軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔術師の覚悟

目的の無人島が見えた。

そこそこ大きな島だ。

島に上陸する前に、気分転換をしてもらっていたフルートはマイワールドに戻ってもらう。キャロも一緒に戻ってもらおうと思ったが、同行を希望したのでついてきてもらうことになった。

小船を下ろして全員それに乗り込むと、帆船はミリが魔法で収納した。

空間魔法はアイテムバッグと違って大きい物を入れるにはとても便利だ。

小船を使って島に上陸し、小船も収納する。

整備されていない砂浜には、流木や海草などが流れ着いていて、その流木の空洞には、フナムシのような生物が見えて、少し顔をひきつらせた。

苦手なんだよな、フナムシって。

「ミリ、目的の場所はどこなんだ?」

「この先の洞窟の中」

ミリはそう言って、島の森の中に入っていき、俺たちもそれについていく。

「でも、なんでこんな島に隠させたんだ?」

「世界中に地脈の溜まり場っていうのがあるの。この島は、レヴィアタンを封印し、実験場にも使った例の島と同じかそれ以上に瘴気が濃くてね。近くに迷宮もないものだから瘴気が放置され放題なの」

「なんで女神様は迷宮を作らないんだ?」

瘴気が強いなら、迷宮を作って循環させるのではないか?

そのために迷宮が存在するんだし。

「人が住んでいないからね。迷宮を作っても今度は魔物が迷宮から溢れる。私が作ったような人工迷宮を作るにも、維持管理をする者が必要になるし、結構手間でね」

「シーナ三号みたいな 機械人形(オートマタ) に任せればいいんじゃないか?」

「 機械人形(オートマタ) を一体作るのにも、珍しい素材が大量に必要になるし、それ以外にも金貨にして五万枚くらい必要になったのよ」

「え?」

金貨五万枚って、日本円で五百億円くらいか?

俺は振り返ってシーナ三号を見た。

「シーナ三号を熱く見つめてどうかしたデスか? マスターもシーナ三号の魅力にメロメロデスか?」

シーナ三号が照れるように頬に自分の手を添える。

これが五百億円……?

「ニーテ、ホムンクルスって作るのにどのくらいお金がいるんだ?」

「ん? いや、ホムンクルスはテト様が仕事に集中するために作ったからな。お金は必要ないぞ」

「あぁ、そうだよな」

「ただし、百年くらい時間が必要だって言っていたな。魔力に自我を与えるために、魔力を変異させるのは、落ちてくる水滴が石に穴を開けるくらい根気が必要なんだそうだ。しかも、一度に一体分しか作れないって」

そんなに時間がかかるのかっ⁉

てことは、ピオニア、ニーテ、シーナ三号合わせて三百年分になる。

三百年前っていったら、日本では江戸時代の前期か中期くらいか?

