軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ワームの襲撃

それにしても、平民のステータスの伸びがとても悪い。

レベル30以上も上がったのに、ステータスの伸び率は、レベル20から30に上がった時よりも少ない気がする。まぁ、レベル70もあるのだから、そこそこ強くはなっているが、平民の限界といったところか。

職業を無職、剣士、見習い法術師、魔術師、拳闘士というバランス型に変更しておくことにした。

カジノでは、アイテムの他にも料理やお弁当の類もメダルで交換できるため、端数のメダルで夕食を買い、俺達は迷宮のほうに歩いていった。

男爵家の長男――オレゲールは、匂いによると東に行ったまま戻っていないが、近くにはいないそうだ。

ただし、ちょうど西風が吹いているため、こちらが風上となり、正確な位置などはわからないようだ。

まぁ、仮に俺達が迷宮に入れば、例えオレゲールが迷宮にいたとしても隠れる場所も多いし出くわすことはないだろう。そう思って東に向かったのだが、

「大変だ、魔物が町に向かってくるぞ!」

「ウールワームの群れだ! 壁が破られるぞ、警備を呼べ! 戦える者は東に向かえ!」

魔物の群れ!?

俺はハルと顔を見合わせると、頷きあって東へと走った。

途中で迷宮の入り口らしい階段を見つけたが、そこをさらに通り過ぎ、石造りの壁にある梯子を登る。

そこで俺が見たのは、数百匹の、中型犬くらいの大きさの芋虫だった。

そして、その芋虫は、糸を吐き出して、壁を登るための道を作っている。

何人かの冒険者と兵らしき男達が戦っているが旗色はよくない。

壁の上にも冒険者がいて、登ってくる芋虫を突き刺して倒しているが、この調子だと間違いなく魔物が町の中に流れ込む。

俺は迷わず壁の上から向こう側に飛び降りると、「スラッシュ」と糸を吐き出していた二匹の芋虫に手刀によるスラッシュを浴びせる。

芋虫の頭がはじけ飛び、緑色の粘液があたりに飛び散った。

芋虫に囲まれている冒険者を見つけ、俺はその芋虫の方にプチファイヤを放ち、腰に差していた鋼鉄の剣を抜いた。二刀流のスキルを持ってはいるが、俺は一本の剣のほうが戦いやすい。

ハルを一瞥すると、彼女は火竜の牙剣とショートソードの二本の剣を器用に操るだけでなく、火竜の牙剣の特性である物理攻撃力を炎に変える力を使い、遠くの、炎が森に燃え広がらない場所にいる芋虫に炎の玉を放っていた。

剣を使いながら魔法、ものすごい判断能力とテクニックが要求されそうだな。

俺は一匹一匹倒させてもらうか。

冒険者を取り囲んでいた芋虫たちの一部はプチファイヤで倒れたが、まだまだ数は多い。

とりあえずは芋虫の周囲にまでいき、回転切りを使用。回転切りによる下段斬りにより、芋虫たちは緑の体液を噴き出して倒れていく。俺の顔にもその粘液はべっとりとくっつき、正直今すぐ風呂に入りたい心境になる。

「だ、旦那」

助けてやった冒険者からそんな声が上がった。良く見ると、昨日俺達からブラウンベアを横取りしようとした冒険者達じゃないか。足に怪我をしているが――

「……助けて損した」

正直に呟いた。

「そりゃないぜ、旦那! でも、旦那が来てくれたら100人力だ!」

「それより、これは一体なんなんだ?」

俺は周囲のウールワームを剣で斬りながら、何があったのかを聞くことにした。

「わからねぇ、ウールワームの群れが急に襲ってきやがったんだ。俺達は迷宮に向かう途中だったんだが……ウールワームは毛糸のような糸を吐き出す魔物で、基本は巣から離れないし、人を襲うこともしない、古い巣は人間が取ってきて、羊毛の代替品として使うんだ」

なるほど、だからウールワームか。

「じゃあ、ウールワームが何故か突然暴れ出して……プチストーン……その理由はわからないってことか」

壁を登っているウールワームに土魔法で礫をぶつけて俺は言った。

壁の上には冒険者や兵たちが集まってきているため、もう壁を越えられることはなさそうだ。

そう思った時、ウールワームの動きが止まり、一斉に森の方に逃げ出した。

敵わないと悟ったのだろうか?

