軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔神打倒の秘策

マイワールドで本気で寝た。

部屋の時計を見ると、睡眠時間は二時間五十分か。

ミリのアロマの力は本当に凄いな。頭がすっきりした。

ピオニアに三時間経ったら起こしてくれと言ったので、もう少しだけ皆に寝ていてもらえる感じだ。

ふと視線を下げると、ミリが俺の腕をがっちり掴んでいた。

その奥にはハルがミリを挟むように寝ていて、反対側の腕はキャロが掴んでいた。

朝チュンのシチュエーションではあるが、当然、妹も一緒にいるのだ。やましいことなどなにもなかった。というか、ベッドに横になると俺は一瞬で意識を失った。

遠くから、鶏の鳴く声が聞こえてくる。

その声のせいか、俺の腕をつかむキャロの手が緩んだ。

キャロもハルも寝顔が幸せそうだ。

よかった、もしもミリが止めなかったら、本当に睡眠不足承知で迷宮に挑み、三人そろってぶっ倒れているところだったかもしれない。

ミリの冷静さには本当に大助かりだ。

「いつもありがとうな、ミリ」

俺はそう言って、十年以上ぶりに横に並んで眠る妹に軽くハグをした。

「どういたしまして、シスコンのおにい」

ミリはそう言って、目を開けてにっと笑った。

「おまえ、起きて……」

「しっ、ハルワとキャロが起きるでしょ」

ミリはそう言うと、俺の胸に顔をうずめる体勢で、ささやくように言った。

「おにい、なんでフロアランスだけ魔物が迷宮から溢れていないかわかる?」

「そういえば、なんでだ?」

「フロアランスでは、私たちがとんでもないペースで魔物を狩っていたでしょ? だから、魔物を生み出すための瘴気が薄くなっていたの」

「ん? でも魔物を倒したらそれは瘴気に戻るんじゃないのか? そうしたらまた魔物が現れる原因になるとか」

「戻るけど、全部ってわけじゃないの。これ」

とミリは魔石を取り出した。

「瘴気の一部は魔石となる。シーナ三号が管理していた迷宮は、女神像がなかったけれど瘴気の一部を浄化させることに成功していたのは、こうやって魔物を退治して魔石にしていたからなの。まぁ、魔石もエネルギーとして使用すれば、再び瘴気になっちゃうんだけどね」

ミリはそう言って、魔石を異次元収納に入れた。

「もちろん、瘴気なんてものはそう簡単になくなるものじゃないし。薄くなっている分、他の場所から瘴気が集まってくるの。だから、おにいがフロアランスで頑張って狩りを続ければ、その分近くの、例えばベラスラの迷宮から溢れる魔物の数は減るはずよ」

「そうか……」

ということは、俺がフロアランスの迷宮で狩りを続けたことは、魔王のレベルを上げる以上に効果があったのか。

「でも、だとすると、なんでアランデル王都の迷宮からは他の場所より多く魔物が溢れてるんだ?」

アランデル王都は、フロアランスから離れているといっても、ここから北に行った場所にある。

俺の狩りの数が少ないから、アランデル王都まで影響を及ぼしていないのだろうか?

「たぶん、そこに瘴気の塊があるの」

「瘴気の塊……まさか?」

「うん、マレイグルリで瘴気を集めて魔神となるまでに至ったテト。彼女がまだ完全に魔神になってなくて、必死に女神の力であらがっているのだとすれば、そこから瘴気が溢れて魔物の発生につながっている可能性が高いよ」

「テト様はまだ完全に魔神になっていない可能性があるのか」

「そうなるわね。意外と粘るわね」

粘るって、お前はどちら目線で語ってるんだ。

だが、そうなると、少しだけ希望が見えてきたんじゃないだろうか?

テト様を女神に戻すことができたなら、悪魔族、夢魔族、黒狼族の魔王が魔神になったとしても、魔神が六柱揃うことはないのだから。

「でも、テトから瘴気を取り除くのは至難の業ね。少なくとも女神の力が必要になる。それと不確定要素があるのは、もうひとりの魔王ね」

ツァオバール王国の国王に化けていた魔王。

あいつは勇者や魔神たちと繋がってはいるが、しかし仲間というわけではないらしい。

一体何が目的で動いているのか。

「それでね、おにい。もう私がいなくても、魔王のレベルアップはできるよね?」

「ん? あぁ、魔王のレベルが上がって覚えるスキルもわかったし、MPがここまで上がったら、魔力回復薬がなくても自然回復で十分追いつきそうだ。でもなんで?」

俺の質問に答えず、ミリは掛布団の中に潜り、足元からベッドの外に降りた。

「やることがあるの。うまくいけば、テトを女神に戻せるかもしれない」

「なに、それは本当か? それなら俺も手伝いを――」

「おにいはやることがあるでしょ。寝るときに使うアロマはあと三本ほどあるから、明日からはこれを使ってね」

ミリはそう言って、ベッドの脇に精油の入った小瓶を三本置いた。

一本しかないって言っていた気がするが、嘘だったのか?