将軍が暴れん坊をしている時代だったはずだ。

そんな時代から作り始めて、ようやく三人が生まれてくるというわけか。

せめてこの場所に町でもあれば、迷宮を作ってもなんとかなるそうだが、町を作るにしては貴重な資源がないので難しいとのこと。

「ただ、その瘴気のおかげで、私の力の源である宝玉を隠すにはうってつけなの。瘴気にうまい具合に隠れてね」

ミリはそう言って森の奥に進んでいく。

途中、少し開けたところに出て、目の前に洞窟のような場所があったが、ここはただの蝙蝠の巣となっている場所らしく、さらに奥に進んでいく。

獣道を進み、せせらぎのような小川を上った。

そこに、洞窟を見つけた。

迷宮ではない天然の洞窟の中は暗い。

俺は暗視スキルがあるから大丈夫だが、みんなのために光魔法を出すか――と思ったら、

「懐中電灯があるデス」

「あたしも持ってるぜ」

シーナ三号とニーテの胸が強い光を放った。

「なんで胸が光るんだよっ!」

「そりゃ、 懐中(・・) 電灯だからな。懐の中が光るのが当然だろ?」

そんな当然がまかり通ったら、懐中時計は胸が時計になってしまう。

胸が時計って、もう腹時計じゃないか。

「全身光ることもできるデス」

シーナ三号が言うと、体全体が発光を始めた。

こっちのほうがよさそうだ。

「ニーテも体全体で頼む」

「いいけど、燃費が悪いんだよな。マスター、あとで魔力の補給を頼むぞ?」

「ああ、好きなだけ補給してやるよ」

精神的に疲れて、俺は安請け合いしてしまった。

せっかく昨日の夜、ハルたちのおかげでリラックスできたというのに、こんなしょうもないことで精神的疲労を蓄積させたくなかった。

そんなバカなことをしながら、俺たちは洞窟の中を進む。

小川の上にあるせいか、洞窟の中は少し湿っていて、あちこちにキノコが生えていた。キノコといっても、赤かったり紫だったり、見るからに毒キノコだった。

採取人で覚えた植物鑑定で見たところ、案の定毒キノコだったので、これらは放置することにしよう。

さらに奥に進むと、なにか強大な気配を感じた。

慎重に奥に進むと、巨大なドラゴンが寝そべっていた。

俺は条件反射的に魔法を放とうとするが、ミリがそれを止めた。

「おにい、大丈夫。このドラゴンはキノコしか食べないおとなしい種族だから」

「でも、折れた剣とか落ちているぞ。こいつと戦ったんじゃ……」

剣だけでなく、この広場には明らかに人間のものと思われる物が落ちていた。

「自衛のためでしょう。本人に戦うつもりがなくても、降りかかる火の粉は振り払わなければいけません。私もこんな事態でなければ、戦いたいものです」

「竜は鱗、角、骨、肉、血、内臓、特に心臓はとても価値が高く、高値で取引されますからね。一攫千金を狙った冒険者の仕業かもしれません」

キャロが説明した。

そうか、キノコしか食べない大人しい竜ならねらい目だと思ったのだろう。

このドラゴンからしたらいい迷惑だ。

「そういえば、キノコがまだ残っていたな」

ハルとキャロと三人で旅をして、野宿をすることになったとき、キャロが木の実と一緒に大量に集めてきたキノコがまだ残っていたはずだ。

「キャロ、少し分けてやっていいか? このあたりにない種類のキノコだから喜ぶかもしれん」

「はい、もちろんです」

キャロの許可を得て、俺はアイテムバッグからキノコを取り出した。

すると、ドラゴンはゆっくりと目を開け、俺に近づいてくる。

「よしよし、食べたいんだな。ほら、食べな」

俺はそう言ってキノコをドラゴンのほうに放り投げると、ドラゴンは口を開けて受け止め、ムシャムシャと食べ始めた。

こうしてみるとかわいく思えてくる。

そうだ、きっとこのドラゴンはこの島の守り神かなにかなんだ。

「魔王になってからこのドラゴンを倒すのはどう? 一気にレベルが上がるよ?」

「ダメに決まっているだろっ!」

こんな無害なドラゴン、殺せるわけがない。

ミリが「もったいない。もったいないお化けがやってくるよ」というが、殺せないものは殺せないのだ。

ということで、俺たちは洞窟のさらに奥を目指す。

「しかし、なんもねぇな」

「猫の子一匹いないデスね」

ニーテとシーナ三号は体全体を光らせながら言った。