【イチノジョウのレベルが上がった】

【見習い法術師スキル:回復魔法を覚えた】

【拳闘士スキル:拳攻撃が拳攻撃Ⅱにスキルアップした】

お、回復魔法を覚えた。見習い法術師Lv7か。

覚えた魔法はプチヒール……うん、一度実験してみるか。

「おい、動くなよ」

剣を鞘に納め、足を怪我している男に近付き、

「プチヒール!」

そう魔法を唱えた。

すると、淡い光が手から出てくる。

その淡い光を傷口にあてると、徐々に傷口が塞がって行き、10秒後、傷はすっかりなくなった。

プチヒールは離れている人には使えない、ポーションよりかは傷の治りが早いが一瞬ではない、広範囲での治療はできない……か。

【イチノジョウのレベルが上がった】

おっと、ここで見習い法術師のレベルアップ。レベル8か。

「す、すげぇ、回復魔法なんて初めて使ってもらったが、こんなすぐに効果が出るものなのか……いや、それより、旦那、回復魔法が使えたんですか!? まさか、どこかの貴族様で!?」

「んなわけあるか……てか、なんで貴族だと回復魔法を使えるんだよ」

「旦那、知らないんですか? 貴族様の中には回復魔法を使える人が多いんですよ」

そんなの知らねぇよ。

まぁ、貴族って金持ってるから、平民に転職してから税金を沢山払って、平民レベルを上げて、見習い法術師になれるってことなのかな。で、その回復魔法を使ってもらうためにはこれまた大金が必要であるから、貧富の差はますます広がると。

格差社会って怖いなぁ。

貴族といえば、オレゲール、あいつはやっぱり迷宮に行ったのかな。

ここに来るまでもすれ違わなかったし。

「ご主人様、御無事ですか?」

「あぁ、ハルは?」

「ご主人様からいただいた風のブローチのおかげで、かすり傷一つございません」

「そうか……」

でも、ハルの髪も随分汚れてしまったな。

早くふき取らないと。

「おおい、壁の上に水の入った桶があっただろ! 1つ貸してくれ! 水はこっちで用意するから、桶だけ投げてくれ」

壁の上にいた冒険者に、おそらく消火用に用意されているのであろう、木の桶を貸してくれるように頼む。

冒険者は、二つ返事で桶を投げてくれた。

「プチウォーター」

と真上に水の塊を飛ばす。

勢いよく飛び出た水の塊は、重力には逆らえず落下してきた。

「プチファイヤー」

水に炎がぶつかる。

例え高温の炎でも一瞬だからな。蒸発させるまではいかず、水が落ちてきた。

【イチノジョウのレベルが上がった】

【魔術師スキル:風魔法が風魔法Ⅱにスキルアップした】

お、運よくレベルが上がった。ウィンドの魔法を覚えたようだ。

そして水は桶の中に納まった。半分くらいは零れてしまったが。

「少し温めだが、まぁただの水よりはいいだろ……ハル、タオルだ。髪や顔、気持ち悪いところを拭いてくれ。俺も自分で拭くから」

「ありがとうございます、ご主人様」

俺達はタオルで緑のべたべたを拭っていく。

鎧と剣の手入れもあとできっちりしないとな。

「旦那、俺もいいですかい?」

「お前は最後だ」

「最後でも構いやせん。ありがとうございます」

俺達が緑の粘液を拭っていくと、冒険者達は壁から降りて来て、倒されたウールワームを回収していった。

ウールワームの解体は通常の解体と違い、糸を取り出す必要がある。その作業は紡績ギルドが行うのが通例なのだとか。

買い取られた代金に加え、町から報奨金が出るだろう。今回の戦いに参加した皆に分けられると俺達は説明を受けた。特に俺とハルを含め地上に降りて戦っていた10人の人には多めに支払われるとか。

本来、こういう大規模パーティーでの戦闘の場合、冒険者でない俺は魔物退治の報酬は貰えず、自分で狩った魔物を自分で売りさばくのみの報酬になるそうだが、ハルのパーティーということで、彼女が俺の分まで報酬を貰うということになった。無職には辛いシステムは健在のようだな。

まぁ、こういう時、冒険者と兵以外の人間が魔物と戦うことなんて滅多にないから、不平不満はこれまであまり起きなかったのだろうが。

俺は冒険者じゃないと説明をしたとき、横にいた男が「え、旦那が冒険者じゃない? やはり貴族様がお忍びで」と妙なことを言っていたが、無視することにした。

「にしても、一体、なんで魔物が襲ってきたんだろうな……」

俺はそう呟いたとき、まさかと思った。

「ハル! キャロの匂いは覚えているか!?」

「……はいっ!」

まさか、キャロのやつ、迷宮の中に連れていかれたんじゃないだろうな!?

そうだとしたら、迷宮に入った途端に誘惑士のスキルが発動し、魔物を呼び寄せるフェロモンが彼女の身体から出た。その臭いで魔物がここに来た――ということが考えられないだろうか?

そして魔物が去って行ったのは、キャロが迷宮を出たから、もしくは、匂いが外に漏れないくらい奥深くに入って行ったから。

もし後者だとすれば、キャロが迷宮を出るときにもう一度同じことが起きるぞ。