うと、キャロの手を握り、 脱出(エスケープ) と唱えて迷宮から脱出した。

「空間魔法まで――」

もう驚きすぎて驚き慣れて来たようだ。

さて、乗りかかった船だ。

この三人もある程度強くしておかないとな。

「さて、じゃあ俺たちはこれからドッペルゲンガーを探しに行くぞ。その前に、三人とも、悪いが目隠ししてもらえるか?」

「なんでだ?」

まぁ、素直に応じるわけないよな?

「ちょっと別の仲間を呼ぶんだが、姿を見られたらマズイ仲間でな。その彼女にパーティ設定をしてもらう」

「「「え?」」」

「ハル、頼む」

「はい」

ハルが布を取りだし、三人を目隠しした。

その間に、俺はルリーナを召喚。

魔札を渡し、この三人を俺のパーティに登録したのだった。