このあたりになると、キノコすら生えていない。

「大人しいとはいえドラゴンがいる洞窟ですからね。そう簡単に獣は近付けません」

キャロの言う通りなのだろう。

俺だって強くなかったらドラゴンのいる洞窟になんて入りたくない。

「ミリ、それで宝玉の場所はこの奥なのか?」

「うん、多分その壁のあたりに」

ミリはそういうと、岩壁をぺたぺたと触る。

隠しボタンでもあるのか? と思ったら、そんなことはなく、普通に岩壁の死角となっている隙間から、宝玉を取り出した。

「……なんかあっけないくらい普通に手に入ったな」

強力なボスとの戦闘くらい覚悟していたというのに。

まぁいいや、じゃあここから帰るとするか。

「ミリたちは俺に掴まれ」

俺がそう言うと、全員俺に掴まる。

ハルとキャロはパーティ設定しているので掴まらなくても転移できるのだが、まぁいいや。

「 拠点帰還(ホームリターン) 」

と魔法を唱えた……が、マイワールドに戻ることもなければ、マーガレットさんのところに誤って転移してしまうなんていう珍事もない。

なにも起こらなかった。

「魔法が発動しない? ならハル、マイワールドの扉を開いてくれ」

とある理由で、俺は引きこもりスキルを使えないから、ハルに頼むことにした。

「かしこまりました」

ハルがマイワールドの扉を開こうとするが、やはり魔法が発動しない。

ニーテの 脱出(エスケープ) も発動しない。まぁ、ここは迷宮じゃないから当然か。

試しにプチライトを使ってみても発動しなかった。

この洞窟に魔法を封印する力でもあるのか?

仕方ない、歩いて外に出よう。

そう思って歩いたときだった。

気配を感じた。

なるほど、魔法以外のスキルの効果はあるらしい。

ただし、ドラゴンの気配ではない。

「警戒しろ」

俺はみんなに注意を促し、洞窟を上がると、そこに思いもよらぬ人物がいた。

「よぉ、久しぶりってわけでもないか」

男はそう言って面倒そうに頭を掻いた。

ハゲ頭の男――勇者と一緒にいたハッグという名前の魔術師だった。

なんでこいつがこんなところにいるんだ?

「なんでこんなところにって顔だな? お前たちを倒すために決まっているだろ。アレオの奴はあれでも勇者だ。お前らが現れたら正々堂々戦うだろう。だが、お前らは女神四柱の力を借りているうえに、ひとりは元魔王だ。そのうえ、魔王の宝玉のうち二つをその身に戻している。これ以上力をつけられたらかなわんからな。ここで潰しておこうってわけだ」

「そりゃ、勇者の仲間とは思えないほどの鬼畜な作戦だな」

「お前らがこそこそと悪だくみをしているからだろうが。アランデル王国で待ってるって伝言を残したのに、こんなところに来やがって。天邪鬼か、お前らは」

「こっちにも準備があるんだよ。勇者だって魔王に戦いを挑むのになんの準備もしないなんてことはないだろ?」

俺はそう言いながら、少しずつ距離を詰める。

大丈夫、相手は魔術師だ。

魔術の使えないこの場所じゃ、俺たちの敵じゃない。

「お前ら、俺が魔術を使えないから弱いって思ってるんじゃないだろうな? 少なくとも、この洞窟で魔力を使えないようにしたのは俺なんだぜ? お前らを潰すくらい俺ひとりで十分だ」

そう言ってハッグが取り出したのは、魔札だった。

しまった、魔法が使えないこの場所でも、魔札は使えるのか。

俺は飛んでくるでろう魔札に警戒して剣を構えた。

「違う、おにいっ! そいつの狙いは私たちじゃないっ!」

ミリが言うのと、ハッグが魔札を投げるのは同時だった。

ハッグの投げた魔札が、洞窟の天井に向かって飛んでいく。

しまった、落盤を起こして俺たちを生き埋めにするつもりかっ⁉

そう思ったときだった。

三本の矢が飛んできて、そのうちの一本がハッグの投げた札に刺さった。

俺も魔札を使うからわかるが、魔札は文字が描かれている部分が破れたら効果を発揮しない。

「誰だっ!」

ハッグが振り返ったそこにいたのは、ララエルをはじめとしたダークエルフの精鋭たちだった。

「こっちはあんたたちと何年も戦ってたのよ、ハッグ。あんたなら、この絶好のタイミングを逃さないって気付いていたわ。直接やってくるとは思わなかったけれど、暗殺者くらい送り込んできてもおかしくないって思っていたの」