いや、ミリのことだ。俺たちが寝てからこっそり調合したのだろう……無理しやがって。

「あとは任せたわよ、ハルワ、キャロ」

「かしこまりました、ミリ様」

「頼まれなくてもイチノ様のお世話はキャロたちがしたいことですから」

ミリが振り返ると、いつの間にかハルはベッドの脇に降りてその場に跪き、キャロもまた反対側に降りて立って返事をした。

なんだ、全員起きていたのか。

ミリがなにをしようとしているかはわからないが、いまはミリのことを信じよう。

「マスター、起こしに来ましたが、必要なかったようですね」

ピオニアがやってきた。

ちょうど三時間の休憩が終わり、俺たちは再度フロアランスで戦いに挑むこととなった。

※※※

マイワールドに設置された観測所。

そこに四柱の女神が集結していた。

この場所が一番、世界の異変を感じ取りやすいため、会議の場所に選ばれたのだ。

お手伝いとして駆り出されたニーテが、それぞれ飲み物を運ぶ。

コショマーレの前にほうじ茶の入った湯飲み、トレールールの前にイチゴシェークの入ったグラス、セトランスの前にコーヒーの入ったカップ、ライブラの前にラッシーの入ったグラスを置き、彼女は一歩下がった。

そして、ニーテは横目で動かない者を見る。

会うのは初めてだが、同じく女神テトによって生み出されたホムンクルス――アルファ。

「無事に回収できたのはその一体だけじゃったよ。瘴気塗れで機能を停止しているその状態を、無事と表現するのならじゃが。まったくもったいない」

女神トレールールはそう言って、イチゴシェークが入ったグラスを持ち、ストローを吸う。

彼女はシルフの力を手にし、溢れる瘴気から風の結界で身を守りながら、元女神テトがいた空間に入り、ホムンクルスのアルファを回収してきた。

「それで、どうだったんだい?」

コショマーレが尋ねたところ、トレールールはグラスを置いてため息をつきながら語った。

「うむ、やはり妾の見立てに間違いはなかった。このアルファと名付けられておったホムンクルスは、そこのニーテとかいうテトから貰ったホムンクルスとは違う。テトが作ったのは間違いないようじゃが、元を辿ればメティアスの力が大きく作用しておった。おそらく、このホムンクルスがテトの本に細工し、メティアスの復活をテトに知られないようにしておったのじゃろう。テトもこのホムンクルスにメティアスの意思が宿っていたことには気付いておったのかは、今となっては分からぬが、おそらく……」

トレールールは言葉を濁し、再びグラスを手に取った。

「はぁ……弱ったね。テトとメティアスの関係を考えて、メティアスの魔神化のことをテトに黙っていたツケがこんなところに回ってくるとは」

コショマーレはそう言って後悔した。

もともと、テトとミネルヴァは主人と家臣の間柄にあったが、そのテトの主家の先祖がメティアスの家だった。それだけでなく、メティアスは女神となったばかりの頃のテトの教育係であり、どこか姉のように慕っている節もあった。

そのこともあり、メティアスの魔神化のことは、テトには黙っていたのだが、まさかメティアスの息のかかったホムンクルスが潜んでいようとは、コショマーレたちには思いもよらなかったのだ。

「とりあえず、こっちは準備が整ったわけだが、どうするんだい?」

セトランスは、コーヒーの入ったカップを片手に尋ねた。

もともとサラマンダーの力を得ていたセトランスに加え、ダイジロウの力を借りてライブラはウィンディーネの力を得た。大精霊の力を得た二柱の女神の力を使い、コショマーレがノームの力を己に吸収し、最後にトレールールがシルフを取り込んだ。

ここにいる四柱は大精霊の力を手にし、瘴気を吸収して強くなった魔神たちとも渡り合える力を手にしたことになる。

魔神の居場所もおおよその見当がついた。

「さて、どうするかね。本来、こういうときはテトが決めてきたからね」

コショマーレはため息をついてほうじ茶を飲んだ。

女神の行動は、テトが災厄から逃れる方法を探し出し、決定してきた。彼女の本は、ある種未来を見ることができる本であり、失敗することがなかったのだ。

だが、今回、アルファの手引きにより本に細工がなされ、女神たちは魔神たちに裏をかかれた。ミネルヴァが魔神側に堕ちていることを見抜けなかった。

一度の失敗が、テトを失ったいまが、女神たちを動かす機会を奪っている。

勝てるだろう、成功する可能性が高い、そう思っても女神は動けない。

女神はギャンブルで動いてはいけない。

なぜなら、女神がギャンブルをする場合、その掛け金は世界そのものなのだから。

それでも動かなければいけなくなったとき、その成功率を一パーセントでも上げないといけない。

「そこのホムンクルス、なにか意見あるかの?」

「え?」

突然、トレールールに話を振られたニーテは、周囲を見回した。

当然、自分以外にホムンクルスはいない。まさか機能停止しているアルファに問いかけているわけではないだろう。

こんな場所で発言をすることになるとは思わなかった。

いくらお調子者キャラと言っても、時と場合を考える。

ここで冗談を言える雰囲気ではないのは百も承知だ。

(くそっ、ピオニア姉さん、マスターを起こす用事があるからって、あたしに仕事を押し付けやがって……恨むぞ)