「念のため、無人島に上陸したあとダークエルフたちを別動隊で待機させたんだ」

島のほとんどは森だからな。

大森林で暮らしていた彼女たちにとって、森の中で気配を消すことなど造作もなかったようだ。

俺が引きこもりスキルを使わなかったのは、すでにこの島の中で使っており、ハッグが攻めてこなかったら、ダークエルフたちがそこから脱出するためだった。

まさか、このタイミングで助けられるとは思わなかったが。

「さすが、千年以上も魔王の座に居続けただけのことはある。だが、俺もそう簡単にくたばりは――」

ハッグはそう言って別の札を使おうとし、そして固まった。

「どうせ転移の魔法でも仕組んでいるんでしょうけれど、そんなの使えるはずないでしょ?」

「ミリ、どういうことだ?」

「スキル『魔王結界』――よくゲームなんかで言うでしょ?」

ミリは威圧感を出して言った。

「魔王からは逃げられないって。このスキルは、相手の逃亡する気力を奪うスキルよ」

「そんなスキルを覚えたのか?」

「うん、つい最近ね。ハッグ、罠にはめたつもりかもしれないが、あなたにはいろいろと聞きたいことがある。ついてきてもらうわよ。文字通り、逃げられるとは思わないことね」

「なるほど、魔王の力は弱ってはいるが確かってことか」

ハッグはそういうと、袖の中からなにか取り出し握りつぶした。

「ご主人様、強烈な臭いを感じます」

「まさか、毒っ⁉ 俺たちと心中するつもりかっ⁉」

「いや、空気中の毒なら、お前らの中には解毒できる奴もいるだろう。死体から情報を抜き出すスキルもあるかもしれない。だから、俺は退散することにしたのさ」

「逃げられないって言ってるでしょ」

「ああ、そうだったな」

ハッグがそう言った直後だった。

気付いたのはダークエルフだった。

「全員攻撃っ! イチノジョウ様たちを守れっ!」

ララエルの号令でダークエルフたちが背後に向かって矢を飛ばす。

新しい敵かっ⁉

と思ったら、現れたのはさっきの大人しいドラゴンだった。

ドラゴンはダークエルフの矢をものともせずに突撃する。

いや、違う。

攻撃しているのではない、一目散にハッグ目指しているんだ。

この姿、まるで目の前のトマト目掛けて走るケンタウロスのようだ。

まさか――

「お前――」

「話は以上だ。匂いに釣られてデカ物が来た――」

ハッグはそれ以上なにも言わなかった。

ドラゴンに丸呑みにされてしまったのだ。

おそらく、奴が持っていたのは、マツタケやトリュフのような匂いの強いキノコだったのだろう。それも、あのドラゴンが好み、自分ごと丸呑みにするような。

「なんでそこまで――」

「それだけハッグは本気だったってことよ。あいつは私たちを閉じ込めようとしたら、それこそ私たちと出くわす前に入口を破壊すればよかったの。わざわざ私たちと相対してから戦いを挑んだのは、自分の覚悟を示して私に伝えたかったから。勇者と魔神たちはここまでの覚悟でこの世界を守ろうとしている。お前たちにはここまでする覚悟はあるのか? って」

その場に残った、使われなかった転移札を拾って、ミリは言った。

それって、負けるのを前提に戦っていたって話じゃないか。

こんなことなら、ミリに魔王結界なんて使わせずに逃亡を許せば――いや、もしかしたらあの転移札による転移先はこの島の中で、やはりハッグは死ぬまで俺たちを襲ってきたかもしれない。

結局、魔王になるための今回の旅は、俺たちに大きなしこりを残す結果になったのだった。