と心の中で呪詛を連ねるが、この言葉も、読心術を持つ女神たちには筒抜けだと思うとそれ以上心の中で悪態をつくわけにもいかない。

「……あたし……いえ、私が思うに、私のマスター、イチノジョウ様の動きを待つのはどうでしょうか?」

「あの子をかい?」

コショマーレが尋ねた。

確かにイチノジョウは成長促進と無職スキル、規格外の能力を持ってはいるが、それを除けば普通の人間だった。

そこまで大きな期待を抱いていたわけではない。

「ええ。イチノジョウ様はいま、魔王のレベルを上げて、魔神に対抗するための力を蓄えています。ライブラ様もご存じですよね?」

「はい、彼の魔王の戴冠に立ち会いましたから」

ライブラが頷いた。

さらにニーテは言葉を選んで続けようとするが、どうせ全部心を読まれてるんだと思って、少し開き直って言った。

「マスターは、むっつりスケベのくせに恋人に義理堅くて、でも他の女性の好意を無下にできなくて二股みたいなことをして、どちらも幸せにすると奔走しながらもずっと罪悪感を抱いている優柔不断な男だけどさ。やるときはやる男だぜ? マスターが今回の事件を止めると言ったのなら、きっとなんらかの成果を上げるに決まっている」

「ニーテと言ったね。私たち女神が手に負えるかどうかわからない魔神の対処を、たかが人間のあの坊やが解決できるというのかい?」

「その女神の力を止めたのだって、 勇者(にんげん) だっただろ?」

睨みつけるセトランスに、ニーテは言い返した。

セトランスの魔力を込めた槍を切り落としたアレッシオのことを言っているのだろう。

あの時のことを思い出し、セトランスが奥歯を噛みしめて彼女をにらみつけた。

一触即発の雰囲気の中、場の空気を読まない声が上がった。

ことの発端となったトレールールだ。

「妾は気に入った。奴に任せるというのはよいではないか。なにより、妾たちが直接動かないでいいというのは楽でよい」

「トレールール、ふざけている場合ではありません」

ライブラが窘めるが、トレールールは笑って言った。

「ふざけてはおらぬよ? 魔王のレベル300のスキルがあれば、確かに魔神に対抗できる可能性があるやもしれぬ。というより、我々女神は人間に攻撃することは許されておらぬ。勇者とその仲間だけでも倒してくれたら、魔神を倒せる可能性が高まるじゃろ?」

トレールールの言葉は意外と的を射ていた。

ニーテは知らなかったが、セトランスが勇者に止められたのも、元をただせばそれが理由だった。

(というか、え? 女神って人間に攻撃することができないの? それって本来は誰にも知られてはいけないことじゃないの?)

ニーテは聞いてはいけないことを聞いたような気がして、慌てて耳を塞ごうとするが、

「ホムンクルス、ここで聞いたことは誰にも言ったらダメじゃぞ」

先んじてトレールールに釘を刺された。

頼まれたって言いたくない。

というか、早く解放されたい。

「また、女神が雁首揃えてなにしてるのかしら?」

突然扉が開き、ミリが入ってきた。

「日本ではね、こんな風に意味のない話し合いをしている人たちに対して、こう言うのよ」

「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるのデス!」

一緒に乱入してきたシーナ三号が、ミリの言おうとした言葉を奪うように言った。

まったく空気を読めないその言動を見て、ニーテは心の底から「バカって羨ましい」と思った。

セリフを奪われたミリは、シーナの頭をひっぱたきながら言った。

「私が生まれるより前の映画のセリフだけどね」

「そうは言うが、レインボーブリッジを封鎖すれば事件が解決するような簡単な話ではないのじゃぞ」

どうやら、その映画シリーズについて、ある程度知識があるらしいトレールールが椅子を傾けながら言い、イチゴシェークのおかわりをニーテに注文した。

「本当に女神が聞いてあきれるわね。事件は結構単純な話なの。あんたたちのことだから、魔神たちがアランデル王都中央迷宮の中に潜伏していることも、テトがいまだに完全に魔神に堕ちていないことも気付いているんでしょ?」

ミリの問いに、コショマーレは重い腰を上げて言った。

「回りくどいのは無しにするよ。あんたは自分の心を隠すのが上手だ。私たちの読心術も効きやしない。だから、私たちも素直に言う。あんたがいま言ったことはこちらも把握済み。それでも、こっちは八方塞がりとは言わないが、手をこまねいている。なにか打開策があるのなら、はっきり教えな」

湯飲みの中のほうじ茶の表面に、波紋を作り出す。

空気が微かに震えていたのだ。

スキルもなにも使わず、大気に影響を及ぼす女神の威圧に、ミリはたじろぐどころか笑みさえも浮かべて言った。

女神たちが望んでいた現状を打開するための策